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ボクの名前は白鷺エリカ…改め、この世界ではエリカ・フェニックスと名乗る事にした。
元は普通の女子高校生だったんだけれど、ある日トラックに轢かれる交通事故にあって死んでしまったんだ。そしてこのイスワルドの世界に異世界転生してきた。勿論女神からスキルを受け取っている。天より祝福を与えられし者…ギフテッドに相応しいスキルだ。それはその内触れようと思う。
はぁそれにしても前世は短い一生だったなあ。友達も居れば両親もおり、生活も円満だっただけに死んだのが悔やまれる。良かったことと言えばトラックに轢かれて死ぬ瞬間に痛みを何も感じなかった事だろう。
痛いのは生きている証拠と言うけれど、本当にその通りだ。死んでしまっては痛みを感じることはできない。
そして死んだ後ずっと居た花畑で下界の様子を眺めていたのだが…ある時女神を名乗る光に包まれた人物に出会った。その人物はこう言った。
「私は女神アイリス。白鷺エリカ…貴女はこのまま天国に行くか、スリリングな新世界に行くか…二つの選択肢があります。どちらを選びますか。」
何とも怪しい話だなと思う。こんなものを真に受ける人がいるのかな?ボクは何も迷わずに即答した。
「天国に行かせてください。もうこの世にやり残した事はありません。」
本当はアリアリだったけど、変な異世界に行くくらいなら天国に行った方が百倍ましだ。
女神は不機嫌そうにもう一度告げた。
「白鷺エリカ。貴女はこのまま天国に行くか、スリリングな新世界に行くか…二つの選択肢があります。どちらを選びますか。」
何だよ。これ。結局変な新世界に送り込むことが目的じゃあないか。納得いかないね。ボクはもう一度天国に行くと告げた。女神アイリスはもう一度選択肢を提示してくる。ボクも食い下がった。ここで変な選択肢を選んで天国行きを逃してはならないと思った。
……百五十三回目の問答でボクの心が折れた。
「はい。スリリングな新世界に転生します。何かスキルをくれたり、アーティファクトをくれたりしないんですか?」
女神はニタリと笑みを浮かべた。そして初めて問答以外の事を喋った。
「そうですね。貴女には相応しい強力なスキルを授けます。何れ使うときが来るでしょう。それまではむやみやたらに使わない事ですね。それでは転生を開始します。」
そう女神が告げると目の前が虹色の渦に変わった。転生が始まる。新たなる人生だ。正直少しワクワクしている。行った事のない世界に行くのだ。そして有利なスキルを与えて貰った。新しい世界でも無双できるに違いない。ヤッホー!
…目の前が虹色の光の渦から解放された。私はしゃがみこんだ姿勢からゆっくりと立ち上がり回りを見渡した。何処かの森のようだ。その時はその場所がザイス山と呼ばれている事は知らなかった。近くに灯りが見えたので近付いていく。
そこは野営地の様でキャンプと人だかりが見えた。よく見てみると金髪碧眼の女の子と薄汚い身なりの男達相手との闘いが繰り広げられている。
女の子は黒い刀を構えて男達を撫で切りにしていた。まるで勝負になっていない。女の子は全ての立ち向かってくる敵を殺し終えると一息ついた。二十人近く殺したと思う。帰り血で女の子の黒い服が赤く滲んでいた。
暫くして女の子は見たこともない銃を取り出した。なんというか私達の現代と比べても未来的な形をした銃だ。
それをとあるテントに向けて放った。そうすると中からは男が飛び出てきた。左腕が無くなり出血している。恐らく未来的な銃の銃撃が命中したのだろう。
女の子と男は何か話し込んでいるが男は右手に拳銃を隠し持っている。それで女の子を狙っているのは明白だった。ボクはまだ誰の味方でも無かったけれど、確かにその時女の子に危ないと伝えたくなった。
その後、話を中断すると男は隠し持っていた銃で女の子を撃った。腹部を撃たれた女の子はそれでも怯まずに未来的な銃で男の脳天を撃ち抜いたのだった。
倒れる女の子。このままでは血を失って死んでしまうだろう。ボクは急いで駆け出した。自分の体がやけに重く感じた。時間の経過も遅く感じる。少女の足元まで駆けつけた。腹から血が流れ出て血溜まりがその場に出来上がっていた。
「本当はどちらの味方になるつもりも無いんだけど…血を流した女の子を放っておく趣味もないんだ。感謝してほしいね。ボクの血を与えよう。さあ飲むんだ。」
ボクは女の子を抱えると自分の手首から傷もなく血を吹き出させる。それを女の子の口に流し込んだ。これで大丈夫なはずだ。ボクの能力の使い方の一つで血を介した回復魔法だ。
女の子はその後一度気を取り戻したが、安心したせいかまた眠ってしまった。
やれやれ事情を聞く必要があるし、ここが何処かも分からない。この女の子が目覚めるまで待つとしよう。
それにしてもここはイスワルドの何処なんだろう。ひたすら荒れ地が広がっていたりしたら不味いことになる。飢え死にだ。
そういえば女神はお金を持たせてくれなかった。どうやって生きていけって言うんだい!町を見つけても食事を食べることも出来やしないじゃないか!………今後の生活は目の前の眠っている女の子に掛かっているということだ。中々可愛い寝顔をしている。年はボクよりも多少上だろう。ボクが死んだ時は十六歳だった。彼女は何歳位なんだろうか?気になるが彼女の目覚めを待たないといかない。
ボクはこんな血生臭い場所で眠りにつけないからずっと黄昏て…彼女が目覚めるのを待った。
…そして三時間後。
私は目を覚ました。目の前には見知らぬ少女がいる。何者なのか?彼女に命を救われたので敵ではない事は間違いないだろう。少女は何処か遠くを見て黄昏ていた。
その横顔が美しくて引き込まれそうになる。私にはそういう性癖は無いんだけどね。
さて、目をしっかり覚ました上で彼女と会話をしてみる。
「お早う。見知らぬ人。貴女が助けてくれたのかしら?ありがとう。」
彼女がこちらを振り向く。待ちかねたと言いたげな表情だ。
「待ってたよ。戦の少女よ。ボクの血の魔法を行使して死の淵から貴女を救ったんだよ。ボクの名前はエリカ…そうエリカ・フェニックス。」
「そう言うのね…貴女は…。私の名前はエリスルージュ・バッカニア。イーストリア帝国への復讐者よ。ここでは盗賊団の頭を殺す依頼を受けて闘っていたの。貴女はどうしたの?」
エリカは頭を掻いた。どう説明して良いか少し動揺していたのだ。異世界から転生してきましたと言っても通用するとは思わなかったが…物は試しと考える。彼女が口を開く。
「そう。エリスと呼ばせて貰おうか。ボクは信じられないかもしれないが異世界で生活をしていて向こうで死んでしまったからこっちに転生してきたんだ。まあちょっと変わった冒険者ってところさ。」
「そうなの。転生者…強力なギフテッドの噂は良く耳にしていたわ。何でも思うがままに周りを振り回せる程の才覚を持ち合わせているとか。誰にも制御できない一種の災害として認識されているわね。…私はこんなにまともに会話が通じる転生者が居たとは思わなかったわ。何処にも行く宛てが無ければ当面私の生活に付き合って貰えないかしら。衣食住は保証するし悪い話ではないと思うけれど。」
「それはありがたいんだけど…君、帝国って言うところとこれから闘うのかい?たった一人で?よくやるね。」
エリスルージュの瞳から光が失われた。深いどこまでも続く奈落の穴の様な眼差しをエリカに向ける。
「お父様とお母様を殺された上に故郷も凌辱され尽くした。今私が生きているのはイーストリア帝国への復讐の為だけよ。…帝国との闘いは恐ろしい物になるでしょう。私と共に来たく無ければここでお別れよ。どうするの?」
たじろぐエリカ。エリスルージュの覚悟にゾッとする物を感じたのだ。一人の人間としてここまで復讐に狂うとは…自分自身も年端も行かない女の子だった事もあり、ますます若く美しいエリスルージュを放っておけないと想った。
「そういう事ね。分かったよ。ボクも帝国とやらと闘うのを手伝ってやろう。なんせこのイスワルドで頂点に立てるほどのスキルを与えられたんだ。そんなに分かりやすい悪役がいるとしたらブッ飛ばしてやりたくなるね。君のお父様とお母様を奪った帝国を滅ぼしてやる。」
フッと悲しげな瞳で笑う私。自分自身の闘いにエリカを巻き込んでしまった事を悲しくも嬉しく想ってしまう。
ギフテッドと言えど闘いは厳しいものになるだろう。それでも味方が一人でも増えると心強い。彼女が背中を預けるに足る戦士ならばいいのだがと私は思った。全ては彼女のギフテッドとしての才能に掛かっている。しかし彼女は簡単には自分の能力を明かさないだろう。何せ能力を明かす事で弱点を露呈する事になるからだ。
彼女はスキルの一部として血の魔法を使うようだが、例えば吸血鬼を相手取った戦いでは血を吸われてはまともに魔法行使が出来ないだろう。そういうギフテッドの才能の裏を掻く方法は無数にあるのだ。どんなに完璧なギフテッドであれ、綻びが存在する。エリカも例外ではないだろう。
私は改めてエリカを見据えると口を開いた。明るい決意に満ち溢れた表情で。
「エリカ。これから貴女は様々な敵と闘う事になるけれど、大丈夫ね?どんなモンスターや人間…帝国兵が相手でも遅れは取らないでしょう。貴女の揺ぎ無き自信と覚悟を受け入れます。これからよろしくね。」
エリカはにこやかな表情を浮かべている。
「よろしく。エリス。ところで盗賊団を倒す依頼は完了したんだろう?こんな人気の無い場所に居るのはごめんだよ。近くに町があるなら戻ろうよ。」
「貴女もここいらの地理には明るくないのね。このザイス山を降りて数時間歩けばブリジストという町に辿り着くわ。さあ腰を上げて行きましょうか。」
私は体を起こすと伸びをしてブリジストの町までの帰り支度を始めた。モンタナの死体は首から上が飛び散っていて破損していたために、モンタナの言っていた通り、彼の兵士の認識票を引き千切って持ち帰ることにした。
私は思わず顔を顰める。首無しの死体から物を漁るのは吐き気を催す邪悪な行為に感じられたからだ。
私とエリカはザイス山を下山した。ブリジストの町まで広がっている原っぱの街道には灯り一つ無い。今は真夜中になって居た。
私は余りにも暗いので灯りを着ける魔法を唱えた。ボウっと音を立てて火の玉が辺りを照らした。原っぱの街道を歩く私の後ろにエリカがピッタリ付いて来ていた。暇つぶしに話ながら歩を進めた。
「エリカは転生前何をやっていたのかしら?とても気になるわ。」
「学生をやっていたんだ。まあこっちに高校は無いか。言っても分からないよね。」
「へぇそうなの。こっちの世界では学術を学ぶ場所は大学くらいしかないわね。それも一部の都市にしか大学は存在していないの。ここ等辺だとキャロッサの町に大学があるわね。」
「大学自体はあるんだね。でも貴族の金持ちしか通えないんでしょ。この世界は中世の世界観みたいだから。ボクの世界では女も貧乏人も皆大学に通っていたよ。凄いでしょ。」
えへんと胸を張るエリカ。私は驚きを隠せなかった。まさか大学に女や貧乏人まで通う事が出来るとは…完全に私の常識を超えていたし、またエリカの元居た世界の文明の発展ぶりを垣間見たのであった。
「本当に凄いわね。相当文明が発達していたんでしょうね。この世界は貴女の世界から見て遠い過去の世界かしら?私としては最先端の技術を使っている…といっても闇の歴史の文明を利用しているのだけど…ハイテクな世界だと思っているのだけれど。」
「そうだね。ぱっと見はボク達の世界より千年は昔の文明に見えるけど、エリスが持っている未来的な銃だったりがあるし一概には古臭い世界とは言えないかもしれないね。あの銃は何なのさ?」
私はタケミカヅチの事を伝えていいものか数瞬戸惑ったが、ありのままを伝えることにした。
「あの銃の名前はタケミカヅチ。電磁速射砲。弾薬は無限。雷電の力を用いて弾を発射する闇の歴史のアーティファクトよ。私の持っている武器としては惜しいぐらいの性能を誇るわ。ある洞窟の宝箱から手に入れたの。」
「闇の歴史って…過去の産物だというのかい?あのレールガンが?とても信じられないね。だとするとこの世界はボク達の世界よりも優れた文明が栄えていた時期がある事になるね。非常に興味深いな。他にもアーティファクトを持っているの?見せてくれないか?」
私は鞘からストームカリバーを抜いた。黒い刀身が怖気の立つ霊気を噴出している。
「これがストームカリバー。魔剣の類ね。今のところは切れ味が異常に鋭い以外には何の能力も無いけれど…新しく使い方が見つかるかもしれないわね。」
「盗賊達を撫で斬りにしていた刀だね。こりゃおぞましい妖気を放っているな。使用者に害をもたらさないんだろうけど見ているこっちがバラバラになりそうだ。分かったよ。ありがとう。」
「恐ろしい事にタケミカヅチもストームカリバーも単なるアーティファクトに過ぎないわ。無数のアーティファクトで、帝国兵は武装していると言われているの。勿論性能はこっちが勝っているかもしれないけれど…何百、何千、何万の軍隊がアーティファクトを武装しているとなると話が違ってくるわ。」
「それを引っ繰り返すのがジョーカー足る転生者のボクって訳さ。簡単に能力は明かせないけれど期待しておいてよ。帝国はボクが叩き潰してあげよう。」
エリカはにんまり笑顔を浮かべて答えた。自分自身の才覚に溺れてしまっているのだ。簡単には明かすつもりが無い能力の事だが何れ闘いの中で明らかになるであろう。そうこう彼女達が話しているうちにブリジストの町の周辺まで戻ってきた。
町の門を通り真っすぐ酒場に向かう二人。
「これから盗賊の首領を倒したって報告に行くんだろう。ボクも付いて行っていいのかい?邪魔にならないかな。」
「エリカ。心配ご無用よ。盗賊団の首領さえ倒したと分かればそれで向こうも満足するでしょう。行きと帰りで連れが一人増えたくらいだと何も言われないわよ。きっとね。」
酒場の門をくぐり抜ける。時刻は深夜だ。静かに飲んでいる客しか酒場にはいなかった。
マスターがカウンターに付いている。私はモンタナの兵士の認識票をマスターに手渡すと口を開いた。
「マスターさん。盗賊団を壊滅させてきたわ。これが証拠のモンタナの認識票よ。さあ報酬を払って頂戴。」
「まさか本当にやっつけて帰ってくるとはな。信じられないよ。それに連れが一人増えてるし、向こうで何があったのか気になるが…聞かない方が良いみたいだな。…ほらよ。報酬の金貨だ。また依頼を頼ませてもらうぜ。じゃあな。」
私はマスターから金貨を受け取ると大事そうにポケットにしまった。これで何か月分かの生活費にきっとなるのだろうと私は感じた。
「エリス。やったじゃない。その報酬があれば当面の生活は安泰なのかな?こっちの金銭感覚が全然分からないから。謎だよね。謎。」
「私も実は全然金銭感覚は無いけれど数か月分の生活費にはなるはずよ。まあ生活費に困らなくても自分を鍛えるために依頼は受け続ける予定だけれどね。…エリカは自分を鍛える必要なんて全然無いかしら?」
「そんな事は無いよ。与えられた能力の使い方の塩梅を覚えないといけないからね。矮小な敵を倒すのに大出力の魔法を使ったらエネルギーが勿体ないもの。さあこの後はどうするの?エリス?」
「宿屋に帰るわよ。今日からは二人部屋ね。お金の減りが速くなるけれど仕方が無いわ。さあ行きましょう。」
二人は宿屋に帰ると今日の所は寝てしまった。私にとっては色々な事があった一日だった。盗賊団との闘いやエリカとの出会い…それらを思い出しながら、夢の世界へと浸っていった。
エリカもイスワルド生活の記念すべき一日目をようやく何とか宿を手に入れて終える事が出来た。これから様々な依頼や帝国との闘いが待っている事を考えると若干ブルーになったがこれも成り行き。仕方の無い事だと自分を慰める。そしていつの間にか夢の世界に旅立っていったのだ。
元は普通の女子高校生だったんだけれど、ある日トラックに轢かれる交通事故にあって死んでしまったんだ。そしてこのイスワルドの世界に異世界転生してきた。勿論女神からスキルを受け取っている。天より祝福を与えられし者…ギフテッドに相応しいスキルだ。それはその内触れようと思う。
はぁそれにしても前世は短い一生だったなあ。友達も居れば両親もおり、生活も円満だっただけに死んだのが悔やまれる。良かったことと言えばトラックに轢かれて死ぬ瞬間に痛みを何も感じなかった事だろう。
痛いのは生きている証拠と言うけれど、本当にその通りだ。死んでしまっては痛みを感じることはできない。
そして死んだ後ずっと居た花畑で下界の様子を眺めていたのだが…ある時女神を名乗る光に包まれた人物に出会った。その人物はこう言った。
「私は女神アイリス。白鷺エリカ…貴女はこのまま天国に行くか、スリリングな新世界に行くか…二つの選択肢があります。どちらを選びますか。」
何とも怪しい話だなと思う。こんなものを真に受ける人がいるのかな?ボクは何も迷わずに即答した。
「天国に行かせてください。もうこの世にやり残した事はありません。」
本当はアリアリだったけど、変な異世界に行くくらいなら天国に行った方が百倍ましだ。
女神は不機嫌そうにもう一度告げた。
「白鷺エリカ。貴女はこのまま天国に行くか、スリリングな新世界に行くか…二つの選択肢があります。どちらを選びますか。」
何だよ。これ。結局変な新世界に送り込むことが目的じゃあないか。納得いかないね。ボクはもう一度天国に行くと告げた。女神アイリスはもう一度選択肢を提示してくる。ボクも食い下がった。ここで変な選択肢を選んで天国行きを逃してはならないと思った。
……百五十三回目の問答でボクの心が折れた。
「はい。スリリングな新世界に転生します。何かスキルをくれたり、アーティファクトをくれたりしないんですか?」
女神はニタリと笑みを浮かべた。そして初めて問答以外の事を喋った。
「そうですね。貴女には相応しい強力なスキルを授けます。何れ使うときが来るでしょう。それまではむやみやたらに使わない事ですね。それでは転生を開始します。」
そう女神が告げると目の前が虹色の渦に変わった。転生が始まる。新たなる人生だ。正直少しワクワクしている。行った事のない世界に行くのだ。そして有利なスキルを与えて貰った。新しい世界でも無双できるに違いない。ヤッホー!
…目の前が虹色の光の渦から解放された。私はしゃがみこんだ姿勢からゆっくりと立ち上がり回りを見渡した。何処かの森のようだ。その時はその場所がザイス山と呼ばれている事は知らなかった。近くに灯りが見えたので近付いていく。
そこは野営地の様でキャンプと人だかりが見えた。よく見てみると金髪碧眼の女の子と薄汚い身なりの男達相手との闘いが繰り広げられている。
女の子は黒い刀を構えて男達を撫で切りにしていた。まるで勝負になっていない。女の子は全ての立ち向かってくる敵を殺し終えると一息ついた。二十人近く殺したと思う。帰り血で女の子の黒い服が赤く滲んでいた。
暫くして女の子は見たこともない銃を取り出した。なんというか私達の現代と比べても未来的な形をした銃だ。
それをとあるテントに向けて放った。そうすると中からは男が飛び出てきた。左腕が無くなり出血している。恐らく未来的な銃の銃撃が命中したのだろう。
女の子と男は何か話し込んでいるが男は右手に拳銃を隠し持っている。それで女の子を狙っているのは明白だった。ボクはまだ誰の味方でも無かったけれど、確かにその時女の子に危ないと伝えたくなった。
その後、話を中断すると男は隠し持っていた銃で女の子を撃った。腹部を撃たれた女の子はそれでも怯まずに未来的な銃で男の脳天を撃ち抜いたのだった。
倒れる女の子。このままでは血を失って死んでしまうだろう。ボクは急いで駆け出した。自分の体がやけに重く感じた。時間の経過も遅く感じる。少女の足元まで駆けつけた。腹から血が流れ出て血溜まりがその場に出来上がっていた。
「本当はどちらの味方になるつもりも無いんだけど…血を流した女の子を放っておく趣味もないんだ。感謝してほしいね。ボクの血を与えよう。さあ飲むんだ。」
ボクは女の子を抱えると自分の手首から傷もなく血を吹き出させる。それを女の子の口に流し込んだ。これで大丈夫なはずだ。ボクの能力の使い方の一つで血を介した回復魔法だ。
女の子はその後一度気を取り戻したが、安心したせいかまた眠ってしまった。
やれやれ事情を聞く必要があるし、ここが何処かも分からない。この女の子が目覚めるまで待つとしよう。
それにしてもここはイスワルドの何処なんだろう。ひたすら荒れ地が広がっていたりしたら不味いことになる。飢え死にだ。
そういえば女神はお金を持たせてくれなかった。どうやって生きていけって言うんだい!町を見つけても食事を食べることも出来やしないじゃないか!………今後の生活は目の前の眠っている女の子に掛かっているということだ。中々可愛い寝顔をしている。年はボクよりも多少上だろう。ボクが死んだ時は十六歳だった。彼女は何歳位なんだろうか?気になるが彼女の目覚めを待たないといかない。
ボクはこんな血生臭い場所で眠りにつけないからずっと黄昏て…彼女が目覚めるのを待った。
…そして三時間後。
私は目を覚ました。目の前には見知らぬ少女がいる。何者なのか?彼女に命を救われたので敵ではない事は間違いないだろう。少女は何処か遠くを見て黄昏ていた。
その横顔が美しくて引き込まれそうになる。私にはそういう性癖は無いんだけどね。
さて、目をしっかり覚ました上で彼女と会話をしてみる。
「お早う。見知らぬ人。貴女が助けてくれたのかしら?ありがとう。」
彼女がこちらを振り向く。待ちかねたと言いたげな表情だ。
「待ってたよ。戦の少女よ。ボクの血の魔法を行使して死の淵から貴女を救ったんだよ。ボクの名前はエリカ…そうエリカ・フェニックス。」
「そう言うのね…貴女は…。私の名前はエリスルージュ・バッカニア。イーストリア帝国への復讐者よ。ここでは盗賊団の頭を殺す依頼を受けて闘っていたの。貴女はどうしたの?」
エリカは頭を掻いた。どう説明して良いか少し動揺していたのだ。異世界から転生してきましたと言っても通用するとは思わなかったが…物は試しと考える。彼女が口を開く。
「そう。エリスと呼ばせて貰おうか。ボクは信じられないかもしれないが異世界で生活をしていて向こうで死んでしまったからこっちに転生してきたんだ。まあちょっと変わった冒険者ってところさ。」
「そうなの。転生者…強力なギフテッドの噂は良く耳にしていたわ。何でも思うがままに周りを振り回せる程の才覚を持ち合わせているとか。誰にも制御できない一種の災害として認識されているわね。…私はこんなにまともに会話が通じる転生者が居たとは思わなかったわ。何処にも行く宛てが無ければ当面私の生活に付き合って貰えないかしら。衣食住は保証するし悪い話ではないと思うけれど。」
「それはありがたいんだけど…君、帝国って言うところとこれから闘うのかい?たった一人で?よくやるね。」
エリスルージュの瞳から光が失われた。深いどこまでも続く奈落の穴の様な眼差しをエリカに向ける。
「お父様とお母様を殺された上に故郷も凌辱され尽くした。今私が生きているのはイーストリア帝国への復讐の為だけよ。…帝国との闘いは恐ろしい物になるでしょう。私と共に来たく無ければここでお別れよ。どうするの?」
たじろぐエリカ。エリスルージュの覚悟にゾッとする物を感じたのだ。一人の人間としてここまで復讐に狂うとは…自分自身も年端も行かない女の子だった事もあり、ますます若く美しいエリスルージュを放っておけないと想った。
「そういう事ね。分かったよ。ボクも帝国とやらと闘うのを手伝ってやろう。なんせこのイスワルドで頂点に立てるほどのスキルを与えられたんだ。そんなに分かりやすい悪役がいるとしたらブッ飛ばしてやりたくなるね。君のお父様とお母様を奪った帝国を滅ぼしてやる。」
フッと悲しげな瞳で笑う私。自分自身の闘いにエリカを巻き込んでしまった事を悲しくも嬉しく想ってしまう。
ギフテッドと言えど闘いは厳しいものになるだろう。それでも味方が一人でも増えると心強い。彼女が背中を預けるに足る戦士ならばいいのだがと私は思った。全ては彼女のギフテッドとしての才能に掛かっている。しかし彼女は簡単には自分の能力を明かさないだろう。何せ能力を明かす事で弱点を露呈する事になるからだ。
彼女はスキルの一部として血の魔法を使うようだが、例えば吸血鬼を相手取った戦いでは血を吸われてはまともに魔法行使が出来ないだろう。そういうギフテッドの才能の裏を掻く方法は無数にあるのだ。どんなに完璧なギフテッドであれ、綻びが存在する。エリカも例外ではないだろう。
私は改めてエリカを見据えると口を開いた。明るい決意に満ち溢れた表情で。
「エリカ。これから貴女は様々な敵と闘う事になるけれど、大丈夫ね?どんなモンスターや人間…帝国兵が相手でも遅れは取らないでしょう。貴女の揺ぎ無き自信と覚悟を受け入れます。これからよろしくね。」
エリカはにこやかな表情を浮かべている。
「よろしく。エリス。ところで盗賊団を倒す依頼は完了したんだろう?こんな人気の無い場所に居るのはごめんだよ。近くに町があるなら戻ろうよ。」
「貴女もここいらの地理には明るくないのね。このザイス山を降りて数時間歩けばブリジストという町に辿り着くわ。さあ腰を上げて行きましょうか。」
私は体を起こすと伸びをしてブリジストの町までの帰り支度を始めた。モンタナの死体は首から上が飛び散っていて破損していたために、モンタナの言っていた通り、彼の兵士の認識票を引き千切って持ち帰ることにした。
私は思わず顔を顰める。首無しの死体から物を漁るのは吐き気を催す邪悪な行為に感じられたからだ。
私とエリカはザイス山を下山した。ブリジストの町まで広がっている原っぱの街道には灯り一つ無い。今は真夜中になって居た。
私は余りにも暗いので灯りを着ける魔法を唱えた。ボウっと音を立てて火の玉が辺りを照らした。原っぱの街道を歩く私の後ろにエリカがピッタリ付いて来ていた。暇つぶしに話ながら歩を進めた。
「エリカは転生前何をやっていたのかしら?とても気になるわ。」
「学生をやっていたんだ。まあこっちに高校は無いか。言っても分からないよね。」
「へぇそうなの。こっちの世界では学術を学ぶ場所は大学くらいしかないわね。それも一部の都市にしか大学は存在していないの。ここ等辺だとキャロッサの町に大学があるわね。」
「大学自体はあるんだね。でも貴族の金持ちしか通えないんでしょ。この世界は中世の世界観みたいだから。ボクの世界では女も貧乏人も皆大学に通っていたよ。凄いでしょ。」
えへんと胸を張るエリカ。私は驚きを隠せなかった。まさか大学に女や貧乏人まで通う事が出来るとは…完全に私の常識を超えていたし、またエリカの元居た世界の文明の発展ぶりを垣間見たのであった。
「本当に凄いわね。相当文明が発達していたんでしょうね。この世界は貴女の世界から見て遠い過去の世界かしら?私としては最先端の技術を使っている…といっても闇の歴史の文明を利用しているのだけど…ハイテクな世界だと思っているのだけれど。」
「そうだね。ぱっと見はボク達の世界より千年は昔の文明に見えるけど、エリスが持っている未来的な銃だったりがあるし一概には古臭い世界とは言えないかもしれないね。あの銃は何なのさ?」
私はタケミカヅチの事を伝えていいものか数瞬戸惑ったが、ありのままを伝えることにした。
「あの銃の名前はタケミカヅチ。電磁速射砲。弾薬は無限。雷電の力を用いて弾を発射する闇の歴史のアーティファクトよ。私の持っている武器としては惜しいぐらいの性能を誇るわ。ある洞窟の宝箱から手に入れたの。」
「闇の歴史って…過去の産物だというのかい?あのレールガンが?とても信じられないね。だとするとこの世界はボク達の世界よりも優れた文明が栄えていた時期がある事になるね。非常に興味深いな。他にもアーティファクトを持っているの?見せてくれないか?」
私は鞘からストームカリバーを抜いた。黒い刀身が怖気の立つ霊気を噴出している。
「これがストームカリバー。魔剣の類ね。今のところは切れ味が異常に鋭い以外には何の能力も無いけれど…新しく使い方が見つかるかもしれないわね。」
「盗賊達を撫で斬りにしていた刀だね。こりゃおぞましい妖気を放っているな。使用者に害をもたらさないんだろうけど見ているこっちがバラバラになりそうだ。分かったよ。ありがとう。」
「恐ろしい事にタケミカヅチもストームカリバーも単なるアーティファクトに過ぎないわ。無数のアーティファクトで、帝国兵は武装していると言われているの。勿論性能はこっちが勝っているかもしれないけれど…何百、何千、何万の軍隊がアーティファクトを武装しているとなると話が違ってくるわ。」
「それを引っ繰り返すのがジョーカー足る転生者のボクって訳さ。簡単に能力は明かせないけれど期待しておいてよ。帝国はボクが叩き潰してあげよう。」
エリカはにんまり笑顔を浮かべて答えた。自分自身の才覚に溺れてしまっているのだ。簡単には明かすつもりが無い能力の事だが何れ闘いの中で明らかになるであろう。そうこう彼女達が話しているうちにブリジストの町の周辺まで戻ってきた。
町の門を通り真っすぐ酒場に向かう二人。
「これから盗賊の首領を倒したって報告に行くんだろう。ボクも付いて行っていいのかい?邪魔にならないかな。」
「エリカ。心配ご無用よ。盗賊団の首領さえ倒したと分かればそれで向こうも満足するでしょう。行きと帰りで連れが一人増えたくらいだと何も言われないわよ。きっとね。」
酒場の門をくぐり抜ける。時刻は深夜だ。静かに飲んでいる客しか酒場にはいなかった。
マスターがカウンターに付いている。私はモンタナの兵士の認識票をマスターに手渡すと口を開いた。
「マスターさん。盗賊団を壊滅させてきたわ。これが証拠のモンタナの認識票よ。さあ報酬を払って頂戴。」
「まさか本当にやっつけて帰ってくるとはな。信じられないよ。それに連れが一人増えてるし、向こうで何があったのか気になるが…聞かない方が良いみたいだな。…ほらよ。報酬の金貨だ。また依頼を頼ませてもらうぜ。じゃあな。」
私はマスターから金貨を受け取ると大事そうにポケットにしまった。これで何か月分かの生活費にきっとなるのだろうと私は感じた。
「エリス。やったじゃない。その報酬があれば当面の生活は安泰なのかな?こっちの金銭感覚が全然分からないから。謎だよね。謎。」
「私も実は全然金銭感覚は無いけれど数か月分の生活費にはなるはずよ。まあ生活費に困らなくても自分を鍛えるために依頼は受け続ける予定だけれどね。…エリカは自分を鍛える必要なんて全然無いかしら?」
「そんな事は無いよ。与えられた能力の使い方の塩梅を覚えないといけないからね。矮小な敵を倒すのに大出力の魔法を使ったらエネルギーが勿体ないもの。さあこの後はどうするの?エリス?」
「宿屋に帰るわよ。今日からは二人部屋ね。お金の減りが速くなるけれど仕方が無いわ。さあ行きましょう。」
二人は宿屋に帰ると今日の所は寝てしまった。私にとっては色々な事があった一日だった。盗賊団との闘いやエリカとの出会い…それらを思い出しながら、夢の世界へと浸っていった。
エリカもイスワルド生活の記念すべき一日目をようやく何とか宿を手に入れて終える事が出来た。これから様々な依頼や帝国との闘いが待っている事を考えると若干ブルーになったがこれも成り行き。仕方の無い事だと自分を慰める。そしていつの間にか夢の世界に旅立っていったのだ。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
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いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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