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一学期

8,入学式当日⑤ * 〜結界と天然な蘭花〜

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入寮式も終わり、5人は蘭花の部屋に向かって寮の廊下を歩いていた。

「着いたよ、私の部屋。」

「女子の部屋ってなんか緊張するね。」

「成君が言うととてもいかがわしく聞こえるわね。」

「蘭花さん、良かったのか?部屋を使わせてもらって。」

「いいの、いいの。お菓子も余ってたし…自分の部屋じゃないと気…抜けないし。」

蘭花は自分の部屋の扉を開ける。

この学校の寮の個人部屋は2種類ある。
1つは成績優秀者が入れる部屋。
もう1つは成績優秀者以外が学校にお金を払って借りて入る部屋。
どちらも2人部屋に比べれば豪華なのだが、成績優秀者の部屋はもう一方とは比べ物にならない豪華さだった。
蘭花の部屋はもちろん前者の方の個室で、内装は任せていたので詳しくは昨日まで知らなかったのだが自宅の自分の部屋と同じようになっていた。
成績優秀者用の寮の部屋は内装が自由に工事で変更可能だ。
部屋の1つに畳を敷いて窓も障子に変え和室に変え、家からちゃぶ台を持ってきたり、新しく棚を買ったりしてくれたおかげで蘭花にとって落ち着ける空間となっていた。
ちなみにその内装工事の費用は蘭花が特級特殊型特殊能力師として自分で稼いだお金が山ほどあるのでそこから出ている。

「ほら、みんな早く中に入って!」

「えっ?う、うん。」

「わぁ…凄い…和室だわ。」

「和室なのに置いてあるのは洋菓子なんだな…なんかちゃんとした和室って落ち着かないからほっとした。」

「これ、最近よく話に聞くシアルってお店のやつだ!ボク気になってたけどまだ買いに行けてなかったんだよね!」

「余り物なの、食べてていいよー。ちょっとやることやってしまうから!」

「やること?」

颯が蘭花の能力発動を感知して聞いてきたが蘭花は集中していたので聞こえていなかった。

「部屋にはみんな…うん、入ってるね。"範囲","確認","設定","音","遮断","固定","光","遮断","固定","物体","反射","固定","オルト","通過","固定","気体","有害","遮断","無害","通過","固定","熱","通過","固定","攻撃","反射","固定"―――…うーん…こんなものかな…?」

「蘭花様、液体を忘れております。」

「うお!?」

気配を消していた真城さんに驚いて颯が声を上げた。

「あっ、真城さんありがとう!"液体","有害","遮断","無害","通過","固定","設定","終了"」

「はぁ、毎回めんどくさい。」

「じゃあ、こんなに徹底して結界はらなければいいのでは?」

「ダメ。油断大敵。」

「そうですか。終わったばかりで申し訳ありませんが、野暮用がありまして…少し失礼してもいいでしょうか…。」

「そう、ご苦労様。場所は家?」

「いえ、今日は校門前でお願いします。」

「わかった。」

私は真城さんの周囲を転移の範囲に指定して、真城さんを校門前に転移させた。
そして、転移の応用で声を転移させ『もう動いて大丈夫』と真城さんに伝えた。

「はぁ……疲れた…。」

一仕事終えた蘭花はちゃぶ台の前に座り込んで台の上にあった焼き菓子を食べ始める。

廊下での会話を知らない成人と七凪の2人は態度の急変した蘭花に固まっていた。
純粋に驚いている七凪と違い、成人は何かを考えている様だったではあったが。

「神代さん、今のは?」

葵依が聞いた。

「ん、私専属の使用人。留守を任せてた。」

「いや、そっちも気になるけどそっちじゃなくて…。」

今度は、成人が言った。

「?」

蘭花はわけが分からずにお菓子を食べつつ首を傾げた。

「蘭花がさっき…えっと…真城さんって言ってたっけ?その彼女が確か結界って言ってた…ボクもだけどみんなが聞きたいのはそれだと思う。」

「(もぐもぐ)……(ごっくん)…ん、あれはただの結界。」

「いや、ただのって…だって音とか光とか物体とか言ってたあれだよ。」

七凪がたずねてきた。

「ん、それは結界の設定。さっきのは、防音とかのぞき見防止用に光遮断と万が一のために物体反射。物体反射は結界内に入ろうとしても入れない、何かを入れようとしてもれられない。気体は遮断してしまうと息が出来なくなるから有害な物だけ遮断。液体も同じ。完全に遮断すると体に良くないから通過。他は…もう説明がめんどう。」

蘭花はめんどうになって説明を辞めた。

「なんか…神代さんの能力って本当便利だね。」

成人が関心して言ったが蘭花は無表情のまま一言だけ『そう。』と言った。

「『そう。』って…クールだな…おい。さっきまでと性格全然違うじゃねーか…やっぱりそっちが素が。」

颯がさっき蘭花に、釘をさされた時の様子を思い出して言った。

「さっきまでって、こんなのー?」

そう言って、蘭花はにぱっと笑ってみせた。
そんな蘭花を見て颯はたじろぐ。

蘭花は颯をからかうのがちょっと楽しくなってきていた。

「あっちは、よそ行きモード。あんなのずっとしてたら疲れる。」

蘭花の堂々としたカミングアウトに七凪が真っ先に反応した。

「凄いねー…ボク気づかなかった。」

「僕はそのクールな方がいいと思う。神代さんらしくて。」

普段ほとんどヘラヘラした顔をしている成人が真面目な顔をして言った。

「俺もそっちの方いいと思うが…なんで演技なんかしてんだ?」

からかわれたことを思い出しながら言っているのか苦虫を噛み潰したような顔をして颯が言った。

「私は別に演技は演技でそれでいいと思うけど…。」

「ボクもそう思う。」

「男女で意見が割たねー。」

「ねぇ、それより…いつまでこの話するの?話すことを話終わらないとここから出れないし、外部と連絡一切取れないけどいいの?」

「えっ…あっ…そうか物体反射に光遮断に音遮断ってそういうことか。」

「警戒は大事。」

「そ、そうね…じゃあ、早いとこ終わらせましょう?」

葵依がそう言ってちゃぶ台の前に座ったのを見てほかの人も座った。
だが、5人は狭かったようで颯は一人、部屋の壁に背をあずけた。

蘭花が、ちらっと見ると颯はじっと見つめ返してきた。

(怪しまれてる…?いやと言うより、これは……心配?なんで?)

「颯君…なに?」

「いや、後でいい。」

「そう。私、お菓子だけで口の中ボソボソしてきたからお茶入れてくる。それまでに葵依と颯君が廊下で話してた事2人に話しといて。ついでに私に内緒の相談とかあればそれもして大丈夫。防音の結界をこの部屋だけ二重にはっていく。」

4人は蘭花本人から内緒話していいよとご丁寧に結界まではってくれたことに対して微妙な顔をしていた。

「蘭花ちゃん…その天然な所って素でやってたんだ…。」

「?」

「成君、ボクの考えだけど、たぶん蘭花はその事自覚していないと思うよ。」

「私もそう思うわ。」

「俺もそう思う。だって…HR前に廊下でも何回かあったからな…わざとにしては回数が多すぎる。」

「お茶…入れてくる。颯君が見たものも全部バラしていいから説明よろしく。」

よく分からないことを色々と言われてめんどくさくなった蘭花は颯と葵依に全ての説明を押し付け、颯の視線を無視してキッチンに向かった。

「天然な上にマイペース…。」

「だね。」

「説明よろしくだって。」

「よろしくって言ったって…本人抜きでどうやって…。」

「颯、頑張って。」

「……はぁぁぁぁ…じゃあ、昨日の校門で見たものから説明するか…。」

蘭花の居なくなった和室では颯が困り果てていた。


一方、蘭花はというと……。

(…どれにしよう…和室だし玉露とかの方が合う?…でも洋菓子だから紅茶の方がいい?…好み聞いてくればよかった。)

キッチンの棚を眺めながらどのお茶を入れるかウキウキしながら迷っていた。
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