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第3章 貴女をずっと欲していた
動き出す3人④
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【SIDE フレデリック第1王子】
アリーチェが何かを食べている姿を、そういえば見たことがなかった。
当たり前か、彼女との時間を敢えて作らないようにしてきたのだから。
いつも、こんなに嬉しそうに食事を摂っているのだろうか。
若い侍女の話では、公爵家での贅沢に慣れ過ぎて、城の食事に不満があるのではなかったのか。
恐らく私が入って来るとは思っていなかったのだろう、相当に慌てている。
「…………」
「くくっ、そんなに一気に頬張るから。取り敢えず、そんなに慌てないで、ゆっくり飲み込んで」
小動物のように、もぎゅもぎゅと咀嚼し飲み込んだようだ。……かわいい。
「はぁ~――すみません、まさか、ここへフレデリック様が訪ねてくるとは思わず、お見苦しいところをお見せしました」
「いや、私が勝手に来ただけだから、気にしなくていい」
「何かありましたか? 今まで1度も来たことはなかったのに」
「朝アリーチェが来なかったから心配になって部屋へ行ったんだ。そうしたら、侍女から執務室にいると聞いて、だからここに。……アリーチェは随分遅くまで仕事をしているんだな」
「そうですか、立ち寄ればよかったですね」
「別に、無理に来て欲しいと言っているわけではないから、気にしなくていい。アリーチェが病気とか、何か問題が起きたのかと思っただけだ」
アリーチェは、疲れているのか? 反応が鈍くて調子が狂う。
それにしても…………。
机の上に開いたままの資料が随分と並べられている。
私が実施した、落とす目的の妃候補の試験を実力で得たというのは、やはり嘘か。
どう見ても、報告書の内容も分からず、手当たり次第の資料を広げているようにしか見えない。
「公務のことであれば私にも関係することだ、何か困っていたのか聞かせてくれないか?」
「確かにそうですね……。もう、結論は出ているんですけど、一応報告します」
「結論が出てるのに、何を調べていたんだ?」
「マーティン侯爵の領地を流れるスルチア河へ、橋を架けたいという要望ですが、工事費用が低く見積もり過ぎていて、どうも違和感があって。いや、高すぎるなら要望を却下するだけなんで、分かるんですが」
そんなことをわざわざ、この時間まで考えていたのか? 普通はしないだろう。
「ただの計算違いなんだろう? それか、どうしても国へ要求したくて、多少の金額には目を瞑って、少しだけ安くしたんだろ」
「はい、領費で補填するつもりだった。なので、国費の要求を低く見積もったとも考えたんです。ですが、前例の工事に同じようなのがあって……。架ける橋の長さも、工期も、工法等、費用以外は全て同じ数字でして。偶然の一致にしても、河川の幅まで一緒というのは、あり得ない気がして、気持ち悪いんですよね。だから、マーティン侯爵の要望は、却下するんです。でも、領費の持ち出しまで増やして、架けたい橋なら、領民達の生活には、重要かもしれないし、なんだか申し訳なくて」
「その報告書を見てもいいか?」
アリーチェが開いている資料を横から割り込んで見せてもらった。
確かに、アリーチェの言う通りだ……。
過去に別の領地に架けた橋の要望書にあった数字のままだ。
アリーチェは、マーティン侯爵の要望書は安過ぎると言うが、そもそも原材料費が分からなければ、安いと判断できないはずだ。
王妃は、何も知らずにこの報告書の数字を使ったのか。
マーティン侯爵家は王妃の実家。
これは、私の所まで報告書を上げさせるのが、そもそもの目的だろう。
そして視察団を河まで呼び出し、事故にでも見せかけて私を殺す。そんなところか。
工費が高ければ棄却されるが、敢えて低く見積もって、事務官の目では却下されないようにしたのか。
現地を見て、新しい橋の必要性がないと判断されても、どうでもいい要望書だな。
「アリーチェの言うとおり、これは却下で問題ない。王妃の企みだろう。おそらくは、新しい橋も必要のないものだ」
「どうしてそんなことを……」
「アリーチェが知る必要はない話だ。これ以上この件に深入りせず、そのまま突き返しておけばいい」
「フレデリック様がそういうなら、これ以上考えるのは止めておきますけど」
「ああ、そうしてくれ。随分とアリーチェは疑り深くものを見るようだけど、それは、ワーグナー公爵の影響?」
マックスが常々言っていた、アリーチェの評価は間違いないのは分かった。
この部屋に入ってから、胸がそわそわする。アリーチェの元から離れたくない。ミカエルのこともあるし、彼女の私室へ行くべきか。
アリーチェが何かを食べている姿を、そういえば見たことがなかった。
当たり前か、彼女との時間を敢えて作らないようにしてきたのだから。
いつも、こんなに嬉しそうに食事を摂っているのだろうか。
若い侍女の話では、公爵家での贅沢に慣れ過ぎて、城の食事に不満があるのではなかったのか。
恐らく私が入って来るとは思っていなかったのだろう、相当に慌てている。
「…………」
「くくっ、そんなに一気に頬張るから。取り敢えず、そんなに慌てないで、ゆっくり飲み込んで」
小動物のように、もぎゅもぎゅと咀嚼し飲み込んだようだ。……かわいい。
「はぁ~――すみません、まさか、ここへフレデリック様が訪ねてくるとは思わず、お見苦しいところをお見せしました」
「いや、私が勝手に来ただけだから、気にしなくていい」
「何かありましたか? 今まで1度も来たことはなかったのに」
「朝アリーチェが来なかったから心配になって部屋へ行ったんだ。そうしたら、侍女から執務室にいると聞いて、だからここに。……アリーチェは随分遅くまで仕事をしているんだな」
「そうですか、立ち寄ればよかったですね」
「別に、無理に来て欲しいと言っているわけではないから、気にしなくていい。アリーチェが病気とか、何か問題が起きたのかと思っただけだ」
アリーチェは、疲れているのか? 反応が鈍くて調子が狂う。
それにしても…………。
机の上に開いたままの資料が随分と並べられている。
私が実施した、落とす目的の妃候補の試験を実力で得たというのは、やはり嘘か。
どう見ても、報告書の内容も分からず、手当たり次第の資料を広げているようにしか見えない。
「公務のことであれば私にも関係することだ、何か困っていたのか聞かせてくれないか?」
「確かにそうですね……。もう、結論は出ているんですけど、一応報告します」
「結論が出てるのに、何を調べていたんだ?」
「マーティン侯爵の領地を流れるスルチア河へ、橋を架けたいという要望ですが、工事費用が低く見積もり過ぎていて、どうも違和感があって。いや、高すぎるなら要望を却下するだけなんで、分かるんですが」
そんなことをわざわざ、この時間まで考えていたのか? 普通はしないだろう。
「ただの計算違いなんだろう? それか、どうしても国へ要求したくて、多少の金額には目を瞑って、少しだけ安くしたんだろ」
「はい、領費で補填するつもりだった。なので、国費の要求を低く見積もったとも考えたんです。ですが、前例の工事に同じようなのがあって……。架ける橋の長さも、工期も、工法等、費用以外は全て同じ数字でして。偶然の一致にしても、河川の幅まで一緒というのは、あり得ない気がして、気持ち悪いんですよね。だから、マーティン侯爵の要望は、却下するんです。でも、領費の持ち出しまで増やして、架けたい橋なら、領民達の生活には、重要かもしれないし、なんだか申し訳なくて」
「その報告書を見てもいいか?」
アリーチェが開いている資料を横から割り込んで見せてもらった。
確かに、アリーチェの言う通りだ……。
過去に別の領地に架けた橋の要望書にあった数字のままだ。
アリーチェは、マーティン侯爵の要望書は安過ぎると言うが、そもそも原材料費が分からなければ、安いと判断できないはずだ。
王妃は、何も知らずにこの報告書の数字を使ったのか。
マーティン侯爵家は王妃の実家。
これは、私の所まで報告書を上げさせるのが、そもそもの目的だろう。
そして視察団を河まで呼び出し、事故にでも見せかけて私を殺す。そんなところか。
工費が高ければ棄却されるが、敢えて低く見積もって、事務官の目では却下されないようにしたのか。
現地を見て、新しい橋の必要性がないと判断されても、どうでもいい要望書だな。
「アリーチェの言うとおり、これは却下で問題ない。王妃の企みだろう。おそらくは、新しい橋も必要のないものだ」
「どうしてそんなことを……」
「アリーチェが知る必要はない話だ。これ以上この件に深入りせず、そのまま突き返しておけばいい」
「フレデリック様がそういうなら、これ以上考えるのは止めておきますけど」
「ああ、そうしてくれ。随分とアリーチェは疑り深くものを見るようだけど、それは、ワーグナー公爵の影響?」
マックスが常々言っていた、アリーチェの評価は間違いないのは分かった。
この部屋に入ってから、胸がそわそわする。アリーチェの元から離れたくない。ミカエルのこともあるし、彼女の私室へ行くべきか。
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