魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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竜殺しの剣(3)

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「思ったんですが、『竜殺しの剣ドラゴンスレイヤー』の方をどうにかってできないんですか? それが使えなければ、カシムはギルの脅威にはならないんですよね。カシムより先に、誰かが抜いてしまうとか……覚醒した勇者しか抜けない原理って何だろう」

 後半は私の呟きになって、それをギルが「あー、あれな」と拾う。

「あれは原理とかそんなんじゃなくて、普通の人間には物理的に抜けないだけだ。人間というより、竜くらいの力が無いと誰にも抜けない。覚醒した勇者も強引に抜くだけだ」

 まさかの力技。

「竜殺しの剣なのに、竜しか抜けないんですか?」
「元々、竜殺しの剣を造ったのが竜だからな。先代が来るよりもっと前に、オプストフルクトに渡った魔物は時々いて。俺の先祖もそうで、そこで人間の女性を愛してしまったから、後追い自殺するために造ったらしい。用途が用途なもんだから、竜なら急所に当たらなくとも、あれで切られただけで確実に死ねるとか」

 危なっ。『竜ですら殺せそうな剣』かと思いきやだった。

「多分、カシムの先祖がその剣を見つけたから、精霊が異物である魔物をそれで退治させたんじゃないかな。当時は人間の数も多くなくて、魔物がいない方が生態系のバランスが取れていただろうから」
「あ、そうか。剣を抜かせる力を与えるのが精霊だから、勇者にそういう役割を持たせたのも精霊になるわけで。……あれ、でも勇者の覚醒条件て身内の死ですよね。そんなことを強いる精霊の言うことを、素直に聞くでしょうか」
「そこは最初は順序が逆だったんだと思う。直前に魔物に身内を殺された勇者を精霊がそそのかした、とか」

 なるほど。自分の無力を嘆いていたところに、力を与えてくれる存在が現れる。ゲームでは、あるある展開だ。

「その後の人為的な勇者は精霊の誤算なのか、それとも人間という括りから逸脱した勇者の一族を共食いさせる手なのかは、わからないな」
「そう聞くと、勇者の一族も被害者ですね……」

 旅の先々で便利屋扱いされて、見事魔王を倒して戻れば褒美が政略結婚。なんてのも、あるある展開だもんね……勇者って。

「物理的に抜けるなら、竜くらい力のある別の魔物に回収してもらうとかはどうですか?」
「理論上は可能だけど、竜が掠っただけで死ぬ代物を試しに抜いてみようって魔物がいないな」
「あー……」

 ギルの返答に、思わず納得してしまう。
 私だって、例えば「これ空砲だから頭に当てて撃ってみて」と拳銃を渡されたとして、まず撃てない。差し出してきた人間が先にやってみせても、無理だ。

「にしても、サラは冷静だな。自分を殺しにかかった奴に対して、「被害者」だなんて」
「それは……」

 それは王が勇者に無理難題を吹っ掛けてくるのがセオリーだと、知っているから。
 自分が勇者側となり、魔物を倒していくゲームにおいて。
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