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第一章
第3話 宿代は奢りだが、こっちからこっちに入って来ないでほしい!
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エリカはそこそこお金を持っているらしく、宿代を奢ってもらえることになった。
ありがたいありがたい……。
この恩に報いなければなるまい。
「ただし! 私も早朝に牛乳配達をして稼いでいるお金なので、余裕は無いんだ。同じ部屋になる!」
「なんだって!?」
「君が増えたことで、私の牛乳配達だけだと暮らしていけなくなる……。早く仕事探さないと……」
「切実な話になってきちゃった」
夕食は一番安いクズ野菜とクズ肉スープと硬いパンにし、さっさと寝ることにした。
部屋にはベッドある。
二段ベッドだ。
見慣れた最安値の部屋だが、今夜は一人ではない。
「私は上だ。正義の騎士を目指す者は、常に高みを目指さねばならないからな!」
「よく分からない理屈だけど、異論はないよ!」
「あと、このハシゴのここから上には来ないように! 本当は男女で同じ部屋に泊まるのはよくないので!」
「あっはい」
エリカがとても真剣な顔で言うので、俺はコクコク頷いた。
これは、別に俺がくさい息だからというわけではなく、彼女が嫁入り前の男女が同じ布団をともにしてはならない、という倫理観を持っているからの考えなのだと思う。
いいと思いますよ!
俺は明日からの、充実した冒険ライフを願いながら寝ることにした。
「いいか? 絶対に来たらダメだからな? ダメだからな?」
「上から覗かなくていいよ! 行かないからな? 大丈夫だからな!?」
「そうか……」
引っ込んだ。
俺にとっては恩人に当たるからな……。
くさい息の使い手であることを知ってなお、パーティを組んでくれた人格者だ。
失礼はしないぞ。
この辺り、俺は生真面目で善良なのだ。
朝。
目覚めると、上にはエリカがいなかった。
牛乳配達に行ったのだろう。
騎士を目指すのも簡単じゃない。
……俺がこうして寝床で爆睡しているのは、なかなか失礼なのでは……?
いやいや。
これから、働きで恩返しできればいいのだ。
そうと決まれば話は早い。
俺は宿を発ち、冒険者の店へ急いだ。
彼女のためにも、いい感じの依頼を見つけておかねばなるまい。
「早いねー」
「おかみさん! もう仕事来てる?」
冒険者の店は、マスターと、その奥さんであるおかみさんが経営している。
冒険者たちの溜まり場であり、冒険者たちが受ける仕事の集まる場所でもある。
「もう貼ってあるよ。なんだいドルマ、あの大騎士様とパーティを組んだそうじゃないかい。無理はするんじゃないよ? ああいう子はすぐに死地に突っ込んでいくからね」
「突っ込んでいきそうだ……!」
俺が守護らねばなるまいな、と思いながら、朝イチで張られた依頼に目を通す。
俺とエリカの二人パーティなので、受けられる依頼は限られる。
その中で、彼女が好みそうな依頼は……。
「……井戸が何者かに乗っ取られました。助けてください、か……。なんだろうな、これ」
「さあね? でも、近くの村で、井戸に近寄ることができなくて困ってるっていう話だよ? 都市は近々戦争があるかもって言うんで、小さな村の困りごとになんか構っちゃくれないしね」
おかみさんが肩をすくめる。
「そんなでかい話、俺にゃ分からないしなあ……。じゃあ、報酬も悪くないしこれ受けるよ」
「はいはい、毎度あり。生きて帰って来なよー」
「ういーっす」
朝食を摂る金が無いので、カウンターでエリカを待つ。
彼女はすぐにやって来た。
「新しい仕事を受けたのか?」
「ああ。近くの村で井戸が何者かに乗っ取られたらしい。村人はとても困っている」
「人助けか! いいな、騎士っぽい!」
エリカが鼻息を荒くした。
「じゃあ、朝食の後すぐに行こう!」
「そうするか! 金も余裕ないしな!」
二人しかいないから、俺たちパーティの決断はとても早い。
そんな俺たちを見て、別の冒険者達がクスクス笑っている。
「おい見ろよ。くさい息と自称騎士様のコンビだぜ」
「あんなんでまともに冒険者がやれるのかよ」
「冒険はおままごとじゃねえってーの」
「メンヘラ女と理解のある彼くんじゃん」
散々な言われようだ。
だが、全く気にならない。
俺もエリカも、顔を見合わせて笑った。
「外聞なんてものは、いくらでも実力でひっくり返せるんだ! 騎士フォンテインもそうだった!」
「ああ。地方の郷士がとちくるって旅立ったが、成した武勲は本物だった。誰もが彼を本物の騎士だと認めるようになった」
「私たちの最初と同じじゃないか! だから、なんて言われようと気にしなくていい!」
「ああ。俺もエリカも、これ以上評判の落ちようが無い。どん底からのスタートだ。つまり、上がるしかない!」
「やろう!! 行こう!」
「やろうやろう!」
俺たちが二人で大盛りあがりするので、冒険者たちがドン引きした。
「やべえよやべえよ」
「あいつらやべえ」
「おかしいのが二人出会っちまったんだ……」
「他人のフリしよ……」
ぜひそうしてくれ。
そして俺たちがここからビッグになった暁には、お前らが俺たちのことを昔から知ってた、みたいに吹聴するようになるんだ。
俺は寛大だし、うちの騎士はもっと寛大だ。
手のひら返しの準備をしておけよ。
ありがたいありがたい……。
この恩に報いなければなるまい。
「ただし! 私も早朝に牛乳配達をして稼いでいるお金なので、余裕は無いんだ。同じ部屋になる!」
「なんだって!?」
「君が増えたことで、私の牛乳配達だけだと暮らしていけなくなる……。早く仕事探さないと……」
「切実な話になってきちゃった」
夕食は一番安いクズ野菜とクズ肉スープと硬いパンにし、さっさと寝ることにした。
部屋にはベッドある。
二段ベッドだ。
見慣れた最安値の部屋だが、今夜は一人ではない。
「私は上だ。正義の騎士を目指す者は、常に高みを目指さねばならないからな!」
「よく分からない理屈だけど、異論はないよ!」
「あと、このハシゴのここから上には来ないように! 本当は男女で同じ部屋に泊まるのはよくないので!」
「あっはい」
エリカがとても真剣な顔で言うので、俺はコクコク頷いた。
これは、別に俺がくさい息だからというわけではなく、彼女が嫁入り前の男女が同じ布団をともにしてはならない、という倫理観を持っているからの考えなのだと思う。
いいと思いますよ!
俺は明日からの、充実した冒険ライフを願いながら寝ることにした。
「いいか? 絶対に来たらダメだからな? ダメだからな?」
「上から覗かなくていいよ! 行かないからな? 大丈夫だからな!?」
「そうか……」
引っ込んだ。
俺にとっては恩人に当たるからな……。
くさい息の使い手であることを知ってなお、パーティを組んでくれた人格者だ。
失礼はしないぞ。
この辺り、俺は生真面目で善良なのだ。
朝。
目覚めると、上にはエリカがいなかった。
牛乳配達に行ったのだろう。
騎士を目指すのも簡単じゃない。
……俺がこうして寝床で爆睡しているのは、なかなか失礼なのでは……?
いやいや。
これから、働きで恩返しできればいいのだ。
そうと決まれば話は早い。
俺は宿を発ち、冒険者の店へ急いだ。
彼女のためにも、いい感じの依頼を見つけておかねばなるまい。
「早いねー」
「おかみさん! もう仕事来てる?」
冒険者の店は、マスターと、その奥さんであるおかみさんが経営している。
冒険者たちの溜まり場であり、冒険者たちが受ける仕事の集まる場所でもある。
「もう貼ってあるよ。なんだいドルマ、あの大騎士様とパーティを組んだそうじゃないかい。無理はするんじゃないよ? ああいう子はすぐに死地に突っ込んでいくからね」
「突っ込んでいきそうだ……!」
俺が守護らねばなるまいな、と思いながら、朝イチで張られた依頼に目を通す。
俺とエリカの二人パーティなので、受けられる依頼は限られる。
その中で、彼女が好みそうな依頼は……。
「……井戸が何者かに乗っ取られました。助けてください、か……。なんだろうな、これ」
「さあね? でも、近くの村で、井戸に近寄ることができなくて困ってるっていう話だよ? 都市は近々戦争があるかもって言うんで、小さな村の困りごとになんか構っちゃくれないしね」
おかみさんが肩をすくめる。
「そんなでかい話、俺にゃ分からないしなあ……。じゃあ、報酬も悪くないしこれ受けるよ」
「はいはい、毎度あり。生きて帰って来なよー」
「ういーっす」
朝食を摂る金が無いので、カウンターでエリカを待つ。
彼女はすぐにやって来た。
「新しい仕事を受けたのか?」
「ああ。近くの村で井戸が何者かに乗っ取られたらしい。村人はとても困っている」
「人助けか! いいな、騎士っぽい!」
エリカが鼻息を荒くした。
「じゃあ、朝食の後すぐに行こう!」
「そうするか! 金も余裕ないしな!」
二人しかいないから、俺たちパーティの決断はとても早い。
そんな俺たちを見て、別の冒険者達がクスクス笑っている。
「おい見ろよ。くさい息と自称騎士様のコンビだぜ」
「あんなんでまともに冒険者がやれるのかよ」
「冒険はおままごとじゃねえってーの」
「メンヘラ女と理解のある彼くんじゃん」
散々な言われようだ。
だが、全く気にならない。
俺もエリカも、顔を見合わせて笑った。
「外聞なんてものは、いくらでも実力でひっくり返せるんだ! 騎士フォンテインもそうだった!」
「ああ。地方の郷士がとちくるって旅立ったが、成した武勲は本物だった。誰もが彼を本物の騎士だと認めるようになった」
「私たちの最初と同じじゃないか! だから、なんて言われようと気にしなくていい!」
「ああ。俺もエリカも、これ以上評判の落ちようが無い。どん底からのスタートだ。つまり、上がるしかない!」
「やろう!! 行こう!」
「やろうやろう!」
俺たちが二人で大盛りあがりするので、冒険者たちがドン引きした。
「やべえよやべえよ」
「あいつらやべえ」
「おかしいのが二人出会っちまったんだ……」
「他人のフリしよ……」
ぜひそうしてくれ。
そして俺たちがここからビッグになった暁には、お前らが俺たちのことを昔から知ってた、みたいに吹聴するようになるんだ。
俺は寛大だし、うちの騎士はもっと寛大だ。
手のひら返しの準備をしておけよ。
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