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勇者、拾っちゃいました。
修羅場ってご経験はございますか?
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突然ですが、皆さんは修羅場ってご経験はございますでしょうか。
曲がりなりにも接客業に従事ていた私は、実は結構ある。
例えば、不審者が店舗に侵入して警察沙汰になったり、あるいはお客様同士のトラブルで怒鳴りあいになり最終的に警察沙汰になったり。あとあれだ、店長とバイトが不倫して奥さんが殴り込みにきて、やっぱり警察沙汰になったり、など。
あの時は店長もバイトの子も、なんて馬鹿な事をしたのだろうと傍観しておりましたが、いざ自分の身に起きると堪えるよね。いや、私は浮気もしていないし、トラブルを起こしたつもりはないのだけれど。
リノレイ達とキャッキャ言いながら森に帰り、入り口付近で泣きじゃくってバーサクモードのメリアローズと、初めましてのドラゴンに襲われ、一歩も動けなかった私を恐ろしい速度で庇ってくれたリノレイとマリーナに、突如現れたトム。しかも、めっちゃキレている。
順を追って思い出す怒涛のような展開だが、この恐ろしい出来事はほんの十分くらいの間に起ったことだ。
今更ながら、生きていることに吃驚である。怖いよね、うん、久しぶりに命の危険を感じました。
でも、何よりも怖いの、は現在進行形の一番の修羅場の真っただ中のこの状況だ。
さっきまでドラゴンがいた場所に、トムは微笑みながら立っていた。
特に手に何か持っているわけでもなく、嵩張りマックスのいつもの大人のトムだ。
それが怖い。リノレイの顔をちらっと向くと、顔が若干引きつっている。
「ふむ、あのバカ薔薇とモンスターにもお仕置きしようと思っていたのですが、本体が逃がしてしまいましたか」
「本体?」
「あぁ、先ほどの茨の蔓の根本のことですよ。どうやら、私がここに到着すると同時に、アレらだけ僅差で回収したようですね」
トムは残念そうに、肩を竦めて言った。
そういえば、トムと一緒に登場した凄い数の茨の蔓は、いつの間にか姿を消している。
何度も言うが、この森にあの恐ろしい数の茨を操る魔法の薔薇の本体がいるのが不思議で仕方ないし、メリアローズが挿し芽と言われると、ちょっと信じられなくていちいち衝撃だ。
「それで、マスター。私がマスターを心配して飛び出した結果、何故かグリンダ様に殴られてしまいまして、助けに行くのが遅くなり申し訳ございません」
「や、それは・・・・・・」
いつも以上に慇懃無礼な態度に、私はマリーナの羽から少しだけ顔を覗かせた。
トムはすまなそうに頭を下げているが、何故だろう、全然すまなそうに見えないぜ!
「それでですね、私はこの男のことに心底腹を立てておりますし、よく分かりませんが仲良くなって帰ってきたマスターのことも信じられませんし、ちょっと感情が爆発しそうなので、とりあえずそこの男殴っていいですか?」
「いや、いーわけないでしょ!」
心配させてのは悪いともうが、殴るなっての。
「お前、さっきまで言葉が通じなかったから分からなかったけど、結構、武闘派なんだな」
呆れた顔でリノレイがトムの顔を見る。一瞬、トムがリノレイの言語が通じるようになったのに気付いたようだけど、まるっと無視して拳をボキボキ鳴らし始めた。
せめて魔法の本なのだから、魔法使ってくれよ、と言おうと思ったけど、魔法のほうが被害が出そうなので黙って見守ることにした。
曲がりなりにも接客業に従事ていた私は、実は結構ある。
例えば、不審者が店舗に侵入して警察沙汰になったり、あるいはお客様同士のトラブルで怒鳴りあいになり最終的に警察沙汰になったり。あとあれだ、店長とバイトが不倫して奥さんが殴り込みにきて、やっぱり警察沙汰になったり、など。
あの時は店長もバイトの子も、なんて馬鹿な事をしたのだろうと傍観しておりましたが、いざ自分の身に起きると堪えるよね。いや、私は浮気もしていないし、トラブルを起こしたつもりはないのだけれど。
リノレイ達とキャッキャ言いながら森に帰り、入り口付近で泣きじゃくってバーサクモードのメリアローズと、初めましてのドラゴンに襲われ、一歩も動けなかった私を恐ろしい速度で庇ってくれたリノレイとマリーナに、突如現れたトム。しかも、めっちゃキレている。
順を追って思い出す怒涛のような展開だが、この恐ろしい出来事はほんの十分くらいの間に起ったことだ。
今更ながら、生きていることに吃驚である。怖いよね、うん、久しぶりに命の危険を感じました。
でも、何よりも怖いの、は現在進行形の一番の修羅場の真っただ中のこの状況だ。
さっきまでドラゴンがいた場所に、トムは微笑みながら立っていた。
特に手に何か持っているわけでもなく、嵩張りマックスのいつもの大人のトムだ。
それが怖い。リノレイの顔をちらっと向くと、顔が若干引きつっている。
「ふむ、あのバカ薔薇とモンスターにもお仕置きしようと思っていたのですが、本体が逃がしてしまいましたか」
「本体?」
「あぁ、先ほどの茨の蔓の根本のことですよ。どうやら、私がここに到着すると同時に、アレらだけ僅差で回収したようですね」
トムは残念そうに、肩を竦めて言った。
そういえば、トムと一緒に登場した凄い数の茨の蔓は、いつの間にか姿を消している。
何度も言うが、この森にあの恐ろしい数の茨を操る魔法の薔薇の本体がいるのが不思議で仕方ないし、メリアローズが挿し芽と言われると、ちょっと信じられなくていちいち衝撃だ。
「それで、マスター。私がマスターを心配して飛び出した結果、何故かグリンダ様に殴られてしまいまして、助けに行くのが遅くなり申し訳ございません」
「や、それは・・・・・・」
いつも以上に慇懃無礼な態度に、私はマリーナの羽から少しだけ顔を覗かせた。
トムはすまなそうに頭を下げているが、何故だろう、全然すまなそうに見えないぜ!
「それでですね、私はこの男のことに心底腹を立てておりますし、よく分かりませんが仲良くなって帰ってきたマスターのことも信じられませんし、ちょっと感情が爆発しそうなので、とりあえずそこの男殴っていいですか?」
「いや、いーわけないでしょ!」
心配させてのは悪いともうが、殴るなっての。
「お前、さっきまで言葉が通じなかったから分からなかったけど、結構、武闘派なんだな」
呆れた顔でリノレイがトムの顔を見る。一瞬、トムがリノレイの言語が通じるようになったのに気付いたようだけど、まるっと無視して拳をボキボキ鳴らし始めた。
せめて魔法の本なのだから、魔法使ってくれよ、と言おうと思ったけど、魔法のほうが被害が出そうなので黙って見守ることにした。
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