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masuta

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第三章:結びの章 〜ルートの行方〜

第三十九話 再会

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 一日ドック。

 目が覚めると、

「あれ……俺、ここを知っている」

 病院独特の無機質な匂い、検査機器の一定の音、外の静けさ、薄暗い空間、一定の温度。

 検査着の袖を通した瞬間、強烈な既視感(デジャヴ)が襲った。

 違う。これはデジャヴではない。

 痛かった、左の側頭部。強い痛みは一瞬で通り過ぎた。

 何かが違う。一人で起きる。そういう違いではない。そう、ここは病院だ。

 辺りを見渡したが人の気配はない。ただ、この匂い。

 なんだ、おかしい。違う、違わない。

 スーと血の気が引いた。「そうだ」

 ブレーキ音。ガラスの割れる音。

 そして、薄れゆく意識の中で聞いたサイレン。『……未来くん!』呼びかけていたのは、誰だ――そうだ。俺はあの日、青森からの帰りに……。

 記憶がよみがえった。

 学生の時に青森県に行った。

 行きは俺が運転して、名所を回った。飲めないお酒も宿で無理くり飲んだ。

 帰りは運転してくれるという。

 後部座席に乗った。そうだ。何か、思い出す。

 整理しながら。

 青森県からの帰りであった。俺が運転すればよかったのだが、行きの運転をしてくれたからと、後部席でシートベルトを締めた。

 途中サービスエリアで給油し、食事等を済ませると、どっと疲れが出てしまい、寝てしまった。

 次の瞬間、激しい急ブレーキの音とドーンという強い衝撃。

 窓に頭を強打した瞬間、目にしたのはガラスの破片が舞う光景。徐々に薄れていく意識、感じたことがない強い痛みも。

「大丈夫ですか、大丈夫ですか、わかりますか」と声をかけられたが、そこで意識が途絶えた。

 ――気が付いたのは、事故にあってから一か月後。そうだ、一か月間昏睡状態だった。

 その後は普段の生活に戻れた。奇跡とまで言われた。おかしい、奇跡。そういえば、学生の友達は軽傷ですぐに退院した。思い出した。

 俺、高校なんで都内に行ったのか、寮だったのか、思い出した。

 父さん、母さんがアメリカに行ったからだ。どうしてアメリカに。

 確かにAGI研究者であった。それは覚えている。どうしてアメリカに行ったのか。

「あ!」大きな声をあげてしまった。

 美野里、会っている。会っているとかそういう話ではない。

 ずっと一緒だった。

 小学生高学年で体調を崩し始め、俺は学校の授業のノートを写し、

 毎日届けに行った。

 中学生になるとその回数は増えていった。

 美野里の実家、今の家からすぐ近くだ。そう、自分の実家の近く。実家を思い出すことさえしなかった。

 美野里と小さい頃から一緒に遊んだり、家で書初めをしたり、ずっと、かわいいと思っていた。

 それが、体調を崩すようになって、アメリカ、スタンフォード、思い出せない。

 両手が震えている。

 ……どうして、美野里は亡くなったことになっていたのか。美野里は生きている。

 忘れちゃいけないことを、忘れていた。

 事故にあった時に記憶が欠落していたこと、そして取り戻したことに、気が付いた。

 一番大事な人、忘れてはいけない人、大切な人、それを忘れていたのだ。

 涙が止まらない。美野里に会いたい。

 大黒鮨、どうして親切なのか疑問に思っていた。

 違う、子供の頃から通っていたからだ。

「そうだ、大将……あの頃はもっと若くて、俺がテストで百点を取るたびに、内緒で一貫握ってくれたじゃないか」

 涙が止まらない。

 病院独特の匂い、機械音……一瞬にしてすべてを取り戻した。

 ――いや違う、一つだけ思い出せない。どうして美野里がアメリカにいったのか。まるで、その部分だけが霧に包まれているような不自然さがある。

 大切な人、大事な人である。それは間違いない。

   ◇  

 ドックが終わり、入り口を見ると、美野里が立っていた。

 俺は夢中で走った。警備員さんに走らないように注意されたが、構わない。

 全力で走った。

 美野里の元に。

 入口に立っている、美野里に強引に抱き着いた。

 美野里、美野里、「生きている」暖かい美野里、生きている。

 涙が止まらない。

 人目を気にせず、キスをした。

 注目されているが、そんなことどうでも良い。

 美野里はクスっと笑った。

「寂しかったのね、未来。私が居ないとダメなんだから、良い子、良い子」

「うん、美野里が居ないと、ダメなんだ」と呟いた。

「美野里、美野里……!」彼女の肩に顔を埋め、子供のように泣きじゃくった。

 その温もり、心臓の鼓動、すべてが現実だと確かめるように。
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