【大師匠は大嘘つき】〜俺はデタラメの剣術を教えたはずなのに、今や妹は剣聖と呼ばれています〜

鳥羽フシミ

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修行編

第25話 剣聖への道 〜真剣〜 その6

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土砂降りの雨の中。慌てて家に戻ってきた俺を、妹がふくれっ面で出迎えてくれた。

「悪かったよ。でもさ、これでも早く帰って来たつもりなんだ」

「もう。今日は午後から大雨が降るって言ってたのに~」

拗ねたような顔も、兄バカな俺にとってはただただ可愛いだけだ。しかし当の妹はといえば、突然の雷と豪雨にかなり俺のことを心配していた様子だった。

俺は、濡れてしまった上着を暖炉の前の椅子にかけ、横から乾いた布を手渡してくる妹の頭をポンポンと撫でてやった。

「ありがとうなレイラ。おかげで助かったよ」

これはもちろん本心からのお礼の言葉だ。現に、もう少し帰るのが遅れていたら、雨で沢の水が増水して今日は家に戻れなかったかも知れないのだ。

頭を撫でられた妹はというと、そこはまだまだ子供である。さっきまでの拗ねた顔はどこへやら。とびきり嬉しそうな笑顔を俺に見せて「最近の私の天気予報は当たるのよ」と、さも得意げだった。

しかし、どうして妹は今日が降ると分かったのだろうか。今朝はアマルカの霊峰が山の稜線の先にくっきりと見えていたはずなのだ……。


強風で扉がガタガタと音を立てている。いつの間にか雷の音は遠くなったが、それでもまだ時々思い出したかのように稲光が窓の外を白く照らしている。
 
俺は、濡れた上着を乾かす為に暖炉の火を今年初めて入れた。

薄暗い室内に優しく暖かな明かりが灯る。

妹は冷えた俺の身体を気づかって、暖炉で温めたミルクをマグカップに移して俺に差し出した。

「ありがとう……」

そうとだけ言って、俺はミルクを受け取る。

夕食にはまだ早い。雨で思わずポカンと空いてしまった時間は、外の嵐とは正反対に、ただただ穏やかに過ぎていった。

いつの間にか俺の隣に座っていた妹が、俺の真似をしてミルクを片手に暖炉の火を眺めていた。

そう言えば、こんなふうに妹とゆっくり過ごす時間は何時ぶりだろうか……。

確かにこのところ、俺は次々に入ってくる仕事の依頼であまり妹の面倒を見てやれていなかった。多分、妹が修行に飽きてしまったのも、俺が彼女にあまり構ってやれなくなったのが原因だと思う。

噂では、このところ北方の国境地帯で小さな戦争が起こっているらしい。薬草採取の依頼が忙しくなったのも多分そのせいだろう。

そのため。俺達兄妹の生活は今までよりも幾分楽になってきている。

だけど、俺は心配なんだ。

――もし、その小さな火種が大きな大戦へと繋がったとしたら……。



隣りに座る妹の顔が、暖炉の火に照らされて赤く火照っている。

「なに?」

俺の視線に気がついた妹が、そう言って微笑んだ。

「何でもないよ」

俺は、この時。妹の笑顔につられてそう言ったけど……。

もちろん本心はそうではなかった。

妹の、まだまだあどけなく純粋な笑顔が俺をなお一層不安にさせた。

――もし、これから数年先。その小さな火種が大きな大戦へと繋がったとしたら……。もしその時、妹が剣をその手に携えていたら……。


この時。俺は、何も知らない無垢な妹に、剣術という遊びを与えてしまった事を……。

ようやく後悔した。




だから、この時俺は。思わず妹に向かってポロッとこう言ってしまったんだ。

「もうこんな剣術ごっこなんか止めてしまおう」って。
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