究極黄金巫女と俺

八雲 全一

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2.1 依頼の日々

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俺は次の日、朝日の中に目覚めた。となりにはギルディーンの姿がある。まだ寝ているようだ。スケスケの巫女服ではなく。厚手の絹で出来たような寝間着を身に着けてこの娘は寝ていた。ふと感情が支配される。美しい。我が手には勿体ない美人だと思う。俺みたいな欲求も定かではない空っぽの人間には。
俺に目標も欲求も無いのは何故だろうと思う。今まで答えは出なかったが今になってわかる。本当に美しいものを見たり感じたりしていなかったからだ。ギルディーンは美しい。言葉に出す事は恥ずかしくて出来ないがとても美しい、可憐な少女である。男なら皆魅力でやられてしまうだろうと一瞬思った。空っぽの器に水が注がれたような気分だ。
もっとも俺の空っぽの器には穴が開いているのでこういう感動した思いをいつまでも閉じ込めておくことは難しいのだ。また空白になって想いや感動は抜け落ちてしまう。
が、ギルディーンが居ればそんなことは無いと思った。彼女がいつまでも美しい感情を俺にもたらし、空っぽの器に水を注ぎ続ければそれは満たされているのと一緒であると思う。
俺はギルディーンが起きるまでその寝顔を横目にずっと待っていた。
眺めていたい…肯定。犯したい…否定。殺したい…否定。睦みあいたい…肯定。
俺はこんな風にしか欲望を算定できないのだ。とっくに壊れちまっている。それでも究極黄金巫女なんていう魔女のような女に俺は壊されていく。もっとはかなく苛烈に軋みを上げて壊れていく。ギルディーン無しでは生きていけないように書き換えられていく。そんな気がした。
俺の空白の二十年間は彼女に出会い一目ぼれを今朝した瞬間に意味のある色のある人生へと変生したのだ。
俺という存在が変わっていく。それはとても嬉しくて、とても切なかった。今までの何も美しいと思えない俺からは切り捨てられたように感じる。新しい俺。空っぽの器から湧きだし続ける俺。それでも良かった。
恋をするという事は破壊するという事である。俺はギルディーンではなくまず自分という最大の障害を破壊し尽くしたのであった。
これからどう生きていくのかは定かでは無いけれどもう放浪をする事はやめだな。昨日も考えていたが俺はギルディーンに魅了されながらフラフラ生きる人生で良いと思った。
こいつ無しでは俺は生きていけない。魅了される。殺される。今までの俺を叩き潰される。
摺りつぶされケイジとしてまた産まれなおす。
そんな事を夢想しているとギルディーンが眠りから目覚めた。一瞬でスケスケの巫女服に着替えたようだ。
「何だ…ボクの顔をそんなに見つめて…フーンそう言う事か。ケイジ。君も人間の雄という事だね。うんうん仕方のない事だ。分かるよその気持ち。ボク自身もボクに出会えば恋に落ちるだろうしね。」
「何もかもお見通しか…その通り。俺は君にきっと恋している。今までの空っぽだった俺が君という内容液で急に満たされているように感じるよ。今朝気が付いた。」
「まあボクとしては今の所答えを出すつもりは無い。これからの君の旅路次第で答えを出そうと思うよ。さあ魅せてくれ。ボクを愛するというのならその形を生きる事で指し示すのだ!」
「分かった。誓おう。君の為に旅路を組んで行動しよう。まあ何処を目指す旅ではないのだけれどね。何処か行きたい所は無いのか?」
「敢えていうのならアヴァロンだね。あそこが気になる。人間の身では通過できないが、神霊の身分も持ち合わせるボクなら通過できる。まずはこの旅はアヴァロンを目指すべきだね。それが第一目標だ。ケイジは生きたままだとは入れないけどね。」
「アヴァロン…伝説に聞く妖精郷。現世に飛び地となっている天界だな。よし情報を集めながら旅路を組むとしよう。まずはこの町で依頼を受けて金を貯める事から始めよう。アヴァロンへ到達するには並大抵ではない金がかかるはずだ。良いかな?」
「任せるよ。ケイジ。君のやり方を見せてもらうとしよう。魔物の討伐には手を貸してやるさ。好きな依頼を受けてくると良い。」
「了解した。」
そう言葉を交わすと俺は下の階にいる酒場の親父に話しかけた。
「直近の依頼は何かないか?なるべく強い奴を頼むよ。」
「ほう…いつもとは面構えが違うな。嬢ちゃんのためかい?まあ良いだろう。こんな依頼があるぜ。黄金熊の討伐依頼。☆六の依頼だな。これを受けるか?」
「ああ…それでいい。詳しい発生場所の情報を教えてくれないか?」
親父は詳しい発生場所が載っている紙を渡してきた。俺はそれを受け取ると二階へ上がっていく。
「ギルディーン。依頼だ。この町の北西の街道に黄金の熊が出るらしい。それの討伐が俺達への依頼だ。」

ボクは今朝目覚めると完璧にケイジが女を見つめる目でこちらを見つめていた。いっけない。天然のチャームが効きすぎているね。それでも生人形のようにケイジを操る事が出来ればボクの自由につながるだろう。
悪くない事だったので乗ってやった。それにしてもあそこまで簡単に絆されるとはね。奴は少し違うと思ったんだが、空っぽの器故、満たされると落ちるのは一瞬なのかもしれないね。
…人にチャームを掛ける事は生きていた頃から日常茶飯事だった。といっても近寄ってくる奴はどいつもくだらない奴だったので、ボクには生まれてこの方伴侶などいなかった。
永遠の処女って奴だね。死ぬ最後の瞬間まで若々しい姿をしていたから、処女ゆえの奇跡とか言われていたとかどうとか…まあどうでもいいんだけれど。
フム…ここまで簡単に陥落されると面白く無いが良いだろう。人間であればボクのチャームに抵抗出来る方がおかしいという物だ。
目的を奴に与えてやった。相変わらず空っぽの奴だったから丁度いいだろう。元のボクが現在も座しているであろうアヴァロンへの帰還だ。
肉体を得たままでは辿り着けない妖精郷がこの世のどこかにあるのだ。そこに向かう事をケイジに目標として与えた。実際に到達できるかは正直気にしていない。それほど困難な事だ。
基本的に妖精郷のような存在は秘匿されつくしている。そこに至るには金も命もいくらあっても足りないだろう。故に終生の目標として下賜してやったのだ。
まあボクを愛するという事はそのぐらいの困難をこなしてもらわなければ割に合わない。途中の魔物退治位は手伝ってやろう。未だゲートオブアヴァロンが不調だが、ここいらの雑魚なら神雷刀で十分のはずだ。ゲートオブアヴァロンが不調な理由は未だに良く分かっていなかった。
まさかアヴァロンが崩壊しているという事は無いだろう。何重にも現世から隔離されつつ存在する場所だ。単純に荒い召喚の為にパスが繋がっていないと考える方が答えとしてあっているだろう。そんなに簡単に無くなるような代物では妖精郷は無い。
ほう…依頼を持ってきたようだな。…黄金の熊の退治?またつまらない依頼を持ってきたものだ。仕方ない力を貸してやろう。本当にここいらで一番困難な依頼なんだろうな?

ギルディーンは考え事をしているようだったが、夢想から抜けると返事をした。
「黄金の熊?実にくだらない依頼だね。ボクの全力を発揮するまでも無い。まあゲートオブアヴァロンが失効している時点で全力とは程遠いがね。良いだろう。力を貸してやるよ。ケイジ。」
「それでは北西の街道に向かうとしようか。」
示された場所はノースランドの北西に二時間ほど歩いた場所だった。俺達は静かな宿を抜けるとノースランドの城下町の目抜き通りを通り過ぎ門までやってきた。門番が門を開けてくれる。そうしてノースランドの北西に繋がる街道を歩き始めた。
「本当にこの先に熊が出るんだろうな。ケイジ。」
「依頼に上がるくらいだ。絶対いると思うぞ。」
本当にそう思う。何人か被害者が出たからわざわざ依頼を出すのだ。町に出てくる依頼というのは引き換えに必ず犠牲者を出している。その中で運よく生き延びたものが町に報告し初めて依頼として上がってくるのだ犠牲者の無い依頼などありえない。
俺達は話しながら歩いて行った。
もうすぐ目標の地点に近づいている。
「千里眼で見える。そろそろ黄金の熊とやらが現れるね。ボクの実力を見せてやろう。お前は手を出すなよ。ケイジ。」
「了解した。元々アサルトライフルでは敵わない敵に違いあるまい。任せたぞ。ギルディーン。」
「その貧相なアサルトライフル以外に武装は無いのか?徒手格闘に近いぞ。」
「だからこそ難しい依頼には手を出さずに路銀だけを稼いでいたんだ。もっと金があれば威力としては最高の対物ライフルが買える。まずはそれまでの間でも金を稼がないとならない。期待しているぞ。ギルディーン。」
「勘違いするなよ。ケイジ。ボクはボクの暇つぶしの為に剣を振るうだけだ。お前が暇つぶしにも値しないと思ったら即座に見殺しにしてやるからな。」
なんと物騒な事をこの女の子は口にするのだろう。それですら狂おしい愛情を感じる…やはりチャームの類が強制的に働いているらしい。まあ惚れてしまった弱みでもあるし、生きる意味のない俺の人生に光を与えてくれた大事なスレイブだ。精々捨てられるまで気を使う事にしよう。
「ああ…覚悟はできているさ。君を楽しませる戦いをしなくてはな。まあ全力であがいても勝てない相手というのもいるが。」
「気になっていたんだが。オドはあるのに魔法は使わないのか?ケイジ。」
「使い方を知らない。今どき魔法を使える奴なんかいないさ。だから皆銃で武装している。だから絶対に敵わない相手というのが出てくるんだ。逆に言うと自分より弱い相手には効率よく死を与えられる。黒歴史の産物である銃は山のように出てくるんだ。今は製造されていないから高値でやり取りされているけどな。俺のアサルトライフルも元は高かったんだぞ。銃と弾を買いそろえるまでに二年は掛ったね。その間放浪の旅を止める必要があったんだ。」
不機嫌そうなギルディーン。魔法すら使えない人類に怒っているようだ。
「つまらないな。魔法の行使すらできない程人類は落ちぶれたのか。そして魔物の大量発生。これでは人類は復興するどころか、再び崩壊に向かう筈だな。致し方ないように思えるね。そしてケイジ。君もそんなつまらない人間の一人という事だ。精々楽しませろよ。」
ギルディーンは冷たく言い放った。俺は捨てられない為にもまた生き延びるためにもつまらない闘いというのが出来ないだろう。アサルトライフルの他の武装は刀が一振り。銘も知らぬ刀だ。闘える魔物なんて限られている。精々インプやガーゴイル等の下等な妖魔に限られているであろう。今回の依頼の黄金熊にはまるで通用しない筈だ。それでも振りかざして闘う事は可能だが、恐らく俺は死ぬ。そして俺は死ぬ事は許されていない。
そして気づくと濃厚な魔の気配が漂っていた。ギルディーンが口を開く。
「ケイジ。感じるか魔物の波動を…獲物は近いぞ。ボクが頂いていくけどね。」
ああ…と答えたその瞬間、草むらから黄金の熊が飛び出てきた。
体長五メートルは下らない巨大な熊だ。全身から神気を醸し出している。その存在は…在り方は神の領域に踏み込んでいると言えよう。これまでに何人の人間を狩り食べてきたのかは分からない。俺一人なら死を覚悟する相手だ。アサルトライフルも無銘の刀も通用しないだろう。
俺は体が竦んでしまったし、約束の通りギルディーンに任せることにした。
ギルディーンは刀を抜くと空中に舞い消えた。そして黄金熊の前に突如として姿を現した。そのまま黄金熊の心臓をまるで何の障害も無いように黄金の刀で貫いてしまった。そして熊は死んだ。
俺は今見た光景が信じられなかったが、これが彼女という英霊の強さの証なのだろう。その身神霊に至る敵に相対したとしても怯える事も無く撃破セリ…か。俺は死んだ熊の写真を撮影した。これが重要な証拠となるのだ。
ギルディーンは満足げだ。
「どうだケイジ。見たかボクの剣の冴えを?一撃必倒の神武の業を?フフン。褒め称えると良い。良い。許すぞ。」
「流石としか言いようがない。君は本当の英霊なんだな。太古にはもっと強い妖魔がわんさかいてそれを綺麗に狩って捌いていたんだろう。そんな気がするよ。負けた。君がナンバーワンだ。ギルディーン…いや究極黄金巫女様。」
「フフ…分かればいいのだ。分かればね。さあ報酬をもらいに町まで戻るとしようか。今日は高い食事を食べさせるんだ。良いね。ケイジ。下賤な食事とは言え高くなればまた勝手が違うだろう。」
結構食事の事とか気にしていたんだな。言わないからあんまり気にしていないのかと思っていた。まあ良い。町に帰るとしよう。
俺達は北西の街道から帰ることにした。今日は雪も雨も降っていない。晴天だ。現在の時刻は昼過ぎといった所だろう。夜になるまでには帰れるかなと思う。
お互い会話も無く帰ったが、この無声が心地よかった。やはり俺は変わっているのかもしれないな。好きな女と会話をしないで無言の方が心地いいなんて。
それからしばらくしてノースランド王国の城下町が見えてきた。夜に近い時刻なので町全体に明かりが灯り始めている。門の中を潜った。町は既に夜といった様相で歩き回っている主婦や子供たちの姿は無い。俺達は目的地の酒場兼宿屋に戻った。中には仕事中と言った感じで声を張り上げている親父の姿があった。
親父に話しかける。
「依頼対象の黄金熊を倒したぞ。これが証拠の写真だ。」
「ああ?兄ちゃんか。黄金熊をそちらの御嬢ちゃんと倒したなんて冗談を言うのもほどほどに…って本当に倒してるじゃないか!オーマイゴッド!なんつう事だ。信じられないね。」
親父は素っ頓狂な声を出して驚いた。それほど信じられない事だったらしい。ギルディーン曰く不敬に当たらないのか、ドギマギした。
ギルディーンに目配せする。特に表情は変えていない。仏頂面というか少しムスッとしたような顔だ。愛らしい顔が台無しであるが進言するのは阻まれる。
俺が口を開く。
「親父。御託は良いから。熊を退治した賞金を払うんだな。」
「良いぜ。悪い悪い!俺としたことが驚きすぎちまったな。」
親父は一度店のカウンターの奥に戻ると金貨の山を持ってきた。
「ほらよこれでいいか。」
「ああ…大丈夫だ。またの依頼を待っている。」
十分に三ヶ月は生活できるほどの金貨をもらった。これでしばらくくいっぱぐれることは無いだろう。
「ケイジ。約束だぞ。高い料理を食わせるんだ。良いね。」
「勿論だ。約束したもんな。親父。俺とギルディーンに一番高い定食を持ってきてくれ。」
「あいよ!ちょっとまってな!」
数分程待たされると豪勢な食事が出てきた。山盛りのパンとスープにデカいステーキだ。きっとかなりの値段がするのだろうと思った。まあ思わぬ依頼料が入ったばかりだ。ケチケチしないで行こうと思う。
「まあまあな食事では無いか。ケイジ。許そう。毎度この食事を食えるくらいには稼ぐんだぞ。良いね。」
「ああ。その代わりに君の力をフル活用させてもらうよ。ギルディーン。君がいるのと居ないのじゃ大違いだ。」
そう言葉を交わすと俺達は飯を食い始めた。心地よい沈黙が流れる。肉が旨いな。やはり肉体労働をした後は肉が良いに決まっている。以前は節約のためにパンしか食べないこともあったが一度こういう食事を覚えてしまうと人間生活のランクを落とすのは大変なものだ。体が覚えてしまっては仕方がない。
完食した。ご馳走様でしたと親父に伝える。ギルディーンも食べ終えたようだ。結構な量があったが食べて大丈夫だったのだろうか?
「ギルディーン。あの量の食事を食べて大丈夫だったのかい?」
「全部魔力に変換してしまうから問題ないよ。幾らでも食べていいぐらいだ。正直お前からの魔力供給じゃ少し足りないかもしれなくてね。」
「俺は魔術師じゃないからオドをそんなに鍛えていなくてね。申し訳ないな。」
俺のオドは常人並みだろう。それを使っての英霊の召喚は無理に近かったに違いない。だからこそギルディーンは一部の武装しか持たずにこのイスワルドに投げ出されてしまったのではないか?と思う。
本来の「魔術師」という伝説上の人物が召喚すればオド…体内の魔力機関の事…は十分であったろうし、全ての武装が使える完全体に近い究極黄金巫女が呼べたはずだ。
俺はオドが並みでしかないことを初めて恥じた。まあ自分の所為では無いにしろ才能がないのに魔術に関わってしまったこと自体が失敗に等しいのではないかと思う。
夢想を続けているとギルディーンが話しかけてきた。
「さあそろそろ二階に上がって寝るとしよう。ボクも本来の力を振るって疲れてしまったよ。また明日からも戦いは続くんだろう。休憩する事も肝心だよ。ケイジ。ボクに使えるという意味でお前には休息は与えられないが、休憩を十分に取らないとその肉の器では全力を出せないだろう。それは生きている人間として仕方ない事だ。ボクも魔力だけで生きている訳にはいかなくなった。睡眠も必要だし、休憩も取る。」
「ああ…分かったよ。君に任せるよ。俺も何もしていないけれど疲れが出ていた所だ。」
そう言葉を交わすと俺達は酒場のカウンターから立ち上がり、二階の宿屋の部屋まで上がっていった。相変わらずベッドが二つ並んでいるだけの簡易な宿屋だ。宿のグレードに不満があっても帰るわけにはいかない。何故ならノースランドには王室御用達の宿屋か、この粗末な宿屋の二つしかないのだ。
俺達は言葉を交わさずに眠る事になった。その日は何処か懐かしい光景を夢に見た。原初の平原、それを治める金色…いやきんぴかの巫女とその配下たち。在りし日の究極黄金巫女だろう。冷酷ながらも慕われている伝説の巫女様。人としては超越者になり死ぬ最後の一瞬まで輝き続けた女王。彼女の人生を表すには簡潔すぎる言葉だ…もっと夢の続きを見たいと思ったが気付いたら朝になっていた。

夢を見た。かつてボクが治めていた日の本の国だ。懐かしい顔ぶれだ。皆部下達は長命種であったためにボクよりも長生きだった。
ボク自身は神霊より強いとは言え所詮人間のみにすぎなかったのだ。
最後の瞬間まで若いまま輝き続けたが、それでも終わりの時はやって来た。今では日の本も崩壊してなくなっているようだが人類史崩壊前は日の本も継ぐ国が存在し民を治めていたらしい。
まあボクの作った国が簡単に潰れるわけは無いか。その人類史崩壊前にも英霊同士の決闘の儀式のためにボクを召喚する不敬者がいたらしい。
まったく度しがたいアホだ。怠惰と堕落の象徴である日の本にボクを呼んでただですむと思っているところがすごい。撫で切りにして死なすだけでは足りない。その状態で生かしたまま闘いに放り込んで、全ての闘いに勝たねばとても許せないだろう。
ボクという英霊の在り方は現世とは相容れない。何故なら人間の醜さに飽き飽きしているからだ。ただ、美しいものだけを見つめたかったから死後はアヴァロンにいるのだろうと思う。まあ現世に居たときからアヴァロンとのパスは通じていたのだが。
アヴァロンはかの名高き王、アーサー王が身を休めていると言われている。ボクはその時代から二千年は昔にアヴァロンを発見して日の本の領土とした。
元々神々の飛び地としてアヴァロンは存在していたのだ。飛び地とは神が現世にちょっかいを出すために存在している領土である。
それを人間の身で征服して我が物とした。神と人間の子孫エルフも日の本には大量にいたのでアヴァロンをアクセスして乗っ取るのは簡単な事だった。
そしてそこにいる妖精王に死後、ボクに治めさせる様に脅しを掛けたのだ。それと妖精郷に溜め込んでいる何千、何万というあらゆる宝貝を開帳させた。それを死ぬまでの間は手足の様に操っていたのだが…貯蔵されている宝貝は霊的な存在だったので、魔力を通せば現れる。その後捨てようが爆破しようが、元の存在がアヴァロンに存在しているのでいくらでも召喚出来るのだ。言わば弾切れのない何発でも射てるロケットランチャーの様なものだ。流石に時代が違いすぎて銃火器の貯蔵はないけれどね。
それにしてもアヴァロンへのパスの不調はいつまで続くのだろう。ボクの闘い方は大量の宝貝を用いるものが本来の闘い方だ。神雷刀一本でも神すら殺すことはできるが、身の危険がある闘い方をするのはどうかと思う。ボク自身も攻撃にオドを転移するだけで回復魔法は使えないのだ。精々使うとしても瞬間移動に亜空跳躍という技を使うくらいである。他のオドの使い道はゲートオブアヴァロンだ。後は飛びきりの攻撃手段があるが…ゲートオブアヴァロンが開かない時点でその武器も使い物にならない。
まったく困ったものだね。一万五千年ぶりに目覚めてここまで困らされるとは思わなかった。ケイジのオドが貧弱なのが原因なのだろうか?それなら一時的にオドを拡張してやればゲートオブアヴァロンにパスが繋がるかもしれない。
ボクは思い立つと布団の中で夢想するのをやめて起きた。
ケイジももう起きているようだ。
勘違いするなよ。ケイジ。より体を深く寄せあって魔力回路を拡張するのが目的なんだからな…

俺は目を覚ました。ギルディーンも目を覚ましたようだ。何やら考え込んでいるようだ。仕方がない。俺は朝の静謐な時間をぼうっとして楽しんでいた。何も考えなくて良い。ただギルディーンが近くにいるだけで俺の心は満たされていったのだ。今日は二人で何をしようかまた依頼をこなすことになるのだろうか?彼女にまた頼りきりになってしまうな。そんなことを呆然と考えているとギルディーンが声を掛けてきた。恐ろしい形相をしている。
「ケイジ。目をつぶれ。体液の交換を行うぞ。これでボクの不調が治る可能性が高い。」
…体液の交換?何を言っているんだ。まあ従うしかないか。俺は目をつぶった。
唇に柔らかい感触がある。キスされている…!
俺は心地よさのままに従っていた。ギルディーンは更に舌を絡めてきた。唾液と唾液を交換する。これが体液の交換か…ギルディーンはなぶるようにキスを続けてきた。俺は無抵抗のまま口を凌辱される感触を楽しんでいた。まるで溶けてどこかに飛んでいきそうになる気分だ。世界にはこんな甘美な事があって赦されるのであろうか。
しかし甘美な時間はそう長く続かなかった。
凌辱をやめてゆっくりと口を離すギルディーン。その口は唾液でまみれていた。
俺もゆっくりと目を覚ます。酔いしれていた。正直にいうとずっとキスをしていたかったのが事実である。ああ気持ちがよかった。と呆ける俺。
ギルディーンは般若の形相で何かを試している。
ふと、宿屋の粗末な部屋の気温が急に下がった。体が痺れてバラバラになるほどの神気を感じる。ギルディーンは口ずさむ禁忌の呪詛を…
「ゲートオブアヴァロン!開帳!無銘創世剣!」
紫色の空間の歪みからある一本の剣が差し出された。ギルディーンはそれを手に取る。
満足げに眺めるとニタリと笑いそれを霊体化して治めた。
「今のは一体…?」
「ケイジ。君のオドを体液の交換で拡張してやったんだよ。君自身には使いどころが無いだろうけど、ボクは君のオドが主燃料だからね。大事な儀式をしたのさ。これでボクの全力全霊の闘いが出来るというものだ。最早ボクに敗北は無いだろう。あるのはひたすらの勝利を積み重ねるケイジとボクの姿だ。お前、とんでもない鬼札を引いたな。ケイジ。思い知らせてやろう。最強とはボクの事だと。」
凄まじい気迫で語るギルディーン。これがこの英雄の本気なのだ。太古、星の果てまで征服したという究極黄金巫女…!!その全身全霊を感じとり、俺は武者震いをしていた。この世界の片隅で核兵器を作り上げる感じが堪らない。
今の彼女と俺ならばどんな依頼もこなせることだろう。恐る恐る俺は口を開いた。
「ギルディーン。今日も依頼を受けて良いか?きっと山ほど俺には危険な依頼があると思うが。それでも良いかな?君の力を信じたいんだ。」
「もちろんだ。許す。とく許す。ボクの真の力をお目にいれよう。さあ依頼を持ってくるが良い。ケイジよ。早く行け。」
俺は足早に一階の酒場に降りると親父に声を掛けた。
「おはよう!親父。この町で一番危険な依頼を受けさせてくれ。」
「あんちゃん…変わったな。今までは地味な仕事しかしなかったのにな。よし良いだろう。☆八の依頼だ。リザードエンペラーの討伐だ。道中にはリザードマンも大量に湧くらしいが全部倒したら報酬はたんまりだぜ!それこそブラックマーケットで高い銃が買える位のな!」
「分かった。ありがとう。依頼書を頂いていく。」
二階の宿屋に戻る。ギルディーンはゲートオブアヴァロンの接続を確かめている様だった。
「依頼を貰ってきたぞ。ギルディーン。ノースランドから南西に進んだ場所にある古竜の巣が依頼の場所だ。今すぐ向かうとしよう。」
「良し。良いだろう。許そう。それでは向かうぞ。ケイジ。ボクの本気を見せてやろう。滅多に見れるものじゃないぞ。特別に機嫌が良いから魅せられるんだ。感謝してひれ伏すと良い。」
俺達は言葉を交わすと宿屋から出て目抜通りを歩き門までやって来た。
門番に話しかけると二つ返事で町の外に出してもらえた。今日の天候は粉雪が降っている。特に移動の支障にはなりそうになかった。
移動を開始する。到着まで恐らく二時間ほどだ。

ケイジが新しい依頼を持ってきた。リザードエンペラーというとち狂ったリザードマンの討伐依頼のようだ。リザードマンごときが皇帝を名乗るなど生意気も良いところである。
せめてドラゴン種族なら分かるがドラゴンエンペラーなんてボクは聞いたことはない。
名前付のドラゴンなら無数に葬ってきたがね。
空は粉雪が降っている。往来に問題はなさそうだが、ケイジの体力が地味に奪われる可能性があった。
ハァボクを使役するのなら移動用の宝貝位持っていてくれと言いたくなる。こんな事を毎度心配しなくてはならないとは…まさに不敬だ。
古竜の巣への道筋は何ら障害は今のところなかった。もしかしたらリザードエンペラーだけではなく、竜もいるのかもしれないな。まあそれでも全力で闘えるボクには問題がない。竜なぞ腐るぐらい屠ってきたのだ。
大体リザードエンペラーとは何なんだ?デカイリザードマンなのか?それともただのお飾りの王様なのかまったく分からない。
どちらにせよ。ボクの前には屍を晒す他ないのだがね。旅路は退屈だった。ケイジに話しかけてみる。
「リザードエンペラーを倒すとどのぐらいの報酬が貰えるんだ?ケイジ。」
「ギルディーン。新しい強烈な銃が買えるくらいの金にはなるさ。実際この依頼が終わったら買い換えようと思っている。」
「それは良いね。ケイジも闘いに参加できないと退屈だろう。退屈しのぎに参加するためには銃が必要だろう。許すよ。新しい銃を買いたまえ。ケイジ。」
「まあ闘う前から勝った気でいるのも良くないけどな。」
ボクは少し怒った。怒りが空間を歪曲させる。
「ボクを使う癖に勝てるかどうか分からないだと…?お前はまだ何も理解していないようだな。ケイジ。まあ後もう少しでボクの本気が見れる。それを見てから考え直すと良いだろう。」
「悪かったな。怒らせるつもりはなかったんだ。俺は心配性なだけらしい。」
そう言葉を交わし終えるとゴツゴツとした山道を歩いていった。ケイジ曰くこの山の山頂にリザードエンペラーが座しているらしい。
道中でリザードマンと出会った。ボクの宝貝を使うまでもない。
ケイジがアサルトライフルを単発で発射すると皆息絶えていった。
これがケイジに取っては的確な対処が出来るレベルの敵らしい。
つまらないな。こんな雑魚を狩って何になると言うんだろう。ただ空しいだけではないか。泣きたくなるぐらい空しいだけではないのかとケイジの胸中を察するが、相変わらずボクへの愛で埋め尽くされているだけなのだろう。哀れな男だ。欲望も野望も無かった。あるのは盲信的な…ある種の病気的なボクへの愛情だけだ。他は空っぽ。伽藍の堂。時代が時代なら精神的な病棟にくくりつけられているかも知れなかった。
だって余りにも何も持っていないもの。人から何か与えられる度に発狂しそうな快楽を得ているだけだ。それがたまたまボクへの愛情だったのだ。
そう考えると愛情を逆に利用されている気がして嫌気が差した。
生きる目的が空っぽだからボクへの愛情を生きる目標にしたのだ。それは分かるが余りにも空しい人生ではないか。
どこか途中で放り出そうと思っていたが、そんな事が出来なくなるくらい心配になってきた。
夢想から覚める…ケイジに頼りっぱなしだったな。少し反省した。並みいるリザードマンはケイジに射殺されて死んでいった。
今は山の山頂まで辿り着いた。一際大きいリザードマンがいる。両手に双剣を持っている。飛べるようでこちらに飛びかかってきた。
ボクは冷静に宣言する。
「ゲートオブアヴァロン!開帳!」
十門ほどの紫の空間の歪みが開いた。そこから宝貝を発射する。神速で射出される名だたる宝貝。全てが飛んでいるリザードエンペラーを串刺しにした。血を吐き墜落するリザードエンペラー。まだ絶命していないようだ。ボクはリザードエンペラーに刺さっている宝貝を起爆する事にした。
「ファンタズムボム!一斉爆破!」
リザードエンペラーの体が弾け飛び即死する。呆気ないものだね。これで闘いは終わりだ。
ケイジがリザードエンペラーの死体に近寄ると写真を取り憑かれたようにパシャパシャと取っている。
仕事だから仕方ないのだろうけれど死者を辱しめているようで気に入らないね。まあ良い。仕方ないさ。醜く哀れな人間はこうでもしないと分からないのだから。

ギルディーンはリザードエンペラーを意図も簡単に倒して見せた。謎の空間から武器を射出し串刺しにした後、起爆して倒したのだ。こんな珍妙な闘い方は見たことも聞いたことも無かった。
これが彼女の本気の力だというのだろうか。俺にとってはショッキングな出来事だった。
今までは銃の強さが強さの計りだったが、それが変わってしまったのだ。
あらゆる英霊の武器を貯蔵するアヴァロンへの扉か。間違いなく最強の切り札だろう。
もしかしたら更に切り札があるのかもしれないが俺の及び知ることではなかった。
俺は今倒したリザードエンペラーの写真を取っている。
必要以上に撮影してしまった。これでは俺が猟奇的な趣味を持っているようだ。
生憎死体の写真を撮って絶頂する趣味も記憶も無かった。撮影を停止する。
呆然と立ち尽くすギルディーンに声を掛ける。
「これが本来の君の力か。俺はとんでもない英霊と契約したらしいな。」
「フフン。分かれば良いのさ。分かればね。さあノースランド王国に帰るよ。ボクは腹が減っているんだ。」
「ああ…分かったよ。早く帰ろう。日が傾く前にな。」
俺達はそれきり言葉を交わすこともなくノースランド王国を目指した。歩きながらも俺は夢想した。
自分ならどうやってリザードエンペラーを倒しただろうか?
アサルトライフルを全弾射ち尽くしても狩れなかっただろう。残りの弾薬は三百発ほどだった。
リザードエンペラーはリザードマンの何倍もタフなはずだ。まあゲートオブアヴァロンでほぼ即死していたが。
口を開いた瞬間に口に目掛けて射ち続ければまあ死んだかもしれないな。相当接近しないといけないのでリザードエンペラーが両手に持っていた剣で切り裂かれるかもしれないが。
とにかく俺には勝筋が薄い敵ということだ。
惚れた身としては気が引けるがこれからもギルディーンに頼る事が増えるだろう。
俺は黙って歩いていた。ギルディーンも口は開かない。天候は相変わらず粉雪が降っている。歩くのに支障は無かった。心地よい沈黙だけが残っていた。好きな人と一緒に歩くだけでここまで満たされるものだとは思わなかったのだ。
俺の人生ではじめての経験だった。孤児院にも女の子は居たがそれは恋愛の対象ではなく家族だったし、色恋を自覚する前に十歳の時に孤児院を飛び出してしまった。今でもあの時に孤児院を飛び出したのが正解かどうかわからない。あのままだと荘園に引き取られて農奴になっていただろう。その人生も悪くはない気がする。何も変化はなく土いじりをする毎日だ。空虚だが空っぽの俺には似合っている。
ふと口を開く。もうノースランド王国が見えてきていた。
「ギルディーン。俺と会えて良かったか。」
「良くはない。だからこれから良くなるように努力しろ。空っぽの器をボク以外で満たして見せろ。」
「努力をするとしよう。君の為だけではなく俺のためにも。」
また無言になって俺達は歩き始めた。もう少しでノースランドに着く。
空っぽの器を満たせか…今の俺にはギルディーン以上に美しい者は想像ができなかった。もし器を満たすとすればそういう類いのものを探すと言うことになるだろう。
「だけど、君以上に美しいものなどこの世にはない…」と独り語ちる。
「当たり前の事は口に出すだけで失礼になるぞ。覚えておけ。ケイジ。ボクが美しいのは当たり前の事なんだ。それ以上を追い求めるな。それ以下で自分を満たす物を求めろ。今は難しいかもしれないが、それが自分の身を救うことになると思うぞ。どうするんだい?いきなりボクがいなくなるかもしれないよ。」
「それは困るな。生きる目標・活力をようやく手にいれたっていうのにまた失ってしまう。それはどれ程の損失になるんだろうな。とても算定できる損失じゃない。頼むからいなくならないでくれよ。ギルディーン。」
「ボクだって不覚をとって死ぬかもしれない。そのぐらい世には死が揺蕩っているんだ。もちろん現役の頃はすべてを切り伏せてきたけれど今は違う。全力全霊を尽くすことが出来るが…それでも護りを突破されることもあるだろう。その時ボクはきっと死ぬだろうね。その時に呆然としないで闘うんだ。ケイジ。君なら出来るだろ。」
「どうかな。出来るように努力はするけどな。今俺の中で君が染める割合がもっとも高い。どうにかして別の物にも興味を持たないとな。」
出来もしない約束を俺は口にした。もう俺は君の物になっているから、壊れたから他の物には興味なんて持てないってのに。後他に興味があるのは仕事道具くらいだ。リザードエンペラーの討伐代金で対物ライフルを買えるくらいの金額だろう。俺の考えうる限り最強の銃火器だ。
それがあればギルディーンと対等に闘えるフィールドに立てるだろう。
今ノースランド王国の正門にいる。門番に話しかけて中に通してもらった。目抜通りを何時ものように抜けて酒場に入る。
中では親父が客に接客していた。親父を呼び止める。振り向く親父。
「親父!リザードエンペラーの討伐が終わったぞ。」
そう言うと俺はリザードエンペラーの死体の写真を渡した。
「おいおい…まさか本当にやっつけちまうとはな!ちょっと待ってろよ!」
そう親父は言うとカウンターの奥に金貨を取りに行っている様だった。親父が戻ってきた。
「あいよ!持ってきなコンチクショウ!」
手渡された金貨はズシリと重みを感じさせる量だった。これだけあれば新しい銃を買えるだろう。
「確かに受け取った。食事も頼む。最高の定食でな。」
そう言うと俺とギルディーンはカウンターについた。
今日も大盛りの定食が運ばれてくる。
「そうそうこのくらいの定食を毎度食べられるくらいじゃないとね。分かってるね。ケイジ。」
「ああ…このくらいなら魔物退治を続ければいくらでも食べられるぞ。まあそんなこと関係なしに暇潰しに魔物退治をさせられるかな?」
「そうだね。戦闘が無いと暇で暇で仕方がないもの。もちろん依頼以外の戦闘でも良いんだよ。生意気な集団をとっちめるとかね。」
「生意気な集団か…ラースフィールドというハイテク武装集団がいるがこんな田舎の国じゃまずお目に掛からないだろうね。あいつらは略奪の限りを周辺の国に繰り返している問題児なんだ。ここからもっと南の方にいる集団だ。」
「ふーん。面白そうじゃないか。ここは北の外れの国のようだね。アヴァロンを探すとしたらまず闘いになるんじゃないだろうか?その時が楽しみだよ。ハイテクで武装しているのに宝貝が防げずあたふたしている姿が今からでも簡単に想像できるね。」
「といってもな。ギルディーン。奴等はとにかく数が多いから全部敵に回すと大変なことになるぞ。一万人のハイテク武装集団を殲滅するのは君でも難しいだろう。」
「そういわれるとやる気が出てくるんだよねえ。お前は本当にボクの律し方が下手くそだね。まあ良いよ。ラースフィールドとか言うのはお前の器を満たせるかもしれないね。そこに期待をさせてもらうとするか。」
そんなこんなを言っている内に飯が冷めかけてしまったので急いで食べた。冷めるとボソボソした食感になるので食べにくいのだ。
俺は食べ終わったが、ギルディーンはまだのようだった。飯が冷めてしまったからか箸の進みが遅かった。
俺はじっと彼女が食べ終わるまで待っていた。
いかんな。飯を食べる姿さえ美しいと思えてしまうのだ。天然のチャームか。そんなものを持っている奴を召喚してしまったのが運の尽き。一生引きずり回されるに違いなかった。
それから十分ほどして彼女は食事を完食した。
「少し会話をしすぎたみたいだ。ボクの時代だったら冷めた飯を食わせただけで折檻部屋送りだったけれど。現世ではそうもいってられないか…残念だね。」
俺はこの後の事を考えていた。銃を売っているブラックマーケットに出掛けたいが、彼女は着いてきてくれるだろうか?
「ギルディーン…銃を買いにブラックマーケットに行くが着いてくるかい?」
「ああ…良いだろう。一人じゃ暇だしね。付き合ってやろうじゃないか。さあ行くぞ。ケイジ。」
そう言うと彼女は酒場のカウンター席を立った。俺も合わせてカウンター席を立つと金貨をコートの中に隠した。すられてしまっては大変だ。それだけ大きい金額だったのだ。酒場を出ると裏路地の方に入っていく。外はもう真っ暗だった。
闇の帳が落ちたその先にブラックマーケットは合った。店に入店する。怪しい風貌の男がそこにはいた。顔も覆う布もついたローブで全身を覆っている。その男が口を開いた。
「ヒヒヒハヒ…いらっしゃい。どの銃にする?良いものばかりだよ。」
棚に並べられている銃に目を通していく。サブマシンガン、アサルトライフル、ロケットランチャー、対空ロケットランチャー、機関銃…そして俺は目を見張った…対竜狙撃銃…こんなレア物がブラックマーケットに出回っているとは…値段は高いが買えなくは無い値段だ。
ギルディーンに目配せしてみる。
「どうしたケイジ。面白いオモチャを手にいれた子供のような顔をしてボクを見るなよ。好きな物を買えば良いじゃないか。ふーむ。ボクがほとんど稼いだ金だから気を使っているのかい?気にしなくても良い。アヴァロンには金塊なんていくらでもあるからね。面白くないから金を貸すことはしないけれど手にいれた金の使い道は君次第だよ。ケイジ。」
「了解。ギルディーンは話が早くて助かるよ。俺はこの対竜狙撃銃を買おうと思う。まあ早いところドラゴンキラーだな。」
怪しい風貌の商人が話しかけてきた。
「旦那さん。良いものに目をつけたねえ。安くしておくよ。今の内に買っちゃいなよ。ヒヒヒ」
「良し!買った。これが代金の金だ。弾も多めに売ってくれ。」
「分かったよ。たんまり殺せるように…弾は大事だからね。多めに入れておくよ。」
俺は重たいドラゴンキラーとその弾を受け取るとブラックマーケットの外に出た。ギルディーンも着いてくる。今日はもう眠るだけだった。暗い路地裏から宿に辿り着くまで歩いていく。ふとギルディーンが漏らす。
「ドラゴンキラーか何か知らないけれどボクより戦功を上げることは許さないからな。」
とむくれるギルディーン。
「分かっているさ。あくまで君についていくために買ったものだよ。君を追い越してやろう何て思ってはいないさ。」
「フン!嘘はついてないみたいだね。まあ良しとしておこうか。」
俺達はそう言葉を交わしながら宿屋に戻っていった。粗末なベッドだけが並んでいる部屋に戻ってきてしまったなと思う。
寝る前に挨拶だな。
「お休み。ギルディーン。」
「フッ休むことを許してやろう。ケイジ。さらばだ。」
と何処に行くわけでもないのに気取った挨拶でギルディーンは眠りについた。
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