竜の花嫁 ~夫な竜と恋愛から始めたいので色々吹き込みます~

月親

文字の大きさ
39 / 69

恋情と愛情(5)

しおりを挟む
「人間の男は新しい女を前にしたとき同時進行で好意を向けるそうですが、女は比較するそうです。既に貴女の夫という有利な立場にいながら、比較で落とされるというなら、それは事実私に何か足りない部分があるのでしょう。――まあ、どれだけ比較されても私は落とされる気はしていませんが」
「自信があるのね」

 うんちくを述べるレフィーにそう返しながらも、それはそうかと思う。
 実際、レフィーは素敵だ。今この瞬間も、「好き」って叫びたいくらいだ。
 昨日より今日、さっきより今。ずっと好きなのに、まだ好きになっていく。

「ありますよ。今もまた、自信が付きました。言ったでしょう、ミアはわかりやすいと。気付いていないでしょうが、貴女はいつも私が視界に入った途端、口元が緩むんです。ついでに言えば、私のことを考えているときも態度で丸わかりです。たまに口パクで私の名前まで呼んでいます」
「え?」
「貴女は貴女自身が思っているより、私を愛しています。そして私はそのことを、貴女以上に知っているんです」
「!?」

 レフィーの指が、私の髪の中に入ってくる。
 でも驚いたのは、そのこそばゆい感触ではなくて。

(私が……レフィーを愛してる?)

 恋はしていると思っていた。事あるごとに、好きだなと思っていたから。
 でも愛は、どこか遠いものと思っていた。独りよがりな私には、到底辿り着けないそんな場所にあるものだと思っていた。

(それなら私たちは、もうずっと前からちゃんと恋愛していたのかもしれない)

 恋がわからないと言うレフィーは、陛下に嫉妬してちようらんそうを摘み取っていた。
 愛がわからないと思っていた私は、レフィーの目からは愛しているように映るという。

(もしかしたら私は、『実験』という単語に、振り回されていただけなのかも)

 私はその単語だけ、上辺だけを見ていて。それを口にするレフィーの心情に、欠片も意識を向けていなかった。
 『実験』は彼が好きな『試す』ことで。彼はただ純粋に、自分の好きなことを私と一緒にやりたいという気持ちで、その言葉選びをしていたのかもしれない。

(そうだ。レフィーは以前、私が幸せであることを望んでいると言っていた)

 どうして忘れていたのだろう。それよりも、どうして聞き流してしまっていたのだろう。
 そんなふうに言う彼が、私を使い捨てるわけがないのに。

(もし……もし次にレフィーが「実験がしたい」と言ったなら、私は……)

 レフィーの手が、私の耳の後ろから首筋を伝って、左頬まで来る。
 そろりと正面に目を戻せば、瞬時に、琥珀色の瞳に囚われた。

「ミア」

 名前を呼ばれる。レフィーがくれた、この世界の新しい『美愛』の名前を。
 覚悟は、出来た。

「そういえば、エレベーターが完成したんですよ」
「…………は?」

 だがその覚悟は、三秒後には私の半開きの口からするっと抜けていってしまった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

〘完〙なぜかモブの私がイケメン王子に強引に迫られてます 〜転生したら推しのヒロインが不在でした〜

hanakuro
恋愛
転生してみたら、そこは大好きな漫画の世界だった・・・ OLの梨奈は、事故により突然その生涯閉じる。 しかし次に気付くと、彼女は伯爵令嬢に転生していた。しかも、大好きだった漫画の中のたったのワンシーンに出てくる名もないモブ。 モブならお気楽に推しのヒロインを観察して過ごせると思っていたら、まさかのヒロインがいない!? そして、推し不在に落胆する彼女に王子からまさかの強引なアプローチが・・ 王子!その愛情はヒロインに向けてっ! 私、モブですから! 果たしてヒロインは、どこに行ったのか!? そしてリーナは、王子の強引なアプローチから逃れることはできるのか!? イケメン王子に翻弄される伯爵令嬢の恋模様が始まる。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...