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第四章

第72話 青魔道士、大空中戦

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 バフルートが翼を羽ばたかせ、風を起こす。
 これだけで、巨大な飛空艇と言えど揺らいでしまうのだ。

 危ない危ない。

「うおおお、風水士少年、俺とあわせ技で風を相殺するぞ!」

『任せろ!』

「『ワールウインド!!』」

 ダブルワールウインドが、吹き付ける猛風を打ち消す。

「炸裂弾でござる!」

 ピュッと投げられたホムラの一撃は、バフルートがこともなげに弾く……。
 と思ったら、ヤツの指先で爆発した。

『ウワーッ、なんだこの爆発は! こんなちんまいものがこれほどの大爆発を起こすだと!?』

 驚いてる驚いてる。
 だが逆を言うと、驚いているだけだ。

 ホムラの投げた、たくさんヒットする炸裂弾を喰らってなお、びっくりする程度だというこの余裕。
 魔竜は化け物だな。

「飛空艇を寄せてくれ!! 私が殴る!!」

 ここでエリカ、勇ましい宣言をする。

「タッ、タリホー!!」

 ドワーフの操舵手がやけくそで返事をした。
 飛空艇、もりもりとバフルートに近づいていく。

 これには魔竜も、『正気か? 自殺願望でもあるのか?』と驚いたようだ。

『では望み通り、叩き潰してやろう! ふんっ!!』

 尻尾が振るわれ、横薙ぎに飛空艇を叩こうとする。
 これは流石に防ぐのが辛い!

「ええと何か無いか、何か……ミサイルでいいか!」

 手近な樽を幾つか、ミサイルにしてぶっ放した。
 これがバフルートの尻尾に当たって爆発を起こす。

『ぬおー』

 空中で大きく体勢が崩れる魔竜だ。

「拙者の炸裂弾では大した痛痒も与えられなかったのに、ドルマ殿の樽ミサイルが大いに効いている……なんででござろうなあ」

 ホムラが不思議そうだ。
 これに対して、レーナが仮説を立ててきた。

「多分だけど……。魔竜はそれそのものの攻撃力じゃなくて、それを使う者がどれだけその能力と深く繋がってるかで受けるダメージが変わるんだと思うわ」

 これは難しい。
 俺とホムラは首を傾げた。
 首を傾げながらも、迎撃を続けないといけない。

 俺は樽の中身を渦潮カッターで撃ち出し、ホムラはナイフなんかを投げつけている。
 おお、炸裂弾よりもナイフの方が効くぞ。

「つまりね、炸裂弾の威力のほとんどは、ドワーフ達が作ったものだわ。多分、バフルートはドワーフよりもずっと上位の存在だから、ドワーフの攻撃は通じない。だけど君達は、きっとドワーフよりもずっとバフルートに近い存在だと思うの。だから、直接振るうナイフの方が炸裂弾よりも効くっていうこと」

「なるほど分からん」

「分かった気がするぞ。ではジャンプが通じるということだな。ふんっ!!」

 アベルが跳躍した。

「魔竜バフルートよ。空はお前だけのものではないぞ」

『人間が飛ぶか! わははは、面白い! そしてよく囀る!』

 バフルートの翼が振り回される。
 これをアベルは錐揉み回転しながら回避し、魔竜の肩へと槍ごと突撃した。
 深々と突き刺さる。

 おお、効いてる効いてる。
 魔竜の体を足場に、再度ジャンプするアベルなのだ。

 あいつ、ジャンプしかないけど、逆を言うとジャンプだけで十分なヤツなのだな。
 今回は俺が防御に徹する形になっているから、アベルには頑張ってもらいたい。

 なお、狩人のゴメスの攻撃は全然効いてなかった。
 おっさん、泣きそう。

「ゴメス! 地上のを狙ってくれ! 多分あれは、俺達フォンテインナイツじゃないと通じない」

「お、おう! そうするぜ! だけど……どんどん竜めがけて突っ込んでいくのは勘弁してくれー!!」

 まあ、エリカの指示だからな。
 飛空艇の舳先に立ったエリカは、ベヒーモールを大きく振りかぶる。

「ウオワーッ! エリカ船長! ぶち当たると船が壊れちまうー!!」

「よしっ! ギリギリでいけー!!」

「タリホー!!」

 エリカのヤバい指示に従い、飛空艇はプロペラをギリギリかすめる距離でバフルートの脇を通り抜ける。
 そしてプロペラがついた翼部に、エリカが走った。

「喰らえーっ!!」

 叩き込まれるベヒーモール。
 ベヒーモスの角で作られたそいつが、一瞬だけ数倍に膨れ上がったように見えた。

 エリカの一撃で、バフルートの巨体が傾ぐ。

『ぬうおおおおおっ!? なんたる打撃! まるでキングベヒーモスの突撃を受けた時のような! 貴様、その武器!』

 通過して背後に抜ける飛空艇。
 魔竜の視線がこれを追ってくる。

『ベヒーモスの角! 人の身に過ぎぬものが、ベヒーモスの角を折って自在に使うか!! 貴様の身には、大地の魔獣の力がみなぎっていよう!』

「どういうことかな」

 レーナに説明を求める俺なのだ。

「つまり、エリカさんはどこで手に入れたのか、あのベヒーモスの角を使うことで、魔竜バフルートが一目置くほどの強さを手にしてるということね。本当にあれ、どこで手に入れたの?」

「未来の世界でベヒーモスを倒した」

「あー。納得しか無いわ」

「う、うおおお、エリカがやれるなら俺も……!」

 あっ、トニーが弓を構えている!
 やめとけやめとけ。
 ……とは思うものの、やらせてみなければ己の分というものはわからないものな。

 レーナがハラハラ見守る前で、トニーがヘロヘロっと矢を放った。
 それはバフルートに届く前に、ひょろひょろと落ちていく。

「うおおお、な、なんて恐ろしいモンスターなんだ……!」

 この場にいるやつで、トニーが一番の凡人だからな……!

『おい青魔道士! 今なら行けるぞ!』

「おっ、そうだな! よし、二人で襲いかかるか!」

 風水士少年と視線を交わし合う俺。
 バフルートの目は、エリカに釘付けだ。
 これなら、俺達も自由に動けることだろう。

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