婚約破棄なんて絶対にしません!

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第8話

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「わたくし、あなたのことしらなくってよ。なぜ、わたくしのなまえをしってるの?」

 クマのぬいぐるみをギュッと抱き締めながら、天使のような可愛らしい顔を顰めながらクラリスは言った。

「それに、たとえわたくしがあなたをしらなくて、あなたがわたくしをしってたとしても、とつぜんよびすてするなんて、しつれいですわ」

 ほんの少し、舌ったらずな喋り方なのに、随分と大人びた事を言うもんだ。
 俺は思わず顔が緩んだ。
 可愛い。
 なにこの生き物めっちゃ可愛い。

「ちょっと、きいていますの!?」
「あぁ、ゴメン。ちゃんと聞いてるから」
 
小さなクラリスはプリプリ怒りながら、クマを更に抱き締める。
 
「あなたのおなまえはなんていうの?」
「え、俺の名前?」
「そうよ!あなたがわたくしのなまえをしってるのに、わたくしがあなたのなまえをしらないなんてずるいですわ!」
「えー、ずるいかな?」

 俺的には別にいつ名乗っても良いんだけど、名乗ったら彼女とこんな風に喋れなくなるような気がして、何となく言いづらかった。

「言わなきゃダメ?」

そう首を傾けた瞬間、突然顔にダラリと赤い何かが垂れてきた。
 オイオイなんだよ、と触ってみると。

「あ、血?」
「・・・・・・っっっ!!!」

 クラリスが俺の頭から流れてくる血を見て、声もなく足元から崩れた。
 いや流石に、貴族の小さな女の子には刺激が強すぎたらしい。
 しっかし、ビックリしすぎて気絶とか本当にするんだな。
 血は頭のてっぺん辺りから流れてるらしく、どうにも暫く止まらなさそうだ。
 そんなに痛くはないけど、気を失ったクラリスを何とかしなくちゃいけない。

「殿下!フランツ様!」

 その時、ちょうど良いタイミングでロナルドが俺の方へ駆け寄ってきた。
 
「あぁ、ロナルド!ごめん、ちょうどよか」
「って、あぁぁぁ!!!殿下、ち、血が・・・・・・・!!!」

 俺の血みどろの顔を見て、ロナルドは真っ青になっていた顔を更に青くさせた。
 そして、

「・・・・・・はぅ」

 まるで淑女のように気を失った。

「って、マジかよおい!!」

 だいの大人と小さな幼女。
 4歳児の俺には、運ぶにはちょっと試練すぎない?
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