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第4章 夢の実現へ

掌の中②

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【SIDE アリーチェ】

 わたしが城に戻ってからと言うもの、いつだって、フレデリック様かファウラーが傍にいたから、1人でゆっくり過ごせなかった。

 だけど今日は、2人一緒に視察へ行ったお陰で、わたしにとっては、自由な時間だ。
 フレデリック様から漠然とした、外出許可は出ている。
 今日、出掛けるとはフレデリック様に伝えていないけど、問題はない筈だ。

 城に戻って来た日。
 フレデリック様から観劇の感想を聞かれ、わたしは、評判とは全然違ったと教えてあげた。
 あの演劇は、ちっとも笑える話じゃなかったし、胸はキュンキュンしなかったから。
 わたしはずっと、屋敷の外の世界が眩しく見えていたけど、意外にそうでも無くて、マックスに寄りかかって読んでた本の方がワクワクした。
 そんな話をフレデリック様にした時、わたしは、いつでも城の外へ行って、したい事をして良いと許された。

「マックス。今日はフレデリック様が1日居ないから、出かけてくるわね。ワーグナーの屋敷と、王都の外れに行って来ます、じゃ」
 用件を伝えて、すぐさま振り返る。
 
「じゃ、ではありません。何を考えているんですか? 王太子の許可は取っているんですか? 全く……、いらない事ばかり、ファウラーから教えて貰って」
 可笑しいわね……。
 どうして許可を貰っていない事がバレているのだろうか。もしかして、わたしの中にあった、少しの罪悪感がマックスに伝わったのかもしれない。
 やっぱりわたしは、マックスを誤魔化すことは出来ないと実感した。
 双子の姉弟だからなのか、わたしとマックスの思考が同じ時があるから、気取られてしまった。

「う~ん、許可は取ったと言えばとったし、サプライズだから」
「はいはい、取ってないんですね。それなら、僕が同行します。準備をするので待っていてください。それまで、姉上は、執務室から出ないでください」

 外出に事務官長が同行するのか? そんな話は聞いてない。
 だけどわたしは、公務の分担さえも、何も分かっていなかったから、そういう決まりなんだろう。
 だからって何も、鍵までかけて行かなくてもいいのに。ちゃんと待ってるわよ。


****
【SIDE マックス】

「先に、ワーグナーの屋敷でいいですか?」
「うん、そうして」
「どれ位かかりますか?」
「1時間ちょい」
「姉上は、先に行っててください」

 僕が手配した護衛の他に、2人付いているのか。
 以前、姉を連れて城を出た時は、姉に護衛はついていなかった。やはり、王太子はミカエル殿下の狙いに気づいている。
 時計の確認も、わざと僕に見せたのか? 全く、どこまでも食えない王太子だ。

 自分で手配した護衛に、2時間の待機を伝えた。

  スキップのつもりの不思議な足取りで、我が家の別邸に向かう姉。
 姉は、僕の事を信用しきっている。
 別邸は、姉が仕事をしていたこの時間は、使用人達の立ち入りを禁じている。そこで、平気で僕と2人きりになった。
 男を知っても何も変わっていない、……無防備過ぎるうえ、男心を少しも分かってない。


 姉の中では既に、見たい資料が決まっていたのだろう、迷うことなく棚から3冊の資料を取り出し、パラパラとページをめくる速度で読み流している。
 そんなんで、よく頭に入るもんだと、相変わらず関心させられる。
 我が家の取り引きの情報を、フレンツ王国へ行く前に調べに来たのかと、姉の目的に納得した。
 何か嬉しいものを見つけたのか、ニヤリと笑った……、人の気も知らずに呑気なもんだ。

 僕は、城の中では、貴女を王太子妃として見ていられる。

 でも、僕たちの想い出の詰まったこの屋敷では……、僕は、そんな簡単に捨て切れない。
 もう駄目だ、貴女に触れたい……。
 もう何百回と、迷ったが、踏み切れなかったのは、貴方が僕を怖がったら、自分のものにならないと思っていたからだ。
 無駄に行動力のある貴女が、屋敷から逃げ出してしまうのが怖くて、僕は、ずっと我慢してた。

 弟と言う圧倒的に不利な立場では、貴女が僕を好きにならなければ、一生僕の傍に居て貰えなかったから。
 どちらにしても僕のものにならないなら、この先僕を怖がっても、せめて1度くらい。

「ふぅ~、終わった。次は、王都の外れの屋敷へ行くわ」
 姉が言ってた通り、丁度1時間。……こと仕事に関しては、流石だ。

 だけど、僕が気持ちを伝えた、この場所で、平然と僕に笑いかけている心情を、僕は理解できない。

 自分を抱くと言われたこの場所で、その男を少しも警戒しないのは、馬鹿だろう。
 姉を押し倒せば、どうせ姉は逃げられない。

「姉上、僕と2人きりになって、怖くないんですか。僕が、姉上を無理やり抱いたりするとか、思わないんですか? 今だって……」
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