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第一章
第二十三話 聞こえない叫び
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エレナの体が回復しないのを見てアシュベルはカリーナに一通りの説明をした。
エレナのマナが不安定で、それが暴走してしまうかもしれなかった事。
誰とは言わないがエレナを狙ってる輩がいる事。
光のマナについては知らなかったこと。
だいぶ経緯を濁したが、一応それでカリーナに納得してもらう流れとなった。
まだアシュベルだけが知りえる、エレナが第一王位継承権を持つ姫の地位にあ
るという事、セーデルが王族殺しの張本人で、エレナの命を今だに狙っている
という事は、伝えていない。
これは彼女の了承なしには話してはいけない気がしたので敢えて伏せた。
カリーナがエレナの様子を見にベッドを覗き込み苦い顔をする。
「熱が引かないわね、すごい汗だわ、着替えさせるからアシュベル様達は外で
待機してください。あ、あと氷が少なくなってきたから多めに持って来ていた
だければ助かります」
この状況でエレナから目を離すのは危惧されたが、こう言われて
は仕方ない。
氷を取りにリュカを行かせ、アシュベル自身は扉の前で待機することにした。
「きゃっ!」
エレナの部屋で確かにカリーナの声がした。
着替えさせるには早すぎるが、アシュベルが扉の取っ手に手を掛ける。
「どうした!?入るぞ!」
「待って!ちょっと・・今は待って!」
待つか、いや遅すぎると手遅れになる、それでは護れるものも護れない。
「すまん、入る!」
覚悟を決め勢いよく扉を開けると、そこに信じられない光景があった。
一瞬アシュベルの動きが止まる、見た情報が頭に巡らされるまで体中が凍り付いたように動かない。
刹那それは炎の躍動に変わる。
ベッドに横たわるエレナ。
カリーナが着替えを終えようとしている。
次に真っ赤な血の色。
「どうしてこんな事にっ!?」
無我夢中でエレナに駆け寄り、その惨状を目の当たりにしてアシュベルが叫ぶ。
その血は紛れもなくエレナの体から流れていた。
彼女の体には、鋭利な刃物で切ったかのような傷があちらこちらに見られ、出血はそ
こからの様だった。
カリーナが手を拭いながら、扉を閉め首を振る。
「あたしにも分からない、光を無くしたと思ったら急に腕か切れて、慌てて着替えを
してる間に次々出血して・・」
そう言われれば、エレナが纏っていた光が今は失われている。
それが関係しているのか、反転して容体が急変したのか。
悪い方へ考えが引き寄せられ行く。
ピシッ、する筈のない音が耳を掠める。
「・・・っ!」
エレナの首筋に細い傷が瞬時に走る、そこから、パッと鮮血が細かく千々に飛び散
る。
彼女の白い肌に赤い血が鮮明に、アシュベルの目にまざまざと映し出された。
彼女はその痛みから逃げるようにベッドに横向きになり小さく丸まっている。
小さな唇の奥で歯をぐっと噛みしめ、何とか堪えようとしているように見受けられた。
俺が護る、そう誓ったのに、彼女を前にして何も出来ない。
アシュベルは必死に動揺をすまい、と自分を律する、そう努めようとしていた。
だが、エレナの痛々しい姿に脆くもその決意が揺らいでしまうのを感じる。
カリーナが気まずそうに提案してきた。
「やはり治療師に診てもらった方が良いのではないでしょうか?」
彼女の提案は最もな事だが。
「いや、駄目だ、今は誰が敵か味方か判別がつかない上に、
この複雑な事態を理解できる治療師が居るとは思えない。
今は人目を避け、出来るだけ此処で治療をするしかない」
確かにアシュベルの言葉には一理ある、カリーナが無言で頷く。
セーデルはこの事案に確実に関わっているだろう、奴の息が掛かった者が、この訓練場にも潜り込んでいるか調べておいた方が良いだろう。
カリーナが消毒液とガーゼでエレナの傷を治療していく。
痛みがあるのにエレナは無意識の中、顔を歪めるだけで声を押し殺している。
この間にも彼女の体には刃物で付けられたような傷が、一つ、また一つと増えていく。
「アシュベル様、ここはあたしが治療に集中しますので、
何かあった時の為に少し休んでおいてください。」
カリーナが振り向かずに声を掛ける。
「そうだな・・・」
今は、彼女に対して自分に出来る事は無い。
アシュベルに出来る事。
この事態を引き起こした犯人を、セーデルの近辺を調査する事。
とても王家の支配を巡っての行動とは思えない、その行為は明白にいた。逸脱している。
そもそも何故セーデルは三歳の時から離れていた筈のエレナを、十三年経った今
第一王位継承者エル・ローサだと気付いたんだ?
流石にあの頃から彼女は、セーデルの知らない女性として育っている筈。
そして並々ならぬセーデルのエレナへの執着。
そう思うと疑問が次々湧いてくる。
それと共に心に平静も何とか取り戻せた。
「カリーナ、エレナを頼む」
カリーナはアシュベルの吹っ切れた顔を見て力強く頷く。
出て行こうと扉に近づくと、リュカが、革袋に入れた氷を床に落としてそこに立っていた。
エレナの姿を目にしたリュカは狼狽を隠せず、口を魚の様にパクパクさせている。
インテリ程ダメージが大きいのか、現実を受け止めるのに時間が掛かっているようだ。
いや、俺もか。
散々彼女の、エレナの事で狼狽えていた先程までの自分を・・・封印するしかない。
強引にアシュベルが彼を引きずり、訓練上の書庫まで引っ張って行く。
リュカはエレナの側に居たいと申し出たが、アシュベルの権限で即却下。
彼は頭が切れる、ここからはエレナの側に置いておくよりこちらの
情報を整理推察する事に専念してもらおう。
エレナのマナが不安定で、それが暴走してしまうかもしれなかった事。
誰とは言わないがエレナを狙ってる輩がいる事。
光のマナについては知らなかったこと。
だいぶ経緯を濁したが、一応それでカリーナに納得してもらう流れとなった。
まだアシュベルだけが知りえる、エレナが第一王位継承権を持つ姫の地位にあ
るという事、セーデルが王族殺しの張本人で、エレナの命を今だに狙っている
という事は、伝えていない。
これは彼女の了承なしには話してはいけない気がしたので敢えて伏せた。
カリーナがエレナの様子を見にベッドを覗き込み苦い顔をする。
「熱が引かないわね、すごい汗だわ、着替えさせるからアシュベル様達は外で
待機してください。あ、あと氷が少なくなってきたから多めに持って来ていた
だければ助かります」
この状況でエレナから目を離すのは危惧されたが、こう言われて
は仕方ない。
氷を取りにリュカを行かせ、アシュベル自身は扉の前で待機することにした。
「きゃっ!」
エレナの部屋で確かにカリーナの声がした。
着替えさせるには早すぎるが、アシュベルが扉の取っ手に手を掛ける。
「どうした!?入るぞ!」
「待って!ちょっと・・今は待って!」
待つか、いや遅すぎると手遅れになる、それでは護れるものも護れない。
「すまん、入る!」
覚悟を決め勢いよく扉を開けると、そこに信じられない光景があった。
一瞬アシュベルの動きが止まる、見た情報が頭に巡らされるまで体中が凍り付いたように動かない。
刹那それは炎の躍動に変わる。
ベッドに横たわるエレナ。
カリーナが着替えを終えようとしている。
次に真っ赤な血の色。
「どうしてこんな事にっ!?」
無我夢中でエレナに駆け寄り、その惨状を目の当たりにしてアシュベルが叫ぶ。
その血は紛れもなくエレナの体から流れていた。
彼女の体には、鋭利な刃物で切ったかのような傷があちらこちらに見られ、出血はそ
こからの様だった。
カリーナが手を拭いながら、扉を閉め首を振る。
「あたしにも分からない、光を無くしたと思ったら急に腕か切れて、慌てて着替えを
してる間に次々出血して・・」
そう言われれば、エレナが纏っていた光が今は失われている。
それが関係しているのか、反転して容体が急変したのか。
悪い方へ考えが引き寄せられ行く。
ピシッ、する筈のない音が耳を掠める。
「・・・っ!」
エレナの首筋に細い傷が瞬時に走る、そこから、パッと鮮血が細かく千々に飛び散
る。
彼女の白い肌に赤い血が鮮明に、アシュベルの目にまざまざと映し出された。
彼女はその痛みから逃げるようにベッドに横向きになり小さく丸まっている。
小さな唇の奥で歯をぐっと噛みしめ、何とか堪えようとしているように見受けられた。
俺が護る、そう誓ったのに、彼女を前にして何も出来ない。
アシュベルは必死に動揺をすまい、と自分を律する、そう努めようとしていた。
だが、エレナの痛々しい姿に脆くもその決意が揺らいでしまうのを感じる。
カリーナが気まずそうに提案してきた。
「やはり治療師に診てもらった方が良いのではないでしょうか?」
彼女の提案は最もな事だが。
「いや、駄目だ、今は誰が敵か味方か判別がつかない上に、
この複雑な事態を理解できる治療師が居るとは思えない。
今は人目を避け、出来るだけ此処で治療をするしかない」
確かにアシュベルの言葉には一理ある、カリーナが無言で頷く。
セーデルはこの事案に確実に関わっているだろう、奴の息が掛かった者が、この訓練場にも潜り込んでいるか調べておいた方が良いだろう。
カリーナが消毒液とガーゼでエレナの傷を治療していく。
痛みがあるのにエレナは無意識の中、顔を歪めるだけで声を押し殺している。
この間にも彼女の体には刃物で付けられたような傷が、一つ、また一つと増えていく。
「アシュベル様、ここはあたしが治療に集中しますので、
何かあった時の為に少し休んでおいてください。」
カリーナが振り向かずに声を掛ける。
「そうだな・・・」
今は、彼女に対して自分に出来る事は無い。
アシュベルに出来る事。
この事態を引き起こした犯人を、セーデルの近辺を調査する事。
とても王家の支配を巡っての行動とは思えない、その行為は明白にいた。逸脱している。
そもそも何故セーデルは三歳の時から離れていた筈のエレナを、十三年経った今
第一王位継承者エル・ローサだと気付いたんだ?
流石にあの頃から彼女は、セーデルの知らない女性として育っている筈。
そして並々ならぬセーデルのエレナへの執着。
そう思うと疑問が次々湧いてくる。
それと共に心に平静も何とか取り戻せた。
「カリーナ、エレナを頼む」
カリーナはアシュベルの吹っ切れた顔を見て力強く頷く。
出て行こうと扉に近づくと、リュカが、革袋に入れた氷を床に落としてそこに立っていた。
エレナの姿を目にしたリュカは狼狽を隠せず、口を魚の様にパクパクさせている。
インテリ程ダメージが大きいのか、現実を受け止めるのに時間が掛かっているようだ。
いや、俺もか。
散々彼女の、エレナの事で狼狽えていた先程までの自分を・・・封印するしかない。
強引にアシュベルが彼を引きずり、訓練上の書庫まで引っ張って行く。
リュカはエレナの側に居たいと申し出たが、アシュベルの権限で即却下。
彼は頭が切れる、ここからはエレナの側に置いておくよりこちらの
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