20 / 21
第19話
しおりを挟む
ロナルドに右手を、サファイアに左手を握られて、逃げ出さないようにがっちりホールドされながら、オレたちはダンスホールに向かった。
ちなみに、ここまで何度も絶対に逃げ出しませんと言ったものの、全く信じてもらえませんでした。
どうせなら、可愛いメイドさんと手を繋ぎたい。ちぇっ。
「さぁ、フランツ様、もうすぐですよ」
促されて廊下の先を見ると、一度野外に出るのか、大きな庭園が広がっていた。
色とりどりの花に囲まれて、円形状の大きな淡い桃色の建物が建っている。
建物に続く道は、王城からはバラのアーチになっていて、別にもう一つ水色のレンガ道が外の門まで続いている。きっと外からのゲストはあそこからやって来るのだろうな。
建物には繊細で複雑な飾りがついた優雅な手すりに、それに合わせるように緩やかな階段がのびている。まるでディズニーのお姫様でも降りてきそうな雰囲気だ。
その階段をのぼり、ロナルドの2倍はありそうな扉の前に行くと、2人の正装をした若い騎士がオレたちに深々とお辞儀をした。
「サファイア殿下、フランツ殿下、ロナルド様お待ちしておりました」
「メイドたちも首を長くして待っておりますよ」
爽やかに笑いながら、騎士たちは重そうな扉を軽々と開けた。見た目によらず力持ちらしい。
「ありがとう」
お礼を言うと、若い騎士たちは照れたようにはにかんだ。
何だか仲良くなれそうなタイプだ。後で、名前を聞いてみよう。
そう思っていると、左手を突然ぐいっと引っ張られ、驚いて振り向くとサファイアが不機嫌そうに顔を顰めていた。
「人間の王族は、親しい間柄か目上の者にしかお礼を言わないんじゃないのかい?」
「は?」
「フランツ、君は貴賤なくどんな相手にも礼を述べるのかい?」
「そりゃあ・・・・・・」
勿論、と言いかけてオレは思わず口を隠した。
平成生まれで日本育ちの『俺』としては、それが当たり前だ。でも、この世界では、いや、この国の王族貴族は違う。
何を勿体ぶってんだか、お礼の一つも中々言いやしない。
そういった暗黙のルールだからだ。
だけど、まぁ。
「ダメ?」
「え?」
「あんまお礼って言っちゃダメかな」
もし、魔族の貴族にもそういったルールがあるなら考えなくちゃいけない。
でも、お礼なんて減るもんじゃないし言っていいと思うけどな。そりゃ、威厳がどうのこうのとかあるかもしれないけど、子供にはまだ必要ないだろう。感謝の気持ちの方が大事だしな。
「ダメじゃないけど、私は君が」
そこまで言うとサファイアは黙り込み、そして静かに頭を振った。
「いや、いけないね。どうもこの姿に精神が幼くなっているようだ」
「そうなの?」
「うん、ちょっと私らしくなかった」
気を取り直したようにサファイアは微笑み、聞き取れない発音の複雑な呪文を唱えた。
魔族の魔法だ。人には決して真似できない、不思議なその言葉は、どこか歌にも聞こえる。
すると、どこからともなくキラキラした光と煙がサファイアを包み込み、そのファンタジーな見た目とは裏腹に、ボキボキと人体から聞こえちゃいけない音が響く。
オレの手を握っていた柔らかくて小さな手が、大人の男の手に代わっていき、痛そうな音が終わったころに煙の中から美しい青年が現れた。
「これなら、私も大人の対処ってものが出来ると思うんだ。
だけど、フランツ。君だっていけないんだ。
私に期待させておいて、それはないじゃないか。
私はてっきり友達だからお礼を言われたと思っていたのに」
そう言った青年はオレの手をぎゅっと握り、不貞腐れたように唇を尖らせた。
なんだ、大人の姿になっても、全然幼いじゃんか。
「なぁ、今のって痛くないの?」
「いや、言うとこそこかい!?」
「や、だいぶ凄い音したから痛くないのかなぁって」
「少しは痛いけど、それって心配してくれているの?」
肩を落として脱力しているサファイアを、ロナルドも堪え切れず微笑んでいる。
なんだろう、この凄く残念な感じ。ゲームの中じゃアンニュイ担当だったのに、のの字を書きだしそうな勢いだ。
大の大人が情けない。けど、あまりに落胆しているので、思わず言ってしまった。
「そりゃ、友達だから」
「え」
サファイアが、ぱちりとゆっくり瞬きをする。
まぁ、正直、いつ友達認定されたのか分かんないけど、ダンスの練習にも付き合ってくれたんだし、そんなんもう、友達だ。
「友達だろ?痛かったなら心配するさ」
オレが言うと、サファイアはもう一度ぱちりと瞬きをして、そして。
「ぐぇ!」
「う、ぅ。ふ、フランツっ!!」
弾かれたようにオレを力いっぱい抱きしめ、大粒の涙を流し始めた。
そして、サファイアの涙がみるみるうちに結晶化し、とっても立派な宝石になっていった。
抱きしめられた衝撃と、涙が宝石になった驚きのあまり固まっていると、視界の端にオロオロしたロナルドと騎士たちを押し出して、赤い髪のメイドが怒りの形相でこちらに向かってきた。
「殿下を放せ、この不届きもの!」
あぁ、エルザ。何だかさっき分かれたばっかりなのに、めっちゃ久しぶりな気がするぜ。
ちなみに、ここまで何度も絶対に逃げ出しませんと言ったものの、全く信じてもらえませんでした。
どうせなら、可愛いメイドさんと手を繋ぎたい。ちぇっ。
「さぁ、フランツ様、もうすぐですよ」
促されて廊下の先を見ると、一度野外に出るのか、大きな庭園が広がっていた。
色とりどりの花に囲まれて、円形状の大きな淡い桃色の建物が建っている。
建物に続く道は、王城からはバラのアーチになっていて、別にもう一つ水色のレンガ道が外の門まで続いている。きっと外からのゲストはあそこからやって来るのだろうな。
建物には繊細で複雑な飾りがついた優雅な手すりに、それに合わせるように緩やかな階段がのびている。まるでディズニーのお姫様でも降りてきそうな雰囲気だ。
その階段をのぼり、ロナルドの2倍はありそうな扉の前に行くと、2人の正装をした若い騎士がオレたちに深々とお辞儀をした。
「サファイア殿下、フランツ殿下、ロナルド様お待ちしておりました」
「メイドたちも首を長くして待っておりますよ」
爽やかに笑いながら、騎士たちは重そうな扉を軽々と開けた。見た目によらず力持ちらしい。
「ありがとう」
お礼を言うと、若い騎士たちは照れたようにはにかんだ。
何だか仲良くなれそうなタイプだ。後で、名前を聞いてみよう。
そう思っていると、左手を突然ぐいっと引っ張られ、驚いて振り向くとサファイアが不機嫌そうに顔を顰めていた。
「人間の王族は、親しい間柄か目上の者にしかお礼を言わないんじゃないのかい?」
「は?」
「フランツ、君は貴賤なくどんな相手にも礼を述べるのかい?」
「そりゃあ・・・・・・」
勿論、と言いかけてオレは思わず口を隠した。
平成生まれで日本育ちの『俺』としては、それが当たり前だ。でも、この世界では、いや、この国の王族貴族は違う。
何を勿体ぶってんだか、お礼の一つも中々言いやしない。
そういった暗黙のルールだからだ。
だけど、まぁ。
「ダメ?」
「え?」
「あんまお礼って言っちゃダメかな」
もし、魔族の貴族にもそういったルールがあるなら考えなくちゃいけない。
でも、お礼なんて減るもんじゃないし言っていいと思うけどな。そりゃ、威厳がどうのこうのとかあるかもしれないけど、子供にはまだ必要ないだろう。感謝の気持ちの方が大事だしな。
「ダメじゃないけど、私は君が」
そこまで言うとサファイアは黙り込み、そして静かに頭を振った。
「いや、いけないね。どうもこの姿に精神が幼くなっているようだ」
「そうなの?」
「うん、ちょっと私らしくなかった」
気を取り直したようにサファイアは微笑み、聞き取れない発音の複雑な呪文を唱えた。
魔族の魔法だ。人には決して真似できない、不思議なその言葉は、どこか歌にも聞こえる。
すると、どこからともなくキラキラした光と煙がサファイアを包み込み、そのファンタジーな見た目とは裏腹に、ボキボキと人体から聞こえちゃいけない音が響く。
オレの手を握っていた柔らかくて小さな手が、大人の男の手に代わっていき、痛そうな音が終わったころに煙の中から美しい青年が現れた。
「これなら、私も大人の対処ってものが出来ると思うんだ。
だけど、フランツ。君だっていけないんだ。
私に期待させておいて、それはないじゃないか。
私はてっきり友達だからお礼を言われたと思っていたのに」
そう言った青年はオレの手をぎゅっと握り、不貞腐れたように唇を尖らせた。
なんだ、大人の姿になっても、全然幼いじゃんか。
「なぁ、今のって痛くないの?」
「いや、言うとこそこかい!?」
「や、だいぶ凄い音したから痛くないのかなぁって」
「少しは痛いけど、それって心配してくれているの?」
肩を落として脱力しているサファイアを、ロナルドも堪え切れず微笑んでいる。
なんだろう、この凄く残念な感じ。ゲームの中じゃアンニュイ担当だったのに、のの字を書きだしそうな勢いだ。
大の大人が情けない。けど、あまりに落胆しているので、思わず言ってしまった。
「そりゃ、友達だから」
「え」
サファイアが、ぱちりとゆっくり瞬きをする。
まぁ、正直、いつ友達認定されたのか分かんないけど、ダンスの練習にも付き合ってくれたんだし、そんなんもう、友達だ。
「友達だろ?痛かったなら心配するさ」
オレが言うと、サファイアはもう一度ぱちりと瞬きをして、そして。
「ぐぇ!」
「う、ぅ。ふ、フランツっ!!」
弾かれたようにオレを力いっぱい抱きしめ、大粒の涙を流し始めた。
そして、サファイアの涙がみるみるうちに結晶化し、とっても立派な宝石になっていった。
抱きしめられた衝撃と、涙が宝石になった驚きのあまり固まっていると、視界の端にオロオロしたロナルドと騎士たちを押し出して、赤い髪のメイドが怒りの形相でこちらに向かってきた。
「殿下を放せ、この不届きもの!」
あぁ、エルザ。何だかさっき分かれたばっかりなのに、めっちゃ久しぶりな気がするぜ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
653
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる