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第3章 貴女をずっと欲していた

動き出す3人⑤

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【SIDE アリーチェ】

 ワーグナー公爵家当主の父は、確かに警戒心がどこの誰よりも強い。
 いつだって、誰かを疑って掛かれというのが父の信条だ。
 そのせいで、わたしと双子の弟マックスは、成人するまで家から1歩も出ることを許されなかった。
 
 識字率の低いこの国で、高等教育を受けた子どもの価値は、平民の子どもの何倍も高い。
 このメレディス王国でも、貴族の子どもを攫う事件がたまに起きる。
 幼子より、10歳前後である程度の教育を受けた令息令嬢を誘拐する事件が多かったせいで、その当時の父は相当神経質になってた。
 その頃は、屋敷の庭でさえ出してもらえなかった程だ。

 外に出られなくても退屈しなかったのは、いつも双子の弟マックスがいてくれたお陰。
 何をするにも常にマックスと一緒で、たくさんの家庭教師を雇い、毎日みっちりと一緒に扱かれた。

 わたしが唯一外で自由に過ごしたのは、母の保養に付き添ったリンゼーの避暑地へ行ったときだけだ。
 母の話し相手として、わたしだけがリンゼーで過ごしたから。
 あのとき以外マックスとは、成人するまで離れたこともなかった。


「自分では気付いていなかったけど、そうかもしれません。神経質な父は、わたしとマックスが成人するまで1歩も外に出してくれなかった程ですから。大袈裟過ぎて笑ってしまいますよね」
「いや、あのワーグナー公爵らしいな。――それでアリーチェは、今日悩んでいた公務は片付いたのか?」

「大体は終わりました。今日は疲れてるので、侍女が迎えにきたらすぐに部屋へ戻る予定です」

 何かを考えている様子のフレデリック様は、少しの間沈黙している。そして、いつもの口調で話し始めた。
「部屋へ戻るときは、必ず侍女と一緒に戻って欲しい。あと、部屋にいるときは、鍵を掛けるのを忘れないで。アリーチェが、1人でいるときは、誰が訪ねてきても部屋の扉は開けないように」
「あ、そうですか」

 わたしの部屋に行かないとわざわざはっきり言われたのか、と疑問に思いながらも、わたし自身そんなことを考えている場合ではないほど体が重い。
 それならもう、布団に入って眠りたい。

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