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第三章

第51話 潜入、ゴブリン王国

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『このフードとマントを使え。我の仲間ということになり、ゴブリン達から警戒されなくなろう』

 風水士はそう言って、人数分のマントをよこした。
 わいわい身に着ける。
 ゴワゴワしてるな。

『アーマーボアの毛皮をなめしたものだ。これだけで、人間が使う生半可な鎧よりも頑丈であり、さらに我の環境利用闘法を邪魔することがない』

「便利だなあ」

「ゴブリンなのに敵じゃないっていうのは不思議な気分だな! でも風水士だし、味方だな!」

 エリカが相手の属性で敵味方を分けている!

「拙者はそういう偏見は持ってないでござるよ! ほら、なんかゴブリンとかオークとかの異種族でもマシな人格のがいると信じてたでござるよ、これっくらい」

 指先でほんのちょっぴりくらいの量を示すホムラ。
 それって信じてないってコトでは?

「金は出るのか? 出るならやろう」

 アベル、ゴブリンにすら無心するのか。

『相変わらず面白い連中だなあ』

 風水士はしみじみと呟いた。

「というか風水士、話が早いんだけど。もしかして俺を知ってる系? カイナギオみたいな?」

『ああ、カイナギオは貴様の弟子だったな? まだ生きているのか。人間どもも案外平和なのだな。それで青魔道士。貴様の言っていることは正解だ。我は過去に貴様と会っている。幾つかの技は、貴様から教えられたものだ』

「なるほどー。じゃあ、過去に行ってお前さんに技を教えないといけないわけだな」

 ノルマが増えるぞ。 
 だがこれも、俺とエリカが出会う世界を作るためである。
 頑張ろう。

「それで風水士! どうするんだ? これを着るということはもしかして」

『うむ。ゴブリンの王国に潜入してもらう。行くぞ』

「話が早いなあ」

「金は出るのか、金は」

「さもしい男でござるなあ」

 俺たちはわいわいと、風水士の後を追うのだ。

 そして……。
 マントを身に着けていると、本当にゴブリンがこっちを気にしてこない。
 不思議不思議。

『においだ、におい。これで我らゴブリンは、目よりも明らかに相手を判断する。だが、それは特殊な衣類を身につけることで誤魔化せる。このマントは人間にとっては姿を消されたようなもの。容易には気付かぬ』

 ゴブリン王国は、なかなか賑わっていた。
 彼らの生活は、思ったよりも人間の暮らしに似ている。

 貨幣の代わりに、獣の牙が使われているな。
 たまに獣の牙を紐で繋いで首から下げているのがいたが、あれは首飾りじゃなくてお財布だったんだな……。
 今明らかになる、ゴブリンの文化!

「これちょうだい」

『ギギ?』

 ダイヤウルフの牙とかをミサイル用に回収してあったのだ。
 これを差し出すと、ゴブリンが『オー』と驚く。
 立派な牙だったらしい。

 ちょっと大きな肉の塊が買えた。

『何をやっているのだ。相変わらずとんでもない度胸だな。いきなりゴブリン相手に物を買うか?』

「まあいいじゃないか。これ生肉かと思ったら、焼かれてるんだな。ハーブで味ついてる。うまいうまい」

「ドルマ、私にもくれ!」

「拙者も拙者も!」

「なに、タダで分けるのか? 俺もくれるというならもらってやらんでもない」

 四人で肉をむしゃむしゃしながら、ゴブリン王国を練り歩く。
 この姿が愉快だったらしく、風水士は肩を震わせて笑っている。

『なるほど、人間としての規格から外れた変人ばかりだ。我の他に貴様らが選ばれたのは当然だったのだろうな』

「選ばれた?」

『運命の神的な、そういう概念にだ。過程は偶然だったのだろうが、結果は必然だった』

「このゴブリン、拙者たち全員より賢いんじゃないでござるか……?」

「賢いと思うなあ」

 ホムラの言葉に俺も同意した。
 風水士はこの言葉には、肩をすくめるだけだった。

 そして俺たちを案内するのだ。
 外では大戦争をしているというのに、ゴブリン王国内部は平和なものだった。

 市が開かれ、ゴブリンたちが買い物をしている。
 親子連れとか、恋人同士みたいなのとかが歩き回っているし、食べ歩きしてる連中もいる。

「ゴブリンって、人間とあまり変わらないんだな! もっとモンスターみたいなのかと思ってた」

『この王国には、周囲の人間どもを合わせたものよりも多いゴブリンが住んでいる。社会がなければ成立せぬだろう。外に出るゴブリンは、中でやっていけぬあぶれ者ばかりだ』

「だからモンスターっぽい感じだったんだな! こっちのゴブリンはちゃんと服着てるし」

『染めた毛皮や布は、ファッションというやつだ。本来、ゴブリンは布一枚以外身につけぬよ。だが、王国には余裕がある者も多い。そういう者たちはこうして、きらびやかな衣類を纏うのだ。そら、ついたぞ』

 風水士が立ち止まった。
 そこは、ゴブリンたちが特にたくさん集まった場所だ。
 ワイワイ、ゴブゴブとざわめいている。

 人混みの中央が開けており、道になっていた。

 そこを、武装したゴブリンたちが歩いていくではないか。
 モンスターの骨を加工した謎の武器。
 前線のゴブリンとは明らかに違う、作りのいい鎧。

 そんな連中が集団で歩いて行く。
 こいつらが戦場に出たら、義勇軍の一角なんか簡単に崩れるぞ。
 だが、なぜか前線には出ていないのだ。

『あの男は、復讐のために戦を起こした。人を滅ぼすつもりだぞ。つまり、人間かゴブリンが滅びるまではこの戦を止める気がない』

 風水士が視線で、そいつを指し示す。
 武装したゴブリンたちの中央を、ゆっくりと進む輿があった。
 その上に、極彩色の羽で飾られたゴブリンが座していた。

 でかい。
 並のゴブリンの倍くらいある。

『今代のゴブリンキング、ジャガラだ。あれはゴブリンと人間に災いをもたらす怪物だ。あれを殺すぞ』

 風水士の狙いがはっきりしたのである。
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