魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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竜殺しの剣(2)

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「カシムがサラを探している、か。サラに使われた探索蝶は、宮廷魔術士の眷属。カシムは間違いなく俺の情報を王家に流してるな。誤算だった」
「カシムが王家に? 逆じゃないんですか?」
「カシムから王家に、だな。サラとミアは別として、俺が魔界に帰るつもりなのを話した人間は、あいつだけだから」
「えっ、ギルはカシムと知り合いだったんですか?」

 ここにきて、意外過ぎる事実が発覚。

「十年くらい前かな。イスカの村が火事になったんだ。俺は森の火を消しに行って、そこで森から村に戻るところだったあいつと会ったんだ」

 私の後ろから手を伸ばしてきたギルは、自分のカップを取った。

「なんか勇者の血族は魔王の判別ができるみたいで、速攻バレたんだよ。俺を前に、カシムは剣を構えた。けど、どう見てもあいつは俺より火に呑まれる村を気にしてた。だから俺はカシムに、「やらねばならないことより、やりたいことを選びたいんじゃないのか」って言ってやった」
「カシムは村を選んだ?」
「そう。そのときに、俺は魔界に帰ることをあいつに話した。イスカ周辺は魔物が強いから、あの村では魔物は災害であって、獲物という認識は無かったんだ。だから俺は、あいつが邪魔をしに来ないと踏んでいたんだけど」

 背後でギルが紅茶を飲む気配がして、空になった彼のカップは元の場所に戻された。

「それでも、イスカは小さな村だし王都からも離れていますよね。勇者の末裔とはいえ、辺境の村人の一人でしかないカシムが、王家と接触する機会なんてあるんでしょうか」

 そりゃあRPGなら、どこから嗅ぎつけたのか辺境に住んでいても国から使者が来て、旅に出ることになったりするけれど。でも実際問題、田舎から出て来た人間がツテも無いのに国のお偉いさんに会うというのは、そう簡単ではない気がする。
 ギルもその部分は感じたのか、私同様「うーん」と唸る。
 ぺしぺし
 私のお腹の前で重ねられたギルの上の方の手が、下の手を叩く。

「……会ったのが直接カシムでないなら、あるいは。イスカの村が王家というか、国に窮状を訴えたのかもしれない。今思えば、火事が起きてからの村の復興が早過ぎた」
「窮状……国に支援を依頼した?」
「多分。それで村に魔物素材を使った製品が大量に流通したんだと思う。サラが前に見たと言ってた夜光蝶を閉じ込めた灯りも、火事になる前の村には無かった。当時のイスカの村の技術を考えると、魔物製品は良質で安価。支援物資以外でも、自分たちで買って村に入れた物も多いと思う」
「それが十年くらい前の話なら、きっと今はもう村に魔物製品が浸透していますね」
「俺を倒す必要性が出て来たわけだ。……はぁ」

 ぱしぱし
 さっきよりも大きく、ギルは上の方の手で下の手を叩いた。

「精霊の村まで出張る羽目になったし、サラ狙いの探索蝶は今日も飛んでて食人蔦が駆除してたし。早いところケリを着けたいな」

 食人蔦が探索蝶を駆除というのは、やっぱりバリバリ食べて――うん、考えるのは止そう。
 コクッ
 紅茶の最後の一口を飲む。うん、美味しい。さっきはわからなかった味がもうわかるとか、慣れって怖い。
 私はカップをテーブルに戻した。
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