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勇者の暗躍(5)
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「王家は、二百年前より世界と同じ名前オプストフルクトを名乗っています。妃殿下の言うように、『特別』であることに拘っていそうです」
「あれって、面倒だから同じ名前にしてたわけじゃなかったのか……」
「実際、彼らは知識を独占し、金の流れを操ることで人をも操っています。金は一時的に手に入れても、知恵が無ければ手元に残らない。増やす手段を知らない者は、遅かれ早かれすべて手放すことになる。支配する側とされる側の割合を保つ、よくできたシステムです」
なるほど。私こそ「なるほど」です、シナレフィーさん。
最後の一口のステーキを口に入れながら、私は彼に大きく頷いてみせた。
「でも今の人間の王家は、単に政治を担っている者たちの総称だろ? 二百年前に在った三つの王家は、先代が根絶やしにしたんだから。そんなハリボテのような王家に、そこまでの効力があるのか?」
「そのハリボテだということを知っているのが、私たちと一部の人間だから問題なのですよ。紛い物しか見たことのない者に宝石だと偽って石ころを渡せば、信じてしまうものです。人間たちの間で、王家は存在するんですよ」
シナレフィーさんに「そういうものか?」と返したギルが、器を片手に中のサラダをフォークで掻き込む。
「まあ、私たちが魔界に引き上げたら、その時は仕方なく彼らが民に二百年前の技術を幾つか教えるでしょう。さも、新しく開発したように。それで彼らは『特別』を維持しますが、その後は変わると思います」
「教えるのが、幾つかなのにか?」
空になったサラダの器をテーブルに戻したギルは、先に空にしていたワイングラスを手に取った。
とぽぽっ
ワイングラスに、テーブルの端に置かれたシードルの瓶から独りでに中身が注がれる。
小さなものから大きなものまで、動かす力か重力操作。
「零を一にするより、一を千にする方が容易いものです。きっかけがあれば、一部の人間とその他の勢力図は塗り変わっていくことでしょう。もっとも、今よりマシになるかどうかは知りませんが」
「次の百年花が咲いたら、様子を見に行くのもいいかもな」
「それはいいですね。人間の社会は百年あるとかなり変わります。ゼンの書店が残っているといいのですが」
魔界から人間界に来る理由が侵略ではなく買い物とは。平和的だ。
「その時はもしかしたら、絵本とか今は無いジャンルも増えているかもしれませんね」
私がそう付け加えれば、予想通りシナレフィーさんの目が輝く。
「俺は王都の彼方此方にある機械仕掛けが増えていないか、楽しみだな。あの一個歯車が動いたら次々連動していく奴、見てて面白いんだよな」
確かにああいったものは、大掛かりなドミノ倒しのようなもの。そう思って見物すれば楽しめそうだ。そしてギルは某教育番組でやっていた、カラクリ装置に大喜びしそう。
(王都か。王都を管理する『王家』は支配する側。だとすると、カシムはきっと支配される側になるよね)
RPGにおいて王は、勇者に無理難題を吹っ掛けてくるのがセオリーというもの。異世界召喚なんて大掛かりなことをしていたくらいだ、魔王を倒す理由が勇者個人にある可能性は低い。人々の生活のためにカシムが魔物を留めたいのなら、王家の思惑を知れば彼も手を引いてくれないだろうか。
(私の身の安全からも、是非そうして欲しいところ)
歯車装置の解説をしようとしたシナレフィーさんの口をギルが手で塞ぐのを眺めながら、私は「ご馳走様でした」と手を合わせた。
「あれって、面倒だから同じ名前にしてたわけじゃなかったのか……」
「実際、彼らは知識を独占し、金の流れを操ることで人をも操っています。金は一時的に手に入れても、知恵が無ければ手元に残らない。増やす手段を知らない者は、遅かれ早かれすべて手放すことになる。支配する側とされる側の割合を保つ、よくできたシステムです」
なるほど。私こそ「なるほど」です、シナレフィーさん。
最後の一口のステーキを口に入れながら、私は彼に大きく頷いてみせた。
「でも今の人間の王家は、単に政治を担っている者たちの総称だろ? 二百年前に在った三つの王家は、先代が根絶やしにしたんだから。そんなハリボテのような王家に、そこまでの効力があるのか?」
「そのハリボテだということを知っているのが、私たちと一部の人間だから問題なのですよ。紛い物しか見たことのない者に宝石だと偽って石ころを渡せば、信じてしまうものです。人間たちの間で、王家は存在するんですよ」
シナレフィーさんに「そういうものか?」と返したギルが、器を片手に中のサラダをフォークで掻き込む。
「まあ、私たちが魔界に引き上げたら、その時は仕方なく彼らが民に二百年前の技術を幾つか教えるでしょう。さも、新しく開発したように。それで彼らは『特別』を維持しますが、その後は変わると思います」
「教えるのが、幾つかなのにか?」
空になったサラダの器をテーブルに戻したギルは、先に空にしていたワイングラスを手に取った。
とぽぽっ
ワイングラスに、テーブルの端に置かれたシードルの瓶から独りでに中身が注がれる。
小さなものから大きなものまで、動かす力か重力操作。
「零を一にするより、一を千にする方が容易いものです。きっかけがあれば、一部の人間とその他の勢力図は塗り変わっていくことでしょう。もっとも、今よりマシになるかどうかは知りませんが」
「次の百年花が咲いたら、様子を見に行くのもいいかもな」
「それはいいですね。人間の社会は百年あるとかなり変わります。ゼンの書店が残っているといいのですが」
魔界から人間界に来る理由が侵略ではなく買い物とは。平和的だ。
「その時はもしかしたら、絵本とか今は無いジャンルも増えているかもしれませんね」
私がそう付け加えれば、予想通りシナレフィーさんの目が輝く。
「俺は王都の彼方此方にある機械仕掛けが増えていないか、楽しみだな。あの一個歯車が動いたら次々連動していく奴、見てて面白いんだよな」
確かにああいったものは、大掛かりなドミノ倒しのようなもの。そう思って見物すれば楽しめそうだ。そしてギルは某教育番組でやっていた、カラクリ装置に大喜びしそう。
(王都か。王都を管理する『王家』は支配する側。だとすると、カシムはきっと支配される側になるよね)
RPGにおいて王は、勇者に無理難題を吹っ掛けてくるのがセオリーというもの。異世界召喚なんて大掛かりなことをしていたくらいだ、魔王を倒す理由が勇者個人にある可能性は低い。人々の生活のためにカシムが魔物を留めたいのなら、王家の思惑を知れば彼も手を引いてくれないだろうか。
(私の身の安全からも、是非そうして欲しいところ)
歯車装置の解説をしようとしたシナレフィーさんの口をギルが手で塞ぐのを眺めながら、私は「ご馳走様でした」と手を合わせた。
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