魔王様!勇者元気に送還がいい

八雲 全一

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レベル9 大勇者アラン

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魔界花壇の前に私はいる。執務から解放されて花を眺める…鮮やかなブラッディローズの花だ。
ここにいると忙しい日々が嘘の様に感じる。執務と勇者に侵される日常。安息の日々は私にはない。
どうすればこの満たされない毎日をうまく過ごしていけるのだろうか…また人間討伐の旅に出るのもいいが、御隠居をやめるのも面倒くさいのだ。
誰も問いかけに答えてはくれない。…と思ったのだが
そこには悪魔ロキの姿があった。転移してきたのだろう。
「また黄昏ていますね。魔王様。」
「日々の業務に疲れきっているのよ。後勇者の襲撃でね。」
「それで花を眺めていらっしゃったのですね。十年で変わりましたね。」
「前からこんなものよ。ただあれがきっかけだっただけ。」
「そうですか?大勇者の事故死事件ですね。」
「ああ。私が初めて討たれそうになった時だったな。」
時は十年前に遡る。その時の私は最盛期を迎えている魔王軍を引き連れて、様々な町や村を破壊して回った。誰にも手を着けることなど出来ない暴風雨のような存在だった。
人々からの恐怖の信仰を集め、自分自身のオドとして利用し強くなる。それを繰り返していた。
誰にも止めることが出来ないと思っていたが、現実は違った。その日は一気に三つの村を喰らいつくした日だった。そして四件目に差し掛かろうとしたところで障害が出た。
ネクロゴンの村に大勇者アランという男が滞在していたという情報が入った。近隣の村に頼まれて私を待ち伏せしていたらしい。なんでも別の魔王を倒した事があるとか…噂は聞いていた。そんな彼が村で虐殺をしようとする私の前に立ちはだかり、剣を抜く。
「大魔王よ!貴様の悪行許すわけにはいかない。今日ここで討つ!」
「うるさいぞ!虫けら!消え果てよ!」
カオスライトニング!マナの暴風雨が大勇者に降り注ぐが、激しい剣舞で全てをいなした。
「生意気だぞ!小癪な人間の分際で!」
カオスグラップ連携カオスソードブレイク!
空中に大勇者を魔力で吊り上げて霊刃の連携斬撃で切り刻んだ。
血飛沫を上げる勇者。しかし彼の目には克己の炎が宿っていた。地面に投げ出されると同時に回復法術の自立詠唱を開始する大勇者。
そして縮地!アルテマスラッシュ!セイントセイバー!無銘五連撃!爆裂剣!袈裟斬り!三連刺突!隼二連!魔神斬!破神斬!…
止めどない技の連携の前に私は心臓を何度も潰され死の直前まで追い込まれた。魔王城外部では著しく不死性は落ちる。あるのはただ歓喜だった。まさか一息の間に自分を死の窮地まで追い込むことが出来る勇者がいるとはな!面白いぞ!人間!ここまで出来る奴は初めてだ!巻き返さねば!
私がカオスオーラを溢れさせて反撃に出ようとしたときに事件は起こった。
人間の怒号が聞こえてきた。大勇者よりも更に後ろだ。増援だろうか?
「撃て撃て撃ちまくれ!大勇者殿ごと撃ってしまえ!」
「人間どもか!貴様ら私達の邪魔をするな!」
気づくと大勇者の後ろにずらりと並ぶ人間達。黒歴史の連発銃を手に持っており、私達を取り囲むと大勇者ごと私を撃ってきた。
大勇者は結果的に私を庇うような姿勢のまま銃で撃たれ続けた。
私は慌ててカオスオーラで雑魚どもを切り刻んだがもう遅い。私を初めてここまで追い込んだ大勇者は死んでいた。虚ろな目で…撃たれた瞬間に事態を察したのだろう。
同じ人間に騙されて殺されたのだ。仮にも大勇者を名乗る強者が銃撃で死んだ。人間の手で殺されているので女神の加護で復活することも出来ない。
「ふざけるな!私とこいつとの闘争を邪魔立てするな!何故人間が大勇者ごと魔王を撃つのだ?その利きもしない豆鉄砲で!貴様らの為に闘っていた奴だったのだぞ!」
「魔王様…」
「なんだ!ロキ。私は今怒っている。死にたくなければ失せろ。」
「正気に戻ってください。貴女は今大勇者の攻撃を受けて死にかけています。居城にお戻りください。」
「チッ分かった。だが、この不快な村だけは消し去ってやる」
カオスメキドメテオブレイク!そう叫ぶとネクロゴンの村に燃え盛る隕石が雨の様に降り、村は地図から消えた。怒りとともに何とも言えない空虚感が胸を埋める。あれから十年経つ。
私はあの闘いで燃え尽きてしまったのだ。あそこで邪魔が入らなかったらどちらに転んだのかは今でも分からない。それでもあの闘いが私にとっての頂点であり、終わりを迎えるに相応しい強者だった。
認めよう…人間の醜さに私は初めて打ちのめされたのかもしれない。
最早嫌悪感を感じるだけの存在に成り下がった人間を討伐し滅ぼすのもどうでも良くなったのだ。その日から私の日常は変わった。人間はエサですらなく唾棄すべき蛆蝿に変わった。
私は恐怖での統治ではなく人間のような文化的な統治を行い裏方に徹した。そして執務の傍ら、気晴らしに出掛けたりするようになったのである。もう燃えたぎる情熱は無い。
ただ体を犯す熱病のような闘争心がちょろちょろと顔を出すのだ。だから今でもわざわざ魔王城に乗り込んでくる人間の相手はしてやる。
まあ絶対に私を殺す事等、出来ないのだがな。
変わらないのは今も傍らにずっといるロキだけだ。こいつの悪戯には辟易するが、寂しさを紛らわすための代償を甘んじて受け入れるしかないのかもしれない。
「魔王様、考え事は終わりましたか?お茶にしませんか?」
「ああ。もう大丈夫だ。執務室に戻ろうかロキ。」
執務室に戻ると、ロキがローズティーを持ってきた。彼女も座らせて一緒にお茶を飲む。
ロキとの穏やかなティータイムが過ぎていく。その後、「こんな魔王は嫌だ」という放送がわざわざ遠隔操作で魔王城に流れて私の激怒を買ったのはまた別の話だ。
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