23 / 39
第六章 悪夢はきえない
3
しおりを挟む
私、知らずにひどいことを言ったのかもしれない。
本当はうちだって――まともな父親なんて、いないようなものなのに。
「美玖は、片親だと友だちになれないって言いたいの? 私のこともずっとそんな風に思ってたの?」
「待ってよ、遥花の家は違うじゃん。それに、そんなことじゃなくて……わたしが言いたいのは、その……」
「落ち着きなさいってば、遥花。美玖が言いたいのはね、父親がいないっていうこと自体じゃなくて、どうしてそんな話がクラス中に回ってるかってことなんだから」
「なんでって……そんなの、誰かが広めたからでしょ!」
「そうよ。家庭の事情も家族の話も、ぶちまけて広めるような下衆な人たちとは関わらない方がいいって言ってるの」
鞠絵の容赦ない言葉に、背筋がひやりとした。
坂詰さんたちと――梨菜と一緒に切り捨てられる不安が、胸の奥にぽつんと灯っている。
「あのね、遥花。本当はここまで言うつもりなかったのだけど……私たちが朝、教室に入ったときには、もっとひどいことになっていたのよ」
「えっ」
「ま、鞠絵……! それは言わないことにしようって言ったじゃん!」
「だって、この子、言わなきゃ自分がどんな状況なのか分からないわよ」
「でも……」
眉をひそめる鞠絵の横で、あわあわと手を振る美玖。
二人に交互に視線を送ると、意を決した顔で美玖が口を開いた。
「じゃあ、わたしから聞くよ。ねえ、土曜日、遥花は誰かと『デート』したって本当?」
「デート!? そんなのじゃないよ。土曜日は、私と梨菜と三人で……」
「私たちにまで言い訳しなくていいわ。遥花がそんなつもりじゃなかったことは分かってる。だけどね、相手が誰かを書かれてなかっただけで、あなたたちがいつ、どこで待ち合わせて、どこへ行ったのかまでが黒板に書かれていたのよ」
「そんな」
「お昼に待ち合わせて、映画に行って、それから喫茶店……で、間違いないのよね」
「やだ、気持ち悪い……」
坂詰さんたちのやり方に対する怒りと、そこまでやるんだという薄気味の悪さが一緒になって、何を言えばいいか分からない。
だって、梨菜や楠原くんが自分で言ったのじゃなければ、誰かが私たちの後をつけてたってことだ。
あんなに晴れた気持ちのいい土曜日に、こんな嫌がらせをするためだけに。
「あのね、それとか、新関さんのおうちの事情とかも全部ね、黒板に書いてあったんだよ。遥花が来る前に、わたしと鞠絵で消したけどさ」
「みんな、あなたたちの机よりもそっちを見て驚いていたの。いやらしいやり方だけど……これ以上関わるなら、次はあなたのこともぜんぶ書かれるでしょうね。『デート』のお相手まで、こまごまと」
「そんなのって……!」
何か反論したかったけれど、だからってどうすればいいか分からない。
鞠絵は、ほとんど食べていないおうどんを放って、はしを置いた。
「もう、あの子に関わるのはやめた方がいいわ。今なら坂詰さんたちも、あなたのことは見逃してくれるかも」
鞠絵の言葉に、首を振るだけの勇気は、もうなかった。
本当はうちだって――まともな父親なんて、いないようなものなのに。
「美玖は、片親だと友だちになれないって言いたいの? 私のこともずっとそんな風に思ってたの?」
「待ってよ、遥花の家は違うじゃん。それに、そんなことじゃなくて……わたしが言いたいのは、その……」
「落ち着きなさいってば、遥花。美玖が言いたいのはね、父親がいないっていうこと自体じゃなくて、どうしてそんな話がクラス中に回ってるかってことなんだから」
「なんでって……そんなの、誰かが広めたからでしょ!」
「そうよ。家庭の事情も家族の話も、ぶちまけて広めるような下衆な人たちとは関わらない方がいいって言ってるの」
鞠絵の容赦ない言葉に、背筋がひやりとした。
坂詰さんたちと――梨菜と一緒に切り捨てられる不安が、胸の奥にぽつんと灯っている。
「あのね、遥花。本当はここまで言うつもりなかったのだけど……私たちが朝、教室に入ったときには、もっとひどいことになっていたのよ」
「えっ」
「ま、鞠絵……! それは言わないことにしようって言ったじゃん!」
「だって、この子、言わなきゃ自分がどんな状況なのか分からないわよ」
「でも……」
眉をひそめる鞠絵の横で、あわあわと手を振る美玖。
二人に交互に視線を送ると、意を決した顔で美玖が口を開いた。
「じゃあ、わたしから聞くよ。ねえ、土曜日、遥花は誰かと『デート』したって本当?」
「デート!? そんなのじゃないよ。土曜日は、私と梨菜と三人で……」
「私たちにまで言い訳しなくていいわ。遥花がそんなつもりじゃなかったことは分かってる。だけどね、相手が誰かを書かれてなかっただけで、あなたたちがいつ、どこで待ち合わせて、どこへ行ったのかまでが黒板に書かれていたのよ」
「そんな」
「お昼に待ち合わせて、映画に行って、それから喫茶店……で、間違いないのよね」
「やだ、気持ち悪い……」
坂詰さんたちのやり方に対する怒りと、そこまでやるんだという薄気味の悪さが一緒になって、何を言えばいいか分からない。
だって、梨菜や楠原くんが自分で言ったのじゃなければ、誰かが私たちの後をつけてたってことだ。
あんなに晴れた気持ちのいい土曜日に、こんな嫌がらせをするためだけに。
「あのね、それとか、新関さんのおうちの事情とかも全部ね、黒板に書いてあったんだよ。遥花が来る前に、わたしと鞠絵で消したけどさ」
「みんな、あなたたちの机よりもそっちを見て驚いていたの。いやらしいやり方だけど……これ以上関わるなら、次はあなたのこともぜんぶ書かれるでしょうね。『デート』のお相手まで、こまごまと」
「そんなのって……!」
何か反論したかったけれど、だからってどうすればいいか分からない。
鞠絵は、ほとんど食べていないおうどんを放って、はしを置いた。
「もう、あの子に関わるのはやめた方がいいわ。今なら坂詰さんたちも、あなたのことは見逃してくれるかも」
鞠絵の言葉に、首を振るだけの勇気は、もうなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる