11 / 34
十一話 狂気!勇者をも蝕む呪い!
しおりを挟む
依頼が来ない。ニューヘブンについてから一週間経った。まるで依頼が来ないのだ。どうしたのだろう?町は連日大繁盛大騒ぎだ。行商人が我先にと商品を売り付けまくっている。
なのに何故依頼が無いのか?俺には全く見当がつかなかった。今日も一日宿屋でゴロゴロか…セルビアを探して見るのも良いが…あれはあれで取っ掛かりすら見つけられないのが心に沁みる。
今は朝の五時…この時点で依頼が無いと騒いでも仕方がないのだが…今日酒場に行っても確実に依頼が無いに決まっている。分かっているんだぞ!
………………気分転換に散歩でも行ってみるか。俺は早朝の散歩に出掛けることにした。
宿屋を出て日中なら大にぎわいの目抜通りを抜けていった。その先には町を横断するメノウ川があった。皆生活用水はこの川から得ている。
川縁を歩いて行く。涼しい風が俺を撫でた。気分が良いな。と…俺の行手に黒いマントを羽織った大柄の男がいた。俺はすぐに目をそらした。男はまるで鉄塊のような大剣を持っており尋常じゃない雰囲気を漂わせていた。それに目が狂気に犯されている。こいつ下手すると木の棒しか持っていない俺相手に剣を抜くかも知れないぞ。背筋に怖気が走り、冷や汗が滲み出た。
男が口を開く。
「ウウウ…焦るな。若者よ。今はまだ時ではない。俺と合いまみえる事になる。必ずその内に…その時は容赦なくお前を俺の剣の錆にする。今から残念でならないが…それが運命。お前の頭上に死兆星が落ちた。」
「あんた…何を言っているんだ?俺達が闘う必要なんてない。何せ敵でもなければあんたは味方でも無いんだ。何故闘う事になる?俺はあんたと闘いたくない。木の棒しか持っていないからな。そんな大剣を受け止めきれないよ。ここでさよならだ。争いを避けるのが君子だってね。じゃあな旅の剣士さん。」
「確かに今は時ではないが必ず闘う。そして俺が必ずお前の命を刈り取ってやる。死の運命を恐れながら宿命を辿るが良い。若き勇者よ。長話は無用だな。さらばだ。また会おう。次は戦場だ。」
そう言うとおかしな男は立ち去っていった。あいつは何者だったのだろう?
ニューヘブンに居ればまた出会うかもしれないな。でもあんな物狂いは勘弁だ。いきなり剣を抜かれて叩き切られては堪らない。エクスリボルグでは防ぎきれないだろう。
しかしあの風格…ただの戦士じゃないな。特別な神の加護…いや呪いを受けていると言った方が良いか。だから狂気に犯されている。だから圧倒的なオーラを放っている。
素人目に見ただけだがあそこまで眷属化が進めば助かるまい。何れ狂気に飲み込まれ暴走する暴風になるだろう。まさかこの町で発狂する可能性があるほど眷属化が進んでいるのか?
だとすれば俺と合いまみえると言うのは嘘では無いかもしれない。おいおいニューヘブン到着の依頼第一号が神の狂気に犯された化物剣士か?洒落になっていない。
しかしこの所強敵との闘いが続いている。俺は嫌が応にもさっきの剣士と闘うビジョンを描いてしまった。
だがいつまでも不安がっても仕方あるまい。一旦宿屋に戻ろう。俺はメノウ川の川縁から目抜通りを戻り宿屋まで帰っていった。
現在の時刻は朝の七時半になっていた。エリーとリズも起きていた。
「何処に行ってたのさ?慎吾。ボク達を置いて勝手に出掛けるなよ。もしかしてムフムフする女の子探しに出掛けたとかかい?」
「断じて違う。俺は健全に朝の散歩を楽しんでいただけだ。まあちょっと変な奴に出会ったが。」
「ふーん。変な奴ってどんな奴なのよ。私に教えなさい。」
「どでかい大剣を持っていて尋常じゃないオーラを放っているけど神の狂気に犯されている奴。あって早々いつか殺し合いになるからその時に殺してやるって宣言された。」
「何よ。それ。そんな変質者がニューヘブンに居たとはね。お店が開く時間になったら早速問題を起こすんじゃないかしら?」
「かもしれないな。見ず知らずの相手にいきなり殺害予告するような奴だ。行商人を襲うかもしれない。そうしたらニューヘブンで初めての仕事だ。気合いを入れて行こう。」
「了解。ボクの幻想顕現でぶっ飛ばしてやろう。エリーの魔法で殺すのも良いね。」
「ヴァジュラとゼオンボルグもあるし、三対一じゃ勝ち目は無しね。」
「ちょっと卑怯な気はするけど仕方無いか。向こうも超人的な戦士だろうしな。まあ何も問題が起きないのが一番だよ。俺も闘って死にかけたくないしな。」
「今のところ問題は起きてないようだし、宿屋で休憩を続けましょう。私達は昼くらいになったら外に出てみない?」
「それ賛成。グダグダしちゃおう。お金もたんまりあるしね。ボクはもう一回寝ちゃおう!」
「俺も朝から頭のおかしい奴の相手で疲れたよ。眠りはしないけど横になって休ませてもらう。…ソロリ…エリーに添い寝。そして発展途上の胸を…フゴフゴゴゴゴ!」
レイジングフレア!
アーッ!アツゥイ!慎吾はベッドの上で焼き殺されかけた。そのまま気絶し昼まで目覚めなかった。
宿屋 昼
「よし!そろそろ出掛けましょうか?行くわよ。リズ、慎吾。」
「「了解」」
俺達は町に繰り出した。まずは目抜通りに歩いていく。何時もならザワザワしているのだが…今日は一ヶ所に人だかりが出来ていてシーンと静まり帰っていた。
そして悲鳴が上がる。
「ウギャーグワアアアア!」
「ヒエエエエエエウギャア!」
「ギャアアアアアアアス!」
そして何かが道に転がる音。
俺は最悪の事態を思い描いて野次馬を押し退けた。そこには朝見た黒いマントの剣士が居た。黒いマントは帰り血を浴びて赤黒くなっている。そして地面には大砲で吹き飛ばされた様な衛兵の死体があった。俺は恐怖を忘れ語りかけた。
「おい!あんた!なにやってんだ!何で人なんか殺しているんだよ?」
「朝の若者か。分かるだろう。もう止められないんだ。自分で自分を押さえきれない。殺戮衝動が止められないのだ。お前も闘えば死ぬ。それは分かっているであろう?それでも闘うと言うならこのオスラトル…お前を抹殺しよう。この世から!断片も残さず!」
「だからって放っておけない!暴れまわる人殺しは俺と俺の仲間で成敗してやる!行くぞ!エリー、リズ!」
「分かったわ!」
「行くぞう!」
野次馬の中からエリーとリズが飛び出してきた。俺達は戦闘態勢に入…る…えっ嘘だろ。
オスラトルはこちらに一瞬で転移しエリーとリズを鉄塊の大剣で回転切りを放って切り裂いた。二人は大量の血を吹き出しながら錐揉み回転で後ろに吹っ飛んでいった。生死は不明。
「若者よ。俺とお前だけになったな。ニタァ…」
俺がやるしかない。そうしないとエリーとリズが…ニューヘブンが終わる。ぞくりと悪寒が背筋を撫でる。俺はエクスリボルグを強く握りしめた。
突如オスラトルが吠えた。
「天よ!我が身に呪いを宿した神よ!この神聖な闘いの為に祝福をもたらし賜え!」
そう言うと突如天空から光の柱がオスラトルに降りて光で包んだ。
「我!加護を得たり!女神の加護!レベル九十九!勇者の加護!レベル九十九!信仰の加護!爆着!」
大きな爆裂音が辺りに響き渡った。オスラトルは正真正銘の勇者だって言うのか…それにレベル九十九…恐らく最高級の加護…それでもエクスリボルグで一撃を加えれば奴は倒れる筈…それに掛ける。しかしオスラトルの技を受けてエクスリボルグは無事で済むのだろうか…いやどちらにせよ死ぬのなら最後まで闘い抜いてやる。俺には神の加護は狙って発動できない。今のエクスリボルグでやるしかない。
オスラトルとの距離は二メートルに満たない。オスラトルは会心の一撃クラスの攻撃を連発してきた。
直突!真っ直ぐな突き
袈裟斬り!肩口から縦に一閃の斬撃
回転切り!鉄塊を百八十度振り回す斬撃
三段突!三連続の突き
五連袈裟斬り!五連続の袈裟斬り
神速の技をエクスリボルグで受ける。受ける。受ける。駄目だ。左手で鉄塊を受ける。
俺の左手はぐちゃぐちゃに潰れた。まだ繋がっている事が信じられない。
エクスリボルグを思い付きで左右にふらふら振って技を避けられているのが奇跡と言って良かっただろう。エクスリボルグはいくら鉄塊の攻撃を受けようともひしゃげたり折れたりはしなかった。これもアーティファクトの能力か…しかし右手一本ではもう防げない。死ぬ。
「これで終わりだ。若者よ。天に昇るが良い。他の町の住民も全員天に上げてやろう。」
「ゲハァハァハァ…慎吾あんたは一人で闘ってるんじゃないわよ!穿て!全力神話展開!ヴァジュラ連携ゼオンボルグ!」
俺は急いで伏せた。ヴァジュラが飛んできてオスラトルに突き刺さり雷のドームが発生する。全身を雷で焼かれながら憮然とするオスラトル。そこにゼオンボルグも飛んできた。心臓の付近に突き刺さると大爆発を引き起こすゼオンボルグ…だがそれでもオスラトルは倒れず、少し姿勢が後ろに傾いただけだった。
「くそっ!なんて化物なの!こっちの必殺の一撃を身動ぎ一つで終わらせるなんて!」
「エリー。良く頑張った。エクスカリバーの鞘で治療は済んでるけどあまり無理しないでね。ボクも行くよ!全力全開!禁呪!幻想顕現!万物の贋作!決して許さない罪を背負おうとしても歩き続ける!神域のアーティファクトよ!我が身に集え!限定召喚!エクスカリバー!装着!神技解放!天理!究極霊閃斬!」
黄金の閃光がエクスカリバーから放出されオスラトルを穿つ。オスラトルは膝を折った。そしてブスブスと煙を上げていた。
今がチャンスだ!俺は左腕の痛みを歯を食い縛りながら耐え、エクスリボルグで渾身の一撃を叩き込んだ。
ドガッバキッドグッチャバキャドガッ!
エクスリボルグで滅多打ちにすると嘘の様にオスラトルは倒れた。
リズが近寄ってくる。
「息を吹き返さない内に後始末だよ。お前勇者だったんだってね。何だってこんな町中で暴れて殺されるなんて無惨な目に合わないと行けないんだろうね。ごめんなさい。ボクには殺して送る事しか出来ないんだ。許してとは言わない。天界でボクや神を憎め!さらば最強の勇者よ!死後も星となって輝き続けるが良い!」
そしてリズは幻想顕現したエクスカリバーでオスラトルの首を跳ねた。
俺は左腕をエクスカリバーの鞘で治しながらその光景を見ていた。
あれほどの勇者が町中で発狂するほどの呪詛を掛けられていたとは…何故だ!
人類史を変えるかもしれない男を何故あそこまで蝕んだんだ!勇者と認めた王が呪ったのかそれとも天界の女神が比類なき勇者を悪戯に呪ったとでも言うのか?どちらにせよ。許せない。
俺は初めて女神アイリスに不信感を持った。
結局オスラトルが暴れていた原因は屋台の居酒屋で酔客にイチャモンをつけられた為だった。
その客は勿論ミンチになった。その後も現場に駆け付けた衛兵を次々に血祭りに上げたらしい。その人数は十人を下らないとか…そして俺達が現れオスラトルを倒したと言うわけだ。…と野次馬の証言だ。
俺達はその後酒場を通して「暴漢」オスラトルを倒した報酬として一万ゴールドを受け取った。この町に来て初めての仕事がこれとはやるせない気持ちになる。
所持金は十二万ゴールドになった。
俺達は後日オスラトルの眠る墓に参拝した。もうあの神の狂気に蝕まれた伝説の勇者の姿はない。
「なあオスラトルは以前は立派な勇者だったのかな?」
「きっと本人は最後まで立派な勇者であろうとしていただけよ。」
「許してくれ。オスラトル。ボクには天に送る事しか出来なかった。幾千、幾万のアーティファクトを操ろうとも君を解呪する方法は分からなかったんだ。ボクは無力だ。」
「俺も無力だった。エクスリボルグじゃお前を倒しても救ってやる事は出来なかった。」
「私の魔法も壊したり傷つけるばかりで呪いを癒す事は出来なかったわ。オスラトルさん。ごめんなさい。安らかに眠ってください。」
俺達は霊力を拳に込めて天に放った。霊気の閃光が延々と空に続く。
「この無力をバネに俺達はもっと本当の意味で強くなるよ。オスラトル。さらばだ。誓いの霊天翔!」
「「霊天翔!」」
俺達のニューヘブンでの毎日は変わらず過ぎていくが最強の勇者が居たことを忘れたくはない。忘れずに生きて行く。誓おう。
次の旅に続く
なのに何故依頼が無いのか?俺には全く見当がつかなかった。今日も一日宿屋でゴロゴロか…セルビアを探して見るのも良いが…あれはあれで取っ掛かりすら見つけられないのが心に沁みる。
今は朝の五時…この時点で依頼が無いと騒いでも仕方がないのだが…今日酒場に行っても確実に依頼が無いに決まっている。分かっているんだぞ!
………………気分転換に散歩でも行ってみるか。俺は早朝の散歩に出掛けることにした。
宿屋を出て日中なら大にぎわいの目抜通りを抜けていった。その先には町を横断するメノウ川があった。皆生活用水はこの川から得ている。
川縁を歩いて行く。涼しい風が俺を撫でた。気分が良いな。と…俺の行手に黒いマントを羽織った大柄の男がいた。俺はすぐに目をそらした。男はまるで鉄塊のような大剣を持っており尋常じゃない雰囲気を漂わせていた。それに目が狂気に犯されている。こいつ下手すると木の棒しか持っていない俺相手に剣を抜くかも知れないぞ。背筋に怖気が走り、冷や汗が滲み出た。
男が口を開く。
「ウウウ…焦るな。若者よ。今はまだ時ではない。俺と合いまみえる事になる。必ずその内に…その時は容赦なくお前を俺の剣の錆にする。今から残念でならないが…それが運命。お前の頭上に死兆星が落ちた。」
「あんた…何を言っているんだ?俺達が闘う必要なんてない。何せ敵でもなければあんたは味方でも無いんだ。何故闘う事になる?俺はあんたと闘いたくない。木の棒しか持っていないからな。そんな大剣を受け止めきれないよ。ここでさよならだ。争いを避けるのが君子だってね。じゃあな旅の剣士さん。」
「確かに今は時ではないが必ず闘う。そして俺が必ずお前の命を刈り取ってやる。死の運命を恐れながら宿命を辿るが良い。若き勇者よ。長話は無用だな。さらばだ。また会おう。次は戦場だ。」
そう言うとおかしな男は立ち去っていった。あいつは何者だったのだろう?
ニューヘブンに居ればまた出会うかもしれないな。でもあんな物狂いは勘弁だ。いきなり剣を抜かれて叩き切られては堪らない。エクスリボルグでは防ぎきれないだろう。
しかしあの風格…ただの戦士じゃないな。特別な神の加護…いや呪いを受けていると言った方が良いか。だから狂気に犯されている。だから圧倒的なオーラを放っている。
素人目に見ただけだがあそこまで眷属化が進めば助かるまい。何れ狂気に飲み込まれ暴走する暴風になるだろう。まさかこの町で発狂する可能性があるほど眷属化が進んでいるのか?
だとすれば俺と合いまみえると言うのは嘘では無いかもしれない。おいおいニューヘブン到着の依頼第一号が神の狂気に犯された化物剣士か?洒落になっていない。
しかしこの所強敵との闘いが続いている。俺は嫌が応にもさっきの剣士と闘うビジョンを描いてしまった。
だがいつまでも不安がっても仕方あるまい。一旦宿屋に戻ろう。俺はメノウ川の川縁から目抜通りを戻り宿屋まで帰っていった。
現在の時刻は朝の七時半になっていた。エリーとリズも起きていた。
「何処に行ってたのさ?慎吾。ボク達を置いて勝手に出掛けるなよ。もしかしてムフムフする女の子探しに出掛けたとかかい?」
「断じて違う。俺は健全に朝の散歩を楽しんでいただけだ。まあちょっと変な奴に出会ったが。」
「ふーん。変な奴ってどんな奴なのよ。私に教えなさい。」
「どでかい大剣を持っていて尋常じゃないオーラを放っているけど神の狂気に犯されている奴。あって早々いつか殺し合いになるからその時に殺してやるって宣言された。」
「何よ。それ。そんな変質者がニューヘブンに居たとはね。お店が開く時間になったら早速問題を起こすんじゃないかしら?」
「かもしれないな。見ず知らずの相手にいきなり殺害予告するような奴だ。行商人を襲うかもしれない。そうしたらニューヘブンで初めての仕事だ。気合いを入れて行こう。」
「了解。ボクの幻想顕現でぶっ飛ばしてやろう。エリーの魔法で殺すのも良いね。」
「ヴァジュラとゼオンボルグもあるし、三対一じゃ勝ち目は無しね。」
「ちょっと卑怯な気はするけど仕方無いか。向こうも超人的な戦士だろうしな。まあ何も問題が起きないのが一番だよ。俺も闘って死にかけたくないしな。」
「今のところ問題は起きてないようだし、宿屋で休憩を続けましょう。私達は昼くらいになったら外に出てみない?」
「それ賛成。グダグダしちゃおう。お金もたんまりあるしね。ボクはもう一回寝ちゃおう!」
「俺も朝から頭のおかしい奴の相手で疲れたよ。眠りはしないけど横になって休ませてもらう。…ソロリ…エリーに添い寝。そして発展途上の胸を…フゴフゴゴゴゴ!」
レイジングフレア!
アーッ!アツゥイ!慎吾はベッドの上で焼き殺されかけた。そのまま気絶し昼まで目覚めなかった。
宿屋 昼
「よし!そろそろ出掛けましょうか?行くわよ。リズ、慎吾。」
「「了解」」
俺達は町に繰り出した。まずは目抜通りに歩いていく。何時もならザワザワしているのだが…今日は一ヶ所に人だかりが出来ていてシーンと静まり帰っていた。
そして悲鳴が上がる。
「ウギャーグワアアアア!」
「ヒエエエエエエウギャア!」
「ギャアアアアアアアス!」
そして何かが道に転がる音。
俺は最悪の事態を思い描いて野次馬を押し退けた。そこには朝見た黒いマントの剣士が居た。黒いマントは帰り血を浴びて赤黒くなっている。そして地面には大砲で吹き飛ばされた様な衛兵の死体があった。俺は恐怖を忘れ語りかけた。
「おい!あんた!なにやってんだ!何で人なんか殺しているんだよ?」
「朝の若者か。分かるだろう。もう止められないんだ。自分で自分を押さえきれない。殺戮衝動が止められないのだ。お前も闘えば死ぬ。それは分かっているであろう?それでも闘うと言うならこのオスラトル…お前を抹殺しよう。この世から!断片も残さず!」
「だからって放っておけない!暴れまわる人殺しは俺と俺の仲間で成敗してやる!行くぞ!エリー、リズ!」
「分かったわ!」
「行くぞう!」
野次馬の中からエリーとリズが飛び出してきた。俺達は戦闘態勢に入…る…えっ嘘だろ。
オスラトルはこちらに一瞬で転移しエリーとリズを鉄塊の大剣で回転切りを放って切り裂いた。二人は大量の血を吹き出しながら錐揉み回転で後ろに吹っ飛んでいった。生死は不明。
「若者よ。俺とお前だけになったな。ニタァ…」
俺がやるしかない。そうしないとエリーとリズが…ニューヘブンが終わる。ぞくりと悪寒が背筋を撫でる。俺はエクスリボルグを強く握りしめた。
突如オスラトルが吠えた。
「天よ!我が身に呪いを宿した神よ!この神聖な闘いの為に祝福をもたらし賜え!」
そう言うと突如天空から光の柱がオスラトルに降りて光で包んだ。
「我!加護を得たり!女神の加護!レベル九十九!勇者の加護!レベル九十九!信仰の加護!爆着!」
大きな爆裂音が辺りに響き渡った。オスラトルは正真正銘の勇者だって言うのか…それにレベル九十九…恐らく最高級の加護…それでもエクスリボルグで一撃を加えれば奴は倒れる筈…それに掛ける。しかしオスラトルの技を受けてエクスリボルグは無事で済むのだろうか…いやどちらにせよ死ぬのなら最後まで闘い抜いてやる。俺には神の加護は狙って発動できない。今のエクスリボルグでやるしかない。
オスラトルとの距離は二メートルに満たない。オスラトルは会心の一撃クラスの攻撃を連発してきた。
直突!真っ直ぐな突き
袈裟斬り!肩口から縦に一閃の斬撃
回転切り!鉄塊を百八十度振り回す斬撃
三段突!三連続の突き
五連袈裟斬り!五連続の袈裟斬り
神速の技をエクスリボルグで受ける。受ける。受ける。駄目だ。左手で鉄塊を受ける。
俺の左手はぐちゃぐちゃに潰れた。まだ繋がっている事が信じられない。
エクスリボルグを思い付きで左右にふらふら振って技を避けられているのが奇跡と言って良かっただろう。エクスリボルグはいくら鉄塊の攻撃を受けようともひしゃげたり折れたりはしなかった。これもアーティファクトの能力か…しかし右手一本ではもう防げない。死ぬ。
「これで終わりだ。若者よ。天に昇るが良い。他の町の住民も全員天に上げてやろう。」
「ゲハァハァハァ…慎吾あんたは一人で闘ってるんじゃないわよ!穿て!全力神話展開!ヴァジュラ連携ゼオンボルグ!」
俺は急いで伏せた。ヴァジュラが飛んできてオスラトルに突き刺さり雷のドームが発生する。全身を雷で焼かれながら憮然とするオスラトル。そこにゼオンボルグも飛んできた。心臓の付近に突き刺さると大爆発を引き起こすゼオンボルグ…だがそれでもオスラトルは倒れず、少し姿勢が後ろに傾いただけだった。
「くそっ!なんて化物なの!こっちの必殺の一撃を身動ぎ一つで終わらせるなんて!」
「エリー。良く頑張った。エクスカリバーの鞘で治療は済んでるけどあまり無理しないでね。ボクも行くよ!全力全開!禁呪!幻想顕現!万物の贋作!決して許さない罪を背負おうとしても歩き続ける!神域のアーティファクトよ!我が身に集え!限定召喚!エクスカリバー!装着!神技解放!天理!究極霊閃斬!」
黄金の閃光がエクスカリバーから放出されオスラトルを穿つ。オスラトルは膝を折った。そしてブスブスと煙を上げていた。
今がチャンスだ!俺は左腕の痛みを歯を食い縛りながら耐え、エクスリボルグで渾身の一撃を叩き込んだ。
ドガッバキッドグッチャバキャドガッ!
エクスリボルグで滅多打ちにすると嘘の様にオスラトルは倒れた。
リズが近寄ってくる。
「息を吹き返さない内に後始末だよ。お前勇者だったんだってね。何だってこんな町中で暴れて殺されるなんて無惨な目に合わないと行けないんだろうね。ごめんなさい。ボクには殺して送る事しか出来ないんだ。許してとは言わない。天界でボクや神を憎め!さらば最強の勇者よ!死後も星となって輝き続けるが良い!」
そしてリズは幻想顕現したエクスカリバーでオスラトルの首を跳ねた。
俺は左腕をエクスカリバーの鞘で治しながらその光景を見ていた。
あれほどの勇者が町中で発狂するほどの呪詛を掛けられていたとは…何故だ!
人類史を変えるかもしれない男を何故あそこまで蝕んだんだ!勇者と認めた王が呪ったのかそれとも天界の女神が比類なき勇者を悪戯に呪ったとでも言うのか?どちらにせよ。許せない。
俺は初めて女神アイリスに不信感を持った。
結局オスラトルが暴れていた原因は屋台の居酒屋で酔客にイチャモンをつけられた為だった。
その客は勿論ミンチになった。その後も現場に駆け付けた衛兵を次々に血祭りに上げたらしい。その人数は十人を下らないとか…そして俺達が現れオスラトルを倒したと言うわけだ。…と野次馬の証言だ。
俺達はその後酒場を通して「暴漢」オスラトルを倒した報酬として一万ゴールドを受け取った。この町に来て初めての仕事がこれとはやるせない気持ちになる。
所持金は十二万ゴールドになった。
俺達は後日オスラトルの眠る墓に参拝した。もうあの神の狂気に蝕まれた伝説の勇者の姿はない。
「なあオスラトルは以前は立派な勇者だったのかな?」
「きっと本人は最後まで立派な勇者であろうとしていただけよ。」
「許してくれ。オスラトル。ボクには天に送る事しか出来なかった。幾千、幾万のアーティファクトを操ろうとも君を解呪する方法は分からなかったんだ。ボクは無力だ。」
「俺も無力だった。エクスリボルグじゃお前を倒しても救ってやる事は出来なかった。」
「私の魔法も壊したり傷つけるばかりで呪いを癒す事は出来なかったわ。オスラトルさん。ごめんなさい。安らかに眠ってください。」
俺達は霊力を拳に込めて天に放った。霊気の閃光が延々と空に続く。
「この無力をバネに俺達はもっと本当の意味で強くなるよ。オスラトル。さらばだ。誓いの霊天翔!」
「「霊天翔!」」
俺達のニューヘブンでの毎日は変わらず過ぎていくが最強の勇者が居たことを忘れたくはない。忘れずに生きて行く。誓おう。
次の旅に続く
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます
内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」
――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。
カクヨムにて先行連載中です!
(https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)
異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。
残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。
一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。
そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる