新しいルートでご案内致します。目的地は、君の隣(きみとな)

masuta

文字の大きさ
17 / 43
第一章:出会いの章 〜導きのルート設定〜

第十七話 会社でのトラブル

しおりを挟む
 なんなのだ、この会社は。下着が制服なのか?  薄着な上に、エアコンが効いているのに、胸を強調したり、スカートの隙間を見せたりしている。  ここ、本当に職場なのか。所長をはじめ、営業さんたちが不在なのは、もしかして……。

   ***

 ドタバタの台風旅行から帰ってきて、今日は久々の出社日だった。  朝、ゴミを捨てに家を出て、戻ると美野里はまだ熟睡していた。  相変わらず、どんな寝相をすればそうなるのか、パンダのぬいぐるみを両足でがっちりと挟んでいる。  ある意味パンダが羨ましい気もするが、パンダの立場からすれば相当苦しいのではないだろうか。

「行ってきます。十八時三十分には帰るから、家にいてください」  そう書置きを残して家を出た。

 それにしても、外は殺人的な暑さだ。  四年間過ごした研究所は、室温二十二℃、湿度四十%に固定されていた。  それに比べて、今の千葉はどうだ。朝からすでに三十一℃。最高気温の予想は三十八℃で、最低気温ですら二十八℃だという。  研究所というクリーンルームがいかに天国だったか、骨身に染みる。

 事務所で仕事を始めると、突然「あーっ!」という悲鳴のような声が響いた。  叫んでいたのは新人の早苗だった。タブレットのペンを落としたらしいが、そんなに叫ぶほどのことだろうか。  向かいの席なので、僕も仕方なくしゃがみ込んで探してやった。

 早苗は自分の席の下に潜り込んで探している。 (お尻というか……もろに、パンツが見えちゃっていますけど)  フリフリとお尻を動かして探しているが、ペンは彼女の足元、ちょうど椅子のキャスターの影にあった。頭を突っ込んで探したところで見つかるはずがない。

「早苗さん、床に落ちていましたよ」 「あ、先輩、ありがとう!」  ゴツン! 「痛い……」 (この子は天然なのだろうか。デスクの下に潜ったまま勢いよく頭を上げれば、ぶつけるに決まっているのに)

「い、痛い……先輩、ありがとうございますぅ」  ごそごそとお尻を振りながら出てきて、彼女は上目遣いでペンを受け取った。 (その体勢で上を向くと、胸の谷間が……。いかん、見てはいけない)

「拾ってくれたお礼に、今日飲みに行きましょうよ!」 「いや、仕事が終わり次第、真っ直ぐ帰ります」 (うーん、失敗。別の作戦を考えなきゃ……)

   ***

 席に戻り、午後の仕事へ。ペットボトルの麦茶が尽きたので、給湯室へアイスコーヒーを淹れに行った。

「えーと、コーヒーの粉は、あれ、ここだったはず。これかな……」  そこでは加奈さんがしゃがみ込んでいた。これまた大胆に胸元があらわになっている。

「新穂君、ちょっと待っていてね。粉を入れておくから。私ので最後だったみたい」 「あ、ありがとうございます」 「よし。……あ、点眼しなきゃ。少し待ってて、コンタクトが乾いちゃって」

 彼女が点眼薬を差すと、余分な雫が頬を伝い、首筋から服の中へと――。 (あの……それ、あえて、たらーっと溢れさせていませんか?)  胸元へ一筋の雫が吸い込まれていくのを、僕は見ないふりをした。

「失礼します」 「待ちなさい、新穂君。今週末、私と出かけない?」 (週末? 加奈さんと? 美野里も何か予定があると言っていたな) 「すみません、予定があるので、失礼します」 (残念。真夏は長いんだから、次は秋のあれを狙いましょうか)

 席に戻り、少しだけスマートフォンを確認する。通知が溜まっていた。

【未来】 【MIRAI】 【M.I.R.A.I.】 【ひまー!】 (美野里の胸元どアップの自撮り画像) 【問題です。ぱくり、したのは右と左、どっちでしょう?】 【H.I.M.A.】 【答えは?】 【ねー!】 【ねーってば!】 【仕事終わった?】

(……終わりました。今、現実世界では二十五時――じゃない、十七時過ぎですよ)

【早くー!】 【暇!】 【外を見て、台風よ】 (※台風はもう過ぎ去っています)

 ようやく仕事が終わり、帰路につこうとすると、 「先輩、行きましょうよ! 帰ってもつまらないでしょう?」  早苗が腕を掴んでくるが、僕は「ごめん!」と振り切って駅へ走った。

   ***

 帰宅。

「パンダさんが怒っています。『遅い。予定より八万六千四百秒過ぎています』と」 「それって、丸一日過ぎているということだよね」 「ただいま、美野里。食事は済ませた?」

(何を言っているの、この人。私がどれだけ待っていたか、分かってない!) 「パンダさん、朝から何も食べていないのです。お水も出ないし、可哀想……」

   ◇

 水道の蛇口を捻ってみる。水は勢いよく出た。 「……ご飯、食べに行きましょうか」 「はい! 焼き鳥で!」

 近所の焼き鳥居酒屋で、ようやく乾杯。 「今日は家で何をしていたの、美野里」 (しまった、パンダさんを連れてくるのを忘れた) 「今日はね……うーん、内緒!」 「そうか、内緒じゃしょうがないね」

 彼女はムッとして、スマートフォンを突き出してきた。 「これです。近所の英会話教室の先生!」 「……先生?」 「幼稚園から中学生まで教えるんだって。歩いて二分のところで募集してたの。これなら未来が会社に行っている間、私が英語を教えられるわ」

「未来が『リフレッシュ休暇』中なのに、わざわざ会社に行っている間にね!」 (やはり怒っている。会社に行っていることを……) 「スタンフォード卒だもんね。良いと思うよ、英語を教えるのは」

「あと、重要なお仕事。明日のテレワークで、未来の『夏季休暇』は今月最後。所長にも、もう仕事をするなと怒られたんでしょう?」 (やった! 明日でお仕事はおしまいね!)

 美野里は満足げに食事を終え、帰宅するとニコニコしながらすぐに眠ってしまった。

   ***

 美野里の想い、果たして――未来に届くのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト∞
キャラ文芸
最速で任務をこなす、上界が誇る最強天使サミュエル。だが、実は伝説級の方向音痴で、渋谷に舞い降りるはずが、なぜか栃木で迷子に!? 居候先はド天然な高校生男子・美浜遊の家。そこでサミュエルは、遊の『恋の応援』を新たなミッションに掲げ、奮闘するのだが……!? 天使と高校生男子の、ハートフル友情コメディ! ツンデレな無双執事バレットも、上界からサミュエルを支えます(笑) サミュエルの一人称で、栃木の名所を中心に繰り広げていきます。B級グルメを含めて、イチゴに、餃子に、ゆばに、名産もたっぷり出てきます! たくさん笑って、ほのぼのして、ほろりとできる感動のストーリーです。 ぜひ、ご覧ください!! ※ストーリー的に施設名はそのまま記載しても問題ないかとは思いましたが、念の為ふんわりとぼやかしました。 那須ハイランドパーク → 那須ハイパーク 江戸ワンダーランド(日光江戸村) → 江戸ワンダフルランド 大谷資料館 → オオヤ歴史資料館 あしかがフラワーパーク → あしかがフラワーランド 那須ステンドグラス美術館 → ステンドグラスミュージアム などなど。 ただ、日光東照宮と名産に関しましては変えようがないためそのままです(笑)

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。 ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。 そこは魔法がすべての世界。 スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。 でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて── 「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」 そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに…… 家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば── 「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」 えぇ……なんでそうなるの!? 電気と生活の知恵で異世界を変える、 元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔
キャラ文芸
​【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】 「選ぶのはお前だ」 ――そう言われても、もう引き返せない。 ​ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。 そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。 彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。 ​「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。 なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに! ​小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。 その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる―― ​これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。 ​★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』 この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中! https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...