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第一部 剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました。

第72話 吸魔大法 その2

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 かくして……。

 救国の英雄レイラ=バレンティンの兄であり、そして彼女の剣技の師匠でもあったカイル=バレンティンは、その全てを妹に託して『吸魔大法』を発動した。

 体内の気脈を作り変えるのに要する時間はおよそ3分。

 その間にレイラはもう一度邪神の首を落としている。

 もしや、このまま大法を発動しなくとも邪神を仕留める事ができるのではないか――。そう錯覚させそうなレイラの動きには鬼気迫るものがあった。

 だが、レイラの額から流れ落ちる汗と、肩を大きく上下さて呼吸をする姿からは、先ほどまでの余裕は見られない。

 彼女は今、『吸魔大法』のために全くの無防備となったカイルに邪神を一歩も近付けまいと、その全力をもって必死に戦っているのだ。

 そして、ククルカンと共に邪神の力を抑え込んでいるエイドリアンとショーンもまた、その魔力をもう一段上げて邪神に一人で向き合うレイラを援護する。

 皆が出せる力の全てを出して、その3分を作り出そうと必死に戦っている。

 そう。

 今、この場所にいる全ての人間がカイルの『吸魔大法』に全てをかけているのだ。


 そして――

 カイルの右手に『吸魔穴きゅうまけつ』が開いたその瞬間。邪神の身体がぐらりと揺れてドシンと言う衝撃音と共にその膝を折る格好となった。

「今だ師匠。一気に邪神の背中に飛び乗れ!」

 そう声をかけたのは、舞台の端で身体を休めていたはずのエデンであった。彼もまた、その動かない身体に鞭をうってカイルから託された使命を果たしたのである。

 身体を吹き飛ばす威力はなくとも、邪神のバランスを崩すことぐらいなら出来る。自らの力を良く知るエデンはカイルが吸魔大法を完成させるこのタイミングを待っていた。

 吸魔大法を使用するには、使用者が相手の身体に触れていることが絶対条件である。ならばカイルは邪神の背中に飛び乗るしかない。

 それを知っていたエデンは絶好のタイミングで邪神の膝へと二発の指弾を打ち込んだのだ。



 そして……。

 邪神の背中に飛び乗ったカイルは、その手のひらから怒涛の様に流れ込む邪神の魔力をだひたすらに丹田へと送り込んだ。

 辺りには魔力を吸収され続ける邪神の絶叫が響き渡り、その黒き獅子は形を失って、みるみるうちにぼやけた姿へと変わって行った。魔神は必死に実体の再生を試みているようだが、カイルに吸収される魔力にそれが追いつかないのだ。

「いた!」

 大きな声でレイラが叫ぶ。

 ぼやけた魔力の塊の中に、気を失ったドーマの姿を発見したのだ。

 すかさずレイラは邪神の身体に先ほど兄から教わった例の一撃を入れた。

 ドーマの姿さえ見つかれば、後は邪神のどこ切り落とそうが問題はない。

 そして、それと同時にもう一度レイラが叫ぶ。

「お兄ちゃん。もう良いよドーマさんが見つかった。早くそいつからはなれて!」



 しかし……

 兄からの返事は無かった。

 ドーマを見つける為に、邪神ばかりを注視していたレイラは気がつくことが出来なかったのだ。

 今、邪神の背中に取り付いたままのカイルは、許容量を越えた魔力を吸収して、すでにその身体の限界を超えていたのである。

 許容量を越えた魔力の吸収は死を意味する。それをこの時のレイラはまだ知らなかった。
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