ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta

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第1章:広がりの章 〜運命の出会い〜

12 グローブ

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  夜の冷気が肌にしみる中、二人の足音が静かに響いていた。
 街灯の光がアスファルトを照らし、その先にある看板がぼんやりと浮かび上がる。
 嘉位は軽やかに歩みを進めながら、隣を歩く香織の様子を窺った。
 彼女の頬は、最初にこの提案を聞いた時よりもさらに赤く染まっている。
 息が白く霞む中、香織の心臓は高鳴っていた。


「ここからは少し僕の趣味になるけど、近いから、歩いていけるし、夜食は家に戻ってからにしないと、作って下さった方にご迷惑をかけてしまうから、次のお店で、家に帰ろうね、良いかな?それとも、大人の世界へ?」


 ――香織の心臓がどくんと跳ねた。
 その言葉の意味を理解した瞬間、彼女の顔は炎のように熱くなる。
 指先が震え、息が止まりそうになる。何度も深呼吸を繰り返しながら、彼女は必死に自分を取り戻そうとした。

(……やだ、何を考えているの。また、顔が赤くなり…ここ数日私おかしくなってしまったのかな。何かの病気とか?)

 心は乱れに乱れていた。
 普段の自分なら決して口にしないような言葉が勝手に口から漏れる。
 彼女は慌てて手を口に当て、自分の感情を抑え込もうとした。

「はい、ついていきます」
 香織の声は小さく、しかし確かな決意が込められていた。
 彼女の目は前方の沢山の看板に向けられている……。

 その看板は、いわゆる大人の・・・え?!ドキドキが止まらない。
 平然を取り戻したつもりが、顔は真っ赤になっていた。

 手を引っ張る嘉位に、恐る恐るついて行き、次第に呼吸は荒くなる自分に気が付いてた。

 何の店かすぐにわかるもの、何処まで行くのだろう。
 ここぞとばかりにネオンが看板を……。



   ◇



 そして急に、立ち止まる。
 ――香織はいよいよなのだ。
 収まって心臓の音が聞こえちゃう。
 その薄暗い店内から漂ってくる空気は、何らかの予感を抱かせていた。

 覚悟を決めなくては……。
 そう私は嘉位と結婚の約束を、奥様になるのだから。
 ゴクリと何かを飲み込んだ。ヨシ!

「香織、ここだけど良いかな、数時間かかることもあるけど、本当に良い?」


(――数時間、かかる、やっぱり、もう止める事は出来ない。気持ちの整理はついた。嘉位とならば。)
(嘉位の手を強く握る……)

「ダメなら、今度、由良と来るよ」

(……は?はぁー?由良君と来るのですか?え、どういう事?)
 香織は深呼吸を一つ。そして、決然とした表情で答えた。

「あのー、由良君とでしょか?私じゃダメなのですか?、私は覚悟を決めたのです。もう逃げません。」



   ◇



 ……?!あちゃー。
「香織、かおりーさーん、かおりさーん、そっちじゃなくて、その奥の隣のお店なのだけれど……」

 隣の奥、薄暗い、路地に看板、私ったら、勘違いを・・・恥ずかしい、初めに言ってくれれば良いのに。
 あれ?私期待していた、えー!

「もちろん、大丈夫です。野球ショップですね」こんな、ネオン街の奥に、それも薄暗い場所に……
 もう!私の覚悟をどうしてくれるのよ!

 二人は店の扉を押し開けた。瞬間、香織の目が広がった。
 勘違いではなかった。ものすごい量。狭い店内は野球道具であふれかえっていた。

 グローブ、バット、その他の備品が所狭しと陳列されている。彼女は球道の付き合いで野球道具のショップに足を運んだこともあるが、ここまでの量と狭すぎる店内は初めてだった。


 ――店内には数名の客がいた。
 其中には女性もいる。彼女はソフトボールの経験者かもしれない。
 香織はその女性に目を留めた。彼女の手には、真新しいグローブが握られている。

「ここで、グローブとバットとそのほかの備品を揃えたいのだけど、少し時間をもらっていいかな?」

 香織の声は小さく、頷き、確かな決意が込められていた。彼女は嘉位と並んで店内を歩き始めた。

 嘉位はまず、グローブ、それもピッチャー用コーナーを見渡していた。
 彼は一つ一つのグローブに目をあてながら、何か考え込んでいた。
 そして、ふと、指を指し、これだという感覚があった。

 香織は、いっぱいあるグローブ、バット、黒とか、青とか、真っ赤とか、パステルカラーみたいなものを見て、さらに疑問をもった。

「嘉位、球道は今年6年生にあがるのだけど、学童野球は軟式、中学生から硬式をやりたいと言っていた。軟式と硬式に広さとかボールが違うのはなんとなくですが、わたしでもわかるのですが、グローブの違いはなんでしょうか?」

(マネージャさんの感覚だ、すごいところに、嘉位は感心したように頷き、スマートフォンで一つのサイトを見せた)


「良い視点だね。実はどちらも牛革だけど、使う部位や牛の年齢、なめし方が違うんだ。硬式はより強く重い球を受け止めるために、若くてキメの細かい、それでいて強靭な革が選ばれる……この図が分かりやすいよ」

 香織は、スマートフォンのリンク先をずっと読んでいた。彼女の目は、画面に吸い寄せられていた。



「店員さん、すいません、右上の最上段にあるあのグローブをフィットしたいのですが……」

「あれですか、お目が高いですね、型付けはすんでいるのですが、お気に召さなければ、メーカからあるいはオーダーも可能です。大変失礼な事をおききしますが、お客様どちらかでお会いしたことがあるような気がするのですが」

 嘉位はグローブに手を入れて、これだ!これが相棒だ。
 グローブは沢山はめ込んでも、第一の感触で間違いなく決まる。
 これが、今の僕にあっている。

 香織がすかさず割って入り、「U-15代表のエースで世界を初めて日本が制覇をしたのが彼です」

 店員さんは、驚きのあまり言葉を失い店長を呼んだ。

 奥からグローブを成形していた店長さんが出てきた。


「君が山本君か、やっとだね、今のWBCメンバーですらできなかった、U-15の世界一おめでとう。いまからグローブかね?」
 店長は、少し驚いたように目を広げた。

「そうなのか、良かったですね、深くはお聞きしませんが、君ほどの才能、日本の宝が、1年間野球に携われなかった事は」

「辛かったでしょうね、しかし良い目利きをされておられる。わたくしが型付けをして、65年以上やっておりますが、このグローブには炎が宿っております、ローリングス」

 香織と店員、嘉位、店長は、野球道具の話を続け、香織が理解しやすいように説明してくれていた。

「そうですか、和井田は長年の名門校、上位には出てこないのですが、来年期待しております、宅急便承りました」
 店長は、少しだけ、息を飲んだ。隣にいる女性も目にうつし、理解したようで、

「……そうですか、わかりました。マウンドでの勝負、夜の方での勝負両方、勝つことを願っております」

 嘉位はこのジョークが今一つ伝わらなかったが、香織はつい、先程のネオン街の事もあり、顔が真っ赤であった……。

「ありがとうございました」



   ***



 自宅につくころには、おなかが、ぐーぐー、と子供のように鳴っていた。
 お腹すいたー、二人は同じ事を口にして大笑い。



 後に、
 永遠に受け告げられる伝説のグローブになることは、今は誰も知らないのであった。
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