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第一部 剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました。

第33話 レイラ 負を求めし剣聖 その15

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 三日後……

 大きな音を立てて数十発と上空に打ち上げられた花火。そして開会のファンファーレも華々しく幕を開けた武術大会は、主催の国王と、発起人レイラの宣誓から始まった。

 コロシアムは大きな歓声に包まれる。

 中央の舞台には、今大会の八人の本戦進出者達が顔を揃え、名を呼ばれた者から順番に国王に一人ずつ頭を下げてゆく。

 白騎士団でたった一人本戦に駒を進めたアイシアは、騎士らしく堂々と。そして謎多き大道芸人の少年エデンは慣れない様子でぎこちなく。

 二人共、予選では危なげのない勝利を重ねてきている。

 その他にも本戦に進んだのは、やはり予選から頭一つ抜けていた腕の確かな猛者もさばかり。軍隊出身の者もいれば、今年から大会に顔を見せるようになった冒険者の姿もある。

 しかし。その中でも、観衆から一際|《ひときわ》大きな歓声が沸き起こったのが、黒き異相の女ドーマ=エルドラドであった。予選からその身体能力を活かした派手な闘い方で対戦相手を圧倒してきた彼女は、その美しくも特殊な見た目もあって、今大会では既に一番の人気を博していた。

 そして……

 国王への礼を終えた出場者が、一人、一人と舞台から立ち去って行く中で、その舞台に残る二人の女性の姿。

 アイシア=グラン

 ドーマ=エルドラド

 本戦の第一試合は大会が始まって以来初の女性同士の対戦となった。


 沸き起こる歓声の中で、互いに武器を構える両者。

 真っ白い隊服の上に簡易な防具を身に付けているアイシアに対して、ドーマは予選と変わらない真っ黒なローブ姿。その下に金属製の防具などを着込んでいる様子は見当たらない。

 自らの背丈よりも長い柄にシンプルな一文字の槍の穂先が、真っ直ぐにドーマの胸を狙い、かたや懐から取り出された二振りの曲刀はアイシアの握る槍の穂先を牽制しながらジリジリとその距離を詰める。



「始め!」

 緊張に包まれた会場に立会人の声が響き渡った。


 次の瞬間。間髪を入れずにアイシアの突き出した槍が迷う事なくドーマの胸元を狙う。

 予選では、この開始直後の突きで何人もの相手を瞬殺してきたアイシアの得意技である。相手はわかっていても避けることすら敵わない一撃必殺の技であった。

 しかし、その速攻の突きはもちろんドーマには読まれている。

「まったく、私をそこら辺の雑魚と同じに見てもらっては困る」

 槍が届く直前に頭上へと飛び上がったドーマは、そういうと、そのままアイシアの背後へと着地した。そして着地と同時に、その人間離れしたスピードを活かして、まだ振り向ききっていないアイシアの懐へと飛び込んで行く。

 取り回しの悪い長物は、もちろん近距離の攻撃に弱い。身体は反応出来たとしても槍先が追いつくまでには時間かかるのだ。

 ドーマはもちろんそんな展開を望んでいる。

「なんだ……あんたちょろいね」

 ドーマは予想通りの呆気ない結末に口元に嘲笑う様な笑みを浮かべた。

 だが……


 ドーマがアイシアに向かって右手の曲刀を振り上げた瞬間。全身が泡立つほどの恐怖がドーマの身体を突き抜けた。

「まずい!あいつ。こっちを向いていない」

 予想では、既にこらちに振り返っているはずのアイシアの身体が何故か最初の突きの態勢から変わっていない。それどころか今もドーマに背を向けたままなのだ。

 ドーマにも、いったい何がまずいのかは分からない。しかし彼女の勘が全身に止まれと指示を出した。

 次の瞬間。突然アイシアの槍が再びドーマの目前に迫る。

 しかし、その尖端に穂先は見えない。

 ――やられた……。

 そうドーマが思った時には、その左肩に激痛が走っていた。

「あなた。ぴょんぴょん跳ねるけど動きが単調なのよね。槍の背中はまた槍なのに……」

 ドーマにとっては憎たらしい言葉であった。

 打たれた肩を押さえ、慌てて後ろへと飛び下がったドーマ。

 そしてようやく振り返ったアイシアのその手には穂先を下にした槍が握られていた。
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