16 / 33
四
四②
しおりを挟む
「それが里帆の望み?」
ラファエルのその疑問に里帆は視線を外すことなく頷く。それを受けたラファエルは大きく深呼吸を何度かすると、
「分かった! 里帆が望むなら、僕は応援する! それに僕は天使だからね。頑張っている人間は応援しなきゃ」
ラファエルは自分に言い聞かせるように言う。そして里帆の目を見つめ返すと、にっこりと微笑んで、
「頑張ってね、里帆!」
ラファエルにそう言われるだけで、里帆はこの忙しい師走も乗り切られると、そう不思議と確信するのだった。
「ありがとう、ラファエル。それとね……」
里帆は言葉を続ける。
これからはずっと、境内のベンチで自分のことを待っている必要はない、と。
「風邪でも引いたら大変だもの。暖かい場所に……、あ、鍵を渡すから、私の家に戻っていても構わないのよ?」
里帆の言葉にラファエルは疑問符を浮かべている様子だ。ラファエルは小首をかしげると、
「心配してくれてるの?」
「まぁ、ほら、インフルエンザの時だって、熱はなかったけど具合悪そうにしていたし……」
里帆はなんだか居心地の悪さを感じてしまい、ラファエルから視線を外すとゴニョゴニョと口を動かした。そんな里帆の姿を見たラファエルは笑顔できゅーっと目をつむる。そして手を小さくばたつかせたかと思うと、
「大好きっ!」
そう言って我慢出来ずに目の前の里帆に抱きついた。
「ちょっと! ラファエルっ?」
里帆は突然のことに焦った声を出す。そんな里帆にラファエルは、
「ぎゅーっ!」
そう言って腕に力を込めてくるのだった。
里帆が苦しくならない程度に力を込めてくるラファエルに、里帆は普段感じない男の部分を感じてしまう。
(ラファエルって、意外と筋肉質……?)
自身の身体を預ける形になった状態で、里帆はラファエルの胸板が思ったよりも厚いことに驚く。普段は何にでも好奇心旺盛で、笑顔を浮かべているラファエルは里帆にとって弟のような存在だった。そんなラファエルの身体をこんなにも身近に感じてしまい、里帆はその造りが男性的であると実感する。
(腕だって、こんなに太い……、ん?)
抱きしめられている腕に目をやったその時、視線を感じた里帆は思わず顔を上げた。
(……!)
そして絶句する。
少し考えてみれば分かることだった。そこには至近距離から自分の顔を見下ろしているラファエルの不思議そうにしている顔があったのだ。
「どうしたの? 里帆。急におとなしくなって」
「へっ?」
しばらく里帆はラファエルのその端正な顔をぼーっと見つめていたのだが、いよいよ不思議に感じたラファエルから声をかけられ我に返った。
「なっ、何でも、ないわ……」
尻つぼみになる里帆の声をラファエルはやはり不思議そうに聞いている。いたたまれなくなった里帆は、
「いつまで抱きついているのよ?」
そう言ってじとりとラファエルを見やる。
「私、髪を乾かさないといけないのだけれど?」
「はいはーい! その役目、僕がやりまーす!」
ラファエルは当然のことだと言わんばかりに片手を挙げる。そんなラファエルの様子に里帆は短く息を吐き出すと、
「分かったわ。お願いする」
「はーい!」
ラファエルは嬉しそうにそう言うと里帆をその腕から解放して立ち上がり、ドライヤーのある洗面台まで歩いて行く。里帆もその背を追うように立ち上がると、髪を乾かすために歩き出した。
それからの日々はラファエルも不機嫌になることなく、里帆の出勤を見送ってくれていた。
(結局、あの日のラファエルの機嫌、何で悪かったのかしら? 聞きそびれてしまったわ……)
里帆はそんなことを思う。
あの後、ラファエルは上機嫌で里帆の髪を乾かしていた。その後すぐに里帆が不機嫌だったラファエルに理由を訊いたのだが、
「いいから、いいから! 僕が里帆のことを大好きってだけ! 気にしないで!」
そう笑顔で返されるだけだった。
(また、はぐらかされてしまったわ……)
「……さん、三浦さん!」
「はい?」
里帆はいつの間にか思考の渦の中にいたようで、後輩の巫女からの呼びかけで現実に戻ってきた。今は明日に控えた舞の最終調整を行っているところだ。
「あ、ごめんなさい。私、ちょっと、考え事しちゃってて……」
「あ! 考え事ってもしかして、彼氏さんのことですかぁ?」
後輩の巫女はニマニマとからかう風の笑顔と声音で訊いてくる。里帆は目をぱちくりとさせると、まじまじと後輩を見つめた。
この娘は一体、誰の、何の話をしているのだろう?
里帆の疑問の声が聞こえたかのように、後輩の巫女は次の瞬間、自分の口に手を当てて、顔を真っ赤にしながら慌てたように口を開いた。
「あ、あれ? あのウワサ、嘘だったんですか?」
「ウワサ?」
里帆が訪ね返すと、後輩の巫女は自分たちの周りでまことしやかに囁かれている里帆のウワサ話について教えてくれた。
「だって、三浦さんって凄い美人ですし、物腰も柔らかくて。舞だって指先まで洗練されていて……」
だから、そんな人に彼氏がいないわけがない。加えて秋頃からは仕事が終わると今まで以上に素早く退勤して帰路に就いている。
「だからこれはもう、いよいよ彼氏が出来てしまったに違いないってみんなと話をしていた所なんです。あぁ、残念だなぁって……」
そして、こんなにも完璧な人のハートを射止めたのは一体どんな人なのだろう、と。
そんなウワサ話をされていたことはつゆ知らずだった里帆は、後輩の言葉に一体どんな反応を返したら良いのか分からず目をしばたたかせていた。
美人で物腰が柔らかい?
指先まで洗練されている舞?
彼氏?
……、全てに置いて全く心当たりがない。
目をパチパチとさせながら無言になって固まってしまった里帆を見ていた後輩は慌てている。
「ご、ごめんなさい! 私たち別に、悪意があってそう言う話をしていた訳ではなくて……」
「あぁ、いや……。怒っているとかじゃないの。ただ、ビックリしちゃって……」
ようやく現実に戻ってきた里帆が、少し呆けた様子で言う。それを見ていた後輩は上目遣いで、恐る恐る里帆に尋ねる。
ラファエルのその疑問に里帆は視線を外すことなく頷く。それを受けたラファエルは大きく深呼吸を何度かすると、
「分かった! 里帆が望むなら、僕は応援する! それに僕は天使だからね。頑張っている人間は応援しなきゃ」
ラファエルは自分に言い聞かせるように言う。そして里帆の目を見つめ返すと、にっこりと微笑んで、
「頑張ってね、里帆!」
ラファエルにそう言われるだけで、里帆はこの忙しい師走も乗り切られると、そう不思議と確信するのだった。
「ありがとう、ラファエル。それとね……」
里帆は言葉を続ける。
これからはずっと、境内のベンチで自分のことを待っている必要はない、と。
「風邪でも引いたら大変だもの。暖かい場所に……、あ、鍵を渡すから、私の家に戻っていても構わないのよ?」
里帆の言葉にラファエルは疑問符を浮かべている様子だ。ラファエルは小首をかしげると、
「心配してくれてるの?」
「まぁ、ほら、インフルエンザの時だって、熱はなかったけど具合悪そうにしていたし……」
里帆はなんだか居心地の悪さを感じてしまい、ラファエルから視線を外すとゴニョゴニョと口を動かした。そんな里帆の姿を見たラファエルは笑顔できゅーっと目をつむる。そして手を小さくばたつかせたかと思うと、
「大好きっ!」
そう言って我慢出来ずに目の前の里帆に抱きついた。
「ちょっと! ラファエルっ?」
里帆は突然のことに焦った声を出す。そんな里帆にラファエルは、
「ぎゅーっ!」
そう言って腕に力を込めてくるのだった。
里帆が苦しくならない程度に力を込めてくるラファエルに、里帆は普段感じない男の部分を感じてしまう。
(ラファエルって、意外と筋肉質……?)
自身の身体を預ける形になった状態で、里帆はラファエルの胸板が思ったよりも厚いことに驚く。普段は何にでも好奇心旺盛で、笑顔を浮かべているラファエルは里帆にとって弟のような存在だった。そんなラファエルの身体をこんなにも身近に感じてしまい、里帆はその造りが男性的であると実感する。
(腕だって、こんなに太い……、ん?)
抱きしめられている腕に目をやったその時、視線を感じた里帆は思わず顔を上げた。
(……!)
そして絶句する。
少し考えてみれば分かることだった。そこには至近距離から自分の顔を見下ろしているラファエルの不思議そうにしている顔があったのだ。
「どうしたの? 里帆。急におとなしくなって」
「へっ?」
しばらく里帆はラファエルのその端正な顔をぼーっと見つめていたのだが、いよいよ不思議に感じたラファエルから声をかけられ我に返った。
「なっ、何でも、ないわ……」
尻つぼみになる里帆の声をラファエルはやはり不思議そうに聞いている。いたたまれなくなった里帆は、
「いつまで抱きついているのよ?」
そう言ってじとりとラファエルを見やる。
「私、髪を乾かさないといけないのだけれど?」
「はいはーい! その役目、僕がやりまーす!」
ラファエルは当然のことだと言わんばかりに片手を挙げる。そんなラファエルの様子に里帆は短く息を吐き出すと、
「分かったわ。お願いする」
「はーい!」
ラファエルは嬉しそうにそう言うと里帆をその腕から解放して立ち上がり、ドライヤーのある洗面台まで歩いて行く。里帆もその背を追うように立ち上がると、髪を乾かすために歩き出した。
それからの日々はラファエルも不機嫌になることなく、里帆の出勤を見送ってくれていた。
(結局、あの日のラファエルの機嫌、何で悪かったのかしら? 聞きそびれてしまったわ……)
里帆はそんなことを思う。
あの後、ラファエルは上機嫌で里帆の髪を乾かしていた。その後すぐに里帆が不機嫌だったラファエルに理由を訊いたのだが、
「いいから、いいから! 僕が里帆のことを大好きってだけ! 気にしないで!」
そう笑顔で返されるだけだった。
(また、はぐらかされてしまったわ……)
「……さん、三浦さん!」
「はい?」
里帆はいつの間にか思考の渦の中にいたようで、後輩の巫女からの呼びかけで現実に戻ってきた。今は明日に控えた舞の最終調整を行っているところだ。
「あ、ごめんなさい。私、ちょっと、考え事しちゃってて……」
「あ! 考え事ってもしかして、彼氏さんのことですかぁ?」
後輩の巫女はニマニマとからかう風の笑顔と声音で訊いてくる。里帆は目をぱちくりとさせると、まじまじと後輩を見つめた。
この娘は一体、誰の、何の話をしているのだろう?
里帆の疑問の声が聞こえたかのように、後輩の巫女は次の瞬間、自分の口に手を当てて、顔を真っ赤にしながら慌てたように口を開いた。
「あ、あれ? あのウワサ、嘘だったんですか?」
「ウワサ?」
里帆が訪ね返すと、後輩の巫女は自分たちの周りでまことしやかに囁かれている里帆のウワサ話について教えてくれた。
「だって、三浦さんって凄い美人ですし、物腰も柔らかくて。舞だって指先まで洗練されていて……」
だから、そんな人に彼氏がいないわけがない。加えて秋頃からは仕事が終わると今まで以上に素早く退勤して帰路に就いている。
「だからこれはもう、いよいよ彼氏が出来てしまったに違いないってみんなと話をしていた所なんです。あぁ、残念だなぁって……」
そして、こんなにも完璧な人のハートを射止めたのは一体どんな人なのだろう、と。
そんなウワサ話をされていたことはつゆ知らずだった里帆は、後輩の言葉に一体どんな反応を返したら良いのか分からず目をしばたたかせていた。
美人で物腰が柔らかい?
指先まで洗練されている舞?
彼氏?
……、全てに置いて全く心当たりがない。
目をパチパチとさせながら無言になって固まってしまった里帆を見ていた後輩は慌てている。
「ご、ごめんなさい! 私たち別に、悪意があってそう言う話をしていた訳ではなくて……」
「あぁ、いや……。怒っているとかじゃないの。ただ、ビックリしちゃって……」
ようやく現実に戻ってきた里帆が、少し呆けた様子で言う。それを見ていた後輩は上目遣いで、恐る恐る里帆に尋ねる。
0
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる