それは天使の祝福か

彩女莉瑠

文字の大きさ
17 / 33

四③

しおりを挟む
「それで、三浦さん。本当のところはどうなんですか? 彼氏」

 ごくり、と喉を鳴らして真剣な面持ちで尋ねてくる後輩に、里帆は一瞬言葉に詰まってしまう。何故なら彼氏、と言う単語で脳裏をよぎったのは、

(ラファエル? いやいや、あの人、得体が知れないし。第一、彼氏と言うよりも弟みたいだし……)

「あ、その様子だとやっぱり、いるんですね? 彼氏!」
「えっ? いや……」
「いいんです、いいんです! この世界、彼氏のいないことが暗黙のルールですもんね! 私、神主さんには絶対に言いませんから!」

 後輩の巫女は鼻息も荒くそう息巻いた。『神主さんには』と言うことは『他の巫女仲間には』話すという意味だろうか?
 里帆はそんなことをつらつらと考えてしまう。そんな里帆に後輩の巫女はなんだか踏ん切りがついてスッキリしたような表情だ。どうやら里帆は盛大な誤解をされているようだったが、もうこうなってしまっては何を言っても逆効果になることを知っていた。なので短く息を吐き出すと、

「ほら、私の話はもういいでしょう? 明日の新郎新婦のためにも、また最初から合わせてやってみましょう?」
「はいっ!」

 里帆の言葉に後輩は笑顔で返事をすると、二人は再び明日の舞の最終確認を進めていくのだった。
 そして最後の調整も終わり、里帆は舞の練習を終える。

「お疲れ様でした!」
「お疲れ様。明日は頑張りましょう」

 里帆は後輩の巫女に声をかけると更衣室で着替えを済ませてさっさと境内へと向かった。この行為がきっと、ウワサに拍車をかけていることは今日、理帆自身知ったことだったが、ウワサは所詮ウワサに過ぎないので、もう好きに言わせておくことにする。

(悪意のあるものでは、ないみたいだしね)

 境内に出た里帆は、

「おかえり! 里帆!」
「ただいま」

 笑顔で駆け寄ってきたラファエルを認めると、自身のその頬が自然と緩むのが自分でも分かる。

「またずっと待っていてくれていたの?」
「今日は自分の務めを果たしていたよ」
「ラファエルの、務め?」

 里帆の問いかけにラファエルは曖昧に微笑むだけだった。
 思えば、自分が傍にいない間のラファエルの行動を、里帆は全く知らなかった。知る必要もないと思っていた。それに、ラファエルの困ったようなこの笑顔を見せられては、詳しく訊く気も起きなくなるのだった。

「詳しくは訊かないであげるわ。さ、帰りましょう」

 里帆はそう言うと、そのままスタスタと参道を歩いて行く。ラファエルはその後を小走りで付いてくるのだった。
 帰宅途中で里帆は今晩の夕食の材料をスーパーで購入した。そうして帰宅してからは、朝に干していた洗濯物を取り込み、たたむ。そうして掃除を行ったりと、家事をこなしていくと、あっという間に時間は過ぎていき、夕食の時間になった。
 里帆は夕飯を食べながらようやく一息つく。

「今日も一日お疲れ様、里帆」
「ありがとう、ラファエル」

 ラファエルは食卓に座った里帆を労った。里帆はそんなラファエルに視線だけを投げて礼を言う。

「里帆は明日、いよいよ舞の本番?」
「そうね」
「そっか……。うん、うん、分かった!」

 何が分かったのか、なんだか一人で納得してしまったラファエルを尻目に、里帆は自分が作った夕飯を黙々と食べていく。ラファエルが気にしていたので、里帆は最初の頃よりも時間をかけて食事を摂っている。
 そして食べ終えると、食器を片付けるために立ち上がった。そんな里帆の様子を見ていたラファエルに、

「お皿、洗ってくるわね」
「あ! 待って、里帆!」
「何?」

 里帆がラファエルに声をかけると、ラファエルは里帆を呼び止めて立ち上がった。里帆は皿を持ち上げようとしていたその手を止めて、傍に立つラファエルの顔を見上げる。
 こうして間近で見ても、その肌は透き通るように白く、きめが細かい。奥二重の黄色の瞳は笑みの形にしている。

(相変わらず、憎らしいほど綺麗な顔立ちをしているんだから……)

 里帆がそんなことを思っていると、突然その綺麗な顔が近付いてきた。そして次の瞬間。

(……!)

 里帆は大きく目を見開くこととなった。
 それはほんの一瞬の出来事であったにも関わらず、里帆にはラファエルの動きがスローモーションに映った。
 ラファエルはその長身を折り曲げると、軽く、里帆の額にキスを落としてきたのだ。
 驚いて目を丸くしている里帆に、里帆から顔を離したラファエルはその笑顔を深くすると、

「明日の里帆の舞がうまくいくように、おまじない!」

 そう無邪気に言い放つ。
 里帆はまだ声を出すことが出来ず、代わりにキスを落とされた自分の額を両手で押さえていた。

(何? 今の……)

 混乱しそうになる頭の中を、里帆はなんとか鎮めていく。

「どうしたの? 里帆」

 額に両手を当てたまま突っ立っている里帆に、ラファエルの不思議そうな声が降ってきた。その声に里帆は一つ大きく深呼吸をしてから、

「大丈夫よ」
「そう?」

 何とか発した里帆の言葉にラファエルは心配そうな声を重ねてきた。その言葉に里帆はぎこちなく頷くと、皿を持ってキッチンへと向かうのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...