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第3章〜内乱の激化と流行病の発症〜

29.引きこもり中の突撃訪問者

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引きこもり生活33日目の今日。

私はある馬鹿と前の私アリシアナのせいでめんどくさい事態になっていた。
どういう状況かと言えば…

「お嬢!ちょっと聞いて欲しいことがあるんすけど」と空気をあえて読んでいないのか話を続けようとする馬鹿が1名。

それに「シア、破棄になる婚約ってどういう事かな?説明して欲しいんだけど?」とにっこりと微笑みつつもどこかひんやりとしたオーラを出しているジーク様。

最後に「お嬢様…私は何も差し支える事が無いようであれば早く白状した方がよろしいのではないかと愚考致します」と呆れているマリアだ。以前困った時はだいたいマリアが助けてくれていたみたいだけど、こう言う口調の時のマリアは味方をしてくれないようなのであてにはできない。

…………あぁ、めんどくさい事になった。本当にめんどくさい事になった。
アリシアナめ…どこまでも私に押し付けやがってっ!
どうする…考えろ…考えるのよ…私っ!

「お嬢…?」

あ゙~~、うるさいっ!…そもそもこんなめんどくさい事になったのはあんたのせいだろうが!
もういい。なるようになってしまえばいい。
どうせ早いか遅いかの違いだわ。

半ばやけくそになった私はこの状況をつくった原因である馬鹿を睨み付ける。

「黙りなさい…騒々しいのは嫌いと前に言いませんでしたか?」

「お、お嬢…?」

「おかしいですわ…返事が聞こえないなんて。けれどしょうがないですわ馬鹿は死ぬまで治らないと言います。1度…死んでみますか?」


そう言って私が微笑むとなぜか嬉しそうに照れて顔を赤くした馬鹿は襲いかかって来そうなほどのすごい勢いで慌てて謝りだした。

「っ、いや!もう死にません。今回は無理です。ごめんなさい、オレ黙ってます!」

………???

なんで照れてんの!?
まさかのアリシアナの睨みコレが効果ゼロ!?この馬鹿は1度、前の私に殺されているからこの言葉が1番効くはずだったのになんで!?
私はわけがわからなくて夢を思い返すけど答えはわからなかった。
そして私は自分の考えに夢中になっていて、この部屋に馬鹿以外にもひとが居てさっきの馬鹿の不用意な一言を聞いている事を忘れていた。

「もう、死にません…?」

「今回は…?」

あっ…あ゙ーもうっ!

また余計な事をっ…あんた馬鹿だけど本当の意味で馬鹿ではないでしょ!一体どういうつもりなの!?

アリシアナは思わず手で顔を覆う。

「はぁ~……カイル。後で話があります。」

「…で、でもお嬢―(ギロッ)―ひっ、な、なんでもないっす。」

また余計な事を言いかけたカイルを私は睨んで黙らせる。

わざとらしく『ひっ』などと言い怯えたフリをしてはいるが頬がほんのり赤いのを見れば一切堪えてない事は丸わかりだ。
そしてこちらをチラチラ見ながらまだ何かを言いたそうにしているカイル馬鹿に気づいて私は頭を抱えたくなった。

そもそもなぜこんな事になっているのか。
それを説明するには、昨日の朝に起こった出来事から説明する必要がありあるだろう。
昨日は2日続けて見た悪夢で少し頭痛と吐き気がし、そのせいで少し早く目が覚めた。
もちろん夢の内容はその日も世界が巻き戻る前の未来でのアリシアナの記憶で。
私を心配するマリアがこちらを見る度に夢での出来事を思い出し、夢を忘れられずに引きずっていた。







時は遡り引きこもり生活32日目の朝。

「お嬢様、今日も王子殿下が花をくださいましたよ。こちらに生けておきますね。」

「えぇ。」

この1ヶ月ほぼ毎日しているお決まりのやり取りをしていると、アリシアナとマリアしか居ないはずの部屋に知らない男の声が響いた。
その声でマリアはすぐに侵入者に気づき警戒するが窓の外を見ていたアリシアナはすぐに気づく事が出来なかった。数日前にマリアが言っていた新しい使用人かと思ったからだ。

「ここ数日こっそり見てたっすけど聞いてた話と違うっすね、お嬢。お嬢の婚約者、お嬢の事ちゃんと大事にしてくれてるじゃないすか。良かったっすね。けどその花、心を落ち着かせるリラックス効果あるみたいだしもう少し近くに置いといた方がいいんじゃないすか?」

「この花そうだったの?知らなかったわ。ありが――ん?」

あれ。この部屋に男の人なんて通したかしら。

ようやく異変に気づいたアリシアナが声の方をむくと部屋の隅でこちらを見ている騎士風の格好をしたイケメンがいた。
謎のイケメンは、アリシアナと同じ銀髪に緑の目をしており、格好と顔だけ見ると正統派イケメンといった感じだ。歳は前世でいう大学生くらいだろうか。
この人、誰。
使用人…にしては立派な格好だけれど。

そして一方のマリアだが自分が気づくことすら出来なかった事に戦慄していた。主を守れないかもしれないと思ったからだ。ただでさえアリシアナは2ヶ月前に何者かに殺されかけている。その事件は実際はアリシアナの自殺なのだがそれはアリシアナしか知らない。
マリアがその男の侵入に気づきその男を見た最初、男は口に人差し指を1本当てアリシアナには聞こえないくらいの声で『驚かせたい黙って。』と機械みたいに無機質な無表情で言った。
そして声をかけアリシアナが気づくまでその男は機械みたいに無表情だった。
だがアリシアナが見た瞬間、人が変わったように馬鹿っぽく笑った。
その様子を1から見ていたマリアは目の前の男への警戒レベルをさらにひきあげた。

「こいつ!お嬢様っ直ぐにここから逃げてください!こいつはっ―」

元々、油断しているつもりもなかったマリアだが、自分の見立てが甘かったと後悔した。

「あっ、敵じゃないっすよ。前にお嬢にいつでも来ていいって言われてるっす。」



「………。」

私は訳が分からなくて、というより信じたくなくて目の前のイケメンに「あの…お嬢とは?」と聞いてみた。

「もちろんあなた様のことっす。アリシアナお嬢。」

なんでお嬢…。

「それは初対面で姫って呼んだらやめないと殺すって言われたからっす。」

心を読まれてびっくりして見ると「新しいお嬢は全部顔に出てて面白いッすね。」と笑っていた。

その会話を聞いて警戒レベルを少し下げたマリアは少し泣きそうな表情で呟いた。

「あぁ…お嬢様、いつの間にこんなヤバいの引っ掛けてたんですか…というか、ですか。」

アリシアナはそうなのかしらと今まで見たアリシアナの記憶を思い返してみる。

……………。

いやいや、やっぱり誰よ、このイケメン。こんな人アリシアナの記憶でも知らないわっ!しかも声がものすごく好み。
って聴き惚れてる場合じゃなかったわ。
そうよ!またってどういう事よマリア!?
いや、少し混乱してるわね少し落ち着きましょう。幸い相手はこっちの事知ってて面識があるみたいだし聞けばいい。

「……ごめんなさい、今の私はあなたの事がわからないわ。それで――」

続けてアリシアナが現状を説明し「私はあなたとどういう関係でしたか」と聞こうとした時、一瞬だけイケメンから馬鹿っぽい笑いが消え無表情になった。

「姫様…まさか、記憶消えてるんですか?」

へ………?

なんで私が記憶喪失だって言う前から知ってるのよ!?

本当に何者よ。この顔に反して馬鹿そうな言動の残念なイケメンは。
キャラは濃そうだけど…ゲームには…出てなかった、わよね?
いや、本当に誰よ。
一瞬だけしてた無表情の方が素の彼なのかしら…なんかそっちは見覚えがあるきがするんだよね…ゲームの記憶かしらそれとも前のアリシアナの記憶かしら…うーん、思い出せない。

それに今、"今回も"って言ったのよねこの人。どういう意味で言ったの?
第一声の言い方といい…ゲームでのアリシアナとジークフリート王子の関係を知ってる…?
それとも…世界が巻きもどる前の記憶が残ってるとか…?

いや、まさかね。

「これは予想外でした…仕方ないですね。でしょうし、思い出したらまた来ますね。」

謎のイケメンは無機質な無表情でそれだけ言うと魔法で転移したのか来た時と同じようにまた気がついたら消えていた。

知ってる気がするんどけどな。
喉元まで出かかってるのにあと一歩の所でとめられてる感じでモヤモヤする。

「マリア。あなたは彼を知っていますか?」

「おそらくですが、彼は隣国アシュヴィ帝国の帝国魔法騎士団で史上最強と言われているカイルという人物です。何でも皇帝の命令しか聞かず、誰にも剣を捧げない人物だとか。噂だと皇帝の命令をきくのも見合った対価がある時だけだとか。それと…いえ、とにかく強いらしいという事しか私には分からないです。」

マリアは途中何かを言いかけたが私をちらりと見ると少し遠い目をして言うのをやめた。

「なんでそんな人がこんな所にいるの?」

「それは私が聞きたいです、お嬢様。」

真顔で言われてしまった。

「……そうよね、ごめんなさい。」

「いっ、いえ、それはしょうがない事です。私こそ申し訳ございませんでした。」

私が謝るとハッとした表情をした後にマリアが謝ってしまった。

あっそうか…ここは主人側が謝ると使用人であるマリアは謝らないといけなくなるのか。マリアはこの重苦しい雰囲気を何とかしようとわざとこんな言い方をしてくれたのに…。
本当に失敗した。きっと前のアリシアナなら冗談として笑って流せたのだろう。

「いえ、忘れた私が悪いのです。ごめんなさい。………謝り合っててもしょうがないわよね!そ、それで…その…言いにくいのだけどこれからどうすればいいと思う?」

返しが不自然?無理に明るくしようとしてるのか丸わかり?
そんなの言った私が1番わかってるわ。
これが私の精一杯なのよ!
はぁ、お嬢様するのも難しいわ。

「あちらは明日また来ると言っていましたが…正直、この城に張ってある結界が意味無いなら私にできる事はないので今から警戒レベルを少しあげるくらいしかできません。念の為に王子殿下と旦那様に報告だけしておきます。まあ、あの人物がお嬢様に害を成すとは思えませんが。」

「…わかった。お願いね。」

言ってたわね。記憶が戻ったら来るとか何とか。
来るのは…止められそうもないからいいけど、そもそもそれをどうやって知るつもりかしら。
まあ、いいわ。あのイケメンには聞きたい事があるし今日のあの態度が油断を誘う為の嘘とかじゃなければマリアの言う通りいきなり攻撃されたりとかはしないでしょう。

というか、王城でもこの辺りは特に魔法で結界を何重にも張ってある。
そんな警備が厳しいこの部屋に涼しい顔でダイレクト転移してくる相手に何をしても無駄よね。
切り替えの早いアリシアナはそこまで考えた所で気持ちを無理やり切り替えるとそれからは昨日と同じように読書と刺繍をして過ごした。

そして夜。
いつも通り日課の日記を書いて眠ったアリシアナは日付が変わった朝方にまた前のアリシアナの記憶の夢をみる。
しかも今回のそれは今ちょうど知りたいあの謎のイケメンについての記憶だった。




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次回はアリシアナとカイルの出会いの話です。
カイルはこれからの主要キャラの1人となっていく予定です。
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