ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta

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第1章:広がりの章 〜運命の出会い〜

17 未来への一歩

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  嘉位の眠りは浅かった。 災害時特有の緊張感が、彼に二時間ごとの覚醒を強いている。

 暗闇の中、スマートフォンの蒼白い光だけが鋭く輝いていた。画面には余震の震源地を示す地図が表示されている。
 幸い、この数時間は大きな揺れはない。

 隣を見れば、香織が子供のように無防備な顔で眠っている。 
 頬にかかる髪を払ってやりたいが、起こしては気の毒だ。嘉位は音を立てないよう息を潜め、再び目を閉じる。 
 そんな微睡みと覚醒を三度ほど繰り返した頃、カーテンの隙間から乳白色の朝が忍び込んできた。

 完全に目が覚めた嘉位は、スマートフォンに届いた通知を確認した。 母からのメッセージが入っている。

『要するに、香織ちゃんはこの家で暮らし続けることになったのね』
 全てお見通しか、と嘉位は苦笑する。 続いて蓬田家の母からも連絡があった。

『昨日のお礼と、今後の連絡方法について。本日14時頃、そちらへ伺います』とのことだ。 
 嘉位は短く、礼儀正しい返信を打ち込んだ。

 ふと、千佳からのメッセージに目が留まる。 『ベッドヘッドの左側、隠し扉の中にございます』
 何のことだ? 嘉位は身体を起こし、指定された場所を探った。一見するとただの装飾に見える羽目板が、指先で押すと音もなく開いた。 
 中身を見て、嘉位は一瞬動きを止めた。そして、千佳の、あるいは母の周到すぎる配慮に溜息をつく。 ――大人は、何もかもお見通しというわけか。

 隣で寝息を立てる香織を見る。 
 地震の混乱の中、パジャマだけで避難してきた彼女は、その下に何も身につけていない。
 無防備な寝顔と、災害という極限状態が作り出す危うい空気が、嘉位の理性を静かに揺さぶっていた。

 ――その時だった。 あの嫌な不協和音が、静寂を切り裂いた。

『緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください』

 無機質なアナウンスが響く。香織が弾かれたように飛び起きた。 「きゃっ……!」 「大丈夫だ!」
 嘉位は反射的に香織を引き寄せ、背後から抱きしめるようにして覆いかぶさった。 
 ガタガタと窓ガラスが鳴り、建物が軋む。 揺れは長く感じられたが、昨日ほど暴力的ではなかった。

「……収まったみたいだ」 「はぁ、はぁ……びっくり、しました……」

 嘉位の腕の中で、香織の心臓が早鐘を打っているのが伝わってくる。
 テレビをつけると、震源は茨城県。震度は5弱と表示されていた。

「大丈夫。ここは安全だから」
「はい……嘉位がいてくれて、よかった」

 香織は嘉位の腕に自分の手を重ね、ほっと息を吐いた。だが、その安心も束の間、彼女はふと壁のカレンダーに目をやり、表情を曇らせた。

「今日……1月6日ですよね」 「ああ。明日から新学期だ」
 その言葉が、現実に引き戻すスイッチだった。 学校が始まれば、寮に戻らなければならない。
 この部屋で、こうして二人きりで朝を迎える時間は、これで最後になるかもしれない。

 嘉位の腕の温もりが、急に切ないものに変わる。 
「……涙が出てきちゃった」
  
「まだ怖かった? ごめん、もっと強く抱きしめようか」 


「違います……」
 香織は振り返り、嘉位の胸に顔を埋めた。 「今の幸せは今日だけのものなんだって思ったら……寂しくて」

 見上げると、嘉位が優しく見つめ返していた。その瞳の奥に、自分と同じ熱が宿っているのを香織は感じ取った。 言葉はいらなかった。 
 香織は吸い寄せられるように、嘉位の唇に自分のそれを重ねた。

「香織……」 「嘉位……」

 二人はベッドへと沈んでいった。



   ***



 窓の外では、雪解けの水音が微かに響いていた。
 ――新しい年を迎え、二人は本当の意味で大人になった。 
 嘉位は、隣で微睡む香織の肩をシーツ越しに抱き寄せた。 事前の準備をしてくれた千佳に――いや、おそらくこの部屋を用意した母に――心の中で感謝しつつ、愛おしさが胸に溢れるのを感じていた。

 香織は嘉位を見つめ返し、安心しきったようにその胸に頬を寄せた。 
「……大好き」 寝言のような呟きを残し、香織は深い眠りに落ちていく。
 嘉位もまた、彼女の髪の香りに包まれながら、心地よい疲労感と共に瞼を閉じた。


 二人の間には、誰も踏み込めない強固な絆が結ばれた。 


 それが、これから訪れる想像を絶する困難に立ち向かうための、最初で最後の武器になることを、彼らはまだ知らない。
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