72 / 84
7・魔王が来たりて編
第72話 戻ってきたエムズ王国
しおりを挟む
幾つもの国を越えた。
ある国では干ばつで悩んでいたので、氷と炎の魔剣のあわせ技を使った。
偽物魔剣でも、猛烈な水蒸気が飛び出してきて、それが雲を呼ぶ力を持っていたらしい。
雨が降り出したりして、俺は大いに感謝された。
「なんでこうなったんだろうなあ」
「なんかこうなるって思ったんだよね」
ミスティの助言だったわけだ。
エグゾシー曰く、
『土地の魔力バランスが崩れておったのじゃな。それをウーサーが直したんじゃ。わしも気付かなかったのに、よく察したな? これが運命の能力というやつか』
なるほど、やっぱりミスティは凄い。
そしてそう言う能力を持っていると知られるのは危険だなあ。
次には、逆に洪水や浸水で困っている国に来た。
ここでは氷の魔剣で水を凍らせることになった。
何故かグラムが来てくれたので、全ての水が凍りついた。
これをみんなで掘って、海に捨てることになる。
その間に、干拓作業ができるようになった。
「次々にアクシデントに見舞われた土地に到着するぞ……」
「なんかこっちに行ったほうがいいと思ったんだよね」
運命と宿命を引き寄せる力……!
それらを克服する能力さえあれば、ミスティの力は世界にとって良いものになる気がする。
俺は結構、そんな克服能力を得てきたのではないか。
『寄り道が多くて、なかなか進みませんねえ。魔王星がどんどん大きくなってきています。いつ降ってくるんでしょうねえ』
ニトリアが空を見上げて、怖い怖いと呟く。
まったくだ。
俺も魔王に備えたいけど、一体どうすればいいのかさっぱり分からない。
どうしたもんだろう。
こうして、幾つもの国々を巡り、それぞれの国が色々な問題で困っていたのを解決し、俺たちはどんどんと進んだ。
船は昼は風の魔剣の力で進み、夜はアンデッドな船員たちの力で進む。
国を巡るたびに、船員の髪の毛とか爪の先をもらい、これをエグゾシーがアンデッド化して労働力にするのだ。
『基本、朝日に当たると崩れて消えてしまうからのう。昼間は船底でじっとしていてもらい、夜になったら外で働かせるのじゃ。しかし船の仕事はどうしても、きりがいいところで終わらせるわけにもいかん。ちょくちょく朝日を浴びて消滅するアンデッドがおるから、こうして都度ごとに補充せねばならん』
「大変だ……!」
後は、あら事がありそうな時はニトリアが解決する。
単身で相手の船に乗り込み、無力化して戻ってくる。
俺たちは構っている暇などないから、そのまま通過するだけだ。
相手は呆然としながらそんな俺たちを見送る。
「毎日、色々なことが起きるからもう頭が大混乱だ! なんか最近、一日が濃いなあ……」
俺は舳先に立ってそんな事を呟いた。
いつまでこの生活は続くだろう?
確か今、船はエムズ王国側に向かっているはずだよな?
「あれっ、ウーサー。この瓦礫の山、ちょっと見たことがあるかも」
いきなりミスティがそんな事を言った。
瓦礫の山?
ちょっと遠くに見えるのは、広大な平原。
そこにうず高く積み上がる、瓦礫の山がある。
近づくとよくわかったのだが、これは城壁だ。
城壁が破壊されて、雑多に積まれている。
もちろん、城壁の奥にある町も原型をとどめていない。
完膚なきまでに破壊されている。
これはひどい。
そして瓦礫の周辺に、たくさんの人々がいた。
みんな適当な布を貼って雨露をしのぎ、ここで生活しているようだ。
「まさかこれ……エムズ王国!?」
「みたい。とんでもないことになってるねえ……!」
俺とミスティは、かつて知った王国の変わり果てた姿に驚愕した。
慌てて船を岸につける。
『ここからは歩きじゃろう。船を消して構わんぞ』
「分かった! 両替!」
船を魔法の針に戻す。
これを見ていた現地の人たちが、目を丸くした。
「ふ……船が来たと思ったら、消えた!」
「なんだ!? 何が起きてるんだ!?」
「怪物が現れて国を滅ぼしてしまったと思ったら、今度は消える船……! 世界はどうなってしまうんだ!」
わいわい騒いでいる。
その中に、見知った顔を発見したので、俺は駆け寄った。
「おーい! おーい! 俺だよ、俺!」
騒いでいるうちの一人が、俺に気付いて飛び上がって驚く。
「えっ!? ウーサーかい!? あんた、ウーサーなのかい!?」
パン屋のおばちゃんだ。
この人のところで、黒パンを買ってた日々が懐かしいなあ……。
もうどれくらい前のことだろう。
おばちゃんの知り合いということで、周囲の人々もホッとしたようだ。
船が消えたのは一大事だが、それでも見知らぬ誰かではないというのは安心できるらしい。
「俺だよ、俺」
「ウーサーがなんかオレオレ言ってる」
なんでミスティそんなことを気にするんだ?
まあいいや。
詳しい事情を聞いてみることにする。
「国は戦争が続いて、随分大変だったのさ。男たちは兵士として連れて行かれて、でも戦場ではエルトー商業国がのらりくらりと戦争をやり過ごしてね。人はあまり死なないけど、だらだらと続いていて、お陰で商品は入ってこないし働き手はいないし、大弱りだったんだよ」
そんなエムズ王国に、そいつはやって来たらしい。
星が欠けたのだ、と誰かが言った。
星からこぼれ落ちた破片は、エムズ王国へ向けて飛来した。
そいつは巨大な怪物の姿になった。
「空を覆い尽くすようなコウモリの翼を生やしててね……。バカでかい目が一つだけ……。目玉から炎やら氷やら光やらを放って、あっという間に国を滅ぼしてしまったのさ。今思い出しても恐ろしい……」
「ああ、間違いなく魔将だ。すっごいのが来たなあ……」
「ウーサーがこの間やっつけたやつの仲間でしょ?」
「だと思う」
俺とミスティが、やっつけたみたいな話をしているので、おばちゃんと周囲の人々が驚いた。
「えっ!? あの怪物を!? やっつける!?」
「ああ。俺、そういうのができるようになったみたいだ。その魔将、どこに行ったかわかる?」
俺が魔将を倒せるということを、みんな理解はできなかったようだった。
だけど、すがるような目をしながら、彼らは一斉に一箇所を指さした。
そこは瓦礫の奥。
かつて王宮があった場所だ。
エムズ王国の王宮、そう言えば見たこともなかったなあ……。
ある国では干ばつで悩んでいたので、氷と炎の魔剣のあわせ技を使った。
偽物魔剣でも、猛烈な水蒸気が飛び出してきて、それが雲を呼ぶ力を持っていたらしい。
雨が降り出したりして、俺は大いに感謝された。
「なんでこうなったんだろうなあ」
「なんかこうなるって思ったんだよね」
ミスティの助言だったわけだ。
エグゾシー曰く、
『土地の魔力バランスが崩れておったのじゃな。それをウーサーが直したんじゃ。わしも気付かなかったのに、よく察したな? これが運命の能力というやつか』
なるほど、やっぱりミスティは凄い。
そしてそう言う能力を持っていると知られるのは危険だなあ。
次には、逆に洪水や浸水で困っている国に来た。
ここでは氷の魔剣で水を凍らせることになった。
何故かグラムが来てくれたので、全ての水が凍りついた。
これをみんなで掘って、海に捨てることになる。
その間に、干拓作業ができるようになった。
「次々にアクシデントに見舞われた土地に到着するぞ……」
「なんかこっちに行ったほうがいいと思ったんだよね」
運命と宿命を引き寄せる力……!
それらを克服する能力さえあれば、ミスティの力は世界にとって良いものになる気がする。
俺は結構、そんな克服能力を得てきたのではないか。
『寄り道が多くて、なかなか進みませんねえ。魔王星がどんどん大きくなってきています。いつ降ってくるんでしょうねえ』
ニトリアが空を見上げて、怖い怖いと呟く。
まったくだ。
俺も魔王に備えたいけど、一体どうすればいいのかさっぱり分からない。
どうしたもんだろう。
こうして、幾つもの国々を巡り、それぞれの国が色々な問題で困っていたのを解決し、俺たちはどんどんと進んだ。
船は昼は風の魔剣の力で進み、夜はアンデッドな船員たちの力で進む。
国を巡るたびに、船員の髪の毛とか爪の先をもらい、これをエグゾシーがアンデッド化して労働力にするのだ。
『基本、朝日に当たると崩れて消えてしまうからのう。昼間は船底でじっとしていてもらい、夜になったら外で働かせるのじゃ。しかし船の仕事はどうしても、きりがいいところで終わらせるわけにもいかん。ちょくちょく朝日を浴びて消滅するアンデッドがおるから、こうして都度ごとに補充せねばならん』
「大変だ……!」
後は、あら事がありそうな時はニトリアが解決する。
単身で相手の船に乗り込み、無力化して戻ってくる。
俺たちは構っている暇などないから、そのまま通過するだけだ。
相手は呆然としながらそんな俺たちを見送る。
「毎日、色々なことが起きるからもう頭が大混乱だ! なんか最近、一日が濃いなあ……」
俺は舳先に立ってそんな事を呟いた。
いつまでこの生活は続くだろう?
確か今、船はエムズ王国側に向かっているはずだよな?
「あれっ、ウーサー。この瓦礫の山、ちょっと見たことがあるかも」
いきなりミスティがそんな事を言った。
瓦礫の山?
ちょっと遠くに見えるのは、広大な平原。
そこにうず高く積み上がる、瓦礫の山がある。
近づくとよくわかったのだが、これは城壁だ。
城壁が破壊されて、雑多に積まれている。
もちろん、城壁の奥にある町も原型をとどめていない。
完膚なきまでに破壊されている。
これはひどい。
そして瓦礫の周辺に、たくさんの人々がいた。
みんな適当な布を貼って雨露をしのぎ、ここで生活しているようだ。
「まさかこれ……エムズ王国!?」
「みたい。とんでもないことになってるねえ……!」
俺とミスティは、かつて知った王国の変わり果てた姿に驚愕した。
慌てて船を岸につける。
『ここからは歩きじゃろう。船を消して構わんぞ』
「分かった! 両替!」
船を魔法の針に戻す。
これを見ていた現地の人たちが、目を丸くした。
「ふ……船が来たと思ったら、消えた!」
「なんだ!? 何が起きてるんだ!?」
「怪物が現れて国を滅ぼしてしまったと思ったら、今度は消える船……! 世界はどうなってしまうんだ!」
わいわい騒いでいる。
その中に、見知った顔を発見したので、俺は駆け寄った。
「おーい! おーい! 俺だよ、俺!」
騒いでいるうちの一人が、俺に気付いて飛び上がって驚く。
「えっ!? ウーサーかい!? あんた、ウーサーなのかい!?」
パン屋のおばちゃんだ。
この人のところで、黒パンを買ってた日々が懐かしいなあ……。
もうどれくらい前のことだろう。
おばちゃんの知り合いということで、周囲の人々もホッとしたようだ。
船が消えたのは一大事だが、それでも見知らぬ誰かではないというのは安心できるらしい。
「俺だよ、俺」
「ウーサーがなんかオレオレ言ってる」
なんでミスティそんなことを気にするんだ?
まあいいや。
詳しい事情を聞いてみることにする。
「国は戦争が続いて、随分大変だったのさ。男たちは兵士として連れて行かれて、でも戦場ではエルトー商業国がのらりくらりと戦争をやり過ごしてね。人はあまり死なないけど、だらだらと続いていて、お陰で商品は入ってこないし働き手はいないし、大弱りだったんだよ」
そんなエムズ王国に、そいつはやって来たらしい。
星が欠けたのだ、と誰かが言った。
星からこぼれ落ちた破片は、エムズ王国へ向けて飛来した。
そいつは巨大な怪物の姿になった。
「空を覆い尽くすようなコウモリの翼を生やしててね……。バカでかい目が一つだけ……。目玉から炎やら氷やら光やらを放って、あっという間に国を滅ぼしてしまったのさ。今思い出しても恐ろしい……」
「ああ、間違いなく魔将だ。すっごいのが来たなあ……」
「ウーサーがこの間やっつけたやつの仲間でしょ?」
「だと思う」
俺とミスティが、やっつけたみたいな話をしているので、おばちゃんと周囲の人々が驚いた。
「えっ!? あの怪物を!? やっつける!?」
「ああ。俺、そういうのができるようになったみたいだ。その魔将、どこに行ったかわかる?」
俺が魔将を倒せるということを、みんな理解はできなかったようだった。
だけど、すがるような目をしながら、彼らは一斉に一箇所を指さした。
そこは瓦礫の奥。
かつて王宮があった場所だ。
エムズ王国の王宮、そう言えば見たこともなかったなあ……。
0
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる