3 / 51
異世界、始めてみました。
ちょっとそこまで異世界へ
しおりを挟む
正直、意味が分からない。
そう思って思わず天を仰ぐと、そこには真っ白な天井と、白熱灯の明かりがある。
そして、耳を澄ませば遠くで聞こえる車の通る音。
喧騒こそ遠いものの、ここは確実に私が生きている現実で、ラノベなどでありがちな突然の召喚とか転生とか、そういったことが起きてる訳じゃない。
だからこそ、正直意味が分からない。
だって目の前で起きたことは、現実なのに、現実にはありえない事が起きているのだから!
「まずは、どういうことか説明させて?」
そうコノハさんが言うと、私は声を上げることも出来ずに黙って頷いた。言いたいことはたくさんあるけれど、全部聞いてからのほうがいい。
「私は、今見てもらった通り、この世界にはない力を使う事ができる、この世界の人間じゃないの」
彼女はまた手をフラフラと降る。そうすると、まるで茶器が踊り出すようにフルフルと震えた。
「私の住んでる世界、つまり貴女にとっての異世界。
端的に言うと、今その世界は移住者を募集してるの」
「移住者?」
私は思わず口を挟んでしまった。
それこそ、ありがちな展開としては危機に瀕した世界を救う勇者とか、聖女とか、そういうの募集するんじゃない?
そうでなく、移住者。
はて?と思ってしまってもしょうがない。
私の疑問は至極真っ当なのだろう。コノハさんは少しだけ困ったように眉を顰めた。
「私の世界はね、とても豊かで争いもない、いたって平和な世界なの。
でもね、そのせいかね、文明が全く発展しなくて」
世界として平和でも、それはそれでダメらしい。
「なので、異世界の知識、つまり異世界人を招待して、私たちの世界に変化をもたらそうとしているの」
「ちょっと、待って。それってつまり、私の知識一つで世界が平和から戦争になり得るリスクがあるんじゃないの?」
「それは、それ。そうならない方が良いけれど、変化がない方がもっと不味いのよ。緩やかな破滅に向かってるような物だから」
どうやら、中々ヘヴィーな状況らしい。
「もちろん、誰でも招待するわけじゃないの。そういったリスクを減らすために、こうやって私達が異世界に派遣されて、移住者を選定させて貰ってるの」
そう言って、コノハさんは私が先ほど選んだ薔薇の鉢をアイビーの机の上に置いた。
「これには勿論、魔法がかかっていね。選ばれた人にしか薔薇は見えないようになっているの」
美しい薔薇は、彼女に触れられてキラキラと光り輝いている。あまりに美しいその様子にウットリしてると、コノハさんはまた笑った。
「正直、こんなに早く見つかるなんて思わなかったから、本当にラッキーだったわ。
さぁ、さっそく準備をしましょう!」
「準備?」
「もちろん、私の世界に行く準備よ」
「いや、ちょっと待って!まだ私、行くなんて言ってない!!」
「え、行かないの?」
そんなキョトンとされても困る。
確かに、魔法やファンタジーの世界に憧れる気持ちはないわけじゃない。
でも、
「私のベランダの子供達を放っては行けないもの」
そう、このままもしその異世界とやらに行ったら、私のベランダで真夏の暑さにも負けずに咲いている植物達を放って置いて行くわけで。
いつも手間暇かけて手入れしていた、私の子供達を枯らすわけには行かない。
「それなら、安心して。私の世界とこちらの世界の時間の流れは違うから。
向こうで百年経ったとしても、こっちではせいぜい百分よ」
いや、それはそれで安心は出来ないけどね。
「ともかく、選ばれたからには行ってもらうわ。
大丈夫、決して悪くはしないから」
コノハさんは小さくウィンクして、私の手を取った。
繋がれた手の力は強く、それを解くのは無理そうだ。
どうやら、私に拒否権はないらしい。
諦めたように笑うと、やっと笑ったわね、と笑ってばかりの彼女は顔をクシャクシャにした。
そう思って思わず天を仰ぐと、そこには真っ白な天井と、白熱灯の明かりがある。
そして、耳を澄ませば遠くで聞こえる車の通る音。
喧騒こそ遠いものの、ここは確実に私が生きている現実で、ラノベなどでありがちな突然の召喚とか転生とか、そういったことが起きてる訳じゃない。
だからこそ、正直意味が分からない。
だって目の前で起きたことは、現実なのに、現実にはありえない事が起きているのだから!
「まずは、どういうことか説明させて?」
そうコノハさんが言うと、私は声を上げることも出来ずに黙って頷いた。言いたいことはたくさんあるけれど、全部聞いてからのほうがいい。
「私は、今見てもらった通り、この世界にはない力を使う事ができる、この世界の人間じゃないの」
彼女はまた手をフラフラと降る。そうすると、まるで茶器が踊り出すようにフルフルと震えた。
「私の住んでる世界、つまり貴女にとっての異世界。
端的に言うと、今その世界は移住者を募集してるの」
「移住者?」
私は思わず口を挟んでしまった。
それこそ、ありがちな展開としては危機に瀕した世界を救う勇者とか、聖女とか、そういうの募集するんじゃない?
そうでなく、移住者。
はて?と思ってしまってもしょうがない。
私の疑問は至極真っ当なのだろう。コノハさんは少しだけ困ったように眉を顰めた。
「私の世界はね、とても豊かで争いもない、いたって平和な世界なの。
でもね、そのせいかね、文明が全く発展しなくて」
世界として平和でも、それはそれでダメらしい。
「なので、異世界の知識、つまり異世界人を招待して、私たちの世界に変化をもたらそうとしているの」
「ちょっと、待って。それってつまり、私の知識一つで世界が平和から戦争になり得るリスクがあるんじゃないの?」
「それは、それ。そうならない方が良いけれど、変化がない方がもっと不味いのよ。緩やかな破滅に向かってるような物だから」
どうやら、中々ヘヴィーな状況らしい。
「もちろん、誰でも招待するわけじゃないの。そういったリスクを減らすために、こうやって私達が異世界に派遣されて、移住者を選定させて貰ってるの」
そう言って、コノハさんは私が先ほど選んだ薔薇の鉢をアイビーの机の上に置いた。
「これには勿論、魔法がかかっていね。選ばれた人にしか薔薇は見えないようになっているの」
美しい薔薇は、彼女に触れられてキラキラと光り輝いている。あまりに美しいその様子にウットリしてると、コノハさんはまた笑った。
「正直、こんなに早く見つかるなんて思わなかったから、本当にラッキーだったわ。
さぁ、さっそく準備をしましょう!」
「準備?」
「もちろん、私の世界に行く準備よ」
「いや、ちょっと待って!まだ私、行くなんて言ってない!!」
「え、行かないの?」
そんなキョトンとされても困る。
確かに、魔法やファンタジーの世界に憧れる気持ちはないわけじゃない。
でも、
「私のベランダの子供達を放っては行けないもの」
そう、このままもしその異世界とやらに行ったら、私のベランダで真夏の暑さにも負けずに咲いている植物達を放って置いて行くわけで。
いつも手間暇かけて手入れしていた、私の子供達を枯らすわけには行かない。
「それなら、安心して。私の世界とこちらの世界の時間の流れは違うから。
向こうで百年経ったとしても、こっちではせいぜい百分よ」
いや、それはそれで安心は出来ないけどね。
「ともかく、選ばれたからには行ってもらうわ。
大丈夫、決して悪くはしないから」
コノハさんは小さくウィンクして、私の手を取った。
繋がれた手の力は強く、それを解くのは無理そうだ。
どうやら、私に拒否権はないらしい。
諦めたように笑うと、やっと笑ったわね、と笑ってばかりの彼女は顔をクシャクシャにした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる