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バディスタ王国 北部戦線
バディスタ国防軍のガーデンビリア少佐が声を挙げた。
「歩兵隊は前に進め!射撃用意!」
千人程の歩兵部隊がエイジャ丘の向こうからやってくるイーストリア帝国兵と闘うために足を進めていく。彼らは元数万いたバディスタ国防軍の最後の兵士達だった。手にはアサルトライフルと呼ばれる銃器を装備している。だが服は普通の軍服だ。特段変わった防御機能は無い。
それがバディスタ国防軍とイーストリア帝国兵の命運を決めていた。
バディスタ国防軍がエイジャの丘の前で待ち構えている。そこにエイジャの丘を越えてきたイーストリア帝国兵五千人の姿が現れた。
帝国兵はアサルトライフルや対物ライフルに加えてRPGやガトリングで武装していた。それらの銃を一斉にバディスタ国防軍に向かって発射する。
銃声が轟き、バディスタ国防軍はどんどん倒れていった。アサルトライフルで応戦するものも居たがイーストリア帝国兵は防弾仕様の外骨格を身に付けている。
弾は弾かれて無効化されてしまった。
一方的な殺戮が終わった。バディスタ国防軍は最後の軍隊を失った。
最早彼の国を守る者は誰もいない。
イーストリア帝国は都や他の町に入り虐殺と略奪の限りを尽くしバディスタ王国を徹底的に凌辱した。
この日バディスタ王国は歴史の舞台から消え去った。
イーストリア帝国 謁見の間
一人の男がイーストリア帝国の皇帝に報告している。
「ミンチ…ミンチ…ミンチ!バディスタ王国の連中は全部死体にしてやったぜぇ。俺の力を使うまでも無かったがなあ。皇帝陛下。どうよ。俺の兵隊達は?中々役に立つだろう。あんたの部下の中ではこのハウアー様が頭一つ抜けているよなあ。もっと給料を寄越せ!そうすればもっともっと大量に殺してきてやるぜえ。」
皇帝は失礼な物言いに怒ることもなく威厳を保ったまま口を開いた。
「ハウアー。お前の働きぶりは見事だった。戦場での武勇もこちらに伝わってきているぞ。給金の事は考慮させてもらおう。残るオーディン大陸の主要国家は都市国家連合たるシャウヤーン連合地帯のみだ。急ぎこのまま軍を率いてシャウヤーン連合地帯を攻め落とすのだ。大陸の覇権を握る最後の闘いとなるだろう。ちなみに各国のレジスタンスはどうなっている?」
「あーあーレジスタンス?いたなあそんな奴等。国が滅びたっていうのにまだ闘っている連中だろ。暇をもて余しているサイキック部隊に相手をさせているぜ。ぼこぼこにいたぶられているんじゃないの?それより次はついに最大勢力のシャウヤーンの連中かい。やりがいがあるねえ。この国の軍隊の中でも大部隊の五千人を連れて足りるかどうかわからねえな。もっと兵隊は寄越せないのかい?皇帝陛下。」
皇帝は少し顔を傾けるとハウアーに答えた。ごく当然の事を告げると言うように。
「お前にはこれ以上の軍隊を預けることは出来ない。バランスの問題だ。ハウアー。余もお前に部隊をもっと任せて勲功を上げさせたいという気持ちもあるがな。他の司令官にも部隊を任せなくてはならない。それにもしお前の部隊が破れ去る事があればそこに兵力を集中することが間違いだった事になる。余はギリギリの綱渡りをしている状態だ。慎重には慎重を期さねばならないのだ。」
ハウアーは不機嫌そうだ。天下のイーストリア帝国の皇帝の前でこれだけの態度を取れる人間は中々いない。
「へいへい。分かりましたよ。皇帝陛下。現在の兵力でやれるだけやってやりますよ。まあシャウヤーン連合軍に俺の兵隊を倒せる奴等はいないと思うけどなあ。ハッハァ!まずはブリジストとかいう一番東の町から攻めることにするわ。今から血祭りに挙げるのが楽しみでたまんないぜ。ヒヒヒ。」
皇帝は頷くと言葉を続けた。
「よかろう。ハウアーよ。ブリジストを攻め落として来るが良い。それがシャウヤーン連合地帯を落とす狼煙となるだろう。行け…比類なき神から祝福を受けた戦士ハウアーよ!」
そう告げられるとハウアーは奇声を上げながら宮殿の外へと出掛けて行った。
謁見の間に居て今まで黙っていた宰相が口を開いた。
「本当にあんな男に軍隊を率いさせて大丈夫なのでしょうか?私は疑問に思います。皇帝陛下。」
「そうでもさせないと収まりがつかない男なのだ。軍隊を取り上げればイーストリアの中で破壊の限りを尽くすであろう。それを防ぐのも余の仕事だ。」
「確かに破壊衝動と金銭欲だけで生きているような男ですからな。乱世においては役に立つやつですが平和になったら不要になるでしょう。」
「大陸全土を征服したとしてもレジスタンスの類いは無限に沸き続けるだろう。そやつらを片付けるために使い道はある。今はただシャウヤーン連合地帯を征服出来れば良い。」
シャウヤーン連合地帯 ブリジストの町
マルスやフリードリヒとの闘いから一ヶ月が過ぎようとしていた。この日は依頼のために酒場にエリカを連れてやって来ていた。そしてマスターからバディスタ王国がイーストリア帝国に破れ去り、国が滅びたと聞いた。
私は直感した。次に狙われるのはシャウヤーン連合地帯だと。
このブリジストの町にも戦火が迫ろうとしているのだ。
そして報復の機会が来たのだ。イーストリア帝国に死を…イーストリア皇帝に死を…奴等に泥を飲ませた上に八つ裂きにして殺してやる。私は高まっていた。お父様とお母様を殺されて国を燃やされた…絶対にあいつらは許せない。鬼気迫る私の様子にエリカは引いているようだった。
「あのーエリス?大丈夫?顔が真っ赤になっていて目線が定まらないでプルプルしているけど…パッと見凄い危ない人みたいだよ。」
「そう…驚かせてごめんなさい。ついにイーストリア帝国と闘えるから気分が昂ってしまったのよ。ようやく奴等に復讐の機会が来たの。絶対に許さない。ブリジストの町はあいつらにやらせない!」
「えっ…奴等はブリジストの町に攻めてくるって言うのかい?確証はあるの?」
「直感よ。バディスタ王国が滅びた今…シャウヤーン連合地帯だけがこの大陸に残っているの。その中の最東端に位置するブリジストの町から狙ってきても可笑しくはないわ。戦線を維持する上で端の陣地を獲る事は重要だもの。」
「なるほどね。ボク達としてはむやみやたらに動く事は避けないとね。あいつらと鉢合わせするには町の中に居るのが丁度良いもの。突撃したくなる気持ちも分かるは分かるけどね。君、最終的にはイーストリア帝国に行って皇帝を討ち取るつもりなんでしょ。」
「そうね。最後には皇帝を殺して思い知らせてやるわ。あいつらの暴虐によって滅びていった人達の無念を…絶対にね。」
エリカは少し呆れている。本当にイーストリア帝国の事になると他の事が目に入らなくなる子だなあと思った。
そのまま酒場に居てもどうにもなら無いので宿屋に戻って殺風景な部屋で休憩することにした。今日がこの部屋に泊まる最後の日かもしれなかった。
グツグツと煮えたぎる。腸が熱くなる。復讐のマグマが私の体を焼き尽くした。
殺したい…早くあいつらを八つ裂きにしてやりたい。部屋に落ち着いてはいられない。
私は寝て休んでいるエリカを置いて町へ出た。どうにも落ち着かないのだ。酒場に行く。
ドアをギイと開けるとカウンターにマスターが居た。さっきと変わらずに客は居なかった。
「どうしたんだい?お嬢さん。さっき来たばかりじゃないか。食事でも取りに来たのか?」
「いいえ。マスターさん。そうじゃないのどうしても宿屋の中じゃ落ち着かなくてね。」
グツグツと煮える…燃えたぎる…
「強いお酒を貰えないかしら。飲みたい気分なの。」
マスターは驚いた顔をした。仕方がないと思う。お酒が飲みたいなんて初めて言ったんだもの。
「訳ありだね。お嬢さん。良いだろう。…これを飲むといい。」
ゴトリと音を立てて私の前に酒が置かれる。ドラゴンエールと書かれた酒だ。マスターは中身をロックでグラスに注いだ。
私は一気に飲み干した。
ああ…胸が焼かれる。体が燃えたぎるようだ。本当に復讐で体が焼かれるとしたらこういった感覚なんだろう。
燃えて燃えて燃えられなくて舞って舞って舞落ちる…
「ありがとう。マスターさん。少し落ち着いたわ。これお代ね。さようなら。」
「おいおい。大丈夫か。お嬢さん?店は開けてあるから何時でも戻ってこいよ。」
私は酒場を出た。目抜き通りを歩いていく。戦争になると言う噂が蔓延っている為か閉店の店が多い。
何処にも逃げはなんて無いというのに…イーストリア帝国は徹底的に弱者を追い詰める。
シャウヤーン連合地帯にいる限り逃げ場は無いだろう。ニブルヘルムに加えてバディスタ王国も滅びた。
今オーディン大陸にある国はイーストリア帝国だけだ。シャウヤーン連合地帯はあくまで都市国家の寄り合い所帯に過ぎない。
今攻め込まれればバラバラに空中分解してしまうだろう。
対抗策があるとすれば一つ。私とエリカの能力を使って正面からイーストリア帝国兵を叩きのめすのだ。
他に野良のギフテッドが居れば話は別だが…このシャウヤーン連合地帯の為に闘うだろうか?
私達位しか復讐の為にイーストリア帝国と闘う者は居ないだろう。居たとしてもそれぞれの国家でレジスタンスとして活動しているはずだ。ブリジストの町を襲ってくるイーストリア帝国を退けた後、シャウヤーン連合地帯の他の町の救援に行った後に国を取り戻す闘いをする事になる。
まだまだ先の話だ。今は目先のイーストリア帝国兵を片付けなくては…
歩いていると冒険者ギルドに辿り着いた。中を覗いてみる。窓から光が差してテーブルを照らしている。以前はパンパンに人が座っていたテーブルがガラガラになっている。
冒険者達は危機を感じ取って一足先に別の町へ逃げ去ったのだろう。国に属しない冒険者はイーストリア帝国の町へ逃げ込めば良いのだ。そこに新しい仲間や仕事が待っている。
薄情かもしれないがそれが当たり前の事だった。そうだとしても私は感心しないが…今まで食べさせてくれた町に何のお返しもなしに危険が迫ったら立ち去るというのでは余りにも卑怯ではないか。
私は冒険者ギルドを立ち去った。また歩き出す。気づけば町の門までやって来ていた。
町の外にはシャウヤーン連合軍の野営地がいくつも出来上がっていた。衛兵に人数を聞いてきた総勢で千人といったところらしい。最東端のブリジストにはあまり回す兵士が居ないのだろう。
この町が攻め込まれるとは分かっていても軍は対応しきれないのが現実だ。
このままだとこの町は滅ぼされてしまう。第二のニブルヘルム、バディスタ王国にしてしまう訳にはいかない。私は闘う…最後まで。
一通りの場所をぶらついて心は鎮まって来ていた。宿屋に戻る事にする。
歩いていると一人の男に出会った。私に話しかけてくる。
「おい。お嬢さん。この町にはもうすぐイーストリア帝国が攻めてくるんだ。逃げなくちゃダメだ。俺はバディスタ王国からの逃亡者だ。分かるんだ。バディスタの次はブリジストだって。この町の軍事力じゃあっという間に俺達は消されてしまう。町ごと丸焼けになってしまう。バディスタ王国もニブルヘルムもそうだったらしい。頼むから君にはそんな目にあってほしくないんだ。さあ逃げるんだ!」
私は冷たい眼差しになった。そんな事承知ずみよ。言われるまでもない。男に冷たく言い放つ。
「私はニブルヘルムの出よ。もうすでに逃げ回った後なの。私は闘う。イーストリア帝国が滅びるまで何度でも闘う。例え一人になったとしてもね。貴方は逃げなさい。私は残るわ。何時までも逃げ回る生活をしたくないの。」
意表をつかれた男はしばし呆然とした。そして口を開く。
「君はあの帝国と闘うと言うのか…信じられないな。勝算はあるのかい?そんな小さな体一つでとてもあいつらに敵うとは思えないな。悪いことは言わないさ。やめておいた方がいい。俺と一緒に逃げ出さないか?」
私は呆れたように言い放つ。
「そんなんだから、バディスタ王国は滅ぼされたのよ。国を滅ぼされて貴方は怒りを感じないのかしら。私は感じる。煮えたぎる激情を…行き場の無い怒りを感じるの。私は貴方と違う。たとえ倒れるとしても最後まで闘う。前のめりに沈んで死ぬのよ。」
男は胸を打たれたようだ。感動して言葉につまる男…とつとつと彼は喋り始めた。
「だったら俺の分まで闘ってくれ。バディスタ王国の仇を討って欲しい。滅びてしまったけれど俺の大切な故郷なんだ。二度ともう帰る事は出来ないけれど…君みたいな奴が何人か居ればバディスタ王国は滅びないですんだのかもしれないな。」
私は強い意志で答える。
「必ず。報復しましょう。ニブルヘルムとバディスタ王国を滅ぼした怨み…忘れる事は出来ないわ。私の故郷のニブルヘルムだけではなく貴方の故郷のバディスタ王国への怒りや哀しみも連れていきましょう。それではさらば…失いし人よ。貴方は生き延びてください。」
「さらばだ。復讐の少女よ。君の旅路に幸あらん事を祈ろう。」
私は男と別れた。彼のように逃げ惑っている人が沢山いるのだろう。それに彼は町の人に忠告して回っていた。彼なりに出来ることをしていたんでしょう。私の様に闘うだけが全てではないものね。
ブリジストの町から沢山の人が逃げ出しているのかしら。酒場のマスターは残っていたけれど大した根性ね。ちょっと見直したわ。
さあ宿屋に戻りましょう。
宿屋に辿り着いた。宿屋の主人も町に残るようだ。話しかけられる。
「お帰りなさい。エリスルージュさん。あんたはこの町から逃げないのかい?」
「はい。私は闘う為に居ますから。逃げ出しません。そんな事は考えたこともないわ。貴方は逃げ出さないんですか?御主人?」
そうだよと答える御主人。
「ああ。逃げ出さないよ。どうせ逃げ出す宛もないし金もないしな。最後はブリジストを枕にして死ぬさ。ひどい死に方じゃ無ければ良いけどな。」
私は信じてもらえないかもしれませんがと相槌を打つ。
「私とエリカがこの町を守りますから心配御無用です。この宿屋も無傷で守らせてもらうわ。」
嬉しそうだけど悲しい顔をする御主人。
「それはありがたいけど…気持ちだけ受け取っておくよ。どうしようもない事も有るってもんだ。今回ばかりはどうにもならんよ。」
もうこれ以上交わせる言葉はない。私は会釈をすると二階に上がっていった。
宿屋の部屋に戻る。エリカは起きていた。
むくれるエリカ。
「おーい!一体何処に行ってたんだよ。退屈だったんだからね。エリスが勝手にどこかに行く事も禁止だよ!ボクばっかりじゃ不公平だからね。」
いきなり怒られて少しビックリした。まあ仕方ないか。エリカには勝手に何処か行かないように言って聞かせていたもの。私だけ自由に動き回るのはルール違反ね。
「ごめんなさい。エリカ。もう貴女を置いて何処かには行かないようにするわ。ちょっと感情が収まらなくて町へ歩きに行っていたのよ。」
「ふーん。そうなんだ。まあさっきから様子はおかしかったものね。イーストリア帝国の報復。待ちわびているんだろう。ボクにはそこまで熱い気持ちは無いけれど…君の気持ちは分かっているつもりだよ。」
「町の雰囲気を見て回って分かったの。思ったより早くにブリジストの町にイーストリア帝国は攻め入って来るわ。間違いない。今晩か明日にはやってくるでしょう。私達も準備を整えましょう。」
分かったよと答えるエリカ。体中の血管…魔力回路に魔力を駆け巡らせる。全身が赤く輝く。エリカの本気が見られる…それは報復とか復讐を抜きにして不謹慎だけれど純粋に興味があった。
どんな技で帝国兵を殺すのだろうか…まあ殺しを喜んではいけないのだけれど…帝国兵だけは別だ。屠るべき敵である。
「エリカの完全な魔力行使を初めて見ることになるわね。この目に焼き付けないと。」
「フーフフ。認識できない程の早さかもしれないよ。期待して待ちたまえ。エリス。ボクの腕前は天下に響くまさに最強の魔法使いだと言う事が嫌でも分かるだろう。」
「フフ。楽しみに待っているわよ。エリカ。私も自分の武器をもう一度整備しないと行けないわね。」
私は軽い動作チェックをした。
ストームカリバーを鞘から抜き、一振りする。空間を切り裂く残響音が木霊した。問題は無いようだ。
タケミカヅチを取り出した。構えて引き金を遊び一杯引いてみる。少し危ないチェック方法だが問題は無かったようだ。
「相変わらず強力なアーティファクトだね。これなら帝国兵も打ち倒せるだろう。タケミカヅチの一撃で倒せるんじゃないか?そうしたら本当に君だけで結構な数の帝国兵を相手に出来ることになるね。防御はブラッドシールドを使えば良い事だし。」
「あくまで一人ずつしか殺せないもの。貴女の大出力の魔法行使に全てが掛かっているの。そこから溢れたものを私が倒すイメージでいるわ。」
「まあ現実にはそうなるだろうね。それでも君が何人倒せるか気になるよ。強くなった君の本気を見てみたいんだ。」
「それは私も一緒。お互い全力を出して闘いましょう。…そろそろ今晩は休みましょうか。闘う事になるかもしれないし…」
そうだねーと相槌を打つエリカ。布団にダイブした。このまま寝てしまうのだろう。外は夕暮れ時だ。晴れ上がった空に真っ赤な太陽が沈みかかっている。まるでこれから死に行く者を迎えるような天気だ。ふと、誘い込まれそうになる。そんな夕暮れだった。
私も早目だがベッドに入った。気は静まらないものの目を閉じてみる。そうすると夢の世界に誘われていった。
ブリジストの宿屋 深夜
「起きろ!お嬢さん達!イーストリア帝国が町の外に攻め込んできたぞ。逃げるなら今だけだ!」
宿屋の主人が叫んだ。
一瞬で私は覚醒した。エリカの方を見てみる…目の辺りを擦っている。まだ状況の把握が出来ていないようだ。私はエリカの頬を軽く張った。
いたーいと怒るエリカ。私は詫びもいれずに彼女の手を引いた。ストームカリバーにタケミカヅチを身に付けると宿屋の外に出た。
取り敢えず町の門まで行く。衛兵に話しかけた。
「イーストリア帝国軍は何処に居るんですか?衛兵さん。教えてください。」
衛兵は恐怖を押さえきれないようだった。ボソボソと喋り出す。
「ヒ…ブリジスト北方…ガラの街道の野原でシャウヤーン連合軍と闘っているよ。ついさっき闘いが始まったばかりだ。ここからは一時間程かかる地点だな。」
「ありがとう。衛兵さん。…行くわよ。エリカ。ガラの街道を歩いて行きましょう。」
「オーケー。エリス。遂に決戦だね。気分は高まってる?」
「散々さっき高まっていたせいで何も感じないわね。でも悪い気分じゃない。透明な透き通ったような気分よ。」
ガラの街道を私達は歩いていった。弱小モンスターが何体か出たがタケミカヅチで全部射殺した。落とした金貨は拾っておく。
一時間程立っただろうか…血生臭い匂いと硝煙の匂いがする場所に出た。銃弾が光を放って飛び交っている。シャウヤーン連合軍は残り五百人と言ったところで、イーストリア帝国兵は圧倒的人数だ。…イーストリアは遠目に見て損害は軽微。
シャウヤーン連合軍が一方的にやられていると言う事だ。
こちらからの距離は五百メートル程。イーストリア帝国兵は固まっている。魚鱗陣を取っているようだ。
私ならやれるさ…その為にここまで生き延びてきた。高鳴る胸の鼓動を抑える。
「エリカ…私から先手を打つ。地面に伏せて。」
「了解。エリス…遂に始まるね。」
私はエリカと共に地面に伏せるとタケミカヅチを構えて発射した。裸眼で着弾がギリギリ確認できる。真っ直ぐに飛翔した大口径弾は兵士に命中して殺害した。
効いている。この距離で効果ありだ。
私はそのまま連続で左右に銃口を移しながらタケミカヅチを連射していった。次々に倒れていく兵士達。
一方的な闘いをしていたはずのイーストリア帝国兵の間に動揺が広がった。
正面十二時方向にいるシャウヤーン連合軍ではない新手から攻撃を受けている。方向は恐らく三時方向。
こちらの装甲を容易に貫通する弾丸を連射してきている。それも凄い勢いでだ。まだ旅団長のハウアーは気付いていない。未確認の対象には攻撃の命令が下っていないので発砲は出来ない。
分隊レベルでは上に報告を上げておいた。仕方がないので正面にいるシャウヤーン連合軍に射撃を加える。分隊のガトリングの連射とRPGの砲撃で派手にシャウヤーン連合軍は死んだ…筈なのに。
シャウヤーン連合軍の前に血文字で書かれた結界が現れた。それがシャウヤーン連合軍を護っている。弾除けの加護か?あんな大規模なのはあり得ない!
新手からの攻撃はまだ続いている。クソ!分隊のマーカスとイーサンも頭を撃ち抜かれて死んだ。この距離で外骨格を貫通出来る武器なんて俺達の持っている武器以外であり得ない。新手は旅団長のような悪魔の力を持っているのか…いやあり得ない…未知の闇の歴史のアーティファクトで攻撃を加えて来ているんだ。
位置は割り出せている…もうこちらの独断で攻撃するしかない。俺は三時方向にガトリングを発射しようとした。その瞬間俺は今までの人生全てを…走馬灯を見ながら絶命した。頭の外骨格を弾が貫通したのだ。ケイジ・ブリックスの思考盗撮終了。…こんな所だね。
「エリス…良い感じだ。敵の下っぱ兵士の思考盗撮に成功した。少し思考を覗き見させて貰ったよ。こちらの位置はもうばれてるみたいだね。先程からこっちに向かって弾が飛んできているだろう?弾除けの加護を血魔法で発動しているから弾なんて当たらないけどさ。」
「そう…そろそろ一掃しないと不味いかしら。私の殺害記録は約七十人位。全然間引けて居ないわ。悔しいけど貴女の力を貸して頂戴。エリカ!」
エヘンと胸を張るエリカ…弾除けの加護以外に何もしてこなかった…ここから本領発揮と行こうかとワクワクしているようだ。
謳う。それでは御目に入れよう。我が渾身の一撃。エリカの体内の血の魔力回路がフル稼働する。
「血魔法はただ血を使うだけじゃないさ!そんな夢の無い魔法何かじゃない!血を媒介にしてあらゆる幻想を顕現するのが…そうファンタズムオーバーロードこそが我が血魔法の真骨頂。」
行くぞ!
衛星軌道上にエクストラランクのアーティファクト…グングニルを三十本召喚!そのまま加速し、イーストリア帝国旅団に拡散ホーミング、着弾後即座に起爆!マナの波動を更に拡散…連撃!
「さあ命令をこなせ我がスレイブ…我が魔力回路よ!燃えろ!エリスの復讐の怒りを代弁するのだ!燃え滾れ!天まで届け!魂の咆哮よ!」
真夜中だと言うのに辺り一帯を光が照らした。天空に何かが煌めいた。それはエリカの魂の咆哮…グングニルの本霊を何重にも呼び起こし、この血で汚れた大地を浄化するように発射した物だった。
その後発射された三十本のグングニルは均等の間隔でイーストリア帝国兵をホーミングし着弾した。その時点で半数以上の帝国兵…二千五百人が死亡したが…更にグングニルは爆散…アーティファクト本体に蓄積していたマナの波動が拡散した。マナの奔流に耐えきれず、残りの帝国兵も全員死亡したか…に思われたが。一人だけ重症を負いつつも生きている男がいた。そしてその体は急速に蘇生しつつあった。
当のエリカは全員死んだと思い込んでいた。
「あー本気だして疲れちゃったよ。もう帰ろう。エリス。もう全部流石に死んだでしょ。」
イーストリア帝国兵が居た一帯は見渡す限りのクレーターが広がっていた。確かに全員死んだ様に思えるが…例外は付き物だ。
一際大きい絶叫が響き渡った。
「面白え!面白いじゃねえか!ここまでやれる奴がまだ在野でいるなんてな!ビックリしたぜ。俺が殺されかけるなんてなぁ!行くぜ。イーストリア帝国のハウアーここにあり!」
まさか生きている人間がいるとわね。私は直ぐにある可能性に思い当たった。ここまで頑丈な人間は中々居ない。回復魔法は死んだ後には掛けられない。自己蘇生魔法の先掛け何て真っ当な魔力回路ではできない芸当だ。
答えは一つ。生き残った人間はギフテッドだ。しかも並みの加護を受けているギフテッドではない。エリカの様に神代の魔力行使が可能なギフテッドかもしれない。私はストームカリバーを抜いて構えた。叫び声を上げた男の姿は確認出来ない。何処かに隠れたか…それとも。
「エリス!気を付けろ。相手はギフテッドだ。並みの敵じゃないぞ。一撃でも貰ったらお陀仏だ。…ボクの魔力回路はさっきの魔法行使で一時的に焼き付いているんだ。今は闘えない。君が応戦するんだ。」
そうエリカが叫ぶと同時に眼前にモヒカン頭のレザースーツの男…ハウアーが転移してきた。応戦しないと…殺される!
相手は素手の様だ。ストームカリバーで袈裟斬りを放つ…放ったが…ハウアーは右手の親指と人差し指で私の剣閃を止めた。受け止めたのだ。ここで振り切らなければ殺される。蘇生できない程に粉々にされるかもしれない。
「御嬢さん。相手が悪かったな。この世には一人か二人どうしても倒せない敵がいるってもんだ。それが俺だったわけだ。喰らいな!サンダーボルトスマッシュ。」
ハウアーの左腕が雷を纏い私の腹部に突き刺さった。即座に感電し私は即死しかけた。生きているのが不思議なくらいだ。その場に崩れ落ちる私。
ヒューヒューハァハァ…呟く…ブラッド…ヒーリング。
感電してズタズタになった全身が急速に蘇生していく…その様子を見てハウアーが叫ぶ。
「ほお…回復だけは一人前の加護を受けてるみたいだな。もう一人の御嬢さんと一緒にあの世に送ってやろうと思ったが、まだ遊べるって事だよな?」
私は立ち上がる。周りを見る。エリカはまだ生きている。無傷の様だ。
「ゴメン。エリス。魔力回路はまだ闘える状態じゃない…君が倒すしかない。」
ふざけないでよ。ギフテッド…そんなの関係ない。そんなものだから私から家族を…故郷を奪っていいはずがない。闘え!燃え上がるのよ。命を今燃やさないで何時燃やすっていうの。ただの一撃でいい。この男を殺せる一閃が放てればそれでいい。明鏡止水の境地に至っていた。ストームカリバーの新しい使い方を悟る。そうか…魔力を放出する媒介としてストームカリバーを使えばいいのだ。この一撃は何物にも止められないだろう。
「御嬢さん。目つきが変わったな。必殺の一撃でも思いついたか…何度でも討ち滅ぼしてやる。俺が俺でいられる事それが俺のギフテッドとしての能力の全てだ。それ以外の存在を拒絶する。否定のギフテッド。もう一発行っとくか…燃えろ我が拳よ。ファイアパンチ!」
私はストームカリバーから自分の魔力全てを放出した。エリカと同じで血液を疑似魔力として利用する。膨大な量の魔力がストームカリバーを渦巻いている。
ハウアーが放った剛拳をストームカリバーで叩き切る。その右腕が千切れ飛んでいった。
「クソ!ギフテッドの俺の腕を簡単に切り離すだと…あり得ねえ。そんな事あっちゃいけねえんだ!」
ハウアーが駄々を捏ねると右腕が生えてきた。自分の都合の悪い物を否定し修正する事が彼の能力らしい。ギフテッドといえばギフテッドらしいが幼稚で単純な能力だった。それ故に強力なのだが。
私は魔力放出したストームカリバーを使い霊刃も発生させた袈裟斬りを放つ。必殺の一撃だ。ハウアーは防御する間もなく顔面に受け止めた。頭が弾け飛び、血飛沫が上がった。私はその死体にも攻撃を加える。連撃で決める。一切の油断も躊躇も無い。
龍閃!三連突!燕返し!直突!止めの袈裟斬り!
バラバラに解体されるハウアーの体。更に魔力を爆発させて死体を焼く。これで終わったか…
と、何もない空間からハウアーが蘇生してきた。何処までこいつは化物じみているんだろう。勝てる気が全然しない…
「やってくれるじゃないか!御嬢さん。全身を切り刻まれて痛いどころじゃなかったぜ。まったく。どうしてくれようかね。何で俺が生きているか気になるか…?それは俺が死にたくないと強く常時願っているからなんだ。その願いを俺様のギフテッド能力…否定の能力が組み上げて蘇生するわけだ。つまり無敵って事だな。」
例え敵わなくても…
それでも立ち続ける…
復讐のために…
奪われた同胞のために…
失われた私自身の未来のために…
「何度でも蘇生するが良い。その度に死をくれてやる。行くぞ!ハウアー。」
霊気の刃…霊刃を伸ばし、ハウアーを切りつける。距離は三メートル。スッパリ切られるハウアー。全身の神経がグチャグチャになっておりまともに身動きできないはずだ。
私は諦めずに切り込み袈裟斬りで首を撥ねた。魔力放出で燃やして完全に頭を焼き切る。
しかし出来の悪いホラーの様にハウアーの体だけがこちらに向かって動いてきた。
炎を纏った拳を首無し死体が叩き込んでくる。貫手が腹に突き刺さる。内臓を焼かれる痛みに私は声にならない絶叫をした。
「ッツッツーーーーーーーー!」
エリカは叫んだ。最早見ていられないと思っている。しかし彼女の魔力回路は未だオーバーヒートしている。何も出来ることは無かった。無力感が彼女を襲った。
「エリス!もういい。まともに闘うな!相手にするな。ここは逃げるぞ!」
エリスは首を振る。まだ闘える。ここで逃げ出したらまた負け犬の生活に戻る。それだけは出来なかった。自分を…負けた自分をきっと許せなくなってしまうだろう。
「まだやれる。闘える。ブラッドヒーリング。ブラッドシールド!」
ハウアーの頭は蘇生した。こちらに一歩ずつにじり寄ってくる。両手には炎と稲妻が宿っている。
肉体じゃない…魂を焼き切る技を今身につけなくてはならない。
答えはストームカリバーから膨大に放出される魔力にあった。その魔力を一点に集中し一気に叩き込む。これしか私には思いつかなかった。生涯最後の剣閃になるかもしれない。これを放てば魔力を失い、通常の闘いにも支障が出る。その剣技の名は…
上段に構え渾身の力を込めて刀身を振り降ろす。そして名を叫び、技を解放する。ストームカリバーだけの究極の剣技。
「ストームカリバーオーバーロード!」
吹き出ていた魔力を刀身にそって一体化させハウアーに叩き込んだ。ハウアーの全身が光に包まれ塵と化していく。魂まで分解されてしまった。魔力の塵だ…
それきりハウアーは蘇生してくることは無かった。最後に思いついた秘剣が通用したのだった。
私の勝ちだ…
ハウアー・マッケンジー…前世最後の瞬間。アメリカでコンビニ強盗をした際、銃を乱射し、警察官に射殺される。二十五歳で現世を去った。その後イーストリア帝国領で転生。その戦闘能力の高さからスカウトされイーストリア帝国に仕える。そして今に至る。
お父様…お母様…少しは貴方達の無念を晴らせたでしょうか…
私は今淡い感動の中を揺蕩っています。生きているけれど死んだような気持ちです。少しでも貴方達の供養になれば幸いです。
このまま何処か流れ去ってしまいたい。全てが儚く散り去っていくような気がする。
私は穏やかな気分の中私を呼ぶ声に気付いた。
「エリス!エリス!聞いているか?遂にギフテッドを倒したんだ。やるじゃあないか。神に出鱈目に祝福された化物を倒したんだぞ。やっぱり私のエリスは強いな。見込み違いなんかじゃなかった。さあブリジストの町へ帰ろう。」
私はその場に座り込んでいたみたいだ。エリカに呼ばれて気付いた。
「そう…私…ハウアーを倒したのね。どうも気が抜けてしまったみたいなの。安心したかしら。いけないわね。戦場のど真ん中で…。」
近くではシャウヤーン連合軍が勝鬨を上げていた。彼らは半数程の犠牲でこの闘いに耐え抜いたのであった。当然私とエリカにも気付いているであろう。
「エリス。もう行こう。ボク達の存在はマル秘だ。誰にも知られてはならない。そうすれば誰にも追われないからね。さあ肩を貸してあげるよ。」
エリカはとても満足気だ。全てを出しきって勝利したからだろう。私も穏やかな達成感に身を包んでいる。
「行きましょう。エリカ。お言葉に甘えて肩を借りるわ。ブリジストの町に帰りましょう。私達が護った町に…」
私達はシャウヤーン連合軍に捕まり色々尋問を受ける前に今までいた場所を離れた。ガラの街道を元来た道を戻っていく。
ブリジストの町に着くころには朝日が昇り始めていた。
私達二人は宿屋に戻ると死んだように眠ってしまった。
バディスタ国防軍のガーデンビリア少佐が声を挙げた。
「歩兵隊は前に進め!射撃用意!」
千人程の歩兵部隊がエイジャ丘の向こうからやってくるイーストリア帝国兵と闘うために足を進めていく。彼らは元数万いたバディスタ国防軍の最後の兵士達だった。手にはアサルトライフルと呼ばれる銃器を装備している。だが服は普通の軍服だ。特段変わった防御機能は無い。
それがバディスタ国防軍とイーストリア帝国兵の命運を決めていた。
バディスタ国防軍がエイジャの丘の前で待ち構えている。そこにエイジャの丘を越えてきたイーストリア帝国兵五千人の姿が現れた。
帝国兵はアサルトライフルや対物ライフルに加えてRPGやガトリングで武装していた。それらの銃を一斉にバディスタ国防軍に向かって発射する。
銃声が轟き、バディスタ国防軍はどんどん倒れていった。アサルトライフルで応戦するものも居たがイーストリア帝国兵は防弾仕様の外骨格を身に付けている。
弾は弾かれて無効化されてしまった。
一方的な殺戮が終わった。バディスタ国防軍は最後の軍隊を失った。
最早彼の国を守る者は誰もいない。
イーストリア帝国は都や他の町に入り虐殺と略奪の限りを尽くしバディスタ王国を徹底的に凌辱した。
この日バディスタ王国は歴史の舞台から消え去った。
イーストリア帝国 謁見の間
一人の男がイーストリア帝国の皇帝に報告している。
「ミンチ…ミンチ…ミンチ!バディスタ王国の連中は全部死体にしてやったぜぇ。俺の力を使うまでも無かったがなあ。皇帝陛下。どうよ。俺の兵隊達は?中々役に立つだろう。あんたの部下の中ではこのハウアー様が頭一つ抜けているよなあ。もっと給料を寄越せ!そうすればもっともっと大量に殺してきてやるぜえ。」
皇帝は失礼な物言いに怒ることもなく威厳を保ったまま口を開いた。
「ハウアー。お前の働きぶりは見事だった。戦場での武勇もこちらに伝わってきているぞ。給金の事は考慮させてもらおう。残るオーディン大陸の主要国家は都市国家連合たるシャウヤーン連合地帯のみだ。急ぎこのまま軍を率いてシャウヤーン連合地帯を攻め落とすのだ。大陸の覇権を握る最後の闘いとなるだろう。ちなみに各国のレジスタンスはどうなっている?」
「あーあーレジスタンス?いたなあそんな奴等。国が滅びたっていうのにまだ闘っている連中だろ。暇をもて余しているサイキック部隊に相手をさせているぜ。ぼこぼこにいたぶられているんじゃないの?それより次はついに最大勢力のシャウヤーンの連中かい。やりがいがあるねえ。この国の軍隊の中でも大部隊の五千人を連れて足りるかどうかわからねえな。もっと兵隊は寄越せないのかい?皇帝陛下。」
皇帝は少し顔を傾けるとハウアーに答えた。ごく当然の事を告げると言うように。
「お前にはこれ以上の軍隊を預けることは出来ない。バランスの問題だ。ハウアー。余もお前に部隊をもっと任せて勲功を上げさせたいという気持ちもあるがな。他の司令官にも部隊を任せなくてはならない。それにもしお前の部隊が破れ去る事があればそこに兵力を集中することが間違いだった事になる。余はギリギリの綱渡りをしている状態だ。慎重には慎重を期さねばならないのだ。」
ハウアーは不機嫌そうだ。天下のイーストリア帝国の皇帝の前でこれだけの態度を取れる人間は中々いない。
「へいへい。分かりましたよ。皇帝陛下。現在の兵力でやれるだけやってやりますよ。まあシャウヤーン連合軍に俺の兵隊を倒せる奴等はいないと思うけどなあ。ハッハァ!まずはブリジストとかいう一番東の町から攻めることにするわ。今から血祭りに挙げるのが楽しみでたまんないぜ。ヒヒヒ。」
皇帝は頷くと言葉を続けた。
「よかろう。ハウアーよ。ブリジストを攻め落として来るが良い。それがシャウヤーン連合地帯を落とす狼煙となるだろう。行け…比類なき神から祝福を受けた戦士ハウアーよ!」
そう告げられるとハウアーは奇声を上げながら宮殿の外へと出掛けて行った。
謁見の間に居て今まで黙っていた宰相が口を開いた。
「本当にあんな男に軍隊を率いさせて大丈夫なのでしょうか?私は疑問に思います。皇帝陛下。」
「そうでもさせないと収まりがつかない男なのだ。軍隊を取り上げればイーストリアの中で破壊の限りを尽くすであろう。それを防ぐのも余の仕事だ。」
「確かに破壊衝動と金銭欲だけで生きているような男ですからな。乱世においては役に立つやつですが平和になったら不要になるでしょう。」
「大陸全土を征服したとしてもレジスタンスの類いは無限に沸き続けるだろう。そやつらを片付けるために使い道はある。今はただシャウヤーン連合地帯を征服出来れば良い。」
シャウヤーン連合地帯 ブリジストの町
マルスやフリードリヒとの闘いから一ヶ月が過ぎようとしていた。この日は依頼のために酒場にエリカを連れてやって来ていた。そしてマスターからバディスタ王国がイーストリア帝国に破れ去り、国が滅びたと聞いた。
私は直感した。次に狙われるのはシャウヤーン連合地帯だと。
このブリジストの町にも戦火が迫ろうとしているのだ。
そして報復の機会が来たのだ。イーストリア帝国に死を…イーストリア皇帝に死を…奴等に泥を飲ませた上に八つ裂きにして殺してやる。私は高まっていた。お父様とお母様を殺されて国を燃やされた…絶対にあいつらは許せない。鬼気迫る私の様子にエリカは引いているようだった。
「あのーエリス?大丈夫?顔が真っ赤になっていて目線が定まらないでプルプルしているけど…パッと見凄い危ない人みたいだよ。」
「そう…驚かせてごめんなさい。ついにイーストリア帝国と闘えるから気分が昂ってしまったのよ。ようやく奴等に復讐の機会が来たの。絶対に許さない。ブリジストの町はあいつらにやらせない!」
「えっ…奴等はブリジストの町に攻めてくるって言うのかい?確証はあるの?」
「直感よ。バディスタ王国が滅びた今…シャウヤーン連合地帯だけがこの大陸に残っているの。その中の最東端に位置するブリジストの町から狙ってきても可笑しくはないわ。戦線を維持する上で端の陣地を獲る事は重要だもの。」
「なるほどね。ボク達としてはむやみやたらに動く事は避けないとね。あいつらと鉢合わせするには町の中に居るのが丁度良いもの。突撃したくなる気持ちも分かるは分かるけどね。君、最終的にはイーストリア帝国に行って皇帝を討ち取るつもりなんでしょ。」
「そうね。最後には皇帝を殺して思い知らせてやるわ。あいつらの暴虐によって滅びていった人達の無念を…絶対にね。」
エリカは少し呆れている。本当にイーストリア帝国の事になると他の事が目に入らなくなる子だなあと思った。
そのまま酒場に居てもどうにもなら無いので宿屋に戻って殺風景な部屋で休憩することにした。今日がこの部屋に泊まる最後の日かもしれなかった。
グツグツと煮えたぎる。腸が熱くなる。復讐のマグマが私の体を焼き尽くした。
殺したい…早くあいつらを八つ裂きにしてやりたい。部屋に落ち着いてはいられない。
私は寝て休んでいるエリカを置いて町へ出た。どうにも落ち着かないのだ。酒場に行く。
ドアをギイと開けるとカウンターにマスターが居た。さっきと変わらずに客は居なかった。
「どうしたんだい?お嬢さん。さっき来たばかりじゃないか。食事でも取りに来たのか?」
「いいえ。マスターさん。そうじゃないのどうしても宿屋の中じゃ落ち着かなくてね。」
グツグツと煮える…燃えたぎる…
「強いお酒を貰えないかしら。飲みたい気分なの。」
マスターは驚いた顔をした。仕方がないと思う。お酒が飲みたいなんて初めて言ったんだもの。
「訳ありだね。お嬢さん。良いだろう。…これを飲むといい。」
ゴトリと音を立てて私の前に酒が置かれる。ドラゴンエールと書かれた酒だ。マスターは中身をロックでグラスに注いだ。
私は一気に飲み干した。
ああ…胸が焼かれる。体が燃えたぎるようだ。本当に復讐で体が焼かれるとしたらこういった感覚なんだろう。
燃えて燃えて燃えられなくて舞って舞って舞落ちる…
「ありがとう。マスターさん。少し落ち着いたわ。これお代ね。さようなら。」
「おいおい。大丈夫か。お嬢さん?店は開けてあるから何時でも戻ってこいよ。」
私は酒場を出た。目抜き通りを歩いていく。戦争になると言う噂が蔓延っている為か閉店の店が多い。
何処にも逃げはなんて無いというのに…イーストリア帝国は徹底的に弱者を追い詰める。
シャウヤーン連合地帯にいる限り逃げ場は無いだろう。ニブルヘルムに加えてバディスタ王国も滅びた。
今オーディン大陸にある国はイーストリア帝国だけだ。シャウヤーン連合地帯はあくまで都市国家の寄り合い所帯に過ぎない。
今攻め込まれればバラバラに空中分解してしまうだろう。
対抗策があるとすれば一つ。私とエリカの能力を使って正面からイーストリア帝国兵を叩きのめすのだ。
他に野良のギフテッドが居れば話は別だが…このシャウヤーン連合地帯の為に闘うだろうか?
私達位しか復讐の為にイーストリア帝国と闘う者は居ないだろう。居たとしてもそれぞれの国家でレジスタンスとして活動しているはずだ。ブリジストの町を襲ってくるイーストリア帝国を退けた後、シャウヤーン連合地帯の他の町の救援に行った後に国を取り戻す闘いをする事になる。
まだまだ先の話だ。今は目先のイーストリア帝国兵を片付けなくては…
歩いていると冒険者ギルドに辿り着いた。中を覗いてみる。窓から光が差してテーブルを照らしている。以前はパンパンに人が座っていたテーブルがガラガラになっている。
冒険者達は危機を感じ取って一足先に別の町へ逃げ去ったのだろう。国に属しない冒険者はイーストリア帝国の町へ逃げ込めば良いのだ。そこに新しい仲間や仕事が待っている。
薄情かもしれないがそれが当たり前の事だった。そうだとしても私は感心しないが…今まで食べさせてくれた町に何のお返しもなしに危険が迫ったら立ち去るというのでは余りにも卑怯ではないか。
私は冒険者ギルドを立ち去った。また歩き出す。気づけば町の門までやって来ていた。
町の外にはシャウヤーン連合軍の野営地がいくつも出来上がっていた。衛兵に人数を聞いてきた総勢で千人といったところらしい。最東端のブリジストにはあまり回す兵士が居ないのだろう。
この町が攻め込まれるとは分かっていても軍は対応しきれないのが現実だ。
このままだとこの町は滅ぼされてしまう。第二のニブルヘルム、バディスタ王国にしてしまう訳にはいかない。私は闘う…最後まで。
一通りの場所をぶらついて心は鎮まって来ていた。宿屋に戻る事にする。
歩いていると一人の男に出会った。私に話しかけてくる。
「おい。お嬢さん。この町にはもうすぐイーストリア帝国が攻めてくるんだ。逃げなくちゃダメだ。俺はバディスタ王国からの逃亡者だ。分かるんだ。バディスタの次はブリジストだって。この町の軍事力じゃあっという間に俺達は消されてしまう。町ごと丸焼けになってしまう。バディスタ王国もニブルヘルムもそうだったらしい。頼むから君にはそんな目にあってほしくないんだ。さあ逃げるんだ!」
私は冷たい眼差しになった。そんな事承知ずみよ。言われるまでもない。男に冷たく言い放つ。
「私はニブルヘルムの出よ。もうすでに逃げ回った後なの。私は闘う。イーストリア帝国が滅びるまで何度でも闘う。例え一人になったとしてもね。貴方は逃げなさい。私は残るわ。何時までも逃げ回る生活をしたくないの。」
意表をつかれた男はしばし呆然とした。そして口を開く。
「君はあの帝国と闘うと言うのか…信じられないな。勝算はあるのかい?そんな小さな体一つでとてもあいつらに敵うとは思えないな。悪いことは言わないさ。やめておいた方がいい。俺と一緒に逃げ出さないか?」
私は呆れたように言い放つ。
「そんなんだから、バディスタ王国は滅ぼされたのよ。国を滅ぼされて貴方は怒りを感じないのかしら。私は感じる。煮えたぎる激情を…行き場の無い怒りを感じるの。私は貴方と違う。たとえ倒れるとしても最後まで闘う。前のめりに沈んで死ぬのよ。」
男は胸を打たれたようだ。感動して言葉につまる男…とつとつと彼は喋り始めた。
「だったら俺の分まで闘ってくれ。バディスタ王国の仇を討って欲しい。滅びてしまったけれど俺の大切な故郷なんだ。二度ともう帰る事は出来ないけれど…君みたいな奴が何人か居ればバディスタ王国は滅びないですんだのかもしれないな。」
私は強い意志で答える。
「必ず。報復しましょう。ニブルヘルムとバディスタ王国を滅ぼした怨み…忘れる事は出来ないわ。私の故郷のニブルヘルムだけではなく貴方の故郷のバディスタ王国への怒りや哀しみも連れていきましょう。それではさらば…失いし人よ。貴方は生き延びてください。」
「さらばだ。復讐の少女よ。君の旅路に幸あらん事を祈ろう。」
私は男と別れた。彼のように逃げ惑っている人が沢山いるのだろう。それに彼は町の人に忠告して回っていた。彼なりに出来ることをしていたんでしょう。私の様に闘うだけが全てではないものね。
ブリジストの町から沢山の人が逃げ出しているのかしら。酒場のマスターは残っていたけれど大した根性ね。ちょっと見直したわ。
さあ宿屋に戻りましょう。
宿屋に辿り着いた。宿屋の主人も町に残るようだ。話しかけられる。
「お帰りなさい。エリスルージュさん。あんたはこの町から逃げないのかい?」
「はい。私は闘う為に居ますから。逃げ出しません。そんな事は考えたこともないわ。貴方は逃げ出さないんですか?御主人?」
そうだよと答える御主人。
「ああ。逃げ出さないよ。どうせ逃げ出す宛もないし金もないしな。最後はブリジストを枕にして死ぬさ。ひどい死に方じゃ無ければ良いけどな。」
私は信じてもらえないかもしれませんがと相槌を打つ。
「私とエリカがこの町を守りますから心配御無用です。この宿屋も無傷で守らせてもらうわ。」
嬉しそうだけど悲しい顔をする御主人。
「それはありがたいけど…気持ちだけ受け取っておくよ。どうしようもない事も有るってもんだ。今回ばかりはどうにもならんよ。」
もうこれ以上交わせる言葉はない。私は会釈をすると二階に上がっていった。
宿屋の部屋に戻る。エリカは起きていた。
むくれるエリカ。
「おーい!一体何処に行ってたんだよ。退屈だったんだからね。エリスが勝手にどこかに行く事も禁止だよ!ボクばっかりじゃ不公平だからね。」
いきなり怒られて少しビックリした。まあ仕方ないか。エリカには勝手に何処か行かないように言って聞かせていたもの。私だけ自由に動き回るのはルール違反ね。
「ごめんなさい。エリカ。もう貴女を置いて何処かには行かないようにするわ。ちょっと感情が収まらなくて町へ歩きに行っていたのよ。」
「ふーん。そうなんだ。まあさっきから様子はおかしかったものね。イーストリア帝国の報復。待ちわびているんだろう。ボクにはそこまで熱い気持ちは無いけれど…君の気持ちは分かっているつもりだよ。」
「町の雰囲気を見て回って分かったの。思ったより早くにブリジストの町にイーストリア帝国は攻め入って来るわ。間違いない。今晩か明日にはやってくるでしょう。私達も準備を整えましょう。」
分かったよと答えるエリカ。体中の血管…魔力回路に魔力を駆け巡らせる。全身が赤く輝く。エリカの本気が見られる…それは報復とか復讐を抜きにして不謹慎だけれど純粋に興味があった。
どんな技で帝国兵を殺すのだろうか…まあ殺しを喜んではいけないのだけれど…帝国兵だけは別だ。屠るべき敵である。
「エリカの完全な魔力行使を初めて見ることになるわね。この目に焼き付けないと。」
「フーフフ。認識できない程の早さかもしれないよ。期待して待ちたまえ。エリス。ボクの腕前は天下に響くまさに最強の魔法使いだと言う事が嫌でも分かるだろう。」
「フフ。楽しみに待っているわよ。エリカ。私も自分の武器をもう一度整備しないと行けないわね。」
私は軽い動作チェックをした。
ストームカリバーを鞘から抜き、一振りする。空間を切り裂く残響音が木霊した。問題は無いようだ。
タケミカヅチを取り出した。構えて引き金を遊び一杯引いてみる。少し危ないチェック方法だが問題は無かったようだ。
「相変わらず強力なアーティファクトだね。これなら帝国兵も打ち倒せるだろう。タケミカヅチの一撃で倒せるんじゃないか?そうしたら本当に君だけで結構な数の帝国兵を相手に出来ることになるね。防御はブラッドシールドを使えば良い事だし。」
「あくまで一人ずつしか殺せないもの。貴女の大出力の魔法行使に全てが掛かっているの。そこから溢れたものを私が倒すイメージでいるわ。」
「まあ現実にはそうなるだろうね。それでも君が何人倒せるか気になるよ。強くなった君の本気を見てみたいんだ。」
「それは私も一緒。お互い全力を出して闘いましょう。…そろそろ今晩は休みましょうか。闘う事になるかもしれないし…」
そうだねーと相槌を打つエリカ。布団にダイブした。このまま寝てしまうのだろう。外は夕暮れ時だ。晴れ上がった空に真っ赤な太陽が沈みかかっている。まるでこれから死に行く者を迎えるような天気だ。ふと、誘い込まれそうになる。そんな夕暮れだった。
私も早目だがベッドに入った。気は静まらないものの目を閉じてみる。そうすると夢の世界に誘われていった。
ブリジストの宿屋 深夜
「起きろ!お嬢さん達!イーストリア帝国が町の外に攻め込んできたぞ。逃げるなら今だけだ!」
宿屋の主人が叫んだ。
一瞬で私は覚醒した。エリカの方を見てみる…目の辺りを擦っている。まだ状況の把握が出来ていないようだ。私はエリカの頬を軽く張った。
いたーいと怒るエリカ。私は詫びもいれずに彼女の手を引いた。ストームカリバーにタケミカヅチを身に付けると宿屋の外に出た。
取り敢えず町の門まで行く。衛兵に話しかけた。
「イーストリア帝国軍は何処に居るんですか?衛兵さん。教えてください。」
衛兵は恐怖を押さえきれないようだった。ボソボソと喋り出す。
「ヒ…ブリジスト北方…ガラの街道の野原でシャウヤーン連合軍と闘っているよ。ついさっき闘いが始まったばかりだ。ここからは一時間程かかる地点だな。」
「ありがとう。衛兵さん。…行くわよ。エリカ。ガラの街道を歩いて行きましょう。」
「オーケー。エリス。遂に決戦だね。気分は高まってる?」
「散々さっき高まっていたせいで何も感じないわね。でも悪い気分じゃない。透明な透き通ったような気分よ。」
ガラの街道を私達は歩いていった。弱小モンスターが何体か出たがタケミカヅチで全部射殺した。落とした金貨は拾っておく。
一時間程立っただろうか…血生臭い匂いと硝煙の匂いがする場所に出た。銃弾が光を放って飛び交っている。シャウヤーン連合軍は残り五百人と言ったところで、イーストリア帝国兵は圧倒的人数だ。…イーストリアは遠目に見て損害は軽微。
シャウヤーン連合軍が一方的にやられていると言う事だ。
こちらからの距離は五百メートル程。イーストリア帝国兵は固まっている。魚鱗陣を取っているようだ。
私ならやれるさ…その為にここまで生き延びてきた。高鳴る胸の鼓動を抑える。
「エリカ…私から先手を打つ。地面に伏せて。」
「了解。エリス…遂に始まるね。」
私はエリカと共に地面に伏せるとタケミカヅチを構えて発射した。裸眼で着弾がギリギリ確認できる。真っ直ぐに飛翔した大口径弾は兵士に命中して殺害した。
効いている。この距離で効果ありだ。
私はそのまま連続で左右に銃口を移しながらタケミカヅチを連射していった。次々に倒れていく兵士達。
一方的な闘いをしていたはずのイーストリア帝国兵の間に動揺が広がった。
正面十二時方向にいるシャウヤーン連合軍ではない新手から攻撃を受けている。方向は恐らく三時方向。
こちらの装甲を容易に貫通する弾丸を連射してきている。それも凄い勢いでだ。まだ旅団長のハウアーは気付いていない。未確認の対象には攻撃の命令が下っていないので発砲は出来ない。
分隊レベルでは上に報告を上げておいた。仕方がないので正面にいるシャウヤーン連合軍に射撃を加える。分隊のガトリングの連射とRPGの砲撃で派手にシャウヤーン連合軍は死んだ…筈なのに。
シャウヤーン連合軍の前に血文字で書かれた結界が現れた。それがシャウヤーン連合軍を護っている。弾除けの加護か?あんな大規模なのはあり得ない!
新手からの攻撃はまだ続いている。クソ!分隊のマーカスとイーサンも頭を撃ち抜かれて死んだ。この距離で外骨格を貫通出来る武器なんて俺達の持っている武器以外であり得ない。新手は旅団長のような悪魔の力を持っているのか…いやあり得ない…未知の闇の歴史のアーティファクトで攻撃を加えて来ているんだ。
位置は割り出せている…もうこちらの独断で攻撃するしかない。俺は三時方向にガトリングを発射しようとした。その瞬間俺は今までの人生全てを…走馬灯を見ながら絶命した。頭の外骨格を弾が貫通したのだ。ケイジ・ブリックスの思考盗撮終了。…こんな所だね。
「エリス…良い感じだ。敵の下っぱ兵士の思考盗撮に成功した。少し思考を覗き見させて貰ったよ。こちらの位置はもうばれてるみたいだね。先程からこっちに向かって弾が飛んできているだろう?弾除けの加護を血魔法で発動しているから弾なんて当たらないけどさ。」
「そう…そろそろ一掃しないと不味いかしら。私の殺害記録は約七十人位。全然間引けて居ないわ。悔しいけど貴女の力を貸して頂戴。エリカ!」
エヘンと胸を張るエリカ…弾除けの加護以外に何もしてこなかった…ここから本領発揮と行こうかとワクワクしているようだ。
謳う。それでは御目に入れよう。我が渾身の一撃。エリカの体内の血の魔力回路がフル稼働する。
「血魔法はただ血を使うだけじゃないさ!そんな夢の無い魔法何かじゃない!血を媒介にしてあらゆる幻想を顕現するのが…そうファンタズムオーバーロードこそが我が血魔法の真骨頂。」
行くぞ!
衛星軌道上にエクストラランクのアーティファクト…グングニルを三十本召喚!そのまま加速し、イーストリア帝国旅団に拡散ホーミング、着弾後即座に起爆!マナの波動を更に拡散…連撃!
「さあ命令をこなせ我がスレイブ…我が魔力回路よ!燃えろ!エリスの復讐の怒りを代弁するのだ!燃え滾れ!天まで届け!魂の咆哮よ!」
真夜中だと言うのに辺り一帯を光が照らした。天空に何かが煌めいた。それはエリカの魂の咆哮…グングニルの本霊を何重にも呼び起こし、この血で汚れた大地を浄化するように発射した物だった。
その後発射された三十本のグングニルは均等の間隔でイーストリア帝国兵をホーミングし着弾した。その時点で半数以上の帝国兵…二千五百人が死亡したが…更にグングニルは爆散…アーティファクト本体に蓄積していたマナの波動が拡散した。マナの奔流に耐えきれず、残りの帝国兵も全員死亡したか…に思われたが。一人だけ重症を負いつつも生きている男がいた。そしてその体は急速に蘇生しつつあった。
当のエリカは全員死んだと思い込んでいた。
「あー本気だして疲れちゃったよ。もう帰ろう。エリス。もう全部流石に死んだでしょ。」
イーストリア帝国兵が居た一帯は見渡す限りのクレーターが広がっていた。確かに全員死んだ様に思えるが…例外は付き物だ。
一際大きい絶叫が響き渡った。
「面白え!面白いじゃねえか!ここまでやれる奴がまだ在野でいるなんてな!ビックリしたぜ。俺が殺されかけるなんてなぁ!行くぜ。イーストリア帝国のハウアーここにあり!」
まさか生きている人間がいるとわね。私は直ぐにある可能性に思い当たった。ここまで頑丈な人間は中々居ない。回復魔法は死んだ後には掛けられない。自己蘇生魔法の先掛け何て真っ当な魔力回路ではできない芸当だ。
答えは一つ。生き残った人間はギフテッドだ。しかも並みの加護を受けているギフテッドではない。エリカの様に神代の魔力行使が可能なギフテッドかもしれない。私はストームカリバーを抜いて構えた。叫び声を上げた男の姿は確認出来ない。何処かに隠れたか…それとも。
「エリス!気を付けろ。相手はギフテッドだ。並みの敵じゃないぞ。一撃でも貰ったらお陀仏だ。…ボクの魔力回路はさっきの魔法行使で一時的に焼き付いているんだ。今は闘えない。君が応戦するんだ。」
そうエリカが叫ぶと同時に眼前にモヒカン頭のレザースーツの男…ハウアーが転移してきた。応戦しないと…殺される!
相手は素手の様だ。ストームカリバーで袈裟斬りを放つ…放ったが…ハウアーは右手の親指と人差し指で私の剣閃を止めた。受け止めたのだ。ここで振り切らなければ殺される。蘇生できない程に粉々にされるかもしれない。
「御嬢さん。相手が悪かったな。この世には一人か二人どうしても倒せない敵がいるってもんだ。それが俺だったわけだ。喰らいな!サンダーボルトスマッシュ。」
ハウアーの左腕が雷を纏い私の腹部に突き刺さった。即座に感電し私は即死しかけた。生きているのが不思議なくらいだ。その場に崩れ落ちる私。
ヒューヒューハァハァ…呟く…ブラッド…ヒーリング。
感電してズタズタになった全身が急速に蘇生していく…その様子を見てハウアーが叫ぶ。
「ほお…回復だけは一人前の加護を受けてるみたいだな。もう一人の御嬢さんと一緒にあの世に送ってやろうと思ったが、まだ遊べるって事だよな?」
私は立ち上がる。周りを見る。エリカはまだ生きている。無傷の様だ。
「ゴメン。エリス。魔力回路はまだ闘える状態じゃない…君が倒すしかない。」
ふざけないでよ。ギフテッド…そんなの関係ない。そんなものだから私から家族を…故郷を奪っていいはずがない。闘え!燃え上がるのよ。命を今燃やさないで何時燃やすっていうの。ただの一撃でいい。この男を殺せる一閃が放てればそれでいい。明鏡止水の境地に至っていた。ストームカリバーの新しい使い方を悟る。そうか…魔力を放出する媒介としてストームカリバーを使えばいいのだ。この一撃は何物にも止められないだろう。
「御嬢さん。目つきが変わったな。必殺の一撃でも思いついたか…何度でも討ち滅ぼしてやる。俺が俺でいられる事それが俺のギフテッドとしての能力の全てだ。それ以外の存在を拒絶する。否定のギフテッド。もう一発行っとくか…燃えろ我が拳よ。ファイアパンチ!」
私はストームカリバーから自分の魔力全てを放出した。エリカと同じで血液を疑似魔力として利用する。膨大な量の魔力がストームカリバーを渦巻いている。
ハウアーが放った剛拳をストームカリバーで叩き切る。その右腕が千切れ飛んでいった。
「クソ!ギフテッドの俺の腕を簡単に切り離すだと…あり得ねえ。そんな事あっちゃいけねえんだ!」
ハウアーが駄々を捏ねると右腕が生えてきた。自分の都合の悪い物を否定し修正する事が彼の能力らしい。ギフテッドといえばギフテッドらしいが幼稚で単純な能力だった。それ故に強力なのだが。
私は魔力放出したストームカリバーを使い霊刃も発生させた袈裟斬りを放つ。必殺の一撃だ。ハウアーは防御する間もなく顔面に受け止めた。頭が弾け飛び、血飛沫が上がった。私はその死体にも攻撃を加える。連撃で決める。一切の油断も躊躇も無い。
龍閃!三連突!燕返し!直突!止めの袈裟斬り!
バラバラに解体されるハウアーの体。更に魔力を爆発させて死体を焼く。これで終わったか…
と、何もない空間からハウアーが蘇生してきた。何処までこいつは化物じみているんだろう。勝てる気が全然しない…
「やってくれるじゃないか!御嬢さん。全身を切り刻まれて痛いどころじゃなかったぜ。まったく。どうしてくれようかね。何で俺が生きているか気になるか…?それは俺が死にたくないと強く常時願っているからなんだ。その願いを俺様のギフテッド能力…否定の能力が組み上げて蘇生するわけだ。つまり無敵って事だな。」
例え敵わなくても…
それでも立ち続ける…
復讐のために…
奪われた同胞のために…
失われた私自身の未来のために…
「何度でも蘇生するが良い。その度に死をくれてやる。行くぞ!ハウアー。」
霊気の刃…霊刃を伸ばし、ハウアーを切りつける。距離は三メートル。スッパリ切られるハウアー。全身の神経がグチャグチャになっておりまともに身動きできないはずだ。
私は諦めずに切り込み袈裟斬りで首を撥ねた。魔力放出で燃やして完全に頭を焼き切る。
しかし出来の悪いホラーの様にハウアーの体だけがこちらに向かって動いてきた。
炎を纏った拳を首無し死体が叩き込んでくる。貫手が腹に突き刺さる。内臓を焼かれる痛みに私は声にならない絶叫をした。
「ッツッツーーーーーーーー!」
エリカは叫んだ。最早見ていられないと思っている。しかし彼女の魔力回路は未だオーバーヒートしている。何も出来ることは無かった。無力感が彼女を襲った。
「エリス!もういい。まともに闘うな!相手にするな。ここは逃げるぞ!」
エリスは首を振る。まだ闘える。ここで逃げ出したらまた負け犬の生活に戻る。それだけは出来なかった。自分を…負けた自分をきっと許せなくなってしまうだろう。
「まだやれる。闘える。ブラッドヒーリング。ブラッドシールド!」
ハウアーの頭は蘇生した。こちらに一歩ずつにじり寄ってくる。両手には炎と稲妻が宿っている。
肉体じゃない…魂を焼き切る技を今身につけなくてはならない。
答えはストームカリバーから膨大に放出される魔力にあった。その魔力を一点に集中し一気に叩き込む。これしか私には思いつかなかった。生涯最後の剣閃になるかもしれない。これを放てば魔力を失い、通常の闘いにも支障が出る。その剣技の名は…
上段に構え渾身の力を込めて刀身を振り降ろす。そして名を叫び、技を解放する。ストームカリバーだけの究極の剣技。
「ストームカリバーオーバーロード!」
吹き出ていた魔力を刀身にそって一体化させハウアーに叩き込んだ。ハウアーの全身が光に包まれ塵と化していく。魂まで分解されてしまった。魔力の塵だ…
それきりハウアーは蘇生してくることは無かった。最後に思いついた秘剣が通用したのだった。
私の勝ちだ…
ハウアー・マッケンジー…前世最後の瞬間。アメリカでコンビニ強盗をした際、銃を乱射し、警察官に射殺される。二十五歳で現世を去った。その後イーストリア帝国領で転生。その戦闘能力の高さからスカウトされイーストリア帝国に仕える。そして今に至る。
お父様…お母様…少しは貴方達の無念を晴らせたでしょうか…
私は今淡い感動の中を揺蕩っています。生きているけれど死んだような気持ちです。少しでも貴方達の供養になれば幸いです。
このまま何処か流れ去ってしまいたい。全てが儚く散り去っていくような気がする。
私は穏やかな気分の中私を呼ぶ声に気付いた。
「エリス!エリス!聞いているか?遂にギフテッドを倒したんだ。やるじゃあないか。神に出鱈目に祝福された化物を倒したんだぞ。やっぱり私のエリスは強いな。見込み違いなんかじゃなかった。さあブリジストの町へ帰ろう。」
私はその場に座り込んでいたみたいだ。エリカに呼ばれて気付いた。
「そう…私…ハウアーを倒したのね。どうも気が抜けてしまったみたいなの。安心したかしら。いけないわね。戦場のど真ん中で…。」
近くではシャウヤーン連合軍が勝鬨を上げていた。彼らは半数程の犠牲でこの闘いに耐え抜いたのであった。当然私とエリカにも気付いているであろう。
「エリス。もう行こう。ボク達の存在はマル秘だ。誰にも知られてはならない。そうすれば誰にも追われないからね。さあ肩を貸してあげるよ。」
エリカはとても満足気だ。全てを出しきって勝利したからだろう。私も穏やかな達成感に身を包んでいる。
「行きましょう。エリカ。お言葉に甘えて肩を借りるわ。ブリジストの町に帰りましょう。私達が護った町に…」
私達はシャウヤーン連合軍に捕まり色々尋問を受ける前に今までいた場所を離れた。ガラの街道を元来た道を戻っていく。
ブリジストの町に着くころには朝日が昇り始めていた。
私達二人は宿屋に戻ると死んだように眠ってしまった。
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