悪役令嬢ですが、自分のスキルの代償がきつくて泣きそうです(仮)

秋桜

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第3章〜内乱の激化と流行病の発症〜

28.静かなお嬢様(マリア視点)

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お嬢様が突然スイッチの切れたように笑いだした。
それも記憶を失う前と同じ調子で。
私は、もう見ることは無いと思っていたそんな懐かしい光景を前にお嬢様が記憶喪失になってしまわれてからの事をぼんやりと思い出していた。

ひと月と少し前。
記憶を失った今のお嬢様と初めて会話をした日。

お嬢様に接して感じたのはとても静かで穏やかな暖かい感覚だった。
以前のお嬢様なら決して似合わないお淑やかと言う言葉が良く似合う方になられていた。
例えるなら、真夏の太陽が春の陽だまりへ変わったそんな感じ。
けれどそれと同時に私の知るお嬢様は消えてしまったのだとも思った。
前のトラブル製造機だった頃の面影はすっかり無くし大人しくなってしまったのだと。寂しく感じたのだ。
けれどそんな事は全くなかった。
記憶がなくても変わらずだった。
むしろ普段の行動が落ち着いた分、騒動の起こり始めが想定出来ずに前より苦労は増しそうだと感じたくらいだ。おかげで昨日は大変だった。
一騒動ごとの規模の大きさも流石お嬢様だと不謹慎にも少し嬉しくなった。
国ひとつの行く末と世界の命運のかかった大騒動に焦る気持ちとは裏腹に安堵してしまったのだ。
記憶喪失になって居なくなってしまったと思っていたお嬢様は今も確かにそこに居て、消えてなんていないという事がわかったから。

何も変わってなんか居ないのだと知ることが出来て、私は…。

私は本当に安心したのです。

アリシアナお嬢様は消えてなんていない。
消えてなんて…いない。



キレてしまわれたお嬢様はひとしきり笑うとそれで落ち着いたのか王子殿下とリオン坊っちゃまを部屋から追い出す為だろう、そっと微笑んでこう言った。

「ジーク様、リオンお兄様。申し訳ございません、昨日何があったか聞きたいのですが…寝起きの様子や朝の支度を殿方に知られるのは少々恥ずかしいのでマリアと2人にしていたたきたいのですが。」

頬をほんのりと桃色に染めて恥じらうお嬢様は大変可愛らしく同じ女である私にもグッとくるものがあった。
だけど記憶を失う前のお嬢様ならばこんな表情でこの言葉は出てこなかっただろう。おそらくもっと直球で『出て行ってください』と言うか、むしろ逆に追い出さずにわざと聞かせるくらいしただろう。
リオン坊っちゃまは『それは…気づかなくてすみませんでした。』と普通に部屋から出て行った。また、王子殿も心配そうにお嬢様を見てはいたが特に何かを言うことはせずにこちらに背を向けるとそのまま出て行った。

お二人共それでいいんですか?
それお嬢様の思惑通りですよ?
まぁ、わざわざ教えてあげるような事はしませんけどね。
私はあくまでお嬢様の味方です。
殿方に聞かせていい話じゃないのも確かですしね。

と言っても王子殿下は気づいてそうです。
王子殿下は感情の察知がよく出来る方のようですから。

私のその予想は的中し案の定、 翌日朝食の後すぐに王子殿下がお嬢様に会いに部屋まで来た。
お嬢様にお部屋へご案内してもいいかお伺いすると気分が良くないので今日は誰とも会いたくないと仰った。
そう言われハッとしてみると顔色が少し悪く笑顔にいつもの覇気がなかった。昨日まで疲れが出たのかもしれない。今までこんな事は滅多になかったので気づくのが遅れてしまった。

「気が付かなくて申し訳ございませんでした!王子殿下にはお帰り願いますね!」

私がそう言うとお嬢様は少し戸惑った後にふわりと笑った。

「殿下に申し訳ございませんと伝えてくださるかしら。あぁ、医師はよばなくていいわ、そこまで悪い訳では無いの。ただ少し落ち着く時間が欲しいだけだから。」

「かしこまりました。ですがお嬢様、本日は無理せずちゃんとゆっくり休まれてくださいね?」

ついつい前と同じ調子で念押ししてしまった。
今のお嬢様がベッドから抜け出すとは思えないのに染み付いた習慣はなかなか直りそうにない。

「ふふふっ…ごめんなさい、マリア。ありがとう。」

そう言って微笑むお嬢様は私のような下の者にもとてもお優しい。
記憶がなくなってからもそこは変わらなかったし根っこの部分は変わらないお嬢様だけれど変わってしまった所もやはりある。
言葉遣いや立ち居振る舞い、見せる表情、趣味に読書や刺繍を嗜むようになられたのもそうだが1番は周囲の人間への対応だ。

王子殿下やリオン坊っちゃまもそうだが私や旦那様に対してもよそよそしさを感じる。昨日1日王子殿下方と話すお嬢様をそばで見ていて『以前ならもう少し自分から会話に加わろうとしたはずなのに』とやきもきした。

向ける表情も以前と比べると全然違う。具体的にどう違うのかと問われてもはっきりとはわからないがお嬢様からよそよそしい態度をとられるのは悲しかった。

記憶喪失というだけでは、このよそよそしさには説明がつかない気がします…一体お嬢様に何があったというのでしょうか。

お嬢様は不調で今日は会えない事を伝えると王子殿下は持っていた花をお嬢様にと手渡して去っていった。貰った花はお嬢様と相談した結果、この部屋に生けておく事になった。その花を花瓶に生けていると後ろから視線を感じた。
気になったので振り返って視線の方を向くと、今まで1度も見た事のない表情で私を見ているお嬢様がいた。
能面の様な無表情に氷のような冷たい目で。
けれど、私が見ていることに気づくとすぐにいつもの優しい微笑みに戻ったので気のせいだと思い気にしないことにした。

だが後にマリアはこの日に今のお嬢様とちゃんと話しておけば良かったと後悔する事になる。もちろん今のマリアにはまだ知るよしも無い事だ。







次の日も王子殿下は同じ頃に訪ねて来られた。
昨日も今日も毎日来られるなんてマメな人ですね。噂ではもっと冷めた人だと聞いていたけれど…。あぁ、もしかしてまたお嬢様が…いや、今はどうでもいい話ですね。

お嬢様に王子殿下の来訪をお伝えすると今日も気分が悪く会う事は出来ないと仰られた。
2日も不調が続くのは初めてなので医者を呼ぼうとしたが少し嫌な夢を見ただけだから大丈夫だとやんわりお断りになった。殿下にその事をお伝えすると「一昨日、スキルが暴発した時の事が原因かもしれない。シアを助けた時に見たあの記憶達は僕も未だに思い出すからね。今までああいった血なまぐさい事とは無縁だっただろうし、ゆっくり心を休める時間が必要だね。」と仰られた。

「そんなにきつかったのですか。」

「あれはトラウマになっても全然おかしくないレベルだと思う。もし必要そうなら魔法で記憶消去などの処置もとれるからその時は言ってね。」

「アリシアナお嬢様の為にそこまで…ありがとうございます。」

「婚約者のためを思うのは当然の事だよ。じゃあこれ今日もよろしく。」

そう仰って王子殿下は花を私に渡すと「また明日来る」と言って自室に戻って行った。

「………………………。」

本当に10歳らしからぬお方だ。
でも、そんな王子殿下もアリシアナお嬢様といる時は年相応な顔をされる事もあるのだから不思議だ。







それから数日経った。
お嬢様は日が経つ事に冷たい無表情になる回数が増えた。

王子殿下が毎日くれる花を花瓶に生けていると毎回感じるそれは私が気づいてお嬢様を見ると柔らかい表情に戻るがそれもどこかよそよそしい。
記憶がないのだから初対面と変わりはないからだろう。
前みたいに戻れるようにまた関係を気づいていけばいい。
もしかしたら記憶を取り戻す事もあるかもしれない。

そういえば、以前お嬢様が口癖のようによく仰っていた。


きっと大丈夫。

きっとなんとかなる。

なるようになる。


今まで100年以上生きてきてやばい状況はいっぱいあったが全て何とかしてきた。
今回もきっとそうだと私は信じている。



それからさらに数日が経ち、夏の3の月も半分以上が過ぎた頃。

お嬢様が夢で魘されるようになった。

それはだいたい朝方で、その度にお嬢様は血の気の引いた青白い顔で飛び起きる。
最近さらに冷たい無表情を見せる回数が増えたお嬢様は私が額に浮かんだ汗をタオルで拭き取っていると微かに微笑みを返してくれる。

ここ数日の間、毎日朝方に夢を見てその度に辛そうにするお嬢様を何とか助けてあげたくて旦那様や王子殿下に相談もしたがどうする事も出来なかった。
結果、お嬢様はこの半月間徐々に弱っていった。
弱い毒がじわじわと全身にまわるようにスキルによる悪夢に蝕まれていった。
それでもお嬢様から笑顔が消えることは無かった。
本を読んで楽しそうに笑ったり、刺繍や編み物をしている時にミスに気づき落ち込んだり、好きなおやつを幸せそうにつまんだり。

昼間の彼女は不自然なくらいずっと変わらず暖かく穏やかで静かだった。
私にはそれが不気味でならなかった。


そしてお嬢様が私達侍女以外と会わなくなってちょうど30日目。
とうとうお嬢様はその笑顔すら見せてくれる事は無くなった。
いえ、その表現は正しくないわ。正しくは私達侍女に向かって…いえ、人に対して笑われなくなった。という方が正しいわ。
本を読んだりしている時に微かに表情が柔らかくなられる事はまだわずかだけれどある。


(アリア様…。

      私は100年前と何も変わっていないのでしょうか。
                        また………見てる事しか出来ないのでしょうか。)


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