幸せ隔離室。

まぐろ

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「あーやべやべ。俺捕まるとこだったわ…唯、死にそうなら言えよな。」

「………だって…いや…何でもないです…僕のせいです、ごめんなさい。」

頭に包帯、お腹には手術の痕というまさに満身創痍な僕に早瀬さんは文句を垂らす。
死にそうだから、やめてって何回も言ったのに。聞き入れてくれないから言えなかったのに。
そんな言い返しをする元気もなく、僕は小さい声で謝った。

「医療費たっけぇだろうなぁ…唯、俺が帰ってくるの遅かったらちゃんとどっかで温まっとけよ?…まあお前馬鹿だからわかんないか。」

「…はい…僕は馬鹿です…」

「………?お前は何だ?」

「僕は早瀬さんのペットです…たくさん殴られて嬉しい…です…」

教えこまれたことを言った。確かに優しく殴られるなら気持ちよく感じるようになった。
でも思いっきりやられたら人体の構造上、壊れてしまう。普通に痛いし。

「あ゛ー…もう、いいよ。唯、俺にどうしてほしいんだよ本当は。」

「……ぼ、僕は…!……いや…なんでもない、です」

僕は、昔に戻りたい。でもそんなこと早瀬さんに言ってもどうしようもない。そんなことは分かっている。
でも早瀬さんとの生活は慣れてきて、楽しみも見つけられた。もうこのままでいい。

「ふーん。まあ蝋燭はもうやめてやるよ。すげえ泣いてたし。あんなんじゃ興奮しにくいわ。…あ、そういえば唯ってまだ小学生だったよな。じゃあ蝋燭は辛いか。てかよくあんな殴って生きてんな。」

「早瀬…さん…僕帰りたい…早瀬さんの家に…もうお腹痛いの嫌だ…」

「駄々をこねるなよ。…じゃあなんか持ってきてやるから待ってろ。」

病院のベッドで1人きり。早瀬さんが出ていってしまったから、少しの機械音の中、ただ点滴が落ちるのを見るだけになってしまった。
可愛い声を出して歌ってみても、褒めてくれる早瀬さんがいないんじゃつまらない。心なしか傷の痛みが増した気がする。
そうだ。あんなに酷いことをされて泣きじゃくっても、僕は早瀬さんが好きなんだ。

「………ぐすっ…なんで…なんで行っちゃうんだよ早瀬さんっ……僕の気持ち…知ってるくせにっ…」

「あ?戻ってきたけど?何、俺の事好きってほんとだったの?機嫌取るためだと思ってたのに。」

ぽすっと僕の上にぬいぐるみが置かれる。ふわふわで柔らかい。

「…前の、ほら…会う約束してたけど、お前がインフルエンザになって中止になっただろ。あの時渡そうとしてたやつ。」

「……どうして犬が好きだって…」

「俺、お前の叔父だぞ?お前が生まれたてホヤホヤの時も見たし、何回も遊びに来たことあっただろ?きゃっきゃ言いながら走り回って転んで…ふふっ…覚えてないとか……まあ幼稚園入る前だもんな…」

早瀬さんはため息をついた。僕が昔、たくさん、早瀬さんの家に遊びに行っていたなんて。
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