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コボルト退治から一夜明けた今日これから修行の日々が始まる。

エクスはブリジストの町の商店で大量に食料品を買い込んでいた。それも何時でもどこでも食べられるような携帯食料だ。これで街に戻ることは無いという事なのだろう。少しゾッとした。

修行の場所はブリジストの街から二時間程離れたザイス山の中だ。俺達はザイス山に歩いて行き、到着したので中腹まで上って行くと巨木がある場所に出た。後ろには滝が流れている。

「良し。修行の場所はここで良いでしょう。ユウ。私の修行は厳しいわよ。甘く見ない事ね。死ぬより辛い修行が待っているわ。」

俺は少しお茶らけて答えた。
「わー楽しみー。どんな修行なんだろー。早くブリジストに帰りてえな。」

「フフフ…軽口を叩いていられるのも今の内よ。まずはあの巨木の前に立ちなさい。」

言われた通りに巨木の前に立つ…何をしろというのだろうか?

エクスが何かを投げてよこした。木のまんまの木刀だ。しなるので簡単に折れる事は無いだろう。

「良い。マスター。朝に三千回、夜に三千回。この巨木を木刀で打ちなさい。一切の手加減はしないわよ。終わるまで食事も睡眠も無し。怪我はエクスカリバーの鞘の効能で勝手に治癒するから心配しなくていいわ。」

「うへえ。そんなにやるの?手がもげちゃうよ。困ったなあ。何とかなりませんか。エクスさん。流石に無理があるよ。」

「口答えしないの!さあ取り組みなさい。私はそばで見ていてあげるから。大丈夫。何かあればすぐに修行は止めるわ。」

「へーい。分かりました。それじゃあ始めます。」

俺は巨木に初めて撃ち込んだ。手にジーンとしたしびれが広がる。もう一度撃ってみるまたしびれだ。それに肉が少し抉れているようだ。本当にすぐに傷が治癒していく。これなら巨木撃ちを何回こなしても大丈夫だろうか…

それから五時間後…ハァハァようやく巨木撃ちが終わった。時刻はもう夜になって居た。エクスは退屈そうに見ていたが、手が止まったので声を掛けてくる。

「どうしたの?マスター。終わったの?ごめんなさい。面倒くさくて回数数えてなかったわ。」

「ひどいな。エクス。ちゃんと三千回終えたよ。もう何回手から出血して筋肉痛になって皮が剥けたか分からないくらいだ。もうしんどい。二度とやりたくない。」

「あら…それは大変だったわね。終えるのに五時間かかったという事は毎日朝夜にやっても時間が余るわね。その間に技の習得をしましょうか。」

「それマジで言ってるの?エクス。俺本当に死んじゃうよ。これを朝と夜に一回ずつやるなんて。信じられない。無茶苦茶な修行だ。それに技を覚えろって言ったって簡単に覚えられるわけないだろ。」

「聖剣の鞘があれば傷も筋肉痛もその場で治癒し続けるもの。大丈夫よ。さあ今日は寝てしまいましょう。テントを持ってきたわ。食事もとらないとね。」

俺達は携帯食料で簡素な食事を終えるとテントの中で毛布にくるまり睡眠を取ることにした。マジで明日から巨木撃ちを朝夜に三千回やらされるかと思うと気が気では無く…俺は中々寝付けなかった。

翌朝。俺は現在巨木の前にいる。昨日から使って何度かひしゃげた木の木刀を構える。木刀はひしゃげる度にエクスが何処からともなく持ってきていた。

巨木に背筋を利用して滅多打ちにする。一、二、三、四、五、六…一呼吸で撃ち込めるのはこれが限界だ。これを後五百回繰り返すのか…ズーンと気分が重くなる。仕方が無い。この世界で強くなるためだ。筋肉修行だと思おう。これ一ヶ月終えた時点で別人みたいにムキムキになって居たらそれはそれで気持ち悪いなと思った。

その後、五時間経って巨木撃ちは終了した。手は痺れているし、肉が裂ける痛みもまだ残っている。エクスはぼうっと巨木を眺めていた。

「エクス?終わったよ。巨木撃ち。次はどうするのか教えて貰っていいかな。」

「ん…?ええ。そうね。次は技の練習よ。私がエクスカリバーに宿って演武するからその通りに剣を後で振るって頂戴。」

そういうとエクスはエクスカリバーの中に戻っていった。
体が勝手に引きずられて動かされる。

まずは上段からの一撃!袈裟斬り!体が無理やり上段の態勢になりエクスカリバーを振らされた。

次に中段からの横一閃!龍閃!今度は力が抜けて中段になると思いきやとんでもないスピードで横なぎを繰り出させられた。こんなのを人間技でコピーできるのだろうか?

次も中段からの一撃!無明突!また中段でとんでもないスピードで突をさせられる。ボクサーのジャブを思い出す一撃だ。エクスカリバーで打てばそれも致命の一撃になるだろう。

続いてまたも中段からの連撃!三連突!また中段か…人間の領域を超えたスピードで三つの突を一瞬で繰り出させられる。ほぼ同時の一閃だ。

最後に下段からの一撃!燕返し!下段から人間でいえば股間から真っすぐに切り上げる一撃だ。喰らえば即死は間違いないだろう。

「以上五手を学んでもらうわ。巨木撃ちの合間にね。毎日やれば形になるでしょう。出来ないとは言わせないわよ。マスター。私の事を嫁と呼ぶんだったらこの位の事は身に着ける事ね。」

「嫁たるエクスにそこまで言われたら、俺も逃げ出せないな。身に着けてやるよ。最強の剣技を…!」

俺はまず袈裟斬りの練習を始めることにした。上段に構えて切るだけなのだが、巨木に撃ち込むと尋常じゃない敵の相手をしているようだった。

その後も龍閃、無明突、三連突、燕返しの練習も時間が許す限り行っていった。始めた時間は朝だったがいつの間にか辺りは夜の帳が降りていた。

「ハイ。そこまで。ユウ。よく頑張ったわね。後はここから巨木撃ち三千回やったら休んでいいわよ。まだまだやれるわよね?無理なんて言わせないんだから。このエクスがコーチングをしているんですもの。」

「分かった。分かった。やりますよ。手はボロボロになって内出血しまくってるけどやりますって…見てなよ。俺の気合の巨木撃ちを!」

「おーりゃ!うりゃうりゃうりゃおりゃ!」

俺は叫びながら木刀で巨木を滅多打ちにし始めた。…それから五時間後。
「二千九百九十五…二千九百九十六…二千九百九十七…二千九百九十八…二千九百九十九…三千回。終わった。」

ハァハァと俺は体を投げ出した。汗が噴き出る。ようやく今日の修行が終わった。死ぬかと思った。俺ちゃんと強くなってんのかなあ。多分ムキムキにはなるんだろうけど…クソ、女神さまが剣術の才能とムキムキボディを与えてくれたらこんな事にはならなかったのにな。

「お疲れ様。マスター。今日はこの位にして食事を取って寝ましょう。今日も頑張ったわね。根を上げずについて来ているのは尊敬出来るわ。」

「何たって嫁たるエクスちゃんに見守られながらの特訓だからね。男…大場ユウ、逃げ出すわけには行かないよ。まあ流石にこれ以上厳しい修行だとギブアップするかもしれないけれどね。」

「少しは私を嫁と呼ぶのにふさわしい男になって居るわ。この調子でもっと修行をつけて行きましょう。」

その晩は携帯食料を食べてテントで寝た。

こっからは少し色々飛ばしながら修行の成果をお見せしよう。

すげえ!袈裟斬りで巨木に火がついた!
何言ってるのユウ!早く消しなさい!

龍閃も極めたな。何枚か同時に落とした落ち葉を龍閃で一気に貫く事が出来るようになったぜ!
闘う相手は落ち葉じゃなくて人間って事を忘れないようにね。ユウ。

無明突も加速スピードに体が順応し始めた。悪くないスピードの突きだ。
強制状態の時と同じくらいのスピードが出るようになっているわね。やるじゃない。ユウ。

三連突…同時に突を出すなんて人間技じゃ無いって思ってたけれどやれば出来るもんだ。
格段の破壊力を誇る技だわ。ユウ。マスターしたのは大きいわよ。

燕返し…股下からの切り上げスピードが大分上がってきた。実戦でも使用可能だろう。
良いわね。ユウ。下段からの貴重な攻撃方法よ。使えるようになると有利な場面が増えるわ。

こうして俺はごく基本的なエクスカリバーの剣技を身に着けた。発展的な技は戦いの中で覚えていくしかないだろう。

そして巨木撃ちも…
「うりゃうりゃうりゃうりゃおりゃー!」

俺は掛け声を上げながら巨木に木刀を叩き込んだ。摩擦熱で巨木からは煙が吹きあがっている。

「そこまで!ユウ。見事ね。巨木撃ちで煙を出すまでにこの短期間で成長するとは。一ヶ月の時間はかかったけれど、やらしてみて正解だったわ。今日を最終日としましょう。もうこれで特訓は終わり。最後に実戦的な修行を一つやって終わりにするわ。」

「ああ…やっと終わるのか…長かった。余りにも長かったよ。エクス。最後の修行って何だい。」

「私と試合なさい。お互い木刀を使って試合をするわ。覚悟は良いかしら。私はとっくにできている。」

「え、エクスと…?それはいきなり突然だな。お互いに怪我をすると不味いし避けたいんだけれど。」

「貴方の腰に下がっているエクスカリバーの鞘があれば二人とも傷は治癒していくわ。即死でもしない限りね。さあ試合ましょうか。」

「断る事は出来ないみたいだな。いいぜ。やろうか。試合。木刀を渡してくれ。」

エクスは俺に向かって木刀を投げてきた。受け取る俺。
俺は木刀を構えて戦闘態勢に入る。エクスも戦闘態勢に入ったようだ。

エクスとの距離は五メートル弱。俺は地面を蹴って飛び込むと落ちながら剣舞を舞った。
袈裟斬り!龍閃!無明突!

と、撃ち込んでみたものの軽く後ろに下がられていなされてしまう。今度は逆にエクスが撃ち込んできた。

オーラ袈裟斬り!オーラ龍閃!マナの刃を展開した一撃だ。木刀で何とかいなす。

俺はエクスの目の前に再び躍り出ると大技を撃つ準備に入った。一撃や二撃喰らっても構わない。

マナを圧縮して木刀を媒介にして射出する。その名も究極霊閃!大軍用の必殺技だ!オーラの奔流がエクスを襲う。
エクスは木刀を回転させて、究極霊閃をいなしたようだ。

クソ…この技も通用しないのか…密かに練習しておいてお披露目だって言うのに恥ずかしいったらありゃしない。

エクスは再び踏み込んでくる!無明突!三連突!燕返し!
流れる様な中段の打撃と下段からの必殺の一撃を叩き込んでくる。

俺は何とか木刀で全ての攻撃をいなしきった。そしてそのまま攻勢に移る。

霊刃伸長極大!マナの刃を限界まで伸ばす。それを一閃にこめてエクスに叩き込んだ。

オーラ袈裟斬り!オーラ龍閃!オーラ無明突!オーラ三連突!オーラ燕返し!
俺が撃てる限り最高の技術を込めた一撃だった。

エクスは捌き切れず木刀を手放してしまった。体に怪我は無いようだ。良かった。

という事は俺の勝ちだ。まさかエクスに勝てるなんて思わなかった。彼女は俺にとっての師匠みたいなものだったから…負けるなんて信じられない。

「おめでとう。ユウ。私を倒すなんてね。貴方はエクスカリバーを完全に使役するに相応しいマスターになったわ。これからは自分の意志で闘っていけるでしょう。よもや私を下すとは驚いたわね。もう俺の嫁と言っても怒らないわ。だって完全に貴方の制御下にあるんですもの。どうかこれからもよろしくお願いいたします。マスター。」

「ウフフウフフ…そう言ってくれるとはね。ようやくツンデレな聖剣ちゃんのデレが来たー。エクスは俺の嫁!エクスは俺の嫁!いやっほー。何度でも言ってやる。エクスは俺の嫁!」

「マスター。五月蠅いし、気持ち悪い。嫁なのは分かったから、一々連呼しないでもらえるかしら。呼んでも良いと言ったけど、節度を守りなさい。さあブリジストの街へ帰るわよ。長い様で短い一か月間だったわ。」

「了解。程々に嫁って呼びます。…そっか。ようやく街に帰れるんだね。なんだか久しぶりの下界の気がするよ。ようやくちゃんとしたベットで眠れるんだ。そしてもう巨木撃ちをしなくていいんだね。やったー。」

俺達はザイス山を降りるとブリジストの町に向かって歩いて行った。もう夕方になっていたと思う。

宿屋で宿を取ると俺達は眠ってしまった。俺は夢にまで巨木撃ちや技の練習をする所が思い浮かべられて眠りながら苦しんでいた。
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