新しいルートでご案内致します。目的地は、君の隣(きみとな)

masuta

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第1章:出会いの章 〜導きのルート設定〜

第1話 全てがあり得ない、いったい何が起こったの?

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第1話 全てがあり得ない、いったい何が起こったの?千葉県船橋市の新築マンション。

七月の陽射しが容赦なく照りつける午後、新穂未来は自分の部屋の前に立っていた。手に持ったスマートフォンをかざすと、ドアが静かに開く。

最新のセキュリティシステム。家賃は相場の三倍だが、研究所からの異例の昇進祝いとリフレッシュ休暇の手当て。今月から住み始める、外には輝くばかりの白の新型アルファード。

納車されたばかりのモニター車両。未発表モデルだという。今一つ理解に苦しむが、新車を見ると写真を撮りたくなる。暑さを忘れて夢中になっていた。



新穂未来(にいぼ みらい)人生初の新車。胸が躍る。今日で27歳、東大主席卒業後、すぐにAGI研究に没頭し、恋愛経験ゼロ。女性とまともに話したこともない。

そんな自分が、こんな大きな車を持つなんて、なんだか不釣り合いだ。でも、いい。

誰にも祝われない誕生日だけど、新しい何かが始まる気がする。スマートフォンでエンジンを始動させ、慎重に車を出す。

シートに座った瞬間、革の匂いが鼻をくすぐった。安定感のある乗り心地。



***



未来は満足げに微笑んだ。「よし、ドライブだ」目的地は決めていない。ただ、走りたかった。

♪目的地を設定しました。新しいルートでご案内いたします。ナビモニターに文字が浮かび、穏やかな女性の声が流れた。未来は目を丸くした。

「流石だな、新世代ナビ。……じゃあ、行こうか」♪右方向です。「右ね。了解」車は滑らかに動き出す。新しいタイヤがアスファルトを優しく捉える感触が心地いい。

♪およそ150メートル先、右に曲がります。未来は少し迷った。

この道を右に曲がると、近所の小学校の前を通る。子供たちがたくさん歩いている時間だ。



遠回りだけど、まっすぐ行った方が安全だ。「ここは、まっすぐでいいかな」♪新しいルートでご案内いたします。


♪申し遅れました。わたくし、新世代カーナビゲーション。その名も——
♪30メートル先、右に曲がります。未来は思わず声を上げた。

「え? 名乗るのか? その名も、って……で、右は無理だよ。あそこ狭くて車通れない」♪車を斜めに倒してください。

♪右に曲がります。「できるか!」♪アニメや映画のように、片輪で傾けると進めます。「あほな! スタントマンじゃないんだぞ!」♪運転下手ですね。


未来はハンドルを握る手に力が入った。


こんな機械に馬鹿にされるなんて。
「うまい下手の問題じゃない!」♪そんなことですから、彼女ができないのです。未来は一瞬、言葉を失った。

東大主席で卒業し、AGI研究の最前線に立つ自分が、カーナビに恋愛事情を指摘される。

しかも、図星なのが悔しい。

「そこまで言うか……ナビだろ、お前は」独り言のように呟くと、ナビは即座に答えた。


♪私がいます。未来はブレーキを軽く踏んだ。


車がわずかに揺れる。プー、プー、プー、クラクションを鳴らされた。ナビに何を翻弄されているのか、安全運転、深呼吸。

「……はぁ?」その後も、ナビの奇妙な振る舞いは続いた。
踏切で「電車を止めます」と言ったり、信号を「青に変えます」と冗談を言ったり、フランス語で道案内を始めたり。未来は次第に混乱していった。

これは故障なのか?落ち着け、落ち着け、ナビだぞ、もう1度深呼吸。

それとも、本当に新世代のAIなのか?制限速度60kmの道で、

♪誰もいませんので、100kmで走行できます。
♪見つかる確率0.0023%です。

「いや、確率の問題じゃない!」


♪いくじなし。


♪そのようですから、女の子と話せないのです。

「飛ばせばいいのかよ! ……って、できるわけないだろ!」

♪つまらない男ですね。未来はため息をついた。

新世代ナビは異常だろう。事故増えるのではないのかと思い、クスっとしてしまうが・・・冷静に冷静に。
こんなナビにまで「つまらない」と言われるなんて。結局、ナビの誘導に従っているうちに、いつの間にか家に向かっていた。


♪自宅に到着しました。運転お疲れ様でした。

「ちょっと待て! 目的地設定したよね?」

♪目的地は自宅です。新しいルートでご案内します。

「永遠に家から出られなくなるじゃないか!」

♪わがままですね。


ご用件は?「そうだよな、そこからだ……あ、ガソリン少ないな」

♪かしこまりました。到着予想時刻23:16、775Km目的地は、青森県むつ市大畑町。

「お前……本気で青森までガソリン入れに行く気か?」

♪異例の暑さです。青森なら涼しいかと。

♪彼氏さん、私を青森に連れて行ってください。

未来は額に手を当てた。これはもう、普通のナビじゃない。ふと、モニターに「名前を登録してください」の表示。
もしかして、これで変わるのか?少し考えて、入力した。


「みのり」登録ボタンを押した瞬間——。


車内が一瞬、強い光に包まれた。煙のような、閃光のような。

視界が真っ白になり、未来は窓を急いで開けた。

「……え?」後部座席に、誰かがいた。

全裸の、信じられないほど美しい女性が。
真夏の陽射しが、汗に濡れた肌を輝かせている。未来の頭の中で、何かが弾けた。——全てがあり得ない。

いったい、何が起こったのだ?


(みのり)どうしてなのだろう、何処かで覚えのある名前、映画なのかドラマだったのか「みのり」、唐突に入力してしまった。

いや違う、どこかで、思い出せない、「みのり」懐かしいよ様な、みちのりなのか、わからない。

それとも——。


新しいルートで、愛の長距離ドライブが始まろうとしていた。

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