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第三音
第三音②
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(学校、行きたくないなぁ……)
次第に琴音をネガティブな感情が襲う。しかしそのネガティブさに負けず、毎日学校へ通っていられるのは他でもない、鈴とカノンの存在のお陰であった。
(クラスは居心地、悪いけど、学校に行けば二人に会えるもんね)
琴音を支える存在となっていることに、この時まで鈴もカノンも気付かないでいたのだった。
「ねぇ、鈴。最近の琴音、何か変じゃない?」
「そう?」
五月も終わりに差し掛かった放課後、鈴はカノンの教室で琴音の帰り支度が終わるのを待っていた。手持ち無沙汰な様子でカノンの隣の席に勝手に座っていた鈴に、カノンが言葉をかける。鈴はカノンに視線だけを投げると、暇そうに身体を前後に揺らしていた。
「もう、鈴。ちゃんと聞いてよ」
カノンに注意された鈴は軽く肩をすくめると身体を揺さぶるのをやめた。
「それで? 琴音の様子がおかしいって?」
「そうそう。何だろう? うまく説明できないんだけど、なんか、よそよそしくない?」
「んー……」
鈴はカノンから視線を宙に向け、今日までの琴音の様子を振り返った。正直、クラスが分かれてからと言うもの学校内での琴音との接点はほとんどなくなってしまった。カノンとは体育の授業が一緒のためまだ話す機会もある。しかし琴音の場合はそんな接点すらないのだ。用事ができた場合は手元のスマートフォンを使ってメッセージを送ることで、簡単に連絡事項を伝えることができる。そのような現状から、鈴は特に琴音への違和感を覚えることはなかったのだった。
鈴がカノンにそう伝えると、カノンは去年、他のクラスの女子から文化祭の後に因縁をつけられたことを覚えているかと尋ねてきた。
「覚えてる、覚えてる! 何か、調子に乗るな、とかなんとか言ってきた子たちだよね?」
「そうそう。あの子たちさ、今、どのクラスか調べてみたの。そしたらね、琴音と一緒だったよ」
「うげ、マジ? それ、ヤバくない?」
文化祭の直後に鈴たち『ルナティック・ガールズ』へ因縁をつけてきた女子たちに、当時の鈴とカノンは食ってかかったのだが、そんな二人の様子をオドオドと困ったように見ていたのが琴音だったのだ。
「琴音はさ、凄く優しい子だし、気遣う子だから、クラスで何かあっても言えないのかもしれない」
「水くさいって思うけど、それが琴音だもんね。分かった。私もなるべく注意して琴音の様子を見ていくよ」
「お待たせ、二人とも! 遅くなってごめんね」
カノンと鈴が琴音のことを注意深く見ていこうと話がまとまったとき、琴音がカノンの教室へと現れた。相当急いだのだろう。琴音の息は乱れている。琴音は両手を自身の膝につき、頭を二人に向けて下げた。
「琴音、そんなに急がなくても大丈夫だったのに……」
「だって、待たせたら悪いって思って……」
鈴の言葉に琴音は困ったように笑いながら返した。この時鈴は先程までカノンと話していた内容を思い出していた。琴音は本当に、他人に気を使うことのできる子だな、と。
(そんな生き方していて、疲れないのかな? 琴音は)
「鈴ちゃん?」
「ん?」
「どうしたの? 私の顔みて、ぼーっとしちゃって」
「あ、あぁ! ごめん、ごめん! さ、帰ろう!」
鈴の言葉に琴音が不思議そうに首をかしげた。それを見ていたカノンは、
(鈴のバカ……。アンタが琴音に気を使わせて、どうすんのよ)
そう思うと、こっそりため息を漏らすのだった。
「そう言えば、もうすぐ春の遠足だねー」
その日の駅までの帰り道。鈴は六月の頭に行われる学校行事の遠足についての話題を持ち出した。その話を聞いた琴音が、
「今年は遊園地、だっけ?」
その言葉を聞いたカノンは、
「遊園地って……。私たち、もうそんな子供じゃないってーの」
「カノンはいいじゃん? 彼氏とタダで遊園地デートできるって思えばさ」
呆れたように言うカノンの言葉に続いたのは鈴だ。そんな鈴の言葉を聞いたカノンはここぞとばかりに言葉を返す。
「そう言う鈴だって、小林くんがいるじゃない?」
「ばっ! 和真くんは関係ないじゃん! 第一、クラスが違うし! 班行動が大原則でしょ?」
「クラスが違うのは、私と大和も一緒なんだけど?」
慌てて思わず早口になってしまう鈴へ、カノンはニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながらたたみかける。そんな二人のやり取りを聞きながら、琴音は少し寂しげな笑みを浮かべているのだった。
琴音のクラスではつい先日、この春の遠足のための班決めが行われた。クラスのリーダー的存在である女子を中心に、完全に無視をされてしまっている琴音はこの班決めが憂鬱で仕方なかった。
(私だけ、あぶれるのは目に見えているしね)
そう考えていた琴音の思い通り、この班決めはやはり琴音の居場所がない状況になってしまった。
「おーい、誰か清水さんを入れてあげてくださーい」
困った担任の先生がクラス中の女子に向かって呼びかける。それを聞いたクラスのリーダー格の女子はクスクスと琴音に聞こえるように笑っていた。その嘲笑は琴音の鼓膜にこびりつき、ずっと反響することとなる。
(早く、終わらないかな……)
次第に琴音をネガティブな感情が襲う。しかしそのネガティブさに負けず、毎日学校へ通っていられるのは他でもない、鈴とカノンの存在のお陰であった。
(クラスは居心地、悪いけど、学校に行けば二人に会えるもんね)
琴音を支える存在となっていることに、この時まで鈴もカノンも気付かないでいたのだった。
「ねぇ、鈴。最近の琴音、何か変じゃない?」
「そう?」
五月も終わりに差し掛かった放課後、鈴はカノンの教室で琴音の帰り支度が終わるのを待っていた。手持ち無沙汰な様子でカノンの隣の席に勝手に座っていた鈴に、カノンが言葉をかける。鈴はカノンに視線だけを投げると、暇そうに身体を前後に揺らしていた。
「もう、鈴。ちゃんと聞いてよ」
カノンに注意された鈴は軽く肩をすくめると身体を揺さぶるのをやめた。
「それで? 琴音の様子がおかしいって?」
「そうそう。何だろう? うまく説明できないんだけど、なんか、よそよそしくない?」
「んー……」
鈴はカノンから視線を宙に向け、今日までの琴音の様子を振り返った。正直、クラスが分かれてからと言うもの学校内での琴音との接点はほとんどなくなってしまった。カノンとは体育の授業が一緒のためまだ話す機会もある。しかし琴音の場合はそんな接点すらないのだ。用事ができた場合は手元のスマートフォンを使ってメッセージを送ることで、簡単に連絡事項を伝えることができる。そのような現状から、鈴は特に琴音への違和感を覚えることはなかったのだった。
鈴がカノンにそう伝えると、カノンは去年、他のクラスの女子から文化祭の後に因縁をつけられたことを覚えているかと尋ねてきた。
「覚えてる、覚えてる! 何か、調子に乗るな、とかなんとか言ってきた子たちだよね?」
「そうそう。あの子たちさ、今、どのクラスか調べてみたの。そしたらね、琴音と一緒だったよ」
「うげ、マジ? それ、ヤバくない?」
文化祭の直後に鈴たち『ルナティック・ガールズ』へ因縁をつけてきた女子たちに、当時の鈴とカノンは食ってかかったのだが、そんな二人の様子をオドオドと困ったように見ていたのが琴音だったのだ。
「琴音はさ、凄く優しい子だし、気遣う子だから、クラスで何かあっても言えないのかもしれない」
「水くさいって思うけど、それが琴音だもんね。分かった。私もなるべく注意して琴音の様子を見ていくよ」
「お待たせ、二人とも! 遅くなってごめんね」
カノンと鈴が琴音のことを注意深く見ていこうと話がまとまったとき、琴音がカノンの教室へと現れた。相当急いだのだろう。琴音の息は乱れている。琴音は両手を自身の膝につき、頭を二人に向けて下げた。
「琴音、そんなに急がなくても大丈夫だったのに……」
「だって、待たせたら悪いって思って……」
鈴の言葉に琴音は困ったように笑いながら返した。この時鈴は先程までカノンと話していた内容を思い出していた。琴音は本当に、他人に気を使うことのできる子だな、と。
(そんな生き方していて、疲れないのかな? 琴音は)
「鈴ちゃん?」
「ん?」
「どうしたの? 私の顔みて、ぼーっとしちゃって」
「あ、あぁ! ごめん、ごめん! さ、帰ろう!」
鈴の言葉に琴音が不思議そうに首をかしげた。それを見ていたカノンは、
(鈴のバカ……。アンタが琴音に気を使わせて、どうすんのよ)
そう思うと、こっそりため息を漏らすのだった。
「そう言えば、もうすぐ春の遠足だねー」
その日の駅までの帰り道。鈴は六月の頭に行われる学校行事の遠足についての話題を持ち出した。その話を聞いた琴音が、
「今年は遊園地、だっけ?」
その言葉を聞いたカノンは、
「遊園地って……。私たち、もうそんな子供じゃないってーの」
「カノンはいいじゃん? 彼氏とタダで遊園地デートできるって思えばさ」
呆れたように言うカノンの言葉に続いたのは鈴だ。そんな鈴の言葉を聞いたカノンはここぞとばかりに言葉を返す。
「そう言う鈴だって、小林くんがいるじゃない?」
「ばっ! 和真くんは関係ないじゃん! 第一、クラスが違うし! 班行動が大原則でしょ?」
「クラスが違うのは、私と大和も一緒なんだけど?」
慌てて思わず早口になってしまう鈴へ、カノンはニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながらたたみかける。そんな二人のやり取りを聞きながら、琴音は少し寂しげな笑みを浮かべているのだった。
琴音のクラスではつい先日、この春の遠足のための班決めが行われた。クラスのリーダー的存在である女子を中心に、完全に無視をされてしまっている琴音はこの班決めが憂鬱で仕方なかった。
(私だけ、あぶれるのは目に見えているしね)
そう考えていた琴音の思い通り、この班決めはやはり琴音の居場所がない状況になってしまった。
「おーい、誰か清水さんを入れてあげてくださーい」
困った担任の先生がクラス中の女子に向かって呼びかける。それを聞いたクラスのリーダー格の女子はクスクスと琴音に聞こえるように笑っていた。その嘲笑は琴音の鼓膜にこびりつき、ずっと反響することとなる。
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