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中等部編

第42話 デスマーチを開始します

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アカネはタブレット端末に表示された場所を指差す。

「4箇所からよく絞ったにゃね。」

「分身体で調査済みよ。」

「手が早いにゃ」

「どこだここ?アルドリアからかなり遠いな。」

「地球の裏側に行くよりも遠いわ。」
それを見ていたロモが呟く。

「魔王城にゃ・・・」

「は、魔王城?黒龍の正体は・・・」

「魔王の手下って事ですね。」

表示されている地図上では5つ程の王国を過ぎた場所にも関わらず、
そのあまりの距離にこの世界の広さが伺える。

「だとしてもドラゴンで行ってもかなりかかりそうだな。」

「えぇ20日ほどじゃないかしら?それにその間にある王国がね・・・」

「王国がどうかしたのか?」

ロモは歯を食いしばった後に呟く。
「ロミウル王国の破壊と想像にゃ・・・・」

「聞いた事ないな・・・」

「ロミウル王国は前世と同等の技術力を持っていて、そこにいる転生者、破壊と創造は強敵よ。」

「強敵ってことは対立してるのか」

「えぇ、破壊は転生特典を含むあらゆる物質を破壊できる能力、
創造は見たことがある物質を生成する事ができるわ。」

「ガチのチートじゃねえか、破壊されたんじゃ打つ手が無いだろ。」

「やっぱり、破壊が一番厄介だと思うわよね・・・。」

「創造はアカネに近い能力だろ?」

「全くの別物ね・・・生成といってもコピーみたいな物だから、人も生成できるのよ。」

「コピー&ペーストで人も物も無限に・・・って無茶苦茶じゃねえか。」

「聞いた噂だと、周辺国で”奪取者を狩る奪取者”と呼ばれているみたいにゃ・・・」

「それ大丈夫なのか?そんな実力なら今頃そいつらに世界征服されててもおかしくないだろ。」

「前世の核兵器みたいに世界中の王国ごとにS級転生者保有数が制限されているから、今のところは大丈夫みたいね。」

「今更だが、転生者にランクがあるんだな。」

「もちろんよ。基本は功績に対して評価されるわね。」

俺は初めて奪取者が現れた時に使用した2本の槍を、アカネが衛星まで転送していた事を思い出す。

「で、肝心の移動手段だが衛星の転送機能を使えないのか?」

「あれは物に対してのみ使えるわ」

「ダメか・・・」

リンが悲しそうな顔をする。
「ドラゴンもダメとなるとナシェちゃんは・・・」

「まぁその手段は考えてあるわ。安全かつ迅速に魔王城に向かう方法がね。」

「どうするにゃ?」

「宇宙に行くのよ。」

「は?」

その意外な言葉を聞き俺は疑問を持った。
「転送機能は使えないから衛星には行けないだろ?」

「少し勉強不足ね。前世で情報収集プログラムを作っていたんじゃないのかしら?」

「あぁ作って収集していたが・・・・」

「ならRLV 再使用型宇宙往還機ぐらい知ってるでしょ?」

俺は聞き覚えのある単語とその移動手段に驚く。

「は?お前まさか・・・」

「えぇ宇宙を経由して魔王城に乗り込むのよ」

3人が驚く
「にゃ!?」
「えーっ!って宇宙ってなんですか!?」
「宇宙って何ですか・・・」

転生者のロモはともかく残りの二人は宇宙すら知らなかった。

「宇宙というのは空よりも高いところな。」

「だ、大丈夫なんですか!?」

「えぇ、それに空を飛ぶよりも安全で速いわ。」

「はぁ、そうなんですね・・・」

「物はあるのか?」

「無いわ、だから今から作るのよ。」

「これですぐにナシェ救出ができるな。」

「すぐには無理よ。あれだけの規模の物になると、半日ほど時間が掛かるから手伝ってもらえるかしら。」

「あぁ、徹夜確定だな・・・今夜限りのデスマーチか。」

「えぇ。私がいる限りデスマーチにはならないと思うけど。」



そこから約6時間に渡る宇宙を目指すための準備が始まった。
そしてアカネは必要なものを配布する。
3人にはこれね。

「タブレット端末にゃ!?」

「えぇ。コウの持ち物にアクセスできるからそれを使って必要な素材を取り出して頂戴。」

「はい!」

「俺の持ち物から作るのか?」

「えぇ、私の能力でもかなり時間が掛かるから厳しいわね。」

「なるほどな。」

「貴方にも協力して貰うわね。」

見慣れたノートパソコンが渡される。

「見たところ、俺のパソコンだな・・・」

「えぇ、中身もごっそり同じよ。それを使って機体制御のプログラムを組んでちょうだい。」

「中身もごっそりって・・・・」

パソコンの中身を見られるのは全ての人にとって恐怖で禁忌だ。

「あんな貧弱なセキュリティーでオンラインにしてる方が悪いのよ。」

「こっちは急死したんだぞ・・・それにお前の前ではオフラインでも防ぎようがないだろ。」

アカネは少し笑いながら呟く。
「ふふっ、でもリンちゃんみたいな子が好きだったなんてね・・・シスコン?」

「おい・・・」

「え?私がどうかしたんですか?」

「コウの好みがリンちゃんそっくりなのよ。」

「えぇ、そうなんですか!コウさんいつでも甘えて来てくださいね。」

「あ、あぁ・・・」
その優しさが痛かった。

「今度から自動削除プログラムを組んでおくことね。」

「そうするよ。」

どうやらソフトに関しても人手不足らしい。
アカネから仕様書が渡される。

「デスマーチを思い出すな・・・ってことは」

「えぇ。入って頂戴。」

アカネがその言葉を呟くとある人物が入ってきた。
その人物を見てモニカが驚く。

「お、おばあちゃん!?」

「チエミか!?」

「ふふっ、久しぶりですね。デスマーチがあると聞いてきました。」

アカネがチエミにノートパソコンを支給する。
「コウの好みはそこの赤髪の子よ。」

「そ、そうなんですか?モニカ、そうみたいですよ。」

「私、髪の毛を赤く染めます!」

「いらん事言わんでいい。」

「ふふっ」

その後屋敷の寝室では、パソコンのキーボードを打つ音だけが部屋の静寂さをかき消していた。

外では炎耐性やら氷結耐性を持つ素材をモニカの水魔法で洗浄後、リンのレーザーで
ロケット用に切り出しているらしく窓の外では賑やかな声と閃光が繰り返されていた。

「チエミ、進捗はどうだ?」

「20%と言ったところですね。」

「速いな。」

「まぁ簡単なモジュールを作るだけですから。コウさんはどうでしょうか?」

「10%ぐらいかな。でも異世界に長い間居たのによく作業できるな。」

「前世では一生分働いたような気がするので体に染み付いてるんでしょうね。」

「なるほど、俺もその感覚わかるな。」

「ふふっ。私たちお似合いかもしれませんね・・・」

「あぁ・・・」

「その・・・モニカをよろしくお願いします。」

「わかってる。それと聞きたいんだが・・・」

「はい?」

まさかとは思うが聞いておいた方がいいだろう。
「前世で、俺のデスクに座って匂いとか嗅いでないよな?」

「えっ、ま、まさか・・・ふふっ」

「だよな」

「どうしたんですか急に・・・」

「いやモニカが俺のベッドで匂いを嗅いでてな。」

「そうなんですか!?羨ましい・・・」

「え、最後何か言ったか?」

「いえいえ。孫には言っておきますよ。」

「あぁ、頼む。」
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