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第1章:広がりの章 〜運命の出会い〜
20 新学期前日、スマートキーフォルダ
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「旅行! 旅行! 本当に京都に行けるのね!」
香織は嘉位の首に飛びつき、弾んだ声で何度も叫んだ。
喜びのあまり声が裏返っているが、今の彼女にそれを恥じらう様子はない。
嘉位は、その柔らかな重みを受け止めながら、去年の夏のことを思い出していた。
海の見えるホテルへ行く約束は、予期せぬ事態で果たせぬままになっていた。
香織もそれを分かっていて、あえて口に出さない。
遅れてしまった時計の針を、今この瞬間から二人で進めようとしているのだ。
嘉位にとって、京都は仕事で行く場所だった。
中学1年で帰国して以来、全国大会や国際大会に明け暮れ、卒業後も妹・楓のロケの付き添いで東奔西走してきた彼に、「観光」という贅沢は許されてこなかった。
(日本の文化を、ただ愛でるために訪れる。それがこれほど特別なことだったとはな……)
部屋の前で立ち止まった香織が、いたずらっぽく振り返る。
「嘉位は京都で観光したことがないのよね?」
「ああ、楓の仕事で何度か行ったが、寺の門を潜った記憶すらないよ」 「まあ、寂しい人! 私がたっぷり案内してあげるわ」
二人が部屋に入ると、香織は再び息を呑んだ。
そこには、蓬田の家から運ばれた彼女の愛用品がすべて、完璧な配置で整えられていたからだ。
「私の荷物が全部……! 嘉位、本当にいいの? 私、ここに居着いちゃうわよ?」
「別々の部屋がいいなら、今からでも用意させるけど?」
「絶対に嫌! 我慢する! はい、わかった人、手を挙げて!」
香織が嘉位の腕を強引に持ち上げると、二人は顔を見合わせて笑い転げた。
室内には嘉位の趣味である野球道具と、二台のハイスペックなゲーミングPCが並んでいる。
「このパソコン、使ってもいいかしら?」 「もちろんだ。右側は香織専用にして構わない」
目を輝かせた香織が、ふと思いついたように嘉位を見つめた。
「嘉位、油性マジック持ってる? ここにサインを書いてほしいの!」
「サイン? どこにだ?」
「PCのカバー! 『愛しているよ、香織』って書いて。
普段は見えない隠れた場所に……お願い!」
嘉位は呆れたように笑いながらも、色とりどりのマジックを手に取った。
「それはサインじゃなくて、ただの愛の告白だろう……」 そう言いながらも、嘉位は迷いのない筆致で大きく文字を刻んだ。
さらに、彼自身のシグネチャーである「4つのI(アイ)」の紋章と、スマートフォンのマークを添える。
「……できたよ」
「ありがとう! 世界一の彼からもらった、私だけの特別なサイン!」
香織はその文字を愛おしそうになぞり、ふと嘉位のキーホルダーに目を留めた。
宿泊学習の夜、彼が残したあの不思議なマーク。 「このマーク……『愛(アイ)』の告白だったのね。
嘉位、あの時からずっと……」 「ようやく気づいたか」
嘉位が優しく髪を撫でると、香織の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
言葉にならない想いを分かち合うように、二人は静かに寄り添う。
その傍らで、新調された野球グローブが鈍い光を放っていた。
香織がそっと触れると、上質な革の重みと硬さが伝わってくる。
「使うほどに、君の手に馴染んでいくはずだ」
嘉位の説明を聞きながら、香織はグローブをはめ、不器用ながらもキャッチボールやバントの仕草をしてみせる。
その微笑ましい姿に、嘉位の心はかつてない平穏に包まれていた。
夜が更ける中、二人は並んでPCに向かい、明日の買い物の計画を立て始めた。
「このダウンジャケット、お揃いで着たいわ。嘉位に似合うと思うの」
「明日、試着してみよう。在庫はあるみたいだしな」 「嬉しい……王子様とお揃いでお出かけできるなんて、夢みたい!」
幸せな高揚感の中、二人はやがて深い眠りについた。
嘉位がサインと共に記した「4つのI」とスマートキーホルダー……。
それが後に、世界を救済する運命の鍵になることを、この時の二人はまだ知る由もなかった
香織は嘉位の首に飛びつき、弾んだ声で何度も叫んだ。
喜びのあまり声が裏返っているが、今の彼女にそれを恥じらう様子はない。
嘉位は、その柔らかな重みを受け止めながら、去年の夏のことを思い出していた。
海の見えるホテルへ行く約束は、予期せぬ事態で果たせぬままになっていた。
香織もそれを分かっていて、あえて口に出さない。
遅れてしまった時計の針を、今この瞬間から二人で進めようとしているのだ。
嘉位にとって、京都は仕事で行く場所だった。
中学1年で帰国して以来、全国大会や国際大会に明け暮れ、卒業後も妹・楓のロケの付き添いで東奔西走してきた彼に、「観光」という贅沢は許されてこなかった。
(日本の文化を、ただ愛でるために訪れる。それがこれほど特別なことだったとはな……)
部屋の前で立ち止まった香織が、いたずらっぽく振り返る。
「嘉位は京都で観光したことがないのよね?」
「ああ、楓の仕事で何度か行ったが、寺の門を潜った記憶すらないよ」 「まあ、寂しい人! 私がたっぷり案内してあげるわ」
二人が部屋に入ると、香織は再び息を呑んだ。
そこには、蓬田の家から運ばれた彼女の愛用品がすべて、完璧な配置で整えられていたからだ。
「私の荷物が全部……! 嘉位、本当にいいの? 私、ここに居着いちゃうわよ?」
「別々の部屋がいいなら、今からでも用意させるけど?」
「絶対に嫌! 我慢する! はい、わかった人、手を挙げて!」
香織が嘉位の腕を強引に持ち上げると、二人は顔を見合わせて笑い転げた。
室内には嘉位の趣味である野球道具と、二台のハイスペックなゲーミングPCが並んでいる。
「このパソコン、使ってもいいかしら?」 「もちろんだ。右側は香織専用にして構わない」
目を輝かせた香織が、ふと思いついたように嘉位を見つめた。
「嘉位、油性マジック持ってる? ここにサインを書いてほしいの!」
「サイン? どこにだ?」
「PCのカバー! 『愛しているよ、香織』って書いて。
普段は見えない隠れた場所に……お願い!」
嘉位は呆れたように笑いながらも、色とりどりのマジックを手に取った。
「それはサインじゃなくて、ただの愛の告白だろう……」 そう言いながらも、嘉位は迷いのない筆致で大きく文字を刻んだ。
さらに、彼自身のシグネチャーである「4つのI(アイ)」の紋章と、スマートフォンのマークを添える。
「……できたよ」
「ありがとう! 世界一の彼からもらった、私だけの特別なサイン!」
香織はその文字を愛おしそうになぞり、ふと嘉位のキーホルダーに目を留めた。
宿泊学習の夜、彼が残したあの不思議なマーク。 「このマーク……『愛(アイ)』の告白だったのね。
嘉位、あの時からずっと……」 「ようやく気づいたか」
嘉位が優しく髪を撫でると、香織の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
言葉にならない想いを分かち合うように、二人は静かに寄り添う。
その傍らで、新調された野球グローブが鈍い光を放っていた。
香織がそっと触れると、上質な革の重みと硬さが伝わってくる。
「使うほどに、君の手に馴染んでいくはずだ」
嘉位の説明を聞きながら、香織はグローブをはめ、不器用ながらもキャッチボールやバントの仕草をしてみせる。
その微笑ましい姿に、嘉位の心はかつてない平穏に包まれていた。
夜が更ける中、二人は並んでPCに向かい、明日の買い物の計画を立て始めた。
「このダウンジャケット、お揃いで着たいわ。嘉位に似合うと思うの」
「明日、試着してみよう。在庫はあるみたいだしな」 「嬉しい……王子様とお揃いでお出かけできるなんて、夢みたい!」
幸せな高揚感の中、二人はやがて深い眠りについた。
嘉位がサインと共に記した「4つのI」とスマートキーホルダー……。
それが後に、世界を救済する運命の鍵になることを、この時の二人はまだ知る由もなかった
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