異世界・魔法薬の魔女

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魔女の仕事、挑戦してみました。

最初からやり直し!

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「ワタシの本体は、百年に一度しか目覚めないの。普段は、本体から繋がってるイバラの蔓で森の中を支配してるのよ」
 可愛らしい、まるでお人形さんのような女の子が、恥じらうように微笑む。その姿は可愛らしいけど、内容は全然可愛くない。
「彼女が目覚める時、森の中に蔓延ったイバラから白銀のバラが咲くので、この森は銀の森と呼ばれています」
 まだカラフルなままのトムが、メリアローズの言葉を引き継ぐように言った。
 白銀のバラか・・・・・・。
 そんな素敵な現象があるなら、ぜひ見てみたい。
「次に目覚める時は何時なの?」
「五十九年と八日かしら?」
「結構先だねー」
 思っていたより随分先で驚いたけど、いつか見れると思えば楽しみだ。
 それまで、ここにいればの話だけど。
「因みにですが、森の主が目覚めると同時に、森の魔力が高まり魔物が活性化して、近くの街は血を見ると言われています。
  それ故に、銀の森が目覚める時は天災扱いですよ」
 そんなやっかいなのに取り憑かれて、困ったものだと、トムは肩を竦めた。
 綺麗な現象かと思いきや、そんな天災扱いとかマジですか。
 それだけ力の強い、しかも魔物を含めて森を支配している彼女に懐かれたら、さすがのトムも肩を竦めたくなるだろう。
 グリンダ様の時も、頭抱えてたしなー。
 けれど、そんなトムの気遣いなど忘れそうなくらい、メリアローズは可愛い。
「でもでも!とっても素敵なのよ!
 美しさで言えば、貴女に褒められた魔法のバラの方が美しいと思うけど」
 自らを褒めたことで恥じらう彼女に、私は思わず彼女をギュッと抱きしめてしまった。可愛いは正義なので、仕方ないのです。
  小さな手で抱き返してくれる所も本当に可愛いんだけど、嬉しいのか足の蔓が盛大にウニャウニャしてて、それはちょっと、うん。みなまで言わせるな。
 トムが一つ、大きな溜息をつく。
 どうやら、何かを諦めたようだ。
「で、どうするんですかマスター。
 彼女のせいで、せっかく作った魔法薬はゼロですよ」
「あ」
 あと、この惨状も。
 トムにだいぶ棘のある言われ方をして、私は漸く崩れた本棚や、ガラス片に囲まれていた状況を思い出した。
「まぁ、元はと言えば、私が魔力を暴走させたわけだから、全て彼女が悪いわけじゃないし、ねぇ?」
「ねぇ?じゃないですよ!
 材料も半分以上使った後ですし、掃除は誰がするんですか!?」
 どうせ私でしょうけど!と、トムが怒る。
 しかし、トムの怒りなど、この三日で大分慣れた。それに、私はつい先ほど魔力のコントロールに成功した。
 ふふん、トムの怒りなんて恐くないんだらかね。
 「ふふ、実はね!さっきメリアローズのおかげで魔力をコントロールすることに成功しました!!」
  そうして、トムが驚いてるのを横目で見つつ、私は意気揚々と胸元の白いバラを触った。
「整理、整頓、清掃、清潔!さぁ、お掃除開始!」
 身体を纏う魔力は御し易く、今までが何だったのかと思うくらい、まるで見えない手のように動いた。
 その見えない魔力が、まるで突風のように部屋の中に沸き起こり、隅から隅まで風が吹き荒れた。
「あ、あれー?」
「ちょっと、マスター!何してるんですか!?」
「いや、上手くいったと思ったんだけど・・・・・・」
 吹き飛ばされそうなメリアローズを抱えつつ、私は自分自身も巻き込まれないように、部屋の中で唯一無事だった大きな机の下に避難した。
 トムも慌てて潜り込んできて、大きめの机の下とはいえ、三人は流石に狭い。
「セラサクヤ、魔法は成功したわ」
「あぁ、うん、やっぱり?
 でも、ちょっと成功したと思えないよねーこれは」
 風は大きく吹き荒れて、イバラの蔓のせいであっちこっちに散らばった本やら何やらがガツンと打つかる音がする。
「マスター・・・・・・」
「くっ、同情するような目で見ないでトム!ちゃんと成功するから!ちょっと過程がおかしいだけだから!
 風だって、すぐ・・・・・・」
 そう言いかけた時、私達は思わず顔を見合わせた。
 風が止んでいた。何か打つかるような音もしない。
 恐る恐る、私とトムが机の下から顔を出すと、そこは驚くくらい整理整頓されて、清潔感溢れる空間に変わっていた。
 あんなに物が散らばっていたのに、在るべきところに戻され、尚且つ埃一つ落ちてない。
 この三日間の作業で、汚れてはいなかったものの少し雑然としていたのに、今では新品のようだ。
「ほらね!」
 私は今度こそ、胸を張ってドヤ顔をした。
 鍋の時とは違う誇らしい気持ちに、自然と顔が緩む。
 メリアローズも嬉しそうに、キレーイ!と、わたしの腕の中で喜んでくれた。
 さぁ、トム!私を褒めなさい!!
 そんな気持ちでトムを見ると、肩をプルプルさせながら、据わった目で私を見た。
 あれ、なんで?
「ど、どこの世界に、一度物を吹っ飛ばして掃除する人がいるんですか!!!!」
 ・・・・・・やっぱり、怒られました。
「解せん」
「なら、分かるまで暫くお説教です!」
 せっかく成功したのに、暫く私は生活魔法禁止令が出ました。
 ちぇ!!
  
 

 
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