異世界・魔法薬の魔女

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魔女の仕事、挑戦してみました。

生活するのはどこでも大変

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 トムに日が暮れるまで説教されて、這い出るように地下から出た時には、私はクタクタだった。
 あんなに爽やかだった空の色が、穏やかな夕焼けに変わってることに、なんだかショック。
 メリアローズも一緒に座ってトムのお説教を聞いてたけど、途中で飽きたのか寝てしまった。そのメリアローズを抱えたトムは、未だにカラフルなままだ。
「で、これからどうしますか?」
「これからって?」
「生活資金ですよ」
「あー・・・・・・」
 と言っても、直ぐに路銀が尽きるわけでもない。
 私としては、ゆっくりここで基盤を固めてから、堅実に商売していけば良いと思ってるんだけど、心配症のトムはそうじゃないらしい。
 とはいえ、お金がなくて困るのはトムじゃなく私なので、確かに考えなくてはいけない。
 薬草も手持ちはあまりないし、手持ちがなければ魔法薬は作れない。魔力を込めるだけのやつなら作れるし、高価らしいので金策の見込みはあるけど、絶賛、魔法薬専用の瓶は未だに行方不明のままだ。
 あと、私に出来ることといえば、私の世界から持ち込んだ植物を種化していっきに増殖させ、珍しい花売り、或いはハーブ売りとして歩き回る他ない。
 因みに、私はこの案を推しているけど、魔女っぽくなくてトム的には不満らしい。ハーブとか、魔女っぽいと思うんだけどなぁ。
 それにである。
「だいたい、職業内容が魔法薬を作るか、冒険するかの二択なのがおかしいのよね」
「魔女とは、そういうものなんですよ」
 この世界の魔女、魔法使いとして職業に成り立つ人は、魔法薬など製作するのはごく一部で、大抵が冒険家らしい。
 どこまでも緩やかで、保守的なこの世界には珍しく、魔法使い達は好奇心が旺盛なようだ。
 その為、意外と魔法薬作りのインドア派は少なく、大多数が冒険家になり、未知のアイテムや秘境を目指すんだとか。
 魔法薬に関しては、一般人でも作れる物も多いうえに、いざ本格的に作るとなると技術や材料費、拠点などが必要となるのでコスパが悪いらしく、需要は多いが儲けの少ない魔法薬は、あまり人気ではないようだ。
 私は別に、魔女になりたいワケじゃない。というか、私の職業選択が魔女一択というのもどうなのか?
 そう言いたいものの、息巻いてるトムには言い辛い。
 とはいえ、冒険家などまず無理だ。
 生き物だって殺せない私が、未知のダンジョンで襲いかかる魔物相手に攻撃出来るわけない。
 まぁ、それでも元手がなければ、魔法薬も作れまい。そういった理由で、冒険家になる魔法使いたちもいるそうだ。
「銀の森には、豊富な薬草が生えてるそうですし、後で魔法のバラに連れてってもらえばよろしいのでは?」
「そうねーとりあえず、明日辺りに相談してみようかしら」
 トムの腕の中のメリアローズは、安心したように微笑みながら眠っている。
 反対に、トムはまだメリアローズが気に入らないのか顰めっ面だ。
 それでも抱き上げる腕は優しげで、思わず私もニヤニヤする。
「ねぇ、トム。あなた、本の姿より人間の姿でいる方がいいんじゃない?」
「そうですか?」
「えぇ、カッコいいし」
 前の金髪の少年姿も素敵だったけど、今の日本人スタイルも中々イケメンだ。
 何より、ホームシックになるのは早いと分かってるけど、やっぱりどこか懐かしい。
「美醜の感覚は、マスターの記憶の物ですから、あまり私には分かりませんが、私の初期設定は本ですから」
「一番最初に決めたやつ?」
 トムに会った時、そういえばスマホとかになってたっけ?
「人間の姿は便利ですが、私に言わせれば所謂、外向きの姿ですので、やっぱり本の姿の方が落ち着きます」
「そういうものなの?」
「まぁ」
 何時もより、歯切れの悪い回答に首を傾げると、トムは困ったように笑った。
「それに、人間の姿は嵩張るでしょう?」
「・・・・・・それはまた随分とファビュラスな返答ね」
  思わず、そんなことないよ!とは言えず、プレシャスな思考のトムを胡乱な目で見てしまった。
 
 
  いつにもまして短めで、すいません・・・・・・
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