ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta

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第1章:広がりの章 〜運命の出会い〜

19 予想外の提案に。はじめて二人で

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  「……以上が楓お嬢様からの伝言です。明日は名古屋のホテルからリモート会議に出席し、日曜日には帰宅されるとのこと。香織様によろしくお伝えください、と」

 千佳が手帳を閉じ、一礼する。食堂には、風呂上がりのような清々しい空気が満ちていた。
「楓ちゃん、日曜日には会えるのね! 楽しみ」 香織はテーブルに身を乗り出し、弾んだ声を出した。
 その瞳が、すぐ隣に座る嘉位へと向けられる。熱のこもった、何かを強烈に期待するような視線だ。

「楓のやつ、ホテルに籠もって仕事の合間にゲーム三昧だろうな。目に浮かぶよ」 
 嘉位がニヤリと笑うと、香織はすかさず身を寄せ、彼の腕を自身の胸元に引き寄せた。

「楓ちゃんもいいけれど、今は私を見て。ゲームよりも、嘉位と二人で露天風呂に入るほうがずっと楽しそうだもの。ねえ、早く行きましょう?」

 香織のあまりの積極さに、嘉位は一瞬たじろいだ。 
 入学したての頃の、あの内気で震えていた彼女はどこへ行ったのか。
 今の香織は、嘉位さえもたじろがせるほどの、真っ直ぐな生命力に溢れている。



   ***



「案内するよ。露天風呂はこっちの渡り廊下を通って――」 「ちょっと、嘉位! なんでそんなに急ぐの?」
 香織が足を止め、嘉位の腕を強く引いた。
「え? 風が冷たいし、早く温かい湯船に……」 

「違うの。私は、ただこうして嘉位と歩く時間がほしいだけ。急がないで。ねえ、もっとゆっくり……」

 香織は嘉位の二の腕に自分の頬をすり寄せた。
 その柔らかな感触と、甘やかな香りに、嘉位の心拍数が跳ね上がる。
 世界を相手に冷徹な判断を下す副社長としての顔が、香織の前では一人の男として崩されていく。

「……香織、本当にこのままでいたいの?」 「そうよ。一歩ずつ、嘉位の体温を感じながら歩きたいの。わかった?」

 嘉位はため息をつきながらも、その独占欲の強い提案に口角を上げた。 「わかった。君のペースに合わせるよ」

 暗い回廊を抜け、外気に触れる。 
「ここから先は練習場だ。外からは見えないが、内側からはこの屋敷の全貌が見える。職人たちの意地と技が詰まった設計なんだ」
「……すごいです。嘉位、見て、星が……!」

 香織が感嘆の声を漏らした。
  空には、寒波が去った後の澄み渡った冬の星々が、零れんばかりに輝いている。 
  小学校六年生以来だという露天風呂。湯煙の向こうに広がる宇宙を前に、香織は幸せそうに目を細めた。
「私、この瞬間のために生まれてきたんだわ……」

 湯船に浸かり、肩まで温まった香織が呟く。
 その横顔は、嘉位が人事や利権争いで行き詰まったとき、すべてを肯定して「大丈夫」と溶かしてくれる、あの不思議な慈愛に満ちていた。

「初めて一緒に入る風呂が露天風呂っていうのも、悪くないね」 
「ええ……本当に。嘉位の隣は、どうしてこんなに安心するのかしら……」

 いつの間にか、香織の頭が嘉位の肩に預けられていた。
 深い寝息が聞こえてくる。嘉位は彼女が湯冷めしないよう、そっと抱き寄せた。

「……ん、寝てましたか?」
「ああ。安心して目をつぶっただけだろう?」 「ふふ、そうね。嘉位が肩を温めてくれていたから」

 香織は名残惜しそうに湯から上がると、悪戯っぽく微笑んだ。 
 先に洗ってもいい? それとも、嘉位がお手伝いしてくれる?」
 ……。露天風呂だと風邪をひくから。手伝うのは、今度、室内の浴場に入った時までお預けだ」 「うーん。残念」

 脱衣所に戻ると、嘉位は香織を椅子に座らせ、ドライヤーを手に取った。 
「僕が乾かすよ」
  「あ、お願いします」

 嘉位の大きな手が、香織の柔らかな髪を掬い上げる。
 指先から伝わる温もりが、二人の絆をより確かなものにしていった。



   ***



 再び食堂に戻ると、千佳が待機していた。
「いかがでしたか?」 
「最高でした! お星さまがとっても綺麗で、嘉位も優しくて……私、世界で一番幸せです!」

 香織がマシンガントーク気味に感想をまくしたてると、嘉位が「露天風呂の設備が、だろ」と照れ隠しに付け加えた。 
 千佳は「露天風呂での武勇伝(ハプニング)を聞きたかったのですが」と残念そうに笑いながら、祝膳のような豪華な食事を運び始める。

 食事の合間、嘉位は千佳と目配せをした。 
「問題なし」との合図を受け取り、嘉位は香織に向き直る。

「香織、明日からリモートだけど学校が始まるよね。部活が始まって登校するようになれば、学校では今みたいにベタベタはいられない」 
「……そうですね。それは寂しいです」

「だからさ。金曜のリモートが終わったら、京都に行こう。二泊三日の旅行だ。そこにも、この家と同じ職人が作った露天風呂付きの客室がある。もちろん、二人きりで」

 香織の動きが止まった。 
「……旅行!? 二人きりで京都!? 嬉しい、嬉しいに決まっているじゃないですか! 嘉位、大好き!」

 香織は椅子から立ち上がり、今にも踊り出しそうな勢いだ。 
「いいのですか? 本当に!? じゃあ、今から行きましょう! 今すぐ支度を!」 
「いや、明日はリモート授業があるし……」 
「あ、そうだった……! あーもう、なんでまだ木曜日なの!? 早く金曜日になって!」

 地団駄を踏む香織の様子に、嘉位は思わず吹き出した。
「よし、決定だ。その代わり、明日はリモートが終わったら、旅行の準備のために買い物に行こう。お揃いの何かを買ってもいいしね」
「はい! 嘉位、大好きです!」

「ごちそうさまでした! 嘉位、早くお部屋で作戦会議しましょう。京都のこと、いっぱい調べなきゃ!」

 香織は嘉位の手を掴み、嵐のように部屋へと消えていった。 
 その後ろ姿を見送りながら、嘉位は思う。 

 この予測不能で、底抜けに明るい彼女の同調(シンクロ)があれば、世界を相手に戦うことなど、造作もないことだと。
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