新しいルートでご案内致します。目的地は、君の隣(きみとな)

masuta

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第三章:結びの章 〜ルートの行方〜

第四十話 一途な想い

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 一日ドックから帰ると、慌ただしさは次元を超えていた。
 今、俺の感動を返せと言いたいが、パンダさんは、ここからが勝負だと睨み返すように見えた。
「スーツはこれ、ほら、時計をしていない。東武で買ったでしょ、つけなさい」どんどんと服がキャリーケースに投げ込まれた。

 それを、丁寧に整理しているのは、俺だ。
「ん?」何か変じゃないのかと「うるさい、これも、バッグ、化粧品も」いやそれ、投げたら、と言わんばかりに、床に散らばった。
 同時にいつもの美野里を見ているようで、嬉しかった。
「良く飛行機とれたね、宿は?」と尋ねると、(ムフフ)、今頃気が付いたのかしらと、誇らしげに胸を張って近づいてくる美野里。どうしても、視線は素直だった。

「実はね、私、アルファードと共に来た時に、カード借りたでしょ? 覚えている?」頷いた。
 確かにカードを半ば強引とでもいうか、切り返し技が効かないというか一方的だったことを思い出し、クスっと笑った。

 半年経つのかと。「あの時にね、予約したの。残り僅かだったのよ。ホテル」
「えー、そんなに早くから」
「はい。完了。戸締りをして、行くわよ」

「パンダさんは、少しだけお留守番していてね」パンダさんは、状況を理解しているかのように、がんばってこいと言っているように思えた。

 外のアルファードは、いよいよだな。と話しかけられたように思えたのは、俺だけではないようで、振り返り美野里がアルファードに手を振っている。
 つられて俺も手を振った。
 なにやっているのだ、俺は……。

   ***

 二和向台の駅前は、眩い光に包まれていて、駅前のイタリアンのお店で写真を撮るカップルもいた。
 今日はクリスマスイブだ。
 電車の中は、カップルが手を繋いでいるのが目についた。
 もちろん、俺も同じだ。美野里の瞳は何か強い意志を感じさせた。
 俺も同じだった。

 成すべきことはただ一つだ。

 羽田空港に着くと、たくさんの人で溢れていた。
 実家に帰るのであろうか家族連れ、時計を気にして走っているサラリーマン、そして、手を繋ぎ見つめあうカップルたち。
 軽めの咳払いをした。前に進まないのである。

 手荷物検査は、まるでライブ会場の入場待ちをしているような、長蛇だった。

「飛行機乗ったことがあるの?」と聞かれ、
「うん、YGN入社時にアメリカで研修があったよ」

「えー!」と大声で、手荷物検査の係の方も何かあったのかと驚くほどに。

「アメリカに一緒にいた時間があったという事?」
「そうなるのかな……」
 まだ、なぜ美野里がアメリカに行ったのかは、思い出せない。
 そう、悪戯に最後のピースが欠けているパズルのように。

 ――決意は変わらなかった。
 ましてや、クリスマスイブに札幌を事前に予約しているというのだから、どこまで計算されていたのか、驚きを隠せなかった。
 エリートであっても、恋愛はど素人なのだから。

 ロビーに座るところ等は無い、地べたに座っている家族連れを見ると、すこし微笑み、将来あのようになるのかなと思っていた。
 その時「今日は夜までお酒禁止だからね」と注意され、

「もちろん、当然」この一言がお互いを確定した。

 機内に案内された。
 おかしいなと思いつつも「えー! ファーストクラス」
 ムフフ、大勝利。
「そうよ、当然でしょう、美少女美野里ちゃんが乗るのだから」と言い放った。

 ゆっくりと景色が動き出す。
 グイーン、ジューンと音が聞こえ、その後ゴォーという加速音が聞こえ、空に飛び立った。

 広い空間、ビジネスクラスも広いのだが、それよりも広い、両足を前にしても、席に届かない。
「凄い」と声が出たと同時に、美野里を見ると視線を逸らした。

 そうだ、この飛行機のチケット自腹だ! 俺のカード決済。
 感心していたのが、「てへえ」と舌を出して笑う美野里。かわいいから許せるけど、許して良いのか自問自答したが、クリスマスだしね。

 機内で、俺が居ないときに、加奈さん、早苗ちゃんが来てくれて、大黒鮨で大暴れし、帰宅後も寝るに寝れない女子会の話が延々と続いていた。
 俺は一人で、怖い思いをしていたのに。
 いや、やめておこう。病院が怖いなんてバレたらどうなるのかが、手に取るようにわかる。内緒にしておこう。

   ***

 アナウンスと共に、新千歳空港に到着。電車に乗り換えた。
 一本見送って次の指定席をとった。札幌駅に降り立った瞬間、肌を刺すような冷気が二人を包み込んだ。
「ふーっ、ふーっ! 見て、未来。息が真っ白!」
 子供のようにはしゃぐ美野里の頬は、寒さで林檎のように赤らんでいた。
 あの夏の、アスファルトが溶けそうな「極暑」が嘘のようだ。

 一度ホテルに行き、荷物を預け、チェックインは済ませた。
 ホテルを後にし、外に出る。パラパラと雪が舞っている。
「札幌の人は、傘ささないのね」言われてみれば、確かにその通りだった。

 目的のお店があるので、スマートフォンでナビをセットした。
 手を繋ぎ、千葉県とは違う、冬を肌で感じていた。
 クリスマスイルミネーション、クリスマスソングが一層、距離を縮めるかのように。

「行くところ決まっているの?」と不思議そうに、顔を覗き込む。
 俺は頷き、手を取り、進んだ。

「ここだよ」

「えー!」と大きな声。

「もちろん、覚えているよ。ららぽーと」店員さんが来てくれたので品物を指定すると、案内された。

 あの時、船橋のららぽーとのジュエリーショップだった。
 美野里は座り、「こちらでございますね、サイズを」

「えー、良いの、良いの? 本当に?」笑顔と涙が「嘘、信じられない、覚えていてくれた」
「札幌に行くと言っていたからね、調べて、電話しておいたよ」涙をボロボロこぼしながら「ありがとう」
「でも、もう少し後ね」

 十分に言っている意味は理解できた――。
 お店を出ると、あたりは暗くなっていた。夜空に舞う白い粉が、キラキラと輝く。

   ***

 歩いた先は、大通公園、あたりはカップルで賑わっていた。クリスマスイルミネーションがきれいに彩られ、そこに粉雪があった。
 クリスマスソングも優しく聞こえる。

 テレビ塔。時計の前に立った。
 向き合い、見つめ合い、両手を繋ぎ、姿勢を正した。その時、美野里が手を放した。

 俺が意を決して向き直ろうとしたのだが……。

 美野里が、そっと未来の唇を自分の指で制した。

「……待って。私から言わせて」

 美野里の頬に一筋の涙が。
「私をお嫁さんにしてください」

 その言葉を聞いた俺の頬にも、涙が。美野里の左手を取り、膝をつき、指輪を捧げた。
 強く抱きしめた、強く、強く、そしてどれくらいの時間であろう、唇を重ねあっていた。

   ***

 ホテルに戻り、クリスマスディナーだ。上の階から見る外の景色は、降り注ぐ雪が違って見えた。まるでダイヤモンドが舞い降りているように。
「ワインは、やめておいて、シャンパンにしよう」
「最高のクリスマス、私、生きていて良かった。この日の為に、産まれてきた」涙ながらに語る美野里に「ありがとう、ずっと一緒だよ」

 この日、初めて、俺と美野里は一つになれたのである。

 どこからだろうか、アルファードとパンダさんが、仲良く踊っているように、ファンファーレが聞こえた気がした。

「愛しています」
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