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第一部 剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました。

第23話 カイル 明日のために…… その10

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 理屈は簡単だよ。

 あらかじめ岩に小さな穴を開けて(それが結構苦労するんだけど……)「たぶん明日は冷えるなぁ~」なんて日の夜に、開けた穴に水を差し込んでおくだけだ。

 次の日の朝には凍った水がその体積を増やして……

 パッカーン

 って岩を割っちゃうわけ。

 水って凍ると1割も体積増えるからね。当然岩だってくさびを打ち込まれたように割れる。


 でも……ここ重要だよ。今の妹はあくまで岩を剣で切ろうと思ってるからね。でもそれじゃ無理なんだ。

 それこそ剣の先から『真空波』なんかを発射しなきゃあんな岩切れる訳がない。

「岩はさ。割るものなんだよ……」

 ん?じゃあ俺みたいに、水が凍るのを利用して割るのかって?

 いやいや。それは俺のやり方だよ。

 それに、そんな割り方じゃ妹に剣を持たせた意味が無いじゃないか。これは剣の修行だよ。剣を使わなきゃ意味無いだろ?



 だからね。岩の割り方ってやつ。それをこれからひたすら考えるんだよ。妹がさ。

 たたいて、突き刺して、触って、撫でて、匂いをかいで、音を聞いて。

 目の前にある岩と言うものを必死で分析するんだ。そして考えて考え抜いた末に、おそらく妹は成し遂げるだろう。『信念を持った者には必ず結果がついてくる』それがこの世界の法則だ。


 そして、その時に妹が身につけた物はなんだ?

 巨岩の割り方か?

 違うな。

 この第三層で得られる力は、人間として可能な全ての感覚を駆使して対象を観察する力。そしてその中から確実に相手の弱点を見つけ出す能力。

 それが『絶対分析』

 妹なら。絶対に会得してくれるはず。なんて思ってたんだけど……。





 でも………。それが今回はちょっとおかしいんだ。


 妹が第三層の修行に入ってから、なんの成果も得られないまま、もうすぐ二年が過ぎてしまいそうなんだよ。

 最近は、岩のところにもあんまり行って無いみたいだし。意味もなく俺の薬草採取や、街まで薬草を卸に行く俺に付いて来たりしてさ。

 これ。絶対に飽きてるよね。


 それから、時々空をぼ~っと眺めてみたり、かと思えば橋の上で川に1日中釣り糸を垂らしてみたり……。なんだか上の空なんだ。

 そう言えば、先週なんか冬支度の薪割りを全部やってくれた。


 今までは、兄の俺が心配するぐらいずっと修行に打ち込んでたからさ……

 え?これは、もしかして恋の病?俺の知らないところで好きな男の子でも出来ちゃったのか?

 なんて疑ったりもしたよ。妹だってもうすぐ十二歳。

 年頃だもんな………


 それともさ。

 もう、やっぱり無理すぎて、妹は、本当にヤル気がなくなっちゃったんだろうか……。




 でも俺は最近「それでもいいか」と思い始めている。もともと気の優しい妹に本当は剣なんて似合わないよ。

 今日は、付いて来なかったけど、妹が大きくなるまで一緒に山で薬草を採取して、街に出てそれを売って……。そんな日々でも俺は一向に構わないんだ。

 あの時、俺があんな嘘さえつかなければ、今頃は多分そんな生活をしていたんだから……。



 遠くに見渡す山々は既に雪化粧を始めていた。
 
 それにしても今日は暖かい。冬はもうすぐ目の前だと言うのに、こういう日を小春日和と言うのだろうか。

「どうせ修行もサボってるんだからレイラも連れてくればよかったな」

 そんな事を考えながら、俺は日当たりの良い丘の上で、妹が用意してくれた弁当のバンを頬張る。

「梨のジャムか……」

 梨の甘い香りが口の中いっぱいに広がった。

 そして、俺が2つめのパンに手を伸ばした時。パンが入っていた袋の中なら小さなメモ書きがはらりと落ちた。

『お弁当を食べたら今日はすぐに帰ってきてください』そんなことが書かれている。

 そう言えば、今朝妹が午後から雨が降ると言ってた。でもまさか、こんな天気の良い日に雨は無いだろうけど……。

「妹の頼みだ。今日は早く帰ってやるか」
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