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第1章 幼少期
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国王と謁見してからしばらくは変わりなかったが、バルバラ王妃からの呼び出しがかかった。ただしリリーナ1人にだ。
「行かないと…ダメ?」
「そうだね。一応王妃からの呼び出しだからね」
行きたくないな…と思いながらエヴァに送ってもらう。
呼び出された部屋の扉の前に立つ。小さくトントンとノックする。扉が開くと中にはバルバラと1人女の子がいた。第一印象…嫌な奴。
イーリア・ベルジック公爵令嬢、ジェイド王子の婚約者だ。
「王妃様、これですの?」
「そうよ」
「…」
「ありがたく思ってね。私がお前を教育してさしあげてよ」
人への嫌悪がこんなにも気持ちの悪いものだとは思わなかった。笑っている2人の顔が真っ黒に見える。
──気持ち悪い…
戻る…と意識するとエヴァの元に帰れた。戻ってきたリリーナは我慢できず吐いた。
「大丈夫か?他には?」
右手でローブをめくると、皮膚が赤く腫れ右太ももは火傷している。エヴァは顔をしかめながら手をかざすと傷は消える。
リリーナはベッドに倒れ込む。行く前からこうなるかもとエヴァから聞いていた。昔エヴァが同じような目にあっていたからだ。
──今は我慢する。もっともっと…
エヴァがベッドの縁に座りリリーナの頭に手を置いて
「見えてる傷は治せても残る傷もあるね…いずれ時はくる。それまでに…全て教えるさ」
そこからのリリーナは吸収が速かった。貪欲にエヴァの全てを自身に取り込もうとしていた。余計な事を考えないように感情を押さえ込んで押さえ込んで…
「今日はジェイド様もいらっしゃるのよ」
イーリアは嬉しそうに語る。ジェイドは気乗りしてない様子で椅子に座っている。
メイドがお茶の用意をして3人の前に並べる。
「さあお飲みになって」
イーリアはリリーナに微笑みながら扇でカップを指す。カップを取ろうとすると
「ジェイド様がまだでしょ!!」
言うと同時ニヤリと笑いながら扇で手を叩かれる。
「イーリア!!」
「ジェイド様申し訳ございません。これはまだまだ躾が必要ですわ」
リリーナはかすかに口を歪めたが何事もなかったように座っている。
イーリアはさらに右頬を扇で払うように叩く。1本線が引かれたように赤く血が滲む。
「口も聞けませんの?」
「…」
何か喋っても同じなので答えない方がましである。
「イーリア!!君は何を!!」
「ジェイド様大丈夫ですわ。これ、すぐに治るから何してもいいんですのよ。私はこれを躾ないとダメですの」
笑いながら言うイーリアを睨みジェイドは立ち上がりリリーナの腕をつかみ立ち上がらせ引きずるように部屋から出て行こうとする。
「ジェイド様!どうされました?これが何か…」
自分の名前を呼ぶイーリアを無視しジェイドは少し乱暴に扉を開け出て行く。
部屋を出て勢いのまま少し歩いていたが、掴んでいた手を前に払うように離したのでリリーナは前に放り出される。
「お前も何……あっ」
身体が自由になったリリーナは既に目の前にいなかった。
「おや、今日は早いね」
「疲れた」
エヴァが傷を治す。今日はやめるかいと聞くとまさかと、伸びかけてひとつにしばっていた髪をほどく。
エヴァの教えは二つ。1つ目、魔法を理解する事。理解するのは誰でもできる。原理を勉強すればいいだけだ。2つ目、単純な事だが理解した魔法を使う力を増やす事。どれだけ理解しても使えないと意味がないが…この力を持つのが今や二人だけなのだ。
エヴァの前に座りふーと一息吐く。
目を閉じ静かに集中する。
ドタドタと音をたてながらジェイドが入ってくる。
「…!!」
何か言いながら入ってきたが目の前の光景に言葉を失う。
部屋の中心でリリーナが輝いていた。髪が金色に変わり身体全体を光が包んでいるように見える。しばらくその状態だったがリリーナが少し眉を動かした瞬間弾けるように全て消える。
「まだまだじゃな、身体の中心を意識して底上げせんと意味がない」
はぁはぁと肩で息をしながらリリーナは頷く。
「して、王子は何用か?」
「え?ああ、いや、傷はどうなったかと…」
まだ息があがっているリリーナが少し顔を上げジェイドを見るがその顔に傷はない。
「心配ない。治せるからな」
「!!」
「気にせず…お戻りください。騒がれると余計に後が面倒」
「あれはさすがにやりすぎだ。二度としないように…」
「ちっ、それが余計な」
「は?」
いいえと。
◇◆◇
「なんだか興ざめね」
「しょうがないわね、後はジェイドに任せるわ」
バルバラ王妃はおもちゃを取られた子供のように拗ねて答える
「お母様お任せください」
ジェイドは国王に自らリリーナの教育係を名乗り出た。後々魔法使いを使うのは時期国王の自分だからと。
イーリアが後でそのことを知り、ジェイドに詰め寄るが今後一切関わるなと言われ怒りに震えたのは言うまでもない。
◇◆◇
魔法使いは王族に逆らえない。これは古の誓約がまだ有効である為だ。エヴァが若い頃まだ生きていた魔法使いからも散々言われ、自身少し館から出ようとしただけで死にかけたらしい。
魔法使いは住んでる館から王族の許しなく出ることはできないが、館の庭は大丈夫みたいなので、たまに息抜きに庭にでる。
「…」
呼んでしまうと揺らぐので声に出さない。目を閉じ楽しかった日々を思い出す。
「虫はこんなところにいるのね」
綺麗な思い出に浸ってる時に、ここにいるはずない人間の声を聞く。
「ジェイド様にまとわりつく虫は排除しないとね」
だから余計な事を…と思った瞬間身体が叩きつけられ意識を失った。
「行かないと…ダメ?」
「そうだね。一応王妃からの呼び出しだからね」
行きたくないな…と思いながらエヴァに送ってもらう。
呼び出された部屋の扉の前に立つ。小さくトントンとノックする。扉が開くと中にはバルバラと1人女の子がいた。第一印象…嫌な奴。
イーリア・ベルジック公爵令嬢、ジェイド王子の婚約者だ。
「王妃様、これですの?」
「そうよ」
「…」
「ありがたく思ってね。私がお前を教育してさしあげてよ」
人への嫌悪がこんなにも気持ちの悪いものだとは思わなかった。笑っている2人の顔が真っ黒に見える。
──気持ち悪い…
戻る…と意識するとエヴァの元に帰れた。戻ってきたリリーナは我慢できず吐いた。
「大丈夫か?他には?」
右手でローブをめくると、皮膚が赤く腫れ右太ももは火傷している。エヴァは顔をしかめながら手をかざすと傷は消える。
リリーナはベッドに倒れ込む。行く前からこうなるかもとエヴァから聞いていた。昔エヴァが同じような目にあっていたからだ。
──今は我慢する。もっともっと…
エヴァがベッドの縁に座りリリーナの頭に手を置いて
「見えてる傷は治せても残る傷もあるね…いずれ時はくる。それまでに…全て教えるさ」
そこからのリリーナは吸収が速かった。貪欲にエヴァの全てを自身に取り込もうとしていた。余計な事を考えないように感情を押さえ込んで押さえ込んで…
「今日はジェイド様もいらっしゃるのよ」
イーリアは嬉しそうに語る。ジェイドは気乗りしてない様子で椅子に座っている。
メイドがお茶の用意をして3人の前に並べる。
「さあお飲みになって」
イーリアはリリーナに微笑みながら扇でカップを指す。カップを取ろうとすると
「ジェイド様がまだでしょ!!」
言うと同時ニヤリと笑いながら扇で手を叩かれる。
「イーリア!!」
「ジェイド様申し訳ございません。これはまだまだ躾が必要ですわ」
リリーナはかすかに口を歪めたが何事もなかったように座っている。
イーリアはさらに右頬を扇で払うように叩く。1本線が引かれたように赤く血が滲む。
「口も聞けませんの?」
「…」
何か喋っても同じなので答えない方がましである。
「イーリア!!君は何を!!」
「ジェイド様大丈夫ですわ。これ、すぐに治るから何してもいいんですのよ。私はこれを躾ないとダメですの」
笑いながら言うイーリアを睨みジェイドは立ち上がりリリーナの腕をつかみ立ち上がらせ引きずるように部屋から出て行こうとする。
「ジェイド様!どうされました?これが何か…」
自分の名前を呼ぶイーリアを無視しジェイドは少し乱暴に扉を開け出て行く。
部屋を出て勢いのまま少し歩いていたが、掴んでいた手を前に払うように離したのでリリーナは前に放り出される。
「お前も何……あっ」
身体が自由になったリリーナは既に目の前にいなかった。
「おや、今日は早いね」
「疲れた」
エヴァが傷を治す。今日はやめるかいと聞くとまさかと、伸びかけてひとつにしばっていた髪をほどく。
エヴァの教えは二つ。1つ目、魔法を理解する事。理解するのは誰でもできる。原理を勉強すればいいだけだ。2つ目、単純な事だが理解した魔法を使う力を増やす事。どれだけ理解しても使えないと意味がないが…この力を持つのが今や二人だけなのだ。
エヴァの前に座りふーと一息吐く。
目を閉じ静かに集中する。
ドタドタと音をたてながらジェイドが入ってくる。
「…!!」
何か言いながら入ってきたが目の前の光景に言葉を失う。
部屋の中心でリリーナが輝いていた。髪が金色に変わり身体全体を光が包んでいるように見える。しばらくその状態だったがリリーナが少し眉を動かした瞬間弾けるように全て消える。
「まだまだじゃな、身体の中心を意識して底上げせんと意味がない」
はぁはぁと肩で息をしながらリリーナは頷く。
「して、王子は何用か?」
「え?ああ、いや、傷はどうなったかと…」
まだ息があがっているリリーナが少し顔を上げジェイドを見るがその顔に傷はない。
「心配ない。治せるからな」
「!!」
「気にせず…お戻りください。騒がれると余計に後が面倒」
「あれはさすがにやりすぎだ。二度としないように…」
「ちっ、それが余計な」
「は?」
いいえと。
◇◆◇
「なんだか興ざめね」
「しょうがないわね、後はジェイドに任せるわ」
バルバラ王妃はおもちゃを取られた子供のように拗ねて答える
「お母様お任せください」
ジェイドは国王に自らリリーナの教育係を名乗り出た。後々魔法使いを使うのは時期国王の自分だからと。
イーリアが後でそのことを知り、ジェイドに詰め寄るが今後一切関わるなと言われ怒りに震えたのは言うまでもない。
◇◆◇
魔法使いは王族に逆らえない。これは古の誓約がまだ有効である為だ。エヴァが若い頃まだ生きていた魔法使いからも散々言われ、自身少し館から出ようとしただけで死にかけたらしい。
魔法使いは住んでる館から王族の許しなく出ることはできないが、館の庭は大丈夫みたいなので、たまに息抜きに庭にでる。
「…」
呼んでしまうと揺らぐので声に出さない。目を閉じ楽しかった日々を思い出す。
「虫はこんなところにいるのね」
綺麗な思い出に浸ってる時に、ここにいるはずない人間の声を聞く。
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