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第二章

第30話 エリカの祖父が俺を知ってる風なんだが

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 エリカの実家に案内された。
 なかなか大きい家だ。
 豪農なのではないか。

 案の定、幾つかの家族が一緒に暮らしてるらしい。
 エリカの兄も、自分の家庭を持っていた。

「うちは四人兄弟なんだ。私は三女なんだけど、四番目なんだぞ」

「ははあ、男、女、女、女で末っ子が騎士になるために旅立ったのか」

 話は読めた。
 末っ子をバリバリに甘やかして、騎士物語を聞かせまくったのだろう。
 そしてエリカは立派に騎士を目指す女子に育った。

 ちなみにエリカの姉二人も婿を取って、この家で暮らしている。
 ランチャー地方でもかなり大きい農家だそうなので、ここで生活するのが一番いいから婿も来るのだ。

 こうして、俺を連れてきたエリカを囲み、まずは家族会議が開かれた。

「エリカ、ついに婿を連れてきたか」

「違うぞ」

「違うぞ」

 エリカと俺が真顔で否定する。
 だが、エリカの家族たちの表情はなんだか安心した風である。
 こいつら……俺達が照れ隠しで否定していると思っていやがる……!

 こりゃあ話が通じないパターンだ。

 エリカの父親と母親は笑顔を浮かべながら、

「いつまでも騎士になると言っていたエリカも、ついに婿を迎えて腰を落ち着ける気になったか! 大人になったなあ。なに、彼も農家の出身? いいじゃないかいいじゃないか。ただものではない眼光の鋭さに、冒険で培われたガッチリした体。いい農家になるぞ」

「エリカがちゃんとお婿さんを連れてきてくれるなんて、母さん嬉しくて嬉しくて……。二人の家を増築しないとね! ちゃんとスペースは考えてあってね……」

 エリカの兄と姉たち、その家族も歓迎している風である。
 なんだ、聞いていたよりも仲がいいな。

「仲はいいんだけど、私が騎士になるっていうのを物凄い勢いで止めてきたんだ」

「家族の気持ちは分かるな」

 エリカの家は、この辺りで一番大きい農家。
 土地は死ぬほどある。

 エリカの祖父が凄腕で、近隣のモンスターを全部やっつけてしまい、そいつらの棲家を開拓して農地に変えてしまったのだ。
 息子夫婦だけでは持て余す広さだったので、エリカたち孫の世代に分けて、ようやく農地として十全に使えるようになったということだった。

「帰ってきたんじゃない! 私は結構すごい冒険者になったので、報告に来ただけなんだっ!」

「はいはい」

 この家族たち、エリカのキャラクターをよく分かっているせいか、受け流すのが上手い。
 なお、エリカの武勇伝を聞いて目をキラキラ輝かせるのは、彼女の兄弟の子どもたちだ。
 主に甥っ子連中だな。

 姪っ子たちはませているのか、俺によってきて、

「エリカおばさんかわいいもんね!」

「おにいさんはどこでエリカおばさんとであったの?」

「どこでデートしたの?」

 とか聞いてくる。
 俺の苦手な質問ばかりだ。

「エリカ、たすけてくれー」

 だが、エリカは甥っ子たちに、嬉々として武勇伝を語っているではないか!
 あれはしばらく戻ってこないな。

 俺はほうほうの体でその場を逃げ出した。

 エリカの実家の庭をブラブラしていると、杖をついた老人が木陰に設けられたベンチに腰掛けていた。

「おや、客人かね」

 髪も髭も真っ白なじいさんだ。
 エリカの祖父かな?

「ああ。エリカの仲間だ」

「ほうほう、それはそれは……。みんな賑やかにしているから、エリカが帰ってきたんだろうとは思っていたが……」

 老人は俺を見て、ちょっと固まった。
 目をしばたかせて、それから「おお……」と呟く。

「青魔道士殿……」

「えっ!? あんた、俺を知ってるの? 俺が青魔道士だって知ってるのは、まだほとんどいないはずだけど」

「ああ、それはですな……。いや、年寄の勘違いです。私はエリカの祖父です。エリカと仲良くしてくださってありがとうございます」

「ああ、いやいやこちらこそ。俺もエリカに助けられたからさ。ここ座っていい?」

「どうぞどうぞ」

 エリカの祖父と並んで座る。

「つかぬ事を伺いますが、あなたはお父上や先祖に、青魔法を使う方が?」

「由緒正しい農家だ。名字だって、ひい爺さんが昔、生命を助けてくれた人の言葉を勝手に使ってつけたもんだし」

「ほうほう。では……やはりそうなのでしょうな」

 エリカの祖父が目を細めた。
 笑ったんだろう。
 だが、なんでさっきから俺相手に丁寧な口調になっているんだ?

「これからも、エリカと仲良くして下さい」

「ああ、もちろんだ」

「それと……そのうち、生意気な騎士見習いの若造と会ったら、愛想を尽かさずに色々教えてくださるとありがたい」

「お? なんだなんだ。そんな知り合いがいるのか?」

「はっはっは、そんなものです」

 エリカの祖父は笑った。
 俺は彼の物腰から、なんとなくただの農夫ではないっぽいものを感じたのだった。
 だが、結局はよく分からない。

 謎っぽいことを言う老人だなあ。
 首を傾げながら、俺はエリカの元へ戻ってきたのだった。

 甥っ子たちと剣術遊びをしているな。

「さあどんどん掛かってこい! 真の騎士に近づいた私は強いぞ!」

「うおーっ、エリカおばさんちょうつよくなってる!」

「すげえぱわーだ!」

 そりゃあ、実戦をくぐり抜けてきているからな。
 今は得物が木の枝なので大人しいだけだぞ。

 ボーっとこれを見ていたら、エリカはきちんと手加減して、甥っ子二人をふっ飛ばしたところだった。
 泥だらけになった甥っ子たちがケラケラ笑っている。

 いい光景だなあ。
 そう言えば、この辺りは何やら、紛争に巻き込まれているんだっけ。

 後でその話を聞かねばならないな。
 今後の事を考えるうちに、俺はエリカの祖父から聞いた話をすっかり忘れてしまうのだった。
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