魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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竜殺しの剣(1)

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 シナレフィーさんは部屋に戻ったため、食後の紅茶はギルと二人だった。
 リリが退出する時に言ってた「後はお若いお二人で!」は、一体どこで覚えたのか。そして使いどころが違う気が。
 目の前のカップに手を伸ばす。前後に並べられた、手前のものに。
 そう、左右でなく、前後。何故ならカップ同様、私とギルも左右でなく前後に座っているから。正確に言えば、私がギルの膝の上にいるから。
 私は、ちろりと自分のお腹を見下ろした。
 そこには料理で膨れたお腹――ではなく、後ろから回されたギルの手が。
 ついさっきまで私は、普通にギルの隣に座っていた。それで彼がやたらとこちらを見ているなと思っていた次の瞬間には、もうこうなっていた。
 ひょいっと持ち上げられて、ぽすっと。ものの数秒、早技だった。
 コクッ
 所作だけは落ち着いて、紅茶を一口飲む。
 うん。後ろが気になって、見事に味がわからない。

「サラに触りながら、紅茶も飲める。何で最初から、こうしなかったんだろう……」

 そんな大発見したみたいな、感じ入る言い方をされましても。
 すりすり
 私の肩に顎を乗せたギルが擦り寄ってきて、くすぐったい。

「ずっとこうしていたい……久々に帰ってきたのに、またサラと離れないといけないなんて、ついてない……」

 すりすり
 何だろう、この大型の動物は。って、竜か。そうか。

(私も、ギルとこうしていたいな)

 そんな気持ちで、私はギルの手に指先でちょんと触れてみた。
 遠慮がちなアクション。けれどそれでギルの動きがピタリと止まる。
 この人は、こんな些細な意思表示を拾ってくれる。

「私が精霊の村に一緒に行くのは、駄目ですか?」

 だから私は、素直に言葉にできた。
 ギルの手が、私の指先をつまんで弄ぶ。

「駄目ってわけじゃない。けど、場合によっては、一日の大半をサラを一人にすることになる。サラは俺の妃だから入れるけど、ほとんどの魔物や人間は、あの場所には入れないんだ」

 理由を聞いて、腑に落ちる。
 ギルが不在時の護衛が付けられない。でもって、私が戦闘能力ゼロ。それはギルも簡単に了承できないか。

(でも精霊の村は、ギルが一度は一緒に行こうと話題に出した場所なのよね)

 ということは、カシムの件が無ければ、村自体は比較的安全なんじゃなかろうか。

「私を一人にというからには、村はそれなりの広さがあるんですよね」
「ああ、だから遠くにいると感知できないかもしれない」
「それはカシムも同じだと思うんです」
「え?」

 ギルが顔を上げて、密着していたのが離れる。つままれた指先も、解放される。
 そんなことですら、寂しいと思ってしまった。

「カシムは私がいると思っていません。村が広いなら、私を探しに来たわけじゃないカシムとバッタリ会う可能性は、低いと思います」
「それはまあ、そうだけど……。うーん、カシムはサラがいるとは知らない、カシム以外の敵も精霊の村に入れない……。そう考えると、アリなのか?」

 ブツブツと、ギルが独りごちる。

「にしても、サラはそんなにも精霊の村に行ってみたかったのか」
「だって私も行けば、魔王城でお留守番するよりはギルに会えるんですよね?」
「えっ、理由がそこ? またサラが可愛いこと言ってる……」

 私のお腹にあるギルの手が、小刻みに震える。
 そんな反応をするギルの方が、可愛いのですが。
 ダブルで襲い掛かってきた恥ずかしさに、私は意味も無く手にしたカップの縁を指で叩いた。

「そうだな、会える。……わかった、連れて行く」
「! ありがとう」
「いや、俺も本音を言えば来て欲しかったから」

 ギルが嬉しそうな声で、返してくれる。言ってみて良かった。
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