深淵のエレナ

水澄りりか

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第一章

第十一話 射られた矢の謎

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エレナはこの状況を把握しようとアシュベルに詰め寄る。

「何故わたし達を狙って来るのですか!?」

これは当然の疑問だろう。

「ヒメちゃん、あなたがこの国の第一継王位承者だからですよ。」

「え・・」

気配を気取られないように静かに答えるアシュベル。

「わたしは王位などに関るつもりはないのに・・」

彼女の心が沈んでいくのが分かった。
そうだ、この人は望めばその手に第一王女としての地位を要求できる立場にある。

しかし人の中には己の利益しかかんがみる事しかできない輩もいる。
上層部の命ならばその第一王女を暗殺することを厭わない連中は多いだろう。
大体第一王女を狙うという、神をも恐れぬ行為を実行するなど正気の沙汰ではない。
・・・それができるという事は、王女を殺して利益を得ることができる連中がいるという事。

第一王女は世間的には死んだと見されているはず。
あの事件をきっかけに。

死んだはずの王女をこうも早く見つけて暗殺者を送り込んでくる・・組織か。
まるで待ち構えていたようだな。
やはり少々厄介だな・・アシュベルが思案している中。

アシュベルの脳裏にどうしてもあの人物が浮かび上がってしまう。
幼い頃に起きたあの事件、それを聞いた時少年アシュベルの心に拭いきれない疑問が残っていた。
俺の推察が間違ってなければ、暗殺者をよこしたのは――あの人。


「とりあえず安全な場所へ移動しましょう。そこで俺の考えをお聞かせしましょう。」



彼の少し取り乱した表情を見て、エレナは少し驚いた。
盗賊団との戦いのときは軽く笑顔を浮かべていたのに、今は殺気すら感じる。



ここはエレナの部屋。
訓練場の警備兵を総動員して周りを見張らせてある、部屋の前にも2名警備兵は配置しておいた。
あの様子なら敵もそう多くない筈だ。

アシュベルは紅茶を入れてエレナに差し出した。

「・・ありがとう、ございます」

それを受け取ると、そっと口へ持っていく。
少しは落ち着いたか・・アシュベルは安堵してベッドに腰掛ける。
――――近い!!
肩が触れ合いそうな近さだ、その時初めて彼の顔をまじまじと見た。紅蓮の頬を宿した瞳、今までも目を合わせていたはずなのに今更だが気づいた、その全てを燃やし尽くすような圧倒的な印象は見ているこちら側にも熱が伝わってくる。
頬が熱い、指先が熱い、唇が熱い―――彼の瞳からまるで流れてくるようだ。



「あ、あーの・・・・!」



少し赤らめた顔でエレナが小声で言う。

「おっ、女の子の部屋のベッドに座るって不謹慎じゃないですか!」

そう言い放ったがすぐに後悔してしまう、今のは完全にわたしの言い訳だ、自分の中の変化(エレナ自身は気づいていない、ただし違和感として薄っすら認識している程度)に対して制御をかける意味で口走ってしまった。

「座る所ないからいいんですけど、一言あっても、いい・・・のでは?」

「申し訳ありません・・・」

すぐさまアシュベルは立ち上がろうとする、だがそれを制したのは他ではないエレナだった。
アシュベルの裾をつまみ、俯いたまま黙っている。

「今の言い方はわたしが悪かった、そのまま、そのままそばにいて欲しいです」

珍しくしおらしい少女を前にして、アシュベルは戸惑うと同時に心配になってしまう。彼女は我が道を行く人だ、どんな状況においても果敢に攻めるというのが彼女の性質。『引く』という行動は彼女の性質に反しているはずなのだ。
さすがに命を狙われたのだ、無謀なヒメ君だといえやはり精神的に堪単語こたえているのかもしれない。
という訳で双方勘違いしたまま時間は進んでいく。



「あの・・・」

意を決しエレナは単刀直入にアシュベルに聞いた。

「暗殺者と言いましたね。私の意思と関係なく私を邪魔に思っている、という人がいる訳ですね」

命を狙われたのだ、王族の出身者としてでも言葉に出すだけで不安は蘇るだろう。
この人は、やはり頭がいい。この状況で冷静な分析を口にする。

「これはおじい様から聞いていた以上に複雑な状況・・という事は分かりました。」

エレナの言葉にアシュベルは即座に立ち上がり、彼女の肩を強く掴んだ。

「俺の中で引っかかっていた事のひとつ・・」

「ヒメはおじい様と幼い頃から一緒に生活していたんですよね!?」

これが恐ろしくも引き返せない質問だということは十分すぎるほど分かっていた。

「・・・その人の名を聞いてもいいですか?」

聞いたのは自分だがごくり、とさすがのアシュベルにも緊張が走る。

「わたしはあなたの主。口外無用こうがいむようです。」

アシュベルは並々ならぬ覚悟で頷く。
エレナは憶する事無くその名を口にする。


「クレイル・・と呼ばれていたけれど、亡くなる前に教えてくれたのは」

「・・・・」




「あーその前に」

え・・今エレナから放たれるであろう衝撃的な名前を手薬煉てぐすね引いて待っていたんだけど・・アシュベルは固まっている。

「すごく気になって気になって、この気持ちが悪い事象を解決したいと思っているのですが。」

うん、さっきのおじい様の名前からルートからは完全に外れたようだ。
ここは、まずエレナのその気持ちの悪い事象とやらを、即刻片付けてもとのルートに
戻さなければ・・。

「わたし言いましたよね、ヒメと言葉遣いはやめてください、と」

・・・・。

「今これ話し合わなければならない事・・ですか」

脱力感がアシュベルを襲う。

「ほら、その言葉遣い明らかにあなたの方が年上なのに変です、気持ち悪いです!」

「でも、今命を狙われて大切はことを話し合わなければならないんですよ!?ヒメ」

ほら、またヒメって言った!さっきのことを話すにあたっても、それ聞かされ続けられる身になって
下さい。
ああ、訂正。

俺の姫は賢くて、すこし天然なのかもしれない。
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