異世界・魔法薬の魔女

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異世界、始めてみました。

ちょっとそこまで異世界へ

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 正直、意味が分からない。
 そう思って思わず天を仰ぐと、そこには真っ白な天井と、白熱灯の明かりがある。
 そして、耳を澄ませば遠くで聞こえる車の通る音。
 喧騒こそ遠いものの、ここは確実に私が生きている現実で、ラノベなどでありがちな突然の召喚とか転生とか、そういったことが起きてる訳じゃない。
 だからこそ、正直意味が分からない。
 だって目の前で起きたことは、現実なのに、現実にはありえない事が起きているのだから!
「まずは、どういうことか説明させて?」
 そうコノハさんが言うと、私は声を上げることも出来ずに黙って頷いた。言いたいことはたくさんあるけれど、全部聞いてからのほうがいい。
「私は、今見てもらった通り、この世界にはない力を使う事ができる、この世界の人間じゃないの」
 彼女はまた手をフラフラと降る。そうすると、まるで茶器が踊り出すようにフルフルと震えた。
「私の住んでる世界、つまり貴女にとっての異世界。
 端的に言うと、今その世界は移住者を募集してるの」
 「移住者?」
 私は思わず口を挟んでしまった。
 それこそ、ありがちな展開としては危機に瀕した世界を救う勇者とか、聖女とか、そういうの募集するんじゃない?
 そうでなく、移住者。
 はて?と思ってしまってもしょうがない。
 私の疑問は至極真っ当なのだろう。コノハさんは少しだけ困ったように眉を顰めた。
「私の世界はね、とても豊かで争いもない、いたって平和な世界なの。
 でもね、そのせいかね、文明が全く発展しなくて」
 世界として平和でも、それはそれでダメらしい。
「なので、異世界の知識、つまり異世界人を招待して、私たちの世界に変化をもたらそうとしているの」
「ちょっと、待って。それってつまり、私の知識一つで世界が平和から戦争になり得るリスクがあるんじゃないの?」
 「それは、それ。そうならない方が良いけれど、変化がない方がもっと不味いのよ。緩やかな破滅に向かってるような物だから」
 どうやら、中々ヘヴィーな状況らしい。
「もちろん、誰でも招待するわけじゃないの。そういったリスクを減らすために、こうやって私達が異世界に派遣されて、移住者を選定させて貰ってるの」
 そう言って、コノハさんは私が先ほど選んだ薔薇の鉢をアイビーの机の上に置いた。
「これには勿論、魔法がかかっていね。選ばれた人にしか薔薇は見えないようになっているの」
 美しい薔薇は、彼女に触れられてキラキラと光り輝いている。あまりに美しいその様子にウットリしてると、コノハさんはまた笑った。
「正直、こんなに早く見つかるなんて思わなかったから、本当にラッキーだったわ。
 さぁ、さっそく準備をしましょう!」
「準備?」
「もちろん、私の世界に行く準備よ」
「いや、ちょっと待って!まだ私、行くなんて言ってない!!」
「え、行かないの?」
 そんなキョトンとされても困る。
 確かに、魔法やファンタジーの世界に憧れる気持ちはないわけじゃない。
 でも、
「私のベランダの子供達を放っては行けないもの」
 そう、このままもしその異世界とやらに行ったら、私のベランダで真夏の暑さにも負けずに咲いている植物達を放って置いて行くわけで。
 いつも手間暇かけて手入れしていた、私の子供達を枯らすわけには行かない。
「それなら、安心して。私の世界とこちらの世界の時間の流れは違うから。
 向こうで百年経ったとしても、こっちではせいぜい百分よ」
 いや、それはそれで安心は出来ないけどね。
「ともかく、選ばれたからには行ってもらうわ。
 大丈夫、決して悪くはしないから」
 コノハさんは小さくウィンクして、私の手を取った。
 繋がれた手の力は強く、それを解くのは無理そうだ。
 どうやら、私に拒否権はないらしい。
 諦めたように笑うと、やっと笑ったわね、と笑ってばかりの彼女は顔をクシャクシャにした。
 
 
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