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第一部 剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました。

第31話 レイラ 負を求めし剣聖 その13

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 今年の武術大会の予選は、計五日間をかけて執り行われる事になっていた。試合はトーナメント方式が採用されて、合計三百人を超える参加者をこの5日間の間に8人にまでに絞り込むのである。

 そんな予選も、もう4日目にもなれば、有象無象だった参加者達の中にも、徐々にその頭角を表す者が出てくる様になってくる。本戦までにあと二、三試合となれば、相手次第では今まで隠していた実力を全力で見せなければ勝てない試合が増えて来るのだ。

 もちろんその中には、白騎士団の急先鋒アイシアや、先日その実力を見せつけたエデンと言う少年の姿もある。しかし彼らはまだまだその実力の全てを出し切ってはいない。



 言わば大会のシンボルとも言えるレイラは、初日からこの予選会場には時々顔を出していた。もちろん大会の発起人と言う立場もあるが、それだけでは無い。

 先のエデンと言う少年もそうだが、レイラにとって今年はどうしても気になる人物がもう一人いるのだ。



 さて。この大会の予選は三日目よりコロシアムにて観客の入場が許されている。
 お気に入りの剣士の勝敗を見守る者。また予選の勝敗にまで金を掛ける者。そして仲間の勝利を祈る者。観客の反応は様々だが、今日もその歓声はコロシアムの外にまで大きく響いていた。

 そんな中。今日もコロシアムのゲートをくぐったレイラの耳に聞こえて来るのは、なんとも小気味よく乾いた音を響かせるエデンと言う少年が繰り出す棒術の音。
 想定以上に詰めかけた観客のため、試合が執り行われている舞台まではまだ見渡すことが出来ない。しかしレイラにはそれが直ぐにわかった。
 おそらく木製の武器を使っているからだろうが、コンコンと巧みに刃との衝突を避けリズミカルに剣の側面を狙う技術は、まさに逸品である。

 もし本当に彼が九剣術第二層の『超運動制御能力』と同等の技術を修得しているなら、その棒さばきは正確無比に違いない。いくら得意の槍を手にしたアイシアであっても、勝率は五分よりも劣るだろう。

 ただ、もしアイシアに勝機があるとすれば、それは少年の武器が木製であることか、それともアイシアの得意とする力任せの攻め。

 いずれにせよ。勝負に絶対は無い。勝敗は蓋を開けてみなければ分からないのである。



 そしてもう一人。

 おそらくこのまま順当に勝ちを進めて行けば、本戦にてアイシアと当る事になる、全身に黒い装束を纏った女。

 すらりとした長身に、褐色の肌。そして艷やか伸びた真っ白な髪。その驚くほど長く真っ直ぐな髪の間から見えるのは、不自然に先の尖った耳。

 そして、驚くほど整っった顔立ち。

 美しい。しかしその姿はまさに異様と言う言葉が相応しい。



「なぜ、あの女が……」

 レイラは一人、訝しげに呟いた。

 忘れる事など出来るはずが無い。レイラはこの人物を良く知っている。
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